人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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先刻

モーセ「聖書ってさー。淡々として事実だけを伝える感じで味気無くないかな」

ネフェルタリ「読み手に情景を読み取らせるのがメインだからではないかしら?分かりやすいのは大切よ?」

オジマンディアス「ふむ、ならば演目に対し脚色を加えるのもよかろう。許す。我等が演ずるに相応しき変革を期待するぞ、モーセ!」

モーセ「僕かぁ・・・じゃあ、聖書の出来事を僕達がエミュレートしたらといった所感で書いてみようかな。サバ☆フェスで脚本家デビューを目指してさ」

ネフェルタリ「シャナや皆と繰り返し見たいから、うんと盛り上げてね。モーセ?」

「任せてほしい。・・・まぁ、半分ノンフィクションでもいいよね?」

オジマンディアス「・・・うむ」


昼 劇演目──モーセ 平等なる災い──

「ラムセス二世、偉大なるファラオよ。どうか我が願いと請いに耳を傾けてほしい。ヘブライの民達を、ここならぬ何処へと導けとかの主は仰せられた。その使命を、僕は果たさなくてはならない」

 

そう告げ、モーセはかつての親友、ファラオたるラムセス二世に嘆願を行い、賜りししるしを使い、杖を蛇に変えました。奇跡を目の当たりにさせることで、神の意志を代弁したのです。ですがそれも、閉ざされたファラオの心には届きませんでした。

 

「そのような児戯、我が抱えの魔術師も行える。そのようなもので神の意などの証明になるものか」

 

拒絶されたモーセは、長き月日の流れと神の意志の平等さを痛感しました。例えかつての友であろうと、その心は移ろわぬものではなく。そして同時に神が与えし試練の困難を甘んじて受けたのです。モーセの杖は他の蛇を食らいましたが、尚もファラオの心は動く事は無かったのです。

 

「・・・今一度願おう、ラムセス二世よ、ファラオよ。どうか我等が民の旅立ちを赦してほしい。神の怒りがこの地を覆う前に」

 

「くどい。神とはファラオたる余であり、その神威を賜りたいのなら告げよう。そなたらヘブライの民、このエジプトを離れる事罷りならん」

 

その言葉に、モーセは深い哀しみを覚えました。自らの言葉が受け入れられなかった事ではなく、かつての友と自分は、最早同じ未来を向いていないのか、と。

 

「・・・やがて、ナイルの川が血に変わってしまう。それらが終えた際に、また貴方に会いに来よう」

 

哀しみのまま、モーセはかつての友の下を去りました。・・・そして次なるしるし『ナイルの川が血に変わる』事をきっかけに、エジプトの各地にて語るもおぞましき災いが数多に降りかかったのです。それは、神の怒りであり大いなる罰でありました。エジプトの民に、平等に裁きが下ったのです。

 

まず、ナイルの川が血に染まり水をまともに飲めなくなりました。集落には蛙、ぶよ、虻が無数に現れ、あらゆるものを貪り喰らい尽くし、家畜に疫病が蔓延しあらゆる作物、肉を口にする事が叶わなくなります。そして人々の身体に腫れ物が発生し、雹を降らせ、牙を持った飛蝗が空を大い尽くし、暗闇がエジプトを覆い尽くしました。そして最後の災いにて・・・エジプトに生きるすべての長子が皆殺されたのです。エジプトは、・・・かつての親友がより良くせんと治めていた国は、酷く酷く荒れ果てました。そしてその有り様に、何よりも心を痛めたのがモーセその人だったのです。(フルCG、協力・百貌のハサン)

 

(痛みや苦しみのなんと等しく平等な事か。かつてエジプト人がヘブライの民を害していた事を返したかのようだ。・・・しかし、かの苦しむエジプトの者達全てがヘブライの民を苦しめたのであろうか)

 

ヘブライの民を、確かにエジプトは冷遇し害して来たのだろう。だが、それだからといって笑顔で過ごしていた家族、希望に満ちていた子供ら全てが報いを受けるべきであるほどに罪深き存在であったのだろうか?エジプトの民として生まれたが故にこのような災いに晒されていることを受け入れよと仰せられるならば、それは一体・・・ヘブライの民というだけで害していたエジプトの民達を隔てるものは何も無いのではないか?

 

(人は、神は何処までも残酷に、そして無慈悲となれる。そして痛みと苦痛、何より暴虐は誰にでも等しく平等なのだ)

 

罪深きものであるというエジプトの民と、解放の為に神の怒りを振るうヘブライの自分。それらが同じだとするならば・・・我等が目指す楽園とはなんなのだろう?平等であるならば、我等のみを迎え入れる楽園とはなんなのであろうか?・・・モーセの心に、答えは与えられませんでした。

 

「・・・もう一度、ラーメスと話をしよう。神の意志ではなく、己の意志で」

 

そう決意し、宮殿へと向かいモーセが目にしたもの。それは沈痛に静まり返る宮殿に、とある者の遺体を抱き抱え、涙に暮れる親友の姿でありました。

 

「──馬鹿な・・・そんな、そんな・・・!」

 

物言わぬ、ファラオが抱えし女性。それは彼の最愛の妃ネフェルタリの亡骸でありました。降り注ぐ災いに晒され、彼女もまたそれらにより命を落とし。同時に彼女がラムセス二世と設けた子供の長子すらも息絶えていたのです。──神は、何処までも平等であり。痛みや苦痛もまた等しく。それは彼の親友や妃であろうとも、絶対的に平等であったのです。

 

「───モーセよ」

 

ファラオは失意と哀しみに満たされながらも、モーセに告げました。最早そなたらを留める理由は無く、最早意味もないと。

 

「民を連れて、エジプトを出るがよい。最早此処に、そなたらの居場所は在らぬ」

 

「ラーメス!・・・僕は・・・!」

 

「──赦せ、モーセよ、ネフェルタリよ。余は何処までも・・・愚かな男であった」

 

深い深い哀しみの声に、モーセは駆け出しました。そして叫ぼうと、神に訴えようと空を睨みますが・・・それらは赦されぬ事であると、聡明なる彼は理解するのです

 

己の大切な者を奪われ、初めて理不尽や不平等を訴える事こそが欺瞞。このような悲劇を避けたいならば、初めから決して神を頼ってはならなかった。例え拒絶ばかりであろうとも、自らの意志と言葉を正しく伝えるべきであったのです。己が享受できるならば感謝を。己が不平不満を被るのみに批判と平等を。神は、そんな都合のいい平等の観念を、モーセから奪い取りたかったのではないでしょうか。そして、平等なる痛みにてモーセから偽りの平等を奪い去り、預言者としての高みに導いた──痛みは、何処まで行っても平等であるのだと。彼の者はモーセに説いたのでしょう。

 

「ラーメス・・・ネフェルタリ・・・!どうか忘れないでくれ・・・!君達が恨むべき、憎むべき相手は主でもヘブライの民でもない!僕だ・・・!彼の者の意志を招いた、僕なんだ・・・!」

 

やがて、ヘブライ人は子羊の肉と酵母を入れないパンを食し、神はそれを記念とするように命じました。これが後の世にも伝わる『過越祭』の起源ともなります。楽園に導かれることの歓喜に震えるユダヤの者達でありましたが、モーセはその心に深い影を落としていました。友を殺め、引き裂いてしまった己の選択をもって思案に耽っていたのです

 

(彼等は神に愛されし者達だ。主に愛される資格と意味がある。しかし、僕はなんだ?友を殺め、友を哀しませた。そんな罪深きものが招かれる楽園とは、何処にあるというのだろう?)

 

その使命は、いつの間にか疑問と求道へと変わっていきます。友ではなく、神の教えを遵守した。等しく叩かれるべき父の門へ至るため、友を蹴落とし殺した。かつてのカインは、アベルを殺め永遠の放浪を罰せられた。ならば・・・友から愛を奪った自らを受け入れてくれる何かが、何処かにあるのであろうか?

 

(ネフェルタリ、ラーメス・・・僕は探しにいくよ。君達と再会して、また語り合えるような本当の楽園を。この世界の、全てを歩き尽くそうとも。だから・・・すまない。すまない・・・最早僕は、君達の友などでいい筈はない・・・)

 

それでも、神に与えられた使命を果たすまでは決して歩みを止める訳にはいかない。自らの思慮や願いなど、同胞にはなんの関係も無いのだから

 

やがて、ヘブライ人はエジプトを出ます。・・・そしてその後も、モーセは決意したのです。民達を守護すること、そして・・・いつか。この哀しみや苦しみを癒してくれる本当の楽園に辿り着く事を。

 

(だから・・・さようなら、二人とも・・・)

 

そうして、モーセ・・・預言者は静かに、エジプトを後にしたのです。思い出の詰まった、友との故郷を・・・永遠に──




モーセ(まぁこんな風に、イエスマンや思考停止な行動は大きいツケに繋がるよというメッセージを込めてみたよ。どうかな?)

ネフェルタリ「『シャナ、マリー。ラーメスが強く抱いてくれたの。ドキドキしてしまったわ(/▽\)♪』」

オジマンディアス「間が悪かった。そう捉えるしかあるまいよ。余らはオールアップ故、観客に回ろう。これより先も演じてみせるがよい、友よ」

モーセ「勿論。赤裸々に語っちゃうとも・・・ん?マスター、どうしたのかな?」

リッカ「オジマンディアスから、ネフェルタリ様奪うとか、鬼なの・・・神は鬼なの・・・!?誰この脚本書いたのぉ!」

モーセ「僕だよ。どーせならラーメスも死んでおいた方が美談ぽいかなと思ったけど、ネフェルタリに先立たれた方がラーメスはいい顔するかなって。ついでに僕も曇れるしさ」

リッカ「鬼!悪魔!ハルコ!外道衆!ウロブチ!ゆぅや!!」

モーセ「鮮烈なメッセージだろう?言ったじゃないか。痛みは万物に平等だってさ。さぁ次はクライマックス、そして次がエピローグさ。張り切って行こう!」

ナイア「うぇえぇえ・・・ふぇえぇえ・・・(感情移入しガチ泣き中)」

XX「泣かないでくださいよもー、そりゃあ、オジマンさんの演技で皆泣いてますけど!」

モーセ「それじゃあ行ってみよう。いよいよ、僕のオーシャンクラッシュパンチさ!」

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