人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
ナイア「?あら、御二人ともいかがなされたのですか?」
ラヴィニア「す、素晴らしい劇だったわ。其処で私達、手紙を書いたの。ファ、ファンレター・・・」
アビー「特にリッカさんのヘラクレス、とても素敵だったわ!私、感動してしまったの。女性だって、強くあれる!賢者とは、身体を鍛えるものなのね、って!」
ナイア「成る程、リッカ様に渡したいというならば、お預り致しますわ。必ずお渡しになることを誓います」
ラヴィ「あ、あなたも、用があるの?」
「はい。個人的な要望ではあるのですが・・・──」
公会堂
イアソン「アルゴノーツエピソードカットとか有り得ないだろう普通!リッカ!戻ってこい!追加講演をやらねば始まらないぞ!!」
ヘラクレス「止めておけ、イアソン。お前が主演だといまいち華が・・・」
イアソン「あるから!船長だぞ船長!!くそ、こうなったら俺達だけでもやるぞ、ヘラクレス!」
ヘラクレス「マジか・・・、・・・!そうだ、ちょっと待っていろ」
イアソン「?」
「よし、じゃあ始めよう。どこからやるんだ?」
「勿論!俺とお前で結成してからのだな──」
『稽古中。遠巻きに見守ってやってください』
・・・イアソンが張り切るその間、皆は駆り出される事はなかったという。
「ふぃ~・・・なんとか終わって良かったぁ・・・」
ヘラクレス本人から推薦された畏れ多きギリシャ神話の寸劇、その公演を主演として無事に成し遂げたリッカが海辺にて夕陽を見つめ休息を取る。皆に希望をもたらす為の劇として、力強く希望に溢れた題材を扱ったその反響はと言えば・・・
「男の子はともかく、女の子もヘラクレスごっこでヘラクレスになりたがるって間違いなく私のせいだよね多分・・・」
子供達は広場に集まり、興奮覚めやらぬといった様子で劇を語り合っていた。あの場面が凄かった、あそこの場所が凄かった、ぼくも私もヘラクレスになるんだ・・・一様に笑顔を浮かべ、とても楽しげに語り合い、希望の様子が街に溢れていたのである。男の子も女の子も関係無く、ヘラクレスの偉業を語り合う姿に、後ろ暗いものは何も感じなかった。見えない心の魔女を討ち果たすというのは、大成功と言っていいかもしれない。
(こんな感じで、心の在り方を前向きにさせていくのに芝居は最適なのかも。これから七日間、皆の心を前向きにさせていけたら疑心暗鬼の産物の魔女狩りや魔女裁判も、きっと・・・)
皆の想いと願いを、心を。芝居で奮い立たせることが魔女を倒す手段となる。そんな確かな手応えが、確かにさっきの劇にはあったのだ。きっと、見当違いの間違いでは無いだろう。あの子達の笑顔が、それを証明してくれている。
「これから劇団として七日間かぁ・・・よぉし、頑張るぞー!」
すっくと立ち上がり、夕陽に照らされた綺麗な海に拳を突き出す。もう覚悟は決めた。どんな役であろうと全力で演じるのみ。ヘラクレスでもアルジュナでもクー・フーリンでもオジマンディアスでも・・・
「す、すみません。サインをいただけないでしょうか?」
「え、はい?サイン!?」
そんな急に、と後ろから声をかけられ驚くリッカ。こっそりと人目を避けてやってきたここももう場所が割れてしまったのだろうか。注目されるべきはヘラクレスなんだけど、とは思うものの、役者として御客を無下にはしたくないとリッカは思い立ち、それではと色紙を受け取る為に振り向き──
「藤丸リッカより、ナイアに親愛を込めて、と書いていただけますでしょうか?あ、あと握手と、記念写真も御所望致します・・・!」
「ナイちゃんだった!?」
意外や意外、無垢な瞳でサインと握手を求めてきたのは。人でありながら外なる者共を狩る狩人、シスター・ナイアであった。頭一つは離れている身長の美女は、少女のリッカを尊敬の眼差しで見つめており──
ボクだって りっぱなやくしゃ けものかな
~
「ありがとうございます!友達として、ファンとして、これは最高の御宝になりましたわ!XXに自慢してさしあげます。やーい、私の方が友達いっぱいー、と!」
「あははは、御願いだから仲良く!仲良くね!」
手持ちの色紙と財布に、リッカのサインを貰いウキウキのナイア。リッカの隣に体育座りにて愛おしげにサインを眺めている。指でなぞったり鼻唄を歌うその在り方は、見た目の年齢よりずっと無邪気で幼く見えた。夕陽に照らされた漆黒の服装も、消し去れない眩しい笑顔も印象的である程に美しい。
「劇は大成功でございました。お恥ずかしながら、私は商売や依頼でしか人と触れ合わないため、個人的な協力や協議というものは経験が無く。警備をしながら皆様カルデアの織り成す劇、そして絆に見惚れてしまっていた次第です。力を合わせて物事を成し遂げる。本当に素晴らしい事ですわ」
「うん、私もそう思う!やっぱり、一人じゃ出来ないことは皆で挑まなくちゃね!」
ナイアの言葉、倫理感は至極真っ当で常識的なものだとリッカは感じた。彼女は今、誰かと一緒に何かを成し遂げられた事をとても素直に喜んでいる。リッカには、彼女が深淵に触れ続けたとは思えなくなっていた。それほどまでに、ナイアの価値観は真っ直ぐだったのだ
「ナイちゃんは、友情とか絆とか信じるタイプ?」
「はい。絆や愛、夢や希望こそが人が人たる所以にして証。私はそういった心や想いを護りたいと、狂気から己を護る武器であってほしいと常日頃から思っております」
その言葉に屈託も裏もないとリッカは感じ取った。彼女は心から、人間の美徳を宝物と信じているのだ。眩しく尊いものだと信じているのである。となると・・・
「ナイちゃんが狩人をやっているのも、そういったモノを護る為なのかな?」
そう考えるのに、然程時間はかからなかった。彼女は決して、狂気に身を委ねてはいない。狂わず、過たず、それらを護っているという事に違和感をリッカは覚えなかった。
「はい。友情、夢、希望、愛、努力、絆・・・皆様の世界に満ち溢れる素晴らしき感情を御守りしたいが為に、私は狩人として日夜外なるカス共を処理しているのです。光射す世界に、邪悪の住まう余地は無いのですから」
断言するナイちゃんだが、同時に新たな疑問がリッカに浮かび上がった。何故、こんなにいい子が友達の一人も作れなかったのだろうか?
「ナイちゃん、可愛いし強いだろうし美人だし。友達の一人や二人くらいいても全然おかしくないはずなんだと思うけどなぁ」
「・・・私も、友達を欲しいと願った事は一度や二度ではありません。いつか、このように楽しげに言葉を話す時間を過ごせたら、と思い描いておりました」
それじゃぁ、どうして?リッカがそう問い掛けると、ナイアは夕陽に視線を映し、静かに真紅の眼を細めた。
「・・・私は、誰かの手の握り方を知りません。触れ合い方が解りません。そもそも、自分がまともに会話を交わしたのは我が神以外では皆様が、リッカ様が初めてなのです」
「えっ?それって・・・今までプライベートの付き合いが何にもなかったって事?」
お恥ずかしながら、とナイアは目を細める。狩人として生きる中、生命のやりとりと正気と狂気のせめぎ合いに身をやつしてきた中で、楽しい時間は僅かなりとも無かったと言うのだ。
「外なる神々、それらに付属する下級の怪物は人々を惑わします。狂気に誘い、命を奪い、成り代わり社会に溶け込もうとし、人々の幸せを奪う。・・・私は、そんな危機から人々を護りたいと外なる者共を狩り続けて参りました」
「凄いよ!人知れず世界と平和を護る、ヒーローそのものだよ!」
「──いいえ、リッカ様。私の姿は私が護ってきた者達には、【狂人】にしか映らないのです」
ナイアは体育座りにて、ただ海を見ている。その瞳は、かつて自分が見てきたモノを思い出していた
「光射す世界の人々から見た私は、等しく深淵の住人。そんな住人からしてみれば、私はヒーローではなく、怪物を狩る怪物でしかない。外なる者共から見てみれば、私は闇に生きながら闇を喰らう化け物・・・邪神の触覚でしか無いのです」
光を脅かす闇からは、光に媚びを売る恥知らずと罵られ。闇に虐げられる光に住む人々からは、魔を狩る理解不能の存在として畏れられた。今でも、彼女は思い出すことがあるという。
「・・・とある家族が、上級の悪魔を呼び出さんと儀式を行いました。それらは怪しげな魔道の聞きかじりであり、恐ろしき存在を招く門を開いてしまったのです。・・・それらを狩り、人を護らんと私は駆けつけましたが・・・。親子の両親は、恐怖と絶望から正気を喪い・・・大切にしていた我が子を、一心不乱に生け贄に捧げたのです。『我が子を差し出します。だから我等を助けたまえ』と。・・・彼等は、極めて普通の家庭でした。外なる者共を信仰する邪教のシンパが、彼等の財を目当てに守護神を降ろす儀式を吹き込んだのです」
「そんな・・・」
「儀式は半分完遂され、低級の魔物が溢れかえっておりました。駆けつけた頃には既に両親は喰われてしまい、呆然としている残された娘を保護せんと、魔を狩り抜いた私は、その娘に言われたのです」
・・・──人殺し。私のお母さんとお父さんを、何で護ってくれなかったの。あなたは、仲間だったんでしょう。あの怪物たちの。
そういって、自分の首を絞めてきた娘の、憎しみと狂気に満ちた瞳が忘れられないとナイアは語る。想像を絶する力も、然り・・・程無くして娘は銀河警察に保護されたが、正気を喪った少女は舌を噛んで死んだらしいと、神より報せがあった。最後まで、家庭をメチャクチャにした存在を呪い続けて。
「そんな・・・」
「私は邪神たる存在に拾われました。拾われた以上、私はあの御方に生命と信仰を捧げております。・・・ですが私は、人間の在り方を、心を捨てきれなかった」
護りたい者らの懐く幸せを尊んだが故に、闇に染まりきれない。光を知るが故に、同じ住人と同胞の蛮行が、虐げられる人々の嘆きと悲しみが見過ごせない。
狂気に沈み、完全に邪神の触覚でいれたなら。光にも闇にも居場所のない、無貌の狩人。それが、自分だと。ナイアは静かに告げたのだ
「・・・ナイちゃん・・・」
「・・・夜は、もうすぐです。信じてもらえないかも知れませんが・・・私は、心からリッカ様のお力になりたいと、カルデアの皆様の為に尽くしたいと考えております」
その言葉を何千回も告げ、ただの一度も信頼される事はなく、行動を示しても、誰にも評価される事もなく。光にも闇にも疎まれる、無貌の狩人。
「・・・ありがとう。頑張ろうね、ナイちゃん」
「はい。あのアルトリアのパチモノには負けませんわ」
その悲壮なる生きざまを完璧に救える一言を、『まだ』、リッカは見つけることができず。
ただ、静かに。大切そうにサイン色紙を抱くナイアに寄り添い、沈む夕陽を眺め続けた──
数刻後 部屋
ナイア「・・・嫌われてしまいましたでしょうか・・・」
(初対面で距離を弁えぬ自分語り・・・これは悲劇のヒロイン気取りのウザい女と思われてしまったのでは・・・?何よりリッカ様の貴重な御時間を・・・)
「・・・もう私は人間を卒業し、刺身のツマやタンポポになり生命に詫びを入れる他道は無いのでは・・・」
ヒロインXX「あ!いたいた!ナイア!何をしているのですか!」
「?XX」
「夜に戦いがあるなら、私達のミーティングは不可欠でしょう!へこたれてないで気合いを入れなさい!パンの耳、あげますから!」
ナイア「・・・・・・XX」
「なんですか」
「私とあなたは、決して友達ではないですよね?」
「当たり前ではないですか気持ち悪い!友達くらい厳選しますよーだ!」
「安心いたしました。あなたと肩を組むとか死んでもゴメンです」
「にゃにおぅ!」
「行きましょう。共に、リッカ様に夜明けを迎えさせる為に」
「同感ですが、仕切らないでください!凄く腹が立ちますから!」
謎の本『・・・ナイア・・・少女。彼女もまた、鍵を握るものなのだ・・・』
──そして、夜。