(と言っても、かの邪神のキーパリングな以上そう簡単に情報のボロは出さない筈。注意深く観察しなくては!今こそ、鍛え抜かれた観察眼を見せるとき!ギルよ、私に特別ボーナスを!)
「──アルトリアレーダーに反応!なんとニ十キロ!(南東十キロ)カモン!アーヴァロン!」
セイレム外れ
「此処等で何かの反応があったような・・・なんでしょう?む、この微弱な反応は?」
『缶筒』
「・・・これは確か・・・まるで脳髄が入るくらいの筒──あっ(察し)」
「・・・どうやらクリティカルを振ってしまった様ですね!早急に知らせなくてはっ!」
「おーい!アビゲイルー!こっちを向いてよ、金色のうさぎさーん!」
朝に差し掛かる時刻。リッカは召使いたるティテュバの仕事を手伝い終わらせ、余った時間をセイレムの人達との交流に当てる事にした。探索のフェイズであるというのなら、誰かと対話し絆を深める事は決して悪い事では無いからだ。総ての鍵を握る、ということもあり、その相手をアビゲイルに定め、気楽に気軽に声をかけることにしたのである。
加えて、ラヴィニアにもまたお願いされていたのだ。出来るだけアビゲイルと交流してほしいと。自分も積極的に話はしているけれど、それは同郷の、閉じた関係にしかならないとラヴィニアは言った。意識を外に向けるには、外界からの旅人である楽園の使者たちの力と刺激がいるのだと。そういった閉じた関係を好む人種もいるにはいるが、それはまた別の話である。
「リッカさん!私に何か御用かしら?私もあなたや皆様とたくさんお話したいと思っていたの!」
ラヴィニアの言葉や劇団の影響か、或いは本来のアビゲイルの気性ゆえか、スムーズに会話に持っていく事ができる。アビゲイルはナイアの礼拝にも欠かさず顔を出す、敬虔でいい子なのだという印象に疑問の挟まる余地はない。それと同時に、リッカは彼女の事をもっと知るべきだと考えた。特異点や攻略などといったものではなく、其処に生きる人となりを把握し、知るべきだと考えたのである。会話の秘訣は、親身になることだ。相手を知りたいと思うから、交流は成り立つのだから
「それは嬉しいなぁ。じゃあ、あなたの事を聞かせてもらおっかな?アビゲイルは何が好き?色々教えてくださいな!」
「えぇ、もちろん!まずはやっぱりパンケーキね!ふわふわのパンケーキにとろとろのバター、カリッカリに焼いたベーコンをかけていただくの。それに何よりグレービーソースをかけたマッシュポテト!これは断然外せないわ!」
パンケーキにマッシュポテト・・・カルデアには魔法少女たちから提供された食べても食べても無くならない魔法のパンケーキ(原材料・魔神)やマッシュポテトの騎士ガウェインが三倍サンシャインパワーで錬成するマッシュポテトが存在する(騎士王のもう食べたくないものNo.1)が、偶然にも楽園で目にかかる存在をアビゲイルは好きだと言う。よーしお出ししちゃおう!とは口が裂けても言えないが、ナイアが出してくれたものと負けず劣らず美味しそうなので作ってもらおうと生唾を飲み込んだ。
「グレービーソースは御存じ?調理中に出た肉汁を使った香ばしいソース!大人の人たちは七面鳥やステーキにかけたりするけど、私は断然ポテト!感謝祭の日にだけ並ぶようなご馳走なのよ?」
「ごくりっ・・・」
「このセイレムには足りないものばかりだけれど、それでも確かに素敵なものはあるわ。ラヴィニアと一緒に見た、空に輝くほうき星。とても大きくて、昼間にだって見えたのよ。華やかさは無くても、神様への感謝と祈りと共に清く生きてきたわ。御存じかしら、セイレムの名前の由来を?」
「なぁにぃ?教えて教えて~!」
手を叩き、アビゲイルのペースを助長するリッカ。ふふんと胸を張り、楽しげにリッカに語るアビゲイル。其処には、年相応の少女たちの姿がある。戦いや陰惨な惨劇とは無縁の、和やかな表情が。
「セイレムは『エルサレム』に由来するの。エルサレム、あのエルサレム!リッカさんは御存じかしら?信仰している宗教はどちら?」
「ごった煮!」
「ゴッタ=ニ?聞いた事が無いわ・・・まぁそれはともかく、ダビデ王とソロモン王がお治めになった聖なる都、それがエルサレムなの。十字軍の騎士さん達が東の聖都に向かったのなら、巡礼の父達は西の海へ船で漕ぎ出したの。始まりの地プリマス、それからボストン、そしてこのセイレム!」
ここらの一帯はかつて森であったという。開拓によりこの地はたくさんの船がやってきて、人々が海の向こうからやってくる。神がこの地に根付き、暮らしていく事を赦してくださったからだ、とアビゲイルは語った。祝福と共に、自分達は生きているのだと。
「アビーは敬虔なんだねぇ~。よっぽどここを誇りに思ってるんだね!うちの国は信仰心薄いからな~。あまこーぐらいに有名か、将門公くらい威厳が無いと名前も知らなかったり・・・」
「アマコー?マサカドコー?不思議な神様なのね・・・」
「あわわ、と、ともかく!アビーはセイレムの事が好きなんだね。だから、一度も外に出た事が無いのかな?」
そう、リッカは会話からそれを読み取った。アビゲイルはセイレムの事を話してくれたが、その語り口は何度も反芻し、繰り返し馴染ませた語り方だ。同時に、他の地の話がまったくといっていいほど出てこない。比べる余地も無いほどに故郷が好きと言うなら、大抵故郷を上げて他を下げるものである。それが無く、故郷のみの語りとなれば・・・それは『故郷しか世界を知らない』という事だとなんとなくリッカは見当をつけた。そしてそれは、ぴたりと当てはまっていた。ラヴィニアの言う通り、彼女はセイレムから・・・
「うっ・・・そ、そうなの。私、出た事が無いの。出たことがないから、外国のお話を聞いて、想像を膨らませてお話をするの。ラヴィ・・・ラヴィニアが、1番親身になってくれるのよ。私に、何度も言ってくれた。外に出よう。いつか、きっと楽しい世界が待っている、って。・・・でも・・・」
途端、笑顔だったアビゲイルの表情に影が差す。快活な笑みが、どんよりと雲ってしまう。その様子にはて、とリッカが声をかけると・・・
「・・・外に出たい。ラヴィニアにはそう言うの。でも、決まって私はその夜に夢を見る。セイレムを迷って、迷って、そのまま夜が明けてしまうの。何処にも行けない、何処にも出れない。そんな夢。ラヴィニアはそんな私を見て、こう言うの。『怖がらなくてもいいわ』って」
「アビー・・・」
「・・・リッカさん。私、思う事があるの。セイレムの人々は、罪の無い人生を送りたいと口にするけれど、本当に罪の無い人なんているのかしら」
神の似姿にて作られたアダムとイヴは、蛇にそそのかされて禁断の果実を口にした。ルシファーは傲慢から神に反抗し、ユダはイエスを裏切った。その様に、人々は皆、罪を背負っているとアビーは言う
「リッカさん。お願いがあります。滞在している間だけでいい、どうかセイレムの皆の心を楽しませてあげて。このセイレムの人々は、信仰と同じくらい、楽しみや喜びを求めているの。それを堕落だと言うのは、一度知ったら戻れなくなってしまうと怖がっているから。弱い心は、信仰が無くちゃ立っていけないと思っているの。・・・そんな皆を、どうか楽しませてあげて。本当は、何処にも・・・」
『魔女』なんて、いないんだと言ってあげてほしい。敬虔な少女は真摯に願いを告げた。或いは、彼女は解っていたのかもしれない。本当に怖いのは、先住民でも鞭でもない。弱い心が生む、魔女の幻影だと。
「勿論!任せてよ!笑顔と楽しい事で、このセイレムをいっぱいにしちゃおう!魔女と肩を組んで、ダンスが出来るくらいにね!」
そんな少女の願いを、リッカは力強く受け止めた。同時に、次の演ずる劇にも見当をつける。
「ねぇ、アビー。ソロモン王やシバの女王がどんな人だったか・・・知りたくない?」
「えっ・・・?」
どうせなら、あのゆるふわにも身体を張ってもらおう。意地悪く、にやりと笑う座長であった──
ダ・ヴィンチ「これは素晴らしい!新たなるリッカ君の形態だなんて、オリジナル変身システムの構築が可能って事だろう?ライダーファンとして受けないわけにはいかないじゃないか!解ってるなぁ邪神!早速取り掛からなくちゃ!リッカ君に1番の推しライダー聴いておかなくちゃ!」
ロマン「頼むから羽目を外しすぎないでくれよ、レオナルド。順調に見えるけど、まだ油断はできない。邪神っていうくらいだから大どんでん返しを警戒して・・・」
ギル「特異点セイレムを魔女の観光地として売り込むのはどうか?活動書がある以上、ボストン州からの使者で融通は通せよう」
オルガマリー「サーカス団として検討してみましょう。劇団の傍ら、大道芸として魔女をそれとなく・・・」
カドック「機材はどっちだ?おいグドーシ、持つのを手伝ってくれ」
グドーシ「心得た。ぐっさんは何処へ?」
「項羽様の異世界転生の脚本を書いてる。絶対採用されないぞとは言っておいたけどな。なんかあいつ、はっちゃけてるな・・・」
ジーク「書けたぞ!ホムンクルスと一匹の飼い犬が過ごすハートフルなセラピーストーリーだ!演じるのは俺とアマテラスでだな」
グドーシ「おや、ホムンクルス代表を名乗ると?よろしい、ならばオーディションですな!」
ロマン「賑やかだなぁ・・・ボクも何かもっと役に立てたらいいんだけど・・・」
『ロマン!シバにゃんと主演!『ソロシバ三つの問いかけ』で!』
ロマン「え?ちょい役でかい?・・・うぇえぇ!?主演!?」
ギル「ほう・・・?」
──わたしはかみだー(台本読み上げ中)
フォウ(エア・・・演技は控えめに言ってへっぴりなんだね・・・演じるのは生まれて一年じゃ身に付かないよね・・・でも好き!!(爆散))
──どうすればマリーや式、アルクみたいに出来るんだろう・・・ネフェルと特訓しなくちゃ・・・!
《己のペースで精進せよ、エア。・・・しかし邪神か。・・・ウルクに一柱、心当たりが無いでも無いが・・・》
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