ニャル【お前には生きる術を身に付けてもらおうかな。釣りや山菜集めじゃないぞ。迫る闇を切り裂く技術だ】
少女「・・・」
【⬛に拾われた以上、その手の連中とは嫌でも付き合う事になる。その時に無力でいたら折角できた娘が台無しにされてしまうからな。これからお前は、闇を喰らう闇になれ】
「はい、わかりました。・・・一つだけ聞かせてください」
【ん?】
「わたし、それをすれば・・・あいしてもらえるのですか?」
【──ふ。子供の癖に愛に対価をつけるか。・・・余程酷い場所にいたようだな。・・・よし、教えてやろう】
「?」
【いいか、覚えておけ。『愛に理由は無い』。愛する事、愛される事に理由はいらないんだ。⬛はこう見えて、あの星に生きる者全てを愛している。ちょっとお前は外れはしたが、お前がお前であることは変わらない。【愛している者に、なんでもしてあげたくなる】。それが心という生物の
「・・・」
【お前の事も、心から愛しているさ。生きていてほしい。簡単に死なないでほしい。だからお前を、闇を喰らう闇にするのさ。大事な娘に護身術を仕込む親は、珍しくは無いだろう──?】
・・・その枕詞には、(できるだけ苦しんでほしいから)や、(なるべくあっさりと)いった意志は確実に含んでいたでしょうが・・・
私に愛を囁いた神が、確かにいたので。私を愛してくれた神は、確かにいたので。
・・・なら、そんな神に身も心も仕えようと。シスターを光の世界の職業に選んだのです。
何かをやるたびなす度に【またナイアルか】と言われ石を投げられたので、本当にあのロクデナシはと殺意を懐きましたが・・・
それでも。私ほど神の愛を得た者はいないと。今でも信じているのです──
「今日の劇は、一体何を成すのでしょうか。狩りの他の趣味に乏しすぎると再三言われていた私にですが、漸く趣味が出来ました。ヒトカラ、礼拝、手に入れた首でリフティング・・・それに連なる新たなエレガンツ。そう、劇鑑賞。文化を嗜む女としてレベルアップでございます」
劇の公演を控えた昼下がり前。そんな言葉を呟きながら教会の掃除を行うシスターが一人。外なるものを狩り、人と光を護る闇の住人たるナイアその人である。早朝から人々の告解とミサを取り仕切り、村人たちからの評判を逐一聞き取り情報を収集している有能探索者。劇が近いと言う事で村人らは公会堂に移動したので、一人で気ままに片付けを行いつつこちらも移動しようと言う心積もりである。いつもは朝など血塗れの身体を浄めるシャワータイムで潰れるものだが、今回の仕事は穏やかである。彼女の・・・狩る者のスケジュールは中々に苛烈である。ヒロインXX曰く・・・
~
「朝起きて牛乳飲んでグールを狩り、昼に牛乳飲んでミ=ゴを狩り、おやつタイムに牛乳飲んで猟犬と戯れ、夕方にダゴン教団を狩り、夜に顕現しかけた旧支配者を狩る。それが彼女の一日です!」
~
という苛烈な一日であるので日曜日以外に休みなど無い。人々の営みがある限り闇の誘惑というものは付き物なので、そこに付け入る闇もまた無尽蔵。それらを片っ端から狩り神から御褒美と報奨を貰い、日曜日にはヒトカラとシスター業にて癒され、シャワーでリフレッシュしたら狩りに出掛ける。そんな彼女がこんなに穏やかに平日を過ごせる事自体が実に珍しいのだ。上機嫌にもなると言うものである。
「差し入れにおにぎりとサンドイッチを持っていきましょう。中身はローストビーフにシャケ。まさに鉄板・・・王道こそ最強。我が神も【御約束と王道の魅力が解る感性を持て。誰もやらなかった事をやるのは簡単だが、大抵見向きもされずに終わるから】と仰っておりましたから」
鼻唄混じりに胸を弾ませお尻を振りながら雑巾とモップを踊らせるシスター。さっさと終わらせて劇を見たい・・・そんな彼女に、声をかけるものがある
「し、シスターさま。私・・・」
「?あなたは・・・」
金髪にて、人形を持った少女。モップを一回転させ真紅の眼差しを向けるシスターを見つめる彼女は・・・
「ざ、懺悔をしたいの。劇が始まる前に・・・」
アビゲイル・ウィリアムズ。彼女の声が二人だけの教会に木霊する・・・
~
【予定外、想定外の事態こそ楽しみ、笑い、膝を叩け。何もかもが思い通りに行く事ほどの退屈はない】
byニャルラトホテプ
~
「それでは、懺悔を聞きましょう。迷える子羊なるあなた。食卓に並ぶ前に洗いざらい吐き出しなさい。きっと楽になるはずです」
「は、はい。・・・お願いいたします、シスター様」
懺悔室に籠ったナイアとアビゲイル。垂れ幕を挟んで向かい合う形となる。懺悔とは誰にも聞かれずこうした部屋にて行われる。プライバシーの確保というものである
(しかし、罪の告白とは・・・)
ナイアからしてみれば意外であった。子供とは罪と罰の概念など希薄。思うままに生きるモノと把握しているが故・・・自らの行いを罪と認識するなどそうは無いのだが・・・
「え、えっと・・・シスター様、私は・・・」
僅かに身構えるナイア。これは真面目に応えなくてはと姿勢を正し・・・
「──ファンレターを書くとき、眠ったふりをしておじさまやティテュバに嘘をつきました・・・!そして、家を抜け出して友達と感想を言いあったりして、帰るのが遅くなったり・・・」
「───・・・」
その罪は、セイレムに生きる清廉な少女の細やかなものであった。料理をつまみ食いした、夜にベッドに入る時間を誤魔化して夜更かしした。ティテュバと語り合ってカーターに怒られた、といったものである。彼女が気にかけ、胸に痞えていた微笑ましい罪の告白に、拍子抜けしながらも真摯にナイアは耳を傾けた。
「おぉ、アビゲイル・ウィリアムズ。貴女はとてもとても罪深い。とくにパーティーのパンケーキをこっそり持ち帰るとはなんとなんと罪深い」
「わ、私は許されないかしら・・・父の下へいけないかしら・・・」
「いいえ、大丈夫です。かの父は信ずる者に分け隔てなく祝福と神の国の扉を開き、信じぬ者に分け隔てなく裁きと地獄の門を開きましょう。あなたが真摯に御祈りすれば必ずや赦してくださいます。罪を罪と認めぬ事。それこそが罪であるのですから」
ナイアも異教にして邪教の極みとは言え神を信じるもの。あらゆる宗教に精通し神への福音を諳じる事が出来る。故にシスターをやっているため唯一神教への対処も慣れたものである。真摯に、そして敬虔にアビゲイルを説き伏せる。子供の悩みなど微笑ましいものだ。人を殺し死体をどう隠した私を赦してくれと宣う者に比べれば。
「あ、ありがとうございます。私、これからもいい子でいるし、いい子でいたいわ。だって、それが神の教えだもの・・・」
「・・・そうですか?完全なる神の教えの体現者と言うものはいないものです。ですのでそう固くなる必要はないのではと私は思います」
「え?」
そう、神の教えというのはシビアであり遵守するのは並大抵の事ではない。単純に神がそれを語りかけないからである。ナイアが世界を渡り歩く中、父に神の操り人形達が楽園、千年王国を打ち立てんと活動していた世界を見せられた事がある。僅かにでも違えれば洗脳という精神の死が、体制に刃向かえば浄化という抹殺という手段を取っていた世界を目の当たりにした事があり、それらの者らに神は決して語りかけなかった。故に、神の名を謳うものは皆信じたいモノを信じていたにしか過ぎない、と父は嗤った。教義の為なら信徒ごと世界を洗うのも厭わないのがかの連中だ、と
「罪を重ねる事を恐れてはいけません。悪い事を、嫌な事を無かった事にするのではなく見つめなさい。そうすることで、次はきっと罪になる事はしたくないと思える筈ですわ」
だから、神ではなく自分の胸に在り方を聞き、罪の在処を問いなさい。それを裁けるのはきっと己だけだと、ナイアはアビゲイルに問い掛けた。だから、成した罪は決して無かった事にしないこと、それが、贖罪の一歩になるのだと
「・・・はい。ありがとうございます。シスター様。私・・・罪を、しっかり見つめます。悪い事の赦しを乞う前に、きちんと罪を数えます」
「はい。罪を数えたくなったらまたいらっしゃいませ。一緒に罪を数えましょう?」
「はい!ありがとうございます!シスター様──」
元気で弾んだ声が聞こえ、良かった、教義に抵触しなかったようで何より・・・──ナイアがそう思った、その時。
「──【退屈は罪よ。皆が皆、刺激を求めていたわ。誰もが彼もが、虐める相手を欲しがった】」
「・・・~?」
「【私は悪くない、悪くないわ。だって皆がそう考えていたの。私は指し示しただけ。そう──私は魔女ではないわ。あなたが魔女よ──】」
冷えた声。嘲笑う様な声が、教会に・・・ナイアの耳に響き渡った──
アビゲイル「・・・シスター様?シスター様?」
ナイア「・・・、・・・あ、アビゲイルちゃん」
「ぼーっとなさって、大丈夫?具合が悪いのかしら・・・?」
「あ、いえ御気遣いなく。・・・さぁ、劇が始まります。ラヴィが待っているのでは?」
「あ、そうだったわ!じゃあシスター様、また後で!」
ナイア「・・・今のは、深層心理の彼女の声?彼女の懐いていた、心の懺悔・・・?」
カーター「罪とは向き合うものだ」
「!」
「だが、己以外の者が求め、誰もが望んだものがあった場合、それが罪を招く恐ろしい者であった場合、罪は何処にある?望んだ者か?指し示した者か?或いは・・・【招いた者か?】」
「・・・カーター・・・」
「根は深い。ともすれば、枷となるほどに。・・・未然ではなく、向き合う事こそが扉であるかもしれない。彼女を頼む、楽園の者たちよ」
「・・・」
未然ではなく、向き合う・・・とりあえず報告してみよう。そう思うナイアであった。
そして、昼。題目はランドルフ・カーターたってのリクエストによる『モンテ・クリスト伯』──
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