人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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ヒロインXX「劇もクライマックスですねぇ・・・私たちは警備しなくちゃいけないので見れないのが寂しいところです。リッカ君らは上手くやっていけるでしょうか?」

ナイア「ひたすらに信じるしかありません。私はひたすらに信じています。リッカ様らがハリウッドの銀幕に飛び立ち、万雷の喝采を受けるその瞬間を・・・」

ヒロインXX「期待しすぎでは!?いや、どうせならそのくらいは行ってほしいですが・・・それはともかく。ビジネスの話をしましょう」

「いいですよ、あなたとの世間話が一番時間の無駄ですから」

「えぇ、今日夜出てくる相手は恐らく──」

~ボストンにて

マシュー・ホプキンス「・・・セイレム。清教徒どもの拓いた殖民地か」

(人の住む地である以上、必ずや罪が存在する。例外はない。神の楽園でさえも)

「・・・今度こそ、絶対的な裁判の完遂を果たす。そうしてこそ、私は・・・」

【黒い紙】

「む・・・?」


【窓を 見ろ】

「窓?────」



船乗り「喉をかきむしって死んでたって?あのホプキンスの旦那がか?」

「なんでも、この世のものとは思えない形相で、身体を逸らせながら死んでいたらしい。えらくかきむしったのか、部屋が傷跡まみれで爪が全部剥がれていたらしくてな」

「昼に見つかったんだろ?正式な許可を得てセイレムに行くって話だったんだがなぁ」

「・・・あれ?ていうか、俺達はなんでボストンで待ってたんだっけ?」

「・・・あれ・・・?そもそも、セイレムってどこだ・・・?」

【・・・次も頑張れよ。優しいのはいつまで続くか、気を付けることだ】


昼 劇演目──ソロモンとシバの三つの問いかけ 解答編──

「───その部屋には、十の扉がございます」

 

静まり返った玉座に、女王の声音のみが響きわたります。これより問われ、答えしは聖書に語られし三つの問い掛け。砂漠を越えた女王が携えし、かの王の叡知を計る至玉の問い。過ちや停止は許されぬただ一度の機会。固唾を飲む家臣達が見守るなか、その裁定の瞬間がやってきたのです。──女王は、一度目の問いを投げ掛けました。

 

「一つが開くとき、他の九つは閉じております。九つの扉が開いているとき、一つの扉は閉じております・・・」

 

それは答えがあるのかすら、はたまた問いかけなのかすら場にいた家臣達には読み取れず、聞き取ることが出来ませんでした。それはなんなのか、一体どのようなものなのか解らぬ、知恵ありき者にしか理解し得ぬもの。一同はただ、静かに玉座に佇む王の返答を待ちました。待つしか出来なかったのです。その返答を待つ女王へ向けて──

 

「うん。それは『人』だね。部屋とは子宮の事で、十の扉って言うのは目、耳、鼻、口、臍、排泄物の為の穴だよ。人が胎児、赤ちゃんの時は臍の扉は開いているけれど、この世に生誕し、生まれ落ちるときは臍の扉は閉ざされるだろう?」

 

気負いせず、物怖じせず。かの王は親切に、丁寧にその答えに智恵の解を告げました。人の在り方、生誕の際の比喩表現、解釈。それら全てが、女王が望んでいた解答に相違のないものであり、女王は心より称賛の言葉を告げたのです。

 

「なんと・・・!王よ、あなたは賢明なる御方にてございますわ」

 

「そうかい?そうであったのなら嬉しいなぁ。──次の問いを告げてごらん?」

 

しかし、王に油断は赦されてはいません。これは三つの内のたった一つ。どれか一つでも告げられない問いがあってしまった場合、彼の威光と威厳は潰え、かけがえのない友を喪う事となるのです。油断なく、王は次なる問いを申すように促しました。

 

「それでは王よ、お尋ね致します」

 

品位と風格を求められしは女王もまた同じく。王に相応しく無い稚拙な問いであったなら、それは王への不敬と繋がりかねぬもの。彼女はこの問い掛けを考案するに三日三晩を費やしたのです。それほどの覚悟、そして決意。そして・・・かの王への、確かな信頼が其処には存在していたのです。

 

「──その言葉は金よりも命よりも重く、運ぶには四人の人間を必要とするほど。されどもその言葉を、主は見たことすらありません・・・」

 

重く尊く、そしてそれを運ぶには数多の人を要するもの。されどその実物を、主そのものすら見たことはなく誰も正しき形を知らない。砂漠にはオアシスの幻影を見せる蜃気楼なるものが存在しますが、今回の問いはまさにそれ。ますますもって玉座の間は静まり返り、王の返答を待つほか無いという解を導き出しました。霞を掴むかのような得体の知れない問答を、これまた鮮やかに王は答えます。

 

「うん、それは『聖櫃(アーク)』だね。この私、ソロモンが先王より受け継いだ契約の証・・・十戒の石板を収めた箱だよ。私の神殿の最奥にある至聖所に置かれ、部屋は香煙で常に満たされている。あ、ちなみにこれは神の人間への信頼の証で、『開けちゃダメと言われたものを開ける程、人間は愚かじゃ無いだろう』という意味が込められたものなのさ。触ったら死んじゃう、物騒で危なすぎる代物だけどね」

 

「あぁ、王よ。あなたは真に賢明なる御方にてございます」

 

問いの真意を見抜き、そして秘された知識もまた分け隔てなく与える。女王は何よりもその優しき姿、気取らぬ心に感嘆と惜しみ無い称賛を贈りました。この王は、真に産まれながらの王であるのだと揺るぎ無い決意と共に実感したのです。

 

「次で最後かぁ・・・よし、頑張るぞぅ。最後の問いを言ってごらん?」

 

「はい。王よ。これが私の、最後の問いです。」

 

「・・・・・・」

 

王も、女王もまた最後にて告げる問いを、返答を心待ちに致します。互いの真意と、真なる価値を示す、最後の問いとは──

 

「──あらゆるものは終わります。それは、苦しみを積み重ねる巡礼です。その旅路には、何処までも何処までも終わりなき哀しみが待っています」

 

「・・・!」

 

 

《・・・ほう?》

 

──最後の問いが、ギルが御答えしたものとは違う・・・!?アドリブでしょうか!?このタイミングで!?

 

(意外!ここで即興のアドリブに出たシバにゃん!これは『ソロモン』ではなく、人間・・・『ロマン』としての研鑽が試される筈だ!さぁ決めてみせろ、ヘタレから脱却するんだ!)

 

──お、落ち着いてフォウ・・・!今、焦げた毛並みを整えるから・・・!

 

 

じょ、女王から示された問いは予想を覆すものでした。それらは王すら予測し得なかった問い。女王がふと、砂漠の旅路にて心に思い浮かべたものであるからです。本来の三つ目の問いとは、かけ離れたものであったのです。

 

「ですが、其処に待つのは断じて死や断絶ではありません。星のように輝かしく、刹那を宝石の輝きより眩しく駆け抜け、終わりを知りながらも。出逢いと別れを繰り返して、遥かな旅を進んで行きます・・・」

 

王に、ただひとつ問われた最後の問い。・・・王は・・・

 

「・・・うん。『僕』はこの答えを知っている。イスラエルから、遥かな未来へ捧ぐ答えであり。未来を生きる君達へ告げる、僕自身の解答だよ」

 

・・・王は、静かに告げたのです。その胸に浮かんだ、確かなる答えを。

 

「限られた生をもって死と断絶に立ち向かうもの。それは『生命』。終わりを知りながら、別れと出会いを繰り返すもの。それは『人生』。君が言うように、輝かしい、砂漠の夜の星空がごとき物語」

 

「・・・・・・」

 

「これを──『愛と希望の物語』と云う。人間の歴史は、そんな題目で飾られるべき素敵なものなんだよ。麗しき、シバの女王よ」

 

「・・・では、王よ。我等が生きる世界は、未来は。真に繁栄に足りましょうや?」

 

「──あぁ。勿論だとも。遥かな昔に、英雄達の王が神々と人を訣別させた。そして遥かな未来に、未来を臨む生命が繋がり駆け抜けていく。やがて人は総てを尊び、重んじる心と想いを育て、育む。そしてやがて人はこの星を飛び出し、いつかあの輝きに辿り着くだろう。──天地を乖離 (わか)つ、開闢の星の輝きへ。完全無欠の結末へ・・・──必ず」

 

王は、厳かに。優しげに答えました。・・・それはきっと、王自身が願い、望んだ未来でもあるのでしょう。最早誰も、その言葉を否定するものはありませんでした。

 

「・・・もったいなき、御言葉です。私の旅は、今ここに報われました。あなたがお困りの際は、行く末すら、辿り着く場所すら解らぬ自由へ囚われし時は。過去の折、今や未来に必ずやあなたの下へと駆け付け・・・全霊を以てお応えいたしましょう──」




・・・こうして、ソロモン王とシバの女王の謎かけは終わり・・・一層深まった畏敬の念を抱きながら、女王は故郷、シバ王国への帰路へつきました。

ソロモン王もまた、女王が望んだ通りの贈り物を惜しみ無く与えたのです。

その後、栄華を極めた砂漠の王がどうなったのか・・・

ソロモン王と女王の絆に、いかなる進展があったのか・・・最早、学者達は持ちません

ですが・・・ですが。此処に例外があるとするならば。

──かの王と女王が紡ぐ、愛と希望の物語が如何様に紡がれているかは・・・きっと、明瞭に思い描く事が叶うと思われます。

この物語を愛し、心から支えし者達である、今を生きる、皆様ならば、きっと──




ソロモンとシバの三つの問い掛け

おしまい



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