人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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ファロール

一部の迷信深い金星人の信仰対象。かつて三柱にて太陽系を支配していたとされるが詳しい事は解っていない。

ラヴィニア「じょ、情報が少なすぎるわ・・・皆、大丈夫かしら・・・」

(し、信じるしかないわ。もう少し、もう少しで銀の鍵が出来上がるのだもの。迷ってはいられない・・・)

「・・・ぱ、パレードは一体、誰の為のパレードなのかしら・・・」


夜 暗黒のファロール

迎えし夜、静まり返りしセイレムの晩。闇がかの地を覆い尽くす時間帯。魔の歓待の時間に、【それ】は現れた。猛烈な気配と波動を感じ、リッカらはセイレムの入り口たる場所へと急行した。それと同時に、空に目映く輝く星が落ちてきたかのような輝きが瞬いたのだ。

 

『えっ、何事!?もう敵が来たってことでいいの!?』

 

『そのようだ、警戒せよ!・・・しかし、この反応は・・・』

 

アルの声に従い、身構える一行。増大し続ける魔力反応、軋む様に音を上げ続ける空間に、一同は今までにない存在の襲来を否応なしに予感する。残り二日の困難と苦難に、かの邪神が用意した魔にして、外なるもの。絶えず響き渡る圧倒的な魔力の波動に固唾を飲む最中・・・それは、現れた。

 

『えっ・・・?』

 

その姿に、リッカは見覚えと懐かしさを覚えた。輝きと共に空を切り裂き、眩しく光を放つその光源たる存在の姿は、ある意味で予見させられており、ある意味であるはずがないという矛盾した感慨に支えられていたのだから。

 

〔───〕

 

その姿は、どう見ても少女であり、・・・ウルクの土地神にして女神、イシュタルそのものであったのだ。神性を示す真紅の瞳と、近くに備えられた天舟マアンナらしき物体はまさに瓜二つな形状、容姿と言って相違無い。しかし、喜怒哀楽に満ち溢れていた颯爽たる活力の表情は暗く無感動で、体つきは貧しく肌は褐色である。一言も発する事なく、天から静かに下界を見下ろしている。

 

しかし、その力と波動は底知れぬ程に暗く、また圧倒的なものだ。金星というよりは、空に穿たれた大穴、ブラックホールに近いやもしれない。其処にいるだけで全てを押し潰すほどの重圧は、今までに接敵してきたすべての存在の比にもならないことを雄弁に語っている。

 

「どういう事です!?あれはウルクの邪神、どうしてセイレムに姿を見せたのですか!?確か離別の呪いを押し付けられてカルデア出禁の筈では!?」

 

そう、本来のイシュタルはギルが押し付けた離別の呪いにより、ギルが存在する空間へ同居は決して叶わない状態へと追いやられている。ギルがラーマとシータを救うために選択した苦渋(笑)の決断が故の成果故にそれは絶対で、本来ならば巡り合う事など叶わない。ならば目の前にいる存在はどんなものであるというのか?

 

「・・・恐らく、あれは地球の神を再現したに過ぎないカスタマイズなのでしょう。あれは恐らく『ファロール』・・・暗黒のファロールの名を冠する、忘れ去られし金星の邪神の神格を再現したものです」

 

ナイアが言うに、それは存在したか定かですらない金星の民の信仰していた存在であり三柱いた内の一柱である邪神であるという。余りにも太古にて姿形すら定かではなく、自らの痕跡は塵を遺して他に無いとされる旧き星の支配者である、と。

 

「本来ならば旧支配者とも呼ばれる強大なる存在は顕現すら容易ではありません。現に数多の召喚者が外なる者を招く儀式を失敗し大惨事になった事例を数多見てきました。そんな失態を見続けたかの神は、異なる観点から降臨と力の使役を考えたのです」

 

【直接招かんとするから怪我をする。ならば降ろすか作るかすれば形には出来るだろう】・・・そんな言葉を呟き、かの邪神は実験と試作を行っていたとナイアは語る。信仰の残る土着の神話を下に素体を組み上げ、そこに触媒となる・・・今回はファロールの塵・・・存在を組み込み、それらを信仰する魂達を縛り上げ純エネルギー体に変換し稼働させる機械仕掛けの邪神。神話的観念ではない、人工的偶像による神の降臨、ないしは外なる神が世に現れる為の技術開発。それらの成果が結実した成果が、かの眼前のファロールなのだとナイアは推測する。アレは要するに、邪神ニャルラトホテプが滅びた神とそれらにすがる信仰者を嘲笑いながら組み上げたロボット、機械邪神であり。英雄神マルドゥークと存在を近しくする手製の神格であるのだ。

 

「喪われた神話の神を再現する。ニャルラトホテプ夏休みの自由研究の課題で創作し死蔵していたものを此処に来て投入してきた様ですね・・・」

 

「あれそんな軽いノリで作られたんですか!?自由研究のノリであんな真に迫った邪神の再現に至ったと!?」

 

「我が神は凝り性ですので。一度やると決めたら妥協は一切・・・──ッ!?」

 

瞬間、沈黙を保っていた機械邪神、ファロールが動きを見せた。周囲の天舟マアンナを模した黒き舟を弓矢に変え、莫大な魔力を弓矢に変えて放ったのだ。──その狙いの先は、射抜かれれば全てが破綻する重要な地点。

 

『「「ッ!!」」』

 

三人が弾かれるように遠距離武装を放ち、その巨大極まる矢を迎撃する。莫大な魔力であり弾き返すのが精々であったが、確かに狙いを阻む事に成功し事なきを得る。・・・狙いの先は、ラヴィニアが儀式を行っているウェイトリー家であったのだ

 

「危ないですね!?いきなり本陣狙いとか効率厨ですか!?見た目の割に行動に無駄が無さすぎると思います!」

 

〔───〕

 

弾かれた事にも大した反応を見せず、ゆっくりとリッカらの前に降下していくファロール。障害と認めたのか、或いはデータを採集するためか。無感情な表情からは、何も読み取れない。

 

『ともかく、ヤツをこのままにして置く訳にはいかぬぞ!何をしてくるか解らぬ!』

 

『うん!行くよ、皆!』

 

号令に応え、三人同時に攻撃を行うリッカ達。ロンゴミニアド、三連ヌンチャク、偃月刀を振るい徹底的に攻め立てるリッカらであったが、其処においても邪神は驚異的な姿を見せた。

 

〔───〕

 

なんと、『攻撃がすり抜ける』あるいは『紙一重で避けられ』てしまうのだ。ゆらりゆらりと蠢いてるだけにも関わらず、三者の攻撃は掠りもせずに切りかかったもの同士が激突し、或いは容易くいなされ吹き飛ばされる。戦いどころか、まともに剣すら交えられない。腕前や、技術がまるで役に立たない次元にかの邪神は立っている。正しく、虚無や深淵に武器を振っている様な手応えが絶えず無力感となりリッカ達を苛んだ。

 

『何これ、グリーザを相手にしてるみたい・・・!当たってるかどうかも伝わってこない!』

 

「これはもしや、何らかの概念防御が働いているのやも知れません。何か理を見つけねば、ダメージを与える事すら──ッ!危ないッ!」

 

ナイアが一早くXXとリッカを庇い、地に伏せる。ファロールが右手にエネルギーを溜め、一直線に放ったのだ。──その軌道に存在していた、山の先端部分が丸々消滅する程のエネルギーが、リッカらのいた場所を削り取っていった。

 

「デタラメな出力ですね!?何アルトリウムですか!?」

「ふぉっ!!むふぉい!!」

 

「恐らく自らに縛られた金星人の魂を魔力に変換しているのでしょう。・・・そして、人格はインストールされていないようです。ただ淡々と最適解を取る機構として再現している・・・」

 

故に、遊びの挟まる余地はない。人格がある神はバグであるということを主張するかのように、褐色の邪神は再び浮遊し、魔力を練り上げる。──大陸一つ、消滅が叶う程の魔力球を。

 

「え!?あれ落とす気!?セイレムどころか大陸無くなっちゃうレベルだよねアレ!?」

 

『恐らく我等の撃破と敵対を行うには我等だけでは不可能と判断したのだ!我等ではなく、『星毎我等を倒す』との結論に至ったに違いあるまい!』

 

そのアルの言葉通り、ファロールは臨界寸前のエネルギーを弓に装填し、地球の内核に照準を向けた。着弾すれば余波にて大陸が吹き飛ぶ程の甚大にして膨大なエネルギーを注ぎ込む。──阻まねば、セイレムを巡る一連の奮闘は跡形も無く吹き飛ぶだろう。

 

『ヤバい!何とかしなくちゃ!今すぐ!!』

 

瞬間の決断がリッカに委ねられる。走馬灯が見えるほどの極限状態にて、リッカはマスターとしての経験と本能をフル回転させる。かの邪神を止めるにはどうすれば──

 

「リッカ様!この金星の模型、我が神からのヒントなのでは無いでしょうか!」

 

『!』

 

それを見て、リッカの脳細胞がフル回転する。何故ギルが姿を見せないのか?何処かへ行ってしまったのか?何故金星なのか?何故、NG召喚だけが赦されているのか?それは何故──

 

『解った!!!』

 

リッカがそう叫んだのと──

 

〔───〕

 

金星の邪神が、破滅の巨星を落としたのは、ほぼ同時であった。




そう、何故NG召喚なのか。NG召喚は楽園では、『異なる世界への禁断の召喚』といった意味合いで使われていた。だが、NGとは本来の意味では『召喚拒否』という意味でも使われる。

〔───〕

そして此処に来てギルの不在。本来ならば楽園に仕掛けられた挑戦から彼が背を向けるなどあり得ない。そうせざるを得ず、またそれが最適解であるならばといった例外がなければ。

そして、金星の概念と邪神のような性質を持つ稀有な神という存在。悪辣にもファロールには、それのみしか倒せない、契約していなくば倒せないといった概念防御を付与していたのだ。──要するに、御機嫌王の拘りを突いてきたのである。それを捨てなければ、対処が叶わないという事態にしたのだ。

?「──ふ、ふふ、あーッはははは!おーっほほほほ!どうやら本格的にピンチみたいねリッカ!そう、私じゃなきゃ対処できないようなピンチ!そうよね!?」

リッカ「──私達は忘れていた・・・NG召喚の本当の意味を・・・!」

そう、ニャルラトホテプの本当の狙い。それはかの神の力を借りねばならない状況を作り出す事。

イシュタル「いいわ、なら景気よく助けてあげる!ウルクの醜態の名誉挽回、楽園の召喚の再考案を叩き付けるためにね!」

ナイア「・・・そういえば、我が神はエイリアンVSアバターを見ながらアレを製作していました」

XX「・・・勝手に戦え、がフレーズのアレですね・・・」

イシュタル「というわけで!女神イシュタルが力を貸してあげるわ!楽園招待の口利きと執り成し、よろしくね!リッカ♪」

リッカ「・・・はい」

化け物には化け物、金星には金星。──ここに、邪神同士の戦いが幕を開ける──

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