人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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アル『ふむ・・・万が一も考え、妾も更なる一手を打っておくべきであろう』

『探索者名簿』

『これを、契約の証として召喚サークルを書き込み、と』

ロマン『君は今まで戦ってきた探索者と交友があるのかい?』

『さまざまな時空にてあの邪神はやらかすが故にな。可能な限り協力はしておるのだ。その際に、色々とな。しかし・・・』

ロマン『・・・想像していた邪神と、大分違うかい?』

『うむ。娘がいたというのも驚きだが・・・ここまで正々堂々とした事の運びは全くといっていい程記憶にない。・・・もしや・・・』

『自分もおもいっきり楽しんでるとか?案外セイレムの村人Aとして劇を見てるかも?あははは・・・』

アル『・・・有り得るかもしれんな』

『有り得るんだ!?』

『ヤツの行動や理念は最早理解不能なのは今に始まった事ではない。・・・故に後手に回るしかないが・・・娘の愛を踏みにじる外道ではあってほしくないと思うのは、妾の弱みやも知れぬな・・・』

『・・・一言、言わせてもらうとだね』

『?』

『ボクやリッカ君の父親とは比べ物にならないくらいの良い父親だと思うな!』

『うむ』

『わぁい、ノータイムで肯定されたぞぅ!』


夕方 信じる事が力となる

モーセの劇を見終わったセイレムの民たちは、皆一様に前を向いて歩き自宅にて祈りを捧げた。自らに進むこと、隣人の大切さ、かけがえのなさを教えてくれた偉大なる聖人、モーセへの想いを馳せながら帰路についたのだ。妻がいるものは妻を、子がいるものは子と共に家にて祈りを捧げた。

 

一人で生きていける者はおらず、楽園とは神が与えしものの他には誰かと誰かが触れ合い生まれる心の中にある。聖人、サーヴァントとしてのモーセが告げたメッセージ・・・言霊はある意味で神が示す聖霊となり村人達の心を揺さぶり突き動かしたのだ。その聖なる人の言葉は、確かに村人の心に届いていたのだ。聖なる者は、その言葉と生き様にてセイレムに蔓延る悪しき空気を駆逐したのである。

 

「偉大なる導きの人、モーセに感謝を捧ぐ」

 

その心にて、セイレムは今一つになっていた。子供たちにも笑顔が絶えず、清廉と敬虔がかの地へと満ちていることは明白であった。──心に潜む影を払ったならば、後は迫り来る狂気を打ち払うのみである。一同の戦いにも、いよいよ終わりと達成が垣間見えて来たのである。カルデア一行にも、高まる決戦と終着の気運が読み取れていた。

 

「なんだか好感度を上げきって後はボスを倒すだけめいた感じありません?ほら、一定条件満たしたら後はイベントが起こるのを待つだけ、みたいな!」

 

ラヴィニア邸にて集まり、すっかり勝利ムードなXXの言葉からもそれは明らかだった。御祈りの為に家にこもり、荘厳に静まり返ったセイレムを見てそんな所感を漏らし、カップラーメンをすすっている。

 

「聖人、まぁ要するにガチのセールストーカーにあれだけ迫真の劇をされたら心を動かされない人はいないでしょう!しかも劇の範疇を越えたスケールでお送りする半生本人実演!会心のタイミングだったと言えるでしょう!」

 

『うむ。真っ当に生きていく中で真に高潔なるものを目の当たりにする事はそう無い。そしてそういったものを目の当たりにしたならば、人は一様に感じ入り膝を折るものだ。油断は出来んが、セイレムへの印象はもう極端に下降するといった事はないであろう』

 

「一生懸命やってきた甲斐があったよね!それに明日はパレードも来るんだって!楽しみだなぁ~。あ、これって私達以外の初めて起きる外からのイベントだよね!」

 

いつの間にか決まっていた、外から来るというパレードの約束。リッカらカルデア以外の意図しないイベントに心を踊らせるリッカ。そういったイベントはあんまり経験が無く、ネズミの王国やテーマパークにもほとんど行った事が無い程だ。だからこそ『楽しませてもらう側』になることに期待を寄せるリッカだったが・・・

 

「・・・リッカ様。明日来るパレード、私は警戒・・・或いは排除すべき相手では無いかと提案します。むしろ積極的に中止に追い込むものではないだろうか、とも思うのです」

 

「ふぁっ?どしたのナイちゃん、ピエロとか苦手?」

 

「い、いえ。苦手というよりかは不気味と言いますか。も、勿論この意見には根拠があります。実は・・・」

 

彼女の下へと届けられた邪神の【近い内に行く】という言葉。そして終わりが近いセイレムの戦い。そして余りにも鮮やかすぎる今までの行い。それらの要素が、邪神たる彼の琴線にどう触れたのか読めず、何をしてくるのか想像もつかないという恐怖に似た感情を覚えている事をナイアは告白する。このタイミングで接触してくるというのは、どうしても嫌な予感が拭えない。

 

「かの神は理不尽や一方的な盤面崩しを嫌いますが、一方で為すべきと思ったのなら何の躊躇いもなく情を捨てられる者なのです。・・・もしかしたら、私が何か不興を買ったのかもしれません。かの神が来るとなれば、それは異物の排除くらいしか・・・」

 

ナイアにかの神はこう告げたという。障害の達成に邪魔ならば遠慮なく総てを討ち果たせ。それが■であってもだ。■を討ち果たしたという箔はきっとお前の助けになる、と。そう育てられた自分は、いざとなればかの邪神に刃を向ける事は躊躇わないだろう。だが、それでもかの邪神が本気を出した際に総てを護れる確率は天文学的数値だとも実感で把握している。相手は外なるものの中でも最も悪辣な存在なのだ。命を奪わず絶望させる手段など最早万を越える程に心得ている筈だ。

 

「私達が強く拒絶すれば、かの神も自らを押し通しはしないでしょう。・・・リッカ様らの奮闘を台無しにされれば、私はかの神への信仰を保てる自信がありません。ですから、ここは・・・」

 

このイベント自体を拒否するべき。そう進言するナイアの言葉に頷くリッカ。彼女の気持ちを受け止めた上で・・・リッカは答えを出した。

 

「迷った時は、自分達の旅路を信じろ、だよ。ナイちゃん。私、あなたのお父さん・・・お母さん?お父さんを信じてるんだ」

 

「?我が神を・・・ですか?」

 

「うん。だって本気で倒したり絶望させる為なら、もっとエグい妨害や難易度の引き上げだって出来た筈だよ?実はグールは最初から潜んでいました、ミ=ゴは入れ替わっていました、とか。劇の台詞の認識とかも阻害したり、妨害の要素はいっぱいあったと思う。でも、そういうの一個も無かったじゃない?」

 

きちんとルールを設け、そこから逸脱をすることなくゲーム、特異点攻略としての領分を保ち続けている。それどころか、XXやアルなんていう特級の天敵や特効すらも受け入れているのだ。そんなかの神が、旗色が悪いからと今更自分が出張る情けない真似をするだろうか?・・・リッカの中で、かの神への信頼は確かに生まれていたのだ。ゲームマスターとして、自分も相手も楽しませてくれるエンターテイナーであると。それに・・・

 

「それに、一番信用できるのはナイちゃんを育てた事かな。だってこんなに誠心誠意サポートしてくれるいい娘さんを託してくれてるんだよ?それって、私達を最大限評価してくれてるって事じゃないかな?」

 

「・・・リッカ様・・・」

 

邪神の観点からしてみれば、スパイや裏切り者以外に魔物を狩るプロフェッショナルを探索者にプレゼントするメリットは何処にもない。彼女の存在を邪神からの回し者として不和を呼ぶというならば別だが、それをさせるには余りにも純真で真っ直ぐに彼女を育てている。不和を呼ぶどころか、ナイアを通じて彼女は邪神すら信じたのだ。『こんなに娘さんを愛せる人が悪い人な筈は無い』と。神だけど。

 

「ナイちゃんがいてくれる限り、私はニャル神様を信じるよ。何かをするにしても、それは私達が挑むに相応しい試練で、乗り越えた先にはハッピーエンドが待ってるって信じてる。だって、娘の接し方が私のお父さんよりずっとずっと愛情たっぷりだもん!」

 

「・・・リッカ様。──解りました。ならば私も、リッカ様を信じ、かの邪神・・・いえ、お父さんを信じてみようと思います」

 

きっと、試練を与えてくるのは解りきっている。それでも、かの神は愛と勇気と絆を決して嘲笑ったりはしない筈だ。神の理不尽でゲームを動かす真似はきっとしない。

 

「安心してくださいナイア。もしものときはデウス・エクス・ロンゴミニアドでなんとかします!」

 

『妾に光の巨人、そしてヤツ直々に力を寄越したのだ。そうおぞましい事にはなるまい。明日のパレードもよいが、今日の夜も残っておる。気を抜くでないぞ、邪神の愛娘よ』

 

「・・・はい!」

 

・・・もしかしたら、こんな光に満ちた人達だからこそ、彼の神は自分を託したのかもしれない。胸の奥に、『それ』を埋め込まれた自分を、きっと信じてくれるからと

 

(お父さん。私は最後まで・・・この一時を全うします。あなたすらを信じてくださった、皆様を私も心から信じてみます)

 

その真っ直ぐな願いに、胸に託された父からの『それ』が、熱く熱を灯したような感覚が起こったような気がして。ナイアは明るく笑みを浮かべる仲間達を見て、自分も同じように微笑んだ──

 

 




ラヴィニア「アビーを送り届けていたら、時間がかかってしまったわ・・・ごめんなさい。いよいよ、後二日くらいね・・・鍵の生成も、もうすぐ終わるわ・・・」

リッカ「絶対完遂させようね!もうハッピーエンドしか見ない感じで行こうよ!」

ラヴィニア「え、えぇ。次は・・・何か、手懸かりはないかしら」

ナイア「あ、はい。こちらティンダロスを討ち果たした際に頭に落ちてきた・・・」

『金星の模型』

「こちらに」

ラヴィニア「き、金星・・・?」

XX「金星・・・邪神と関係ありましたっけ?」

リッカ「いやいや遠く離れすぎだよ!いくらなんでも邪神が金星にいるわけ・・・」



『善のエレシュキガル!悪のイシュタルにな!』



「────あっ(察し)」

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