人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜   作:札切 龍哦

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カーター「リッカ君、今日は本当にありがとう。娘も、村の人々も大変感銘を受けていたよ。私も、勿論その一人だ」

リッカ「光栄です!でもすみません、長い劇になってしまって・・・」

カーター「いいや、劇の長さや質などは大切だが全てではない。大切なのは、君達が私達に何かをもたらしたいという気持ちなのだよ」

「気持ち・・・」

「手を抜こうと思えば、簡略化しようと思えばいくらでも出来たはず。それでも君たちは毎日懸命な芝居を魅せてくれたね。その影響は、セイレムに大きな変化をもたらしているのだよ」

「カーターさん・・・」

「君達は正しい道を進んでいる。信じ、進みなさい。私は君達を応援しているよ」

リッカ「はい!ありがとうございます!」

ラヴィニア宅

ナイア「リッカ様、大変お疲れ様でした。仕込みに仕込んだシチューをお食べください」

リッカ「あ、いないと思ったら!料理作っててくれたんだ!」

「はい。夜に待ち受ける素敵な狩りの時間を、共に乗り越えるため・・・おや、XXは?」

「あれ、そういえばアルもいない!どこ行ったんだろ・・・?」

ラヴィニア「だ、大丈夫。きっと帰ってくるわ。だって・・・」

リッカ「ラヴィニア?」

ラヴィニア「じょ、助言を貰いに行ったのよ。協力者の・・・きっと・・・」

カルデア

カドック「あ・・・」

アナスタシア「素敵だったわよ。カドック?」

カドック「っ・・・」

アナスタシア「あら?ちゃんと目を見なさいな。ほら、ほら?何か言うべき事はあるのではないかしら~?」

カドック「や、止めろ・・・!しばらく顔を合わせられないと思ってくれ・・・!」

「愛しているわ、エドモン?」

「や、やめろぉ!」

マシュ「あんなに情熱的なお芝居でしたのに、どうして仲が悪くなってしまったのでしょう・・・?」

オルガマリー「そう見える?逆なのよ。じつは、ね」

「???」


夕──時を駆けるもの──

「ナーォ」

 

猫が、ニャンと鳴く。セイレムに現れた猫がふらりと気紛れにスタスタと音もなく歩いていく。時に止まって毛繕い、時に眠たげに丸まったり。その動きには一貫性も何も見えない、その時の気分と言っていいふわふわしたものである。ただし・・・その猫がやって来た場所は、決してほんわかに和めるような場所では無いのだが

 

「なんでわざわざこんな場所に来たんですかあの猫・・・原生生物が好んでくるような場所ではないですよね、ここ・・・」

 

其処はセイレムの外れ、『丘』と呼ばれる地。なだらかな小さき丘が、人知れず人気もなく。寂しい風が絶えず吹き抜けている。特に、常にどんよりとした空気が辺りに満ち溢れている陰気な場所である理由は──丘に作られた、締首台のまがまがしさにあると言っていいだろう。罪人を吊るす魔女を殺める人が作りし魔の道具。異教の使徒を見せしめにする恐ろしき装置だ。少なくとも、近日に使用されたような形跡は無いが・・・

 

「ニャーォ」

 

その猫、黒き猫は絞首台に飛び乗り、一あくびをし丸くなってしまったのである。大きく身体を伸ばし、ぐるぐると喉を鳴らす。それはまるで、後を追いかけてきているXXとアルを試しているかからかっているかのようである。その自由な振るまいに、毒気を抜かれるを通り越して欠伸すら漏らすXXをアルが嗜める。

 

「馬鹿者。これは尾行であり重大な任務であるのだぞ・・・!気を抜いて欠伸など漏らす奴があるか!」

 

「うむむ、彼氏面の指示に従い此処まであの猫を追ってきましたが・・・大丈夫ですかね?下手な狂人よりよっぽど変人だと思いません?私達・・・」

 

「それは否定せぬ。狂人の真似をすらばそれは間違いなく他者の目には狂人と映る。それに則れば猫を懸命に追い立てる妾らは狂人以外の何者でもないのだろう」

 

「くっ・・・!煙に巻かれたというのですか私達は!あの正体不明な彼氏面、なんの用件で探偵の必修科目の真似事など私達に・・・あっ!ねこが!」

 

XXが声を上げるのと、猫が短く跳び跳ね、シュタタと走り去るのは同時であった。ニャッと鳴いて先程の呑気さが嘘のように俊敏に更に人気の無い場所へと向かっていく。猫の行動を完全に読み取るのは不可能に近い。徹頭徹尾気紛れで、本当の意味で誰かに心を許すことは稀な生き物。それが猫という生き物であるのだ。対応に追われる飼い主もとい尾行者は後手に回るしか無いのである。

 

「うにゅ、小賢しい!追うぞXX!此処で逃せば本当の意味で徒労と時間の浪費が我等の報酬となる!」

 

「それは困ります!ターンの浪費は探索者にとって下策も下策!三流探索刑事となじられる事は容認できません。早速追いかけなくては──」

 

慌ただしく駆け出した・・・瞬間。XXとアルの背に、耳をつんざくような爆音と身体を震わすほどの振動が響き渡る。尋常ではない人知を超えたエネルギーが、天から大地に届けられたのである

 

「──!?」

 

弾かれるように振り向く二人。其処には・・・辺り一帯に絞首台『だった』ものが黒く焼け焦げ、木っ端微塵に散乱している光景だった。莫大極まるエネルギーの直撃を受けた絞首台は為す術なく粉々に吹き飛んでいる。慌てて時計を読むXX。そこに書かれている字は17時を指している。先程まで曇天であった筈の雲より放たれた落雷。それが、魔女の数多の生命を縛り、害してきた台を吹き飛ばしたのだ。

 

「これは・・・!?」

 

「なんの予兆も見られなかった・・・だと・・・?いやそれよりもあの処刑台・・・あれほど粉々になってしまえば一朝一夕には直るまい」

 

損壊を通り越して壊滅した絞首台。皮肉にもその落雷が、悪夢の生成源であるそれを破壊し尽くした。辺りに引火、つられて発火する様子はない。あまりにも的確で、あまりにも狙い澄まされたかのようなその自然現象をアルは冷静に分析し──

 

「ニャーォ」

 

「「!」」

 

いつの間にか足元にて、猫が顔を見上げていた。ぐるぐると喉を鳴らし、ピョインと再び走っていく猫。まるで意志が介在しており、なんらかの事実を伝えたがっているようなその振るまいに、二人は確信に似た結論を出した。・・・かの猫は、自分達になにかを伝えようとしている──

 

「どうやらあの復讐者の言は当たっておったようだ。行くぞXX!必ず有益な体験を持ち帰らなければならん!」

 

「分かってますよーだ!あそこまで怪しい真似をされて疑うなというのが無理がありますからね!」

 

確信を得た人間、人の決断は早くスムーズだった。走り去る猫の背を追い、そっと脚を速める。彼女、或いは彼が向かった先は、地下牢獄──

 

 

【メイキングとセッティングのコツは、可能性の袋小路を作ることだ。その状態にたどり着いた時点でどうにもならないと気づいた人はとてもいい顔を晒し膝を折る】 ニャルラトホテプ

 

 

「うわっ、汚いですね!銀河警察の寮舎ですらもっと清潔にしますよこれ!」

 

漏らした所感が初の感想であるほど、用意されていた、招かれた牢獄というものはみすぼらしく、味気なく、同時に殺風景にも程があったのだ。少なくとも、この場所に放り込まれた人間が逃れようとするならば、あり得ぬ罪ですら自らの罪と告白してしまうほどに劣悪だ。いや、初めからそのようなもので作られているのかもしれない。尋問を、或いは魔女を炙り出す為の囮であるものか

 

「仕方ないですね、ここに来た以上探索と清掃を行いましょう。招かれた以上、絶対に此処には何があります。それを信じ、探索を・・・ん?」

 

そんな彼女が、真っ先に牢獄の違和感に気付く。其処に散乱していたものが、この牢獄にある筈の無いものを見つける。足下に散乱していた、それは・・・

 

「・・・鳥の、羽?」

 

辺り一帯に散乱していた、謎の鳥の羽根。漆黒の羽根が目につき、拾い上げる。その羽根を手に取ってみると、静かに羽根が黒光りしている事と、魔力がその羽根から発せられている事が見える

 

「なんだ、その羽根は?こんな場所にて拾うなど、決して尋常なる出来事では無いことくらいは予想がつくが・・・」

 

アルの問い掛けに慌てて顔を上げるXX。この羽根がどんなものかはナイア辺りに識別してもらおうと決心した、その時であった。

 

【・・・それは、かつてセイレムにてアビゲイルを思いやった魔神の力の一端である】

 

言葉が聞こえた。慌てて辺りを見渡しても、その声の主は見当たらない。・・・否、既にその姿をXXとアルは把握しているのだ。其処にいたのは・・・

 

【魔女を宿すはただ一人。その魔女を逃がしても、隠させてもいけない。かつての魔神が願った娘の救済を行うならば、魔女との対話は避けられない──】

 

先に、追いかけていた金色の瞳の猫。それの口から、人間の声音が響いてくる。まさに、まさしく。この猫こそが、かの声の主なのだ──




猫【かつての魔神は、偽りのセイレムを何度も繰り返していた。彼はこの場所で、自らの正体を明かし、倒されることを望んだ。かの神を下ろし、救済を是とする事で】

アル「貴様は、一体・・・」

【彼はやがて、娘の無事のみを願い、このセイレムからの脱出を画策した。アビゲイルの救済を・・・】

XX「・・・」

【私は、彼の想いを君達に伝えなくてはならない。君達の行いを、画策を、水泡に帰すことが無いように】

「妾らは、何をすればよいのだ?」

【魔女を逃がすな。目を逸らすことなく受け入れるのだ。魔女は潜んでいる。見つけ出し、このセイレムに呼び出すのだ】

「それは、アビゲイルの事ですか?彼女を倒せと・・・?」

【乖離は始まっている。かつての凄惨なセイレムは変わり、魔女へ矛盾が集まっている。このまま行けば、七日目に・・・】

「何が起こるんです!?七日目に何が!?」

【決して、忘れてはいけない。魔女もまた、彼女なのだ──】

謎のヒントの羅列。それはどういう事か、二人が訪ねる間も無く・・・

「ナーォ、ニャー」

猫の口から、人の言葉が発せられる事はもう無かった──
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