人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
アビー「見る影もなく、壊れてしまっているわ・・・これで、誰も吊るされなくて済む・・・」
【嘘よ。皆喜んで吊るしていたわ。魔女を吊るしていたのよ】
牢獄
「ティテュバはここにはいないわ。皆の為にご飯を作っているわ」
【真っ先に魔女であると言ったのに。私達に呪術を教えてくれたのはティテュバよ】
「あぁ・・・私は、魔女じゃない・・・」
【そうよ、魔女ではないわ。けれども、それではダメよ。あなたが魔女で無い限り、誰かが魔女にならなければ】
「誰かが、魔女に・・・」
【あの事件を、忘れてはいけないわ。本当のセイレムは、こんな幸せではなかった。だから、あなたもそう。幸せになってはいけないわ。だって・・・】
「違う、違うわ。生命を、幸せを謳歌する権利は、誰にでもあるのだから・・・」
【ふふふ・・・そうね。魔女はいないわ。何処にも、何処にも・・・だって・・・】
「・・・やめて!」
【──自分自身は、見えないものでしょう?】
激動の三日目の夜を乗り越え、四度目の夜明けを迎えたセイレム。先の夜の防衛も無事に完遂した事により、セイレムの全体的な雰囲気も良い傾向に変わりつつあった。笑顔と活力が増え始め、子供たちが元気に遊ぶようになり、劇の話に夢中になるようになり始めた。大人たちもそれらを咎める事はなく、むしろ子供たちと心を同じくしている。昼の劇の公演が、この日々の楽しみとなっているのは明らかだった。せめて劇団がいる間は、余計ないさかいや日々の苦労を持ち出さず表さないようにしよう、といった空気が皆の間に広がっている。
そして同時に、壊れた絞首台の修理も全ての劇が終わるまで見送りとなった。皆の暗黙に、これを使う事なく最後まで劇を見たい、楽しみたいという心が生まれていることの証左である。心あるものは、これまでの劇により心を動かされ、同時に恥を知ったのだろう。いる筈のない魔女に怯え、誰かを貶める事に。──セイレムにて懸命に行ってきたカルデアの活動は、少しずつ報われて来ていると言っていいものだろう。
「・・・」
──人々の心の内より、魔女は追い出されていく。希望を信じ過ごすことが是とされていく。
・・・新しい夜明けが、訪れはじめていた。そして、今日もカルデアの一日が始まる──
~
「ら、ランドルフ・カーターは恐らくNPCの立場にはいないわ。恐らく、ゲームマスターの立場から私たちを助言している・・・」
ラヴィニアは、一連の不思議な出来事からカーターをただの賑やかしではないとの結論を下した。彼は自身や、この特異点を招いた何者かと同じ存在であると。エイボンの書にも記録が存在していた事を示唆する。猫を友とし、世界や次元を旅するもの。かの作家が自分をモデルにしたという存在・・・それが、ランドルフ・カーターだと皆の持ち帰った情報を整理した
「いわれてみれば、ここの時代からずっと未来のアヴェンジャーの人生をリクエストだなんて違和感バリバリな事してるもんね。これってヒントだったのかな?」
「き、きっと彼は、味方なのだと思うわ。恐らく彼も何らかの手段でこの特異点を、アビーを助けにやって来たの。だけど、それを・・・」
「恐らく我が神にして父が彼を捕らえ、配役として押し込め幽閉したのだと思います。自らの盤面での想定外は歓迎しても、参加していない他者が自らの盤面をかき乱すのは何よりも嫌う御方ですので」
ランドルフ・カーターは別の時空よりこのセイレムに現れ、自らのアプローチでアビーを、そしてセイレムを救おうとした。だがそれにより外なるものの不評を買い、隙を衝かれ力を剥奪され此処の配役の一人となったのだろうと皆は推測した。かの神、ニャルラトホテプとも因縁は浅からぬようで、彼には容赦も慈悲も与えなかったのだろう。
「となると、猫を差し向けたりこの羽根を拾わせたのもヒントを与えるためと言ったところでしょうか。しかし、その割には言っている事が物騒だったような気がしますが・・・」
魔女を逃がすな、魔女は裁かれなければならない。この魔女は、一体誰を指しているというのか。逃がさず、裁けと言うことは追い立てろ、ということなんだろうか?それらの謎に、黒き羽根もまた手がかりとして記されたものである。
「これ・・・私には、覚えがあるわ。これは、魔神・・・おぞましき肉の塊をしていた魔神の残骸、だったはず」
「魔神・・・噂には聞いております。素材美味しいスナック、別名魔神柱であるとか」
「アレ食べると美味しいの!?・・・あぁ、うん、ハーゲンティとかは美味しかったね。そして嫌な事件だったね・・・」
ランドルフ・カーターが持ち込んだ手がかり、魔神の一部。本来ならば呪物でしかないそれではあるが、このメンバーに呪物など、情報の詰まった財宝と同義である。
「あ、あとで銀の鍵を制作するがてら読み取ってみるわ。・・・そ、そろそろ、セイレムの日々も半分が過ぎるわ。皆、大丈夫かしら・・・?」
朝を迎え、昼に劇で夜に狩り。それらの強烈なサイクルは常人ではもたないほどだ。純粋な心配を溢すラヴィニアだが、リッカをはじめとした一同は問題なくご飯を食べている。
「大丈夫大丈夫!楽園の安眠カプセルでグースカ寝てリフレッシュしてるから!」
「1ヶ月連続勤務に比べたら天国です!眠れるだけ、休めるだけで御の字というくらいで前の職場はダークネスでしたので!」
「私は生きている限り半永久的に活動が叶います。不死ではありませんが不老で、肉体の稼働効率が下がる事はありません」
「・・・恐らく、探索者というくくりでも絶対にあなたたちに似たような人はいないと思うわ。た、頼もしいけれど。流石は、楽園の使者・・・というところかしら」
そして、やることも見失ってはいない。今のセイレムに流れている善き空気を確固たるものにしていく。それこそが、魔女を追い払う手段だと信じて進む。それがきっと、何処かで見ているかの神が望んでいるルートであるのだろう。安易な疑心暗鬼やせせこましい騙し合いなど、今回の卓ではきっと望んでいないはずだろうから。
「そうと決まれば頑張ろう!昨日の劇は長いヤツだったから、今回のは短めの短編系とかどうかな?ギャグ漫画日和風の西遊記とか面白そうじゃない?」
「宇宙刑事ギャバンとかなら、私もアクションに違和感は無い筈です!レーザーブレードはロマンですよ、ロマン!」
「私は、リッカ様の故郷の劇が見てみたいとも思います。切ない悲恋や因果応報のお話。枕元で父が読んでくれたものです。ごんぎつねや鶴の恩返しなど・・・」
「チョイスに悪意を感じるような気がするのは気のせいですかね?」
「ど、どんな劇でも大丈夫。あなたたちなら、出来るわ。情報の解析や、提示は、カルデアの皆さんと私でやっておくから、目の前で出来ることを見失わないで」
「うん!よーし!頑張ろー!」
「「「おー!!」」」
そして、今日の一日がまた幕を開ける。狩りに劇、朝の目覚めに夜明けの美しさ。図らずともそれは、セイレムの全てを堪能していると言い換えていい充実さである。残りの日数は、今日も含めて後四日。
(魔女を逃がしてはならない・・・魔女を裁かれなければいけない・・・この魔女とは、つまり・・・)
そして、ラヴィニアは思考を巡らせる。彼女の中における魔女、それはたった一人。かつての特異点で、巫女となるにまで成長し全てと繋がりかけた大切な友達・・・
(・・・あなたを、裁けと言うことなのかしら。アビー・・・)
彼女の断罪を示唆しているのではないか。ラヴィニアは自らの仮説に、静かに身震いを起こすのだった。そして──
アビー「ラヴィニア、皆さん!た、大変よ!」
リッカ「?アビー?どうしたの?何かあったの?」
アビー「く、鯨よ!鯨が沢山、沖合いにやって来ているの!それに、鯨だけじゃない、彗星も!」
ラヴィニア「彗星・・・?そんな、まさか・・・」
XX(ナイア、ナイア。これはもしかして・・・)
ナイア(はい。ショゴスを討伐した報奨・・・アビーちゃんへのイベントなのでしょう)
アル『リッカ、リッカ。妾の推測に過ぎんが、伝えておいた方が良かろう』
リッカ(アル?)
『英霊といった存在は既に固定され終わった存在。自らの歴史や過去を変える事は困難であると聞く。ならばアビゲイル・ウィリアムズがいながら惨劇を回避し続ければ如何なる事態になる?』
(・・・魔女裁判が無かった記憶と、魔女裁判があった記録にズレが起きるってこと?)
『然り。特異点は解決すれば消滅するのであろうが、その特異点にてアビゲイルへの『ズレ』が深まった場合、どうなるかは未だ保証されてはおらぬであろう?』
(・・・もしかして、アビーの中でもし、魔女裁判が無いセイレムという可能性を知って、こっちの方がいいと思ったら・・・)
『拒絶反応を起こした本来のアビゲイル・・・罪の意識はどうなるのか。・・・気を配って損は無かろう』
(・・・もしかして・・・セイレム自体のハッピーエンドと、アビーを助けるハッピーエンドの条件は、一緒じゃない・・・?)