人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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一 主が唯一の神であること

二 偶像を作ってはならないこと

三 神の名をみだりに唱えないこと

四 安息日を護ること

五 父母を敬うこと

六 殺人をしないこと

七 姦淫をしないこと

八 盗んではいけないこと

九 隣人について偽証してはいけないこと

十 隣人の財を貪ってはいけないこと

モーセ「こんなところかな?後は神との語らいなんだけど・・・あれ、脚本が無いぞ?」

『金色の脚本』

モーセ「?・・・あぁ。なるほど」

『最後の場面は、三人でやりましょう? ネフェルタリ』

「いきなりアドリブかぁ・・・ははっ。まぁ面白いしいいか。こっちの方が夢があるしね!」


昼 ──モーセ 楽園への資格と戒め──

奇跡を起こせし預言者、モーセは苦しい荒れ野の旅をユダヤの民と共に進み続けます。楽園を目指し、我等の苦難は必ずや報われると信じた歩みは頼り無くも確かでありました。その死と隣り合わせな道行きは容易では決してなく、しかしモーセは立ちはだかるものを全て自らの手で打ち倒し乗り越えて行きました。

 

「痛みはあれど甘んじて受けるばかりではない。自らの苦難に挑む者だっていてもいいのだ。その為の足、その為の手だ」

 

そして旅路の中で、食べ物や飲み物への不平や不満を告げる民達の為だけにモーセは神の奇跡を起こします。それは蜜入りのウェハースのような味の白い食料。神により与えられたそれを『マナ』といいました。それをモーセは、惜しみ無く民へと与え続けたのです。自らは一口も口にしないままに

 

「自分の道は、自分の苦難は自分で乗り越える。ならばその道行きに神の力を自分が授かるのは道理に合わない」

 

そんな信念の元、モーセ達は旅を続けとある山、『シナイ山』へと近付く事となりました。其処はモーセが神と出逢い、十の戒めの石板を賜る場所。山頂に光が射し込み、其処に神がいることを認めたモーセは一人山に登り、歩み続けます。彼は気掛かりでもありました。今の己に、神はどんな言葉を投げ掛けるのだろうか、と。厳しく険しい道を乗り越え、モーセはいよいよ光輝く神の声を聞き届けます。

 

『モーセ。悩める民を導き歩む貴方の道筋は約束の地へと確かに向けられている。私はその事実が誇らしい』

 

「主よ、彼等は招かれるのか、彼等を。彼等は愛されるに足る存在であるだろうか?」

 

『私の言葉に耳をかたむけ、私を隣人として愛すならばその資格は消え去りはしないだろう。モーセ、これを持ちなさい。箱に入れ、ただの一度も開けぬように。開けてはならぬものを開けるほど、人は愚かでは無いと信じている』

 

そうしてモーセは石板と十の戒め、そしてヘブライの誓いを受け取り、護るべき掟と規定の約定を授かりました。そしてモーセはその石板を『契約の箱』に入れ、約束の地へと更に脚を進めます。彼には、まだ止まってはならぬ理由と意味があるのでした。

 

(まだ歩みを止めてはならない。私の行く末、民の安らぎはここではない。まだ私は自分が自分を赦せる場所へて至ってはいない)

 

その使命の気持ちを抱き、更に更にモーセは進み続けました。そんな最中に起きた様々な出来事・・・モーセへの反逆、不平や不満を言う民らを罰する神の炎、カナンの地に住む者達との戦い。ミディァン、アモリの人々の軍を、モーセはたった一人で倒し続けます。それらからも、モーセはヘブライの民達を守り続けたのです

 

(争いも苦しみも、目を逸らしてはならない。それこそ、私の道行きであるのだから)

 

・・・そして、約束の地を目前としたメリバの泉。其処に腰を落ち着ける民達とモーセ。約束の地はもうすぐそこへとありました。長い長い旅は、終わりを告げようとしていたのです。

 

『モーセ、岩を打ち水を出しなさい。そしてその後に水が不足したならば、その時にもう一度岩を打つように』

 

そう、神はモーセに告げました。それまで、神に従順に従っていたモーセでありましたが、・・・此処に来て、彼は自らの使命の終わりと、自らへの裁きを下したのです。

 

「もう、彼等に私は不要だろう。後は、進むだけでいい」

 

彼は岩を二度打ちました。それは神の言葉に反する行い。二度打つことによって神の御技を己のものとするかのような振る舞いでした。神の言葉に背く・・・それは、楽園へ至る資格を手放すと同義であったのです。神は告げました。何をしているのか、と

 

「彼等は楽園に至る資格がある愛されるべき子らであり、私はあなたの使命に従い彼等を導いた。そして約束の地はすぐ其処にある。・・・私は、決して彼等とは違うものだ。愛される資格も、楽園を見つける事も無かった」

 

『楽園?楽園ならば目の前にあります。モーセ、悔い改めなさい。今ならば総てを・・・』

 

「赦されない。赦されはしないとも。この地に私にとっての楽園は何処にもない。此処に至るまで、私はただの一度も『私を許すことが出来なかった』」

 

彼はずっと自分を罰していたのです。ラーメスからネフェルタリを奪ったこと、彼の地を荒れ果てさせた事。困難を乗り越えるために何かを殺めた事、それらが癒され、赦される瞬間があるならば、この世界に楽園があるならば、必ず自分を赦せる瞬間が訪れるのだろうと。・・・しかし、楽園を目にしたとしても、自分が自分の罪を許す心は芽生えず、そして神も彼の罪を許そうとはしなかったのです

 

「この地に、私にとっての楽園はもう無かった。いや、自分で楽園を捨てていたのだ。・・・かけがえのない友との時間を、自らの手で壊したその瞬間から、既に」

 

そう、彼は感じており、確信していたのです。神の愛ではなく、手足に宿る祝福でもなく、目の前に広がる楽園ですらない。自分にとっての居場所、自分にとっての楽園とは──

 

「かの二人と生きる事。それそのものが、僕にとっての楽園だったのだ。・・・──最早何処にも、私にとっての楽園など存在はしていない。誰も、私を許しはしないのだ」

 

『モーセ、それは違う。楽園に至れば全ては許されるのです。彼等には、私には貴方が必要だ』

 

「私自身は、決して私を許しはしない。貴方への言葉、貴方の愛は民に与えられしもの。もしその愛で私の罪を赦すというなら、それは傲慢と言うのだ。大いなる主よ。・・・貴方が赦しても、私は決して私を許しはしない」

 

そう告げ、後継者に選んだ子、ヨシュアに総てを任せ、モーセは約束の地へと背を向け歩き出しました。使命も無く、導く民もいない、自分だけの空虚な旅でした。或いはそれが、自分への罰であるとモーセは受け入れます。

 

「人を殺め、友を殺め、自らへの愛を否定した。・・・だが、これでいい。如何なる理由があろうとも、決して赦されぬ罪を犯したものはどうなるかと示す事ができる」

 

120に達するまで、モーセは自らを罰し続け楽園を前にし世を去りました。最後まで、彼は自らを赦す事なく。神の示した迎えすらも拒絶して、静かに息絶えたのです

 

彼はこの世界にある楽園とは、人と人の心が産み出すものであると信じ続けました。そして、それは簡単に壊れてしまうものである。だから・・・心から、隣人を愛する事こそが楽園へ至る道であるのだと。彼は息絶える直前まで、そう信じ続けていたのです──

 

ここで、預言者モーセの物語は終わりです。しかし彼に、本当に救いは与えられなかったのでしょうか?・・・これは劇であり、本来の物語とは異なるもの。ならば、想像の余地は如何様にも──




ピスガ山・ネボ頂

モーセ「もう、目もまともに見えない。食べ物もなく身体も重い。どうやら、死する時が来たようだ」

(長い放浪の旅だった。何を得るでもなく、罪を重ねてばかりの旅だった。・・・だが、これで良かったのだ。戒めとは、そういうものなのだから)

「・・・もう夜だ、眠るとしよう。きっと、最後の眠りとなるだろう・・・」

少女の声『あら、眠るのかしら?なら、子守唄でも吟いましょうか?』

「・・・!」

少年の声『余の枕語りを聞かぬとは不敬であるぞ?・・・──だが、まぁ良い。その身なりや身体には疲労が溜まっている。存分に眠るが良かろう』

「・・・そんな、何故・・・私は・・・君達に・・・」

少女『例え、別れが辛いものだとしても。悲しいものだとしても。死が総てを持っていく事は無いわ。あなたが積み重ねたもの、結んだものはこうしてちゃんと残っている』

少年『然り。何度裏切られようと迷おうと赦す。何度でもやり直し共に立つ。──それが友なのだ、モーセ』

「・・・・・・長い、長い旅だった。だが、その代わりに・・・」

『ふふっ、ほら。身体を冷やしてはいけないわ』

『最早離れぬ。安心して瞼を閉じるがよい。──御苦労であったな、我が友よ』

「・・・君達に、話せる事はたくさんあるんだ。ネフェルタリ・・・ラーメス──」

・・・モーセの生を誰よりも知る者がいるならば、彼はきっとこう答えるでしょう。彼の生が幸福か否かと言うならば、それは──

「間違いなく、僕は幸福だった。楽園に、最期に僕は漸くたどり着いたのだから」

──と。胸を張って御告げになるでしょう。

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