人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
アビゲイル「・・・ら、ラヴィ。早くにごめんなさい」
ラヴィニア「ど、どうしたの?家を、抜け出したの?」
アビゲイル「・・・ご、ごめんなさい。私、どうしても渡したいものがあったの」
『沢山の手紙』
「これ、渡して貰えないかしら・・・?リッカさんに、皆に・・・」
ラヴィニア「・・・えぇ。解ったわ」
「じゃ、じゃあ、また後で!迎えに来るわ!」
「アビー」
「!」
「・・・まだ、外は怖い?」
「・・・怖いわ。・・・怖い、けれど・・・」
「・・・」
「・・・それ以上に、気になっていくの。どんなものがあるか、どんな場所に行けるか・・・とても楽しみ。出来たら・・・もし、許されるなら・・・」
「・・・」
「・・・な、なんでもないわ!なんでも・・・ま、また後でね!楽しみにしているわ!」
ラヴィニア「・・・じゅ、順調みたい。・・・そうよ。いい子じゃなくて、いいの。アビー・・・」
「それでは!ミ=ゴ基地壊滅、並びに無事に三日目を迎えた事を祝して!」
「「「「「いただきまーす!!」」」」」
三日目、半分に差し掛かったセイレムの朝。敵陣攻略において最適な二人の大活躍によりほとんど疲れること無く目標を果たした一行は朝御飯を楽しめる余裕を残すほどに快調だった。地球と宇宙を見渡しても白兵戦においてあれほど適した者はいないであろう二人の力は、図らずとも少女や女性たちの心の余裕を確保できるくらいに痛快な作戦の成果を残してくれたのだ。
それだけではなく、プレデターは戦士の戦いの支援として物資の補給、宇宙メーカーの缶詰を大量に譲渡を図り、コマンドーたるメイトリックスは100%OFFセールにて買い揃えたいくつかの銃器と通信機を置き土産に残してくれた。互いに無事と健闘を願った事による激励と労りを形にしたものを受け取り、細やかなパーティー風味にていただこうという話に取りまとまったのである
「なんでシーフードカレーなのでしょう?ビーフカレーにしたほうがガッツリするのに」
「もう、XXたら乞食のように浅ましいのですわね。私が幼少の頃、我が神はプレデターと一戦交えた様ですが・・・凄まじい戦闘力でもう戦いたくないと評判が芳しくありませんでしたわよ」
「リッカ、この缶詰めの中身はいったいなんなのか解るか?ラベルに何も書いておらぬ」
「知らない方がいいよ!」
何の肉か解らない缶詰め、肉を使わない海の幸を使ったシーフードカレーを騒がしく食べていくリッカ達。木こりとして、戦士として栄養補給の観点から考案したメニューの味は絶品であり、これからの戦いを乗り越えさせてくれるような力強いパワーを与えてくれる。一口一口に、揺るぎない力が宿り、みなぎっていくようだった。
「お、おはよう。二日目も、無事に乗り越えられたわね。銀の鍵の儀式も問題なく・・・す、進んでいるわ」
ラヴィニアも部屋より出て、食卓につく。外なるものどもがやってくるのはヨグ=ソトースに連なる儀式によりあらゆる時空に擬似的に繋がってしまっているが故であり、活路にして呼び水となってしまっていることに心なしか申しわけ無さげであったが、今更そんなものを気にするものは誰もいない。仲間と触れ合う時に無粋は無用なのだ。
「残る日にちは後5日・・・ナイア、実際の処この難易度や邪神の思惑に大きく外れているような事は無いですか?ストーリーや特異点崩壊なんて事はなっていませんか?」
ストーリー、すなわちセイレムのいく末に対してマンチキン・・・力押しやごり押し、著しく邪道な進み方をしていないかの一応の確認を行うXX。ゲームマスターである者が存在している以上、少なからず望む結末と言うものはあるはずだ。それが叶わなければ【飽きた】とし世界ごと終わらせる。それが可能なのが邪神なのであるが故に、シナリオ崩壊の悪手が起きているなら自粛をしなくてはならないが故に。神託という形で所感を受けているナイアだが、今の処は心配は無いと語る。
「今のところ、不興は買っておりません。我が神は大変楽しんでおられます。この調子ならば大人気ないリセットなどは行わないかと。・・・ただ」
「ただ?」
「ただ、グールやミ=ゴはあくまでチュートリアル。これより先の存在は輪をかけて厄介になるであろうから頑張ってほしい、と仰有られておりました。今は破竹と言えど、油断はなさらない方が得策かと」
ミ=ゴやグールは下級の存在であり、むしろ苦戦する方がおかしいのだとナイアは語る。これより先はより高次の存在、あるいは厄介な神格がおとずれるやもしれぬとナイアは神託を受けたのだ。ある意味先の二種族は前座やジャブ程度の存在。これより先は割と殺しに来るとの達しがあったようだ。それ故の、リッカに託された力であるのかもしれないが・・・
「なんであろうと、我等の為すべき事は変わらぬ。なんとしても邪神の目論見を越え、かの少女を此処より解き放つのだ。さすればカルデアの勝利となり、外なる神々は鳴りを潜める!」
何が来ようが、為すべき事は変わらないとアルは言う。ラヴィニアを守護し、鍵を完成させアビゲイルをセイレムより解き放つ。それが自分達に託された命題であり勝利条件であると高らかに魔本の精霊は謳った。
「妾が此処に脚を運んだのは、カルデアの皆が狂気に染まる未来を回避するため。それはカルデアが勝利することに繋がる。努油断するな、邪神が無償で温情を見せるなど決して有り得ぬ。警戒を以て事に当たるのじゃ」
「勿論!でも、劇も大事だよ?皆の心から、魔女を追い出して見せなきゃいけないしね!」
戦うだけでは良き結末に辿り着く事はできない。セイレムを取り巻く不安や恐れが魔女という形をとらないよう、一層劇にも力を入れて心を励まさなくてはならないのだ。疑心暗鬼の影を消し去る昼の劇も、けして欠かせぬ戦いと言えるのだから。
「必ずや、力を合わせて困難を突破致しましょう。私達は運命共同体。私達は仲間、私達は家族のようなものなのですから。助け合い、励まし合う事を武器に頑張るのです」
ナイアの声音はどこか楽しげで張り切っている。どうやらこれほど多くの仲間を得たのは人生で初めてなようで、いつもよりテンションが上がっているように見受けられる。XXがコイツいつもよりテンション高いですよ、というくらいには上機嫌なようだ。
「勿論!・・・でも、敵を倒せば終わりな夜と違って、私達が村人の皆にどう思われているかは解らないのがなんというか、危なっかしいよね」
劇や芝居がどんな風に受け止められているか、実際に聞かねば解らない問題であり事態である。演じる輩が楽しいだけなら、劇である必要はないのだから。何かしら目安となるものがあれば・・・
「そ、それなら心配ないわ。アビーの心にも、セイレムにも。皆の頑張りは伝わっている」
そういってラヴィニアは、ごそごそと何かを取り出した。手に握っているそれは・・・便箋付きの手紙が入った箱だったのだ。
「み、見てわかるものよ。これは、セイレムの人が劇を見た際の感想が書いてあるの」
「え!?ファンレターって事!?」
確かにそれは子供や夫婦のサインや文字が書かれており、感動や感嘆、激励を示す文が記されていたのである。紛れもないファンレター・・・劇の評価の、これ以上ない成果と言えるものだろう。机に並べられた封筒を、アルが目を丸くして見つめている。
「皆の心遣いや、願いはちゃんと届いているわ。だって、これを集めたのは・・・書こうと言い出したのはアビゲイルなのよ」
「アビーちゃんが!?」
「えぇ。セイレムの子供たちを集めて、字を書いて。・・・物事を待つばかりじゃなく、きちんと何かをしようとし始めたわ。それは、その一環。・・・だから、感謝しているわ」
少しずつだが、アビゲイルはセイレムの祈りだけを遵守する敬虔さの他に好奇心を育て、成し遂げようとしている。出れない、とセイレムに縛られている彼女に起こった変革は、確かにもたらされたものであるとラヴィニアは言った。
「代わりに、お願いするわ。これからも素敵な芸を見せてあげて。き、きっとうまくいく・・・」
「──うん!よーし皆!片付けたらファンレターに目を通して返礼!行ってみよー!」
「「「「おー!」」」」
この道は、この選択は間違っていない。そう改めて感じたリッカは頼りになる仲間と共に、新たな一日に賑やかに挑むのであった──
──セイレムの命運が定まる七日目まで、あと五日──
アビゲイル「ラヴィ、きちんと渡して貰えたかしら?・・・読んでくれるかしら?迷惑ではないかしら・・・?」
カーター「心配はない。あの旅の一座を信じなさい。・・・そして、アビゲイル」
「は、はい。おじさま」
カーター「何を信じていいか解らない時、何を選べばいいか解らなくなった時は、自らのやりたいこと、成したい事を思い浮かべなさい。きっとその先に、お前がしたい事の正解の道が待っている」
「おじさま・・・」
「忘れない事だ。目を閉じない事だ。崖に落ちるのは恐れ、心が弱いからだ。・・・大きい一歩を踏み出しなさい。これは、とても大事な事だよ」
「は、はい!おじさま!」
「よろしい。ティテュバの仕事が終わったら、ラヴィニア君と劇を見に行きなさい。ティテュバの言うことを聞くように」
「うん!解ったわ!いい子にするわ、おじさま!」
カーター「あぁ。・・・怪我をしないように」
(・・・いい子、か。・・・いい子とは誰の言うことを聞くものではない。自分のありのままを信じられるものだ。)
「・・・悪い子である事は、悪い事ではない。その罪から目をそらす事が悪いのだ、アビゲイル・・・」