【さて、と。君の善き旅路を祝うためにも、君の持つ罪をつまびらかにしていこうじゃないか。懺悔の準備はよろしいかな、アビゲイル君?】
「は、はい。主よ・・・私は罪を犯しました。それらの赦しを、あなたに・・・」
パレードの喧騒が遠い、二人の教会。ひざまずき手を合わせているアビゲイルとナイアの親と名乗る神父が向かい合っている形で、アビゲイルが懺悔を行い始めた。彼女はセイレムを発つ前に、己の罪を懺悔しようと思い立った。ナイアシスターに頼もうと思ったのだが、親を名乗る彼が代わりに名乗り出たのである。娘の休みを邪魔させたくないという理由らしい。そんな娘思いの父親に、彼女は信頼を寄せたのである。自分が懐いた罪、それらを神に告げようとしたアビゲイルであったが、神父はそれを遮った。
【あぁ、君は目を閉じ受け入れるだけでいい。君の罪を、君に明確に伝えよう。懺悔や告解を暴くのは得意でね】
「え・・・?は、はい・・・」
罪が解る・・・?不思議な事を言うと感じつつ、アビゲイルはそれを受け入れた。かの神父の言うままに、自分は新しい自分を始めるのだと。そして、神父が告げたその言葉に・・・
【──確か、【魔女裁判は1691年から1693年まで】に行われていた行事だったな?】
「───」
アビゲイル・ウィリアムズは、鳥肌を立たせ血の気が一気に引く感覚を覚えた。
【200人近くの人間が魔女として告発され、死者は19人。痛ましい事件だなぁ。心当たりはおありかな?】
「・・・・・・し、知らないわ。そんなもの・・・」
【へぇ~。そうか、まぁいいだろう。それはこのセイレムの話じゃない。知らないのも筋は通る。──きっかけは、ティテュバの怪しいまじないに興味を持ち、それを集まった娘たちが見ていた処からだ】
神父の言葉を、息を飲んで聞き及ぶアビゲイル。顔が上げられず、身体がかすかに震えている。
【ヴードゥーの面白げな呪術を皆で見ていたら、娘の一人のベティが倒れてしまった。それに続くように、アビゲイル・ウィリアムズという娘も発狂し暴れ狂いだした。場はさぞや騒然としただろう。そしてそれにつられる様に全員がパニックを起こした。さぞや混乱していただろう。牧師様が来た頃には、皆悲鳴をあげて叫んでいたようだ。身体が捻れ、椅子の下を泳ぎ、四隅を走り回り煙突に登ろうとしていたみたいだ。実に恐ろしい事だな?】
「・・・・・・・・・」
【そしてそれらを心配したアビゲイルの親は、医者に娘を見せた。そして彼はこう言った。『彼女等には悪魔がついている』とね。悪魔とはキリスト教の観点において信仰を害するものだ。悪魔には使役する存在がいる。それを君達の定義ではなんという?】
「・・・魔女・・・」
【誰かがアビゲイルらに悪魔を差し向けた。ならばそれは誰かという話になる。・・・怪しいのは、怪しげなまじないをしている別の地から来るティテュバしかいないな?】
そして、教会のグラスに映し出されるはその光景。ティテュバが魔女として人々に糾弾される光景だ。おぞましくある光景に、他に指を指している娘が記されている。
【このまま行けばティテュバだけで終わったものを、『魔女はあと九人いる』という発言と、娘達の証言と発言により犠牲者は増えていくわけだが・・・『サラ・グッド』と『サラ・オズボーン』。これら二人がまず選ばれた訳だ。何故だろうな?】
「・・・む、村の皆と、あまり関わろうとしなかったから。疑われてしまったのよ・・・」
【そうなのだろうなぁ。二人は当然容疑を否認するが、裁判に列席していた一人の娘が暴れ出し、『私はその二人に悪魔をけしかけられている』と証言されたことにより魔女としてあえなく有罪になってしまった訳だ。・・・この娘は、誰だと思う?】
「・・・し、知らないわ・・・」
瞬間、ステンドグラスに暴れまわる娘が映し出される。その姿は、アビゲイル・ウィリアムズと全く同じ姿をしていた。
【嘘は良くないな、アビゲイル?】
「し、知らないわ。私は知らない・・・セイレムで、そんな事は・・・」
【そうだな。なんら関わりが無いというならそれでいいだろう。・・・サラ・グッドは首を縛られ、オズボーンは獄中で死んだようだ。痛ましい話だがまだ終わらない。同時に、ティテュバが拷問にて自分が魔女であることを自白させられたな。鞭で打たれ、『魔女はあと九人いる』と言い残した。・・・この発言、そして娘達の無根拠な告発が、どれ程の混乱と被害を招いたと思う?】
誰もがおかしいと思わなかった訳ではない。この裁判は狂っていると告げた者もいた。しかしそんな中、様々な存在を魔女だと告発していった存在がいるという。その娘の名は──『アビゲイル・ウィリアムズ』。
「知らないわ、私は知らない!そんな娘の事は、そんな悪い子の事なんて、何も・・・!」
【次にアビゲイルが指したのはマーサ・コーリー。カルデアの劇を、分かりやすく説明してくれた素敵な人だ。──魔女であるなどとあり得ないと。娘達の頭のおかしい訴えを受け続けた。だが、娘達の告発は終わらなかったな?】
発作を起こし、悪魔に乳をやったと。ドラムが鳴り、隣に黒い男がいて、外で男達が集会をしていると。詭弁を並び立てても動じないマーサに、娘達はやがてマーサの仕草を全て真似しだしたとグラスに映し込む。
【誰でも猿真似やおうむ返しは腹が立つものだ。苛立ち、唇を噛んだマーサに向けてアビゲイルは言ったな?『唇を攻撃された!魔術よ、これは魔術だわ!』と。あえなくマーサは有罪だ。可哀想だとは思わないのか?】
「関係ない、関係ないわ!そんなの、知らない誰かが勝手にやった遠い世界の話よ!」
【お前らは全員私の敵だ!私にはどうすることもできない!!】
「ひっ──」
【──それが、マーサの最後の言葉だったな。どうした?顔色が真っ青だぞ?知らぬ素知らぬなら、面白がるところだろう?】
娘達はどう思っていただろうな?神父は問いかけた。アビゲイルは、十字架にすがるように強く握りしめ目を閉じた。
【さて、次は・・・あぁ、痛ましい。レベッカ・ナースだ。彼女は聖人と呼ばれるに相応しいお婆様で、楽園の一座に感謝と祝福を送っていた人物だ。彼女はセイレムで最も人望が厚かった。彼女が魔女だと言われた時には署名が起き、彼女が魔女なら世界全てが魔女だと言われる程にな?】
まさに、その扱いは聖女と言っていいとステンドグラスに移される。彼女は病に伏せた時も神が傍にあらせられると信じ、聖書の一字一句を励みにしていたという。
【頭のおかしい娘達にも、私はまだお見舞いに行けていない。神への信仰を捧げるために私はもっと努力していきたいと身を案じる程だ。そんな聖女を、アビゲイル・ウィリアムズは魔女として告発した訳だ。病に伏せながらも神への感謝を忘れないお婆様を魔女として囃し立てたこの娘達は何を考えていたんだろうな?】
アビゲイルは答えなかった。目を閉じている。身体の震えは大きくなり、引き付けを起こしかけてすらいるほどである。
【レベッカが法廷に立った途端、アビゲイル・ウィリアムズは痙攣を起こしレベッカ・ナースの生霊に襲われていると告げたな?その後のレベッカの動作を全て真似し、怒号と騒音で裁判所を埋め尽くしたな?】
「・・・・・・」
【──だが、レベッカ・ナースは無罪になった。彼女がこんな馬鹿げた裁判で魔女であるならば、世界の全てが魔女だと反発が起きた。娘の一人のメアリー、メアリーが住み込むジョン家のジョン氏が『その真似事を止めろ、鞭で滅多打つぞ!』と法廷でいい放ち、娘達はぴたりと止めた。・・・おいおい、生き霊に操られていたのじゃないのか?随分とあっさりいなくなるんだな、生き霊というのは】
そして、レベッカは無罪となった。・・・だが、楽しみを求める魔女はそれを赦さなかったのだと神父は告げる。悲劇に救いは無いと。
【慈悲深きレベッカは、同じ魔女として疑われる女性に『仲間』と告げた。それは、無実でありながら魔女呼ばわりされている者の心の孤独を癒すために言ったのだろう。だが・・・】
『レベッカは魔女を仲間と言った!これは動かぬ証拠よ、レベッカは魔女だわ!』・・・そう告げ回った娘達の発言を受け、哀れレベッカは逆転有罪となってしまったという。彼女はこう残した。
【私は、あの子達の為に祈りましょう。私は心配です。あの子達が魔女だと叫んでいる人もあの子達の事も。きっとその中には、私と同じように無実の人がいるのでしょう。・・・真なる聖人を、首縛りにした娘の心境はどんなものだったのだろうな?】
「・・・・・・あ、あぁ・・・・・・」
【さぁ、ここからは止まらないな?レベッカを庇いメアリを鞭打とうとしたジョン・プロクターも魔女として告発した。最期の言葉は『魔女を探したいなら上品で敬虔な女性達の中からではなく、あの狂った娘どもの中から探せ』だ。次はレベッカと同じくらい人望が厚いメアリ・イースティだ。人望が故に釈放されたが、アビゲイルの一味の一人が二日後に発作を起こし昏睡。犠牲者即発により逆転有罪となった。最期の言葉は『このような処刑は私で最後にしてください。これ以上無実の人の血は流さないでください』だ。──告発は、終わらなかった】
レベッカの妹も魔女として告発された。敬虔な信者の中でもユダという裏切り者がいると侮辱されての処刑だった。
齢四歳であったサラ・グッドの娘、ドーカス・グットも魔女として収監された。四歳であった。
かつてセイレムに住んでいた牧師、ジョージ・バロウズも魔女として処刑された。娘達に、ジョージの生き霊に脅されたと訴えられたが為だ。
この裁判に嫌気が差した警官も魔女として処刑された。娘達に暴言を吐いた為だ。
バローズという人物は、悪魔は読めないとされていた聖書を一字一句暗記して見せた。だが悪魔は時に天使を装う、と処刑された。
全て、『無垢に罪はない』と信じられたが為に娘達の、アビゲイル・ウィリアムズの言葉のままに魔女裁判を行ったが為だ。
【村で娘達をおかしいと言った者らは全員処刑された。人望厚いレベッカですら助からなかった。──そして収拾がつかなくなった頃、あらゆる記録から消えた名前があった。そう・・・】
「あぁ、あ・・・あぁ・・・」
【そう──『アビゲイル・ウィリアムズ』だ。事態が収束するまでの間に魔女が200人、処刑されたのが19人だ。大変に痛ましく、残酷だ。なぁ?『アビゲイル・ウィリアムズ』】
そして、やがて神父は思い出したかのように手を打ち・・・そっと囁いた
【そうだ、聞きたかったんだが・・・】
「──ひっ・・・」
【──魔女のでっち上げは楽しかったかい?【アビゲイル・ウィリアムズ】】
残酷なまでに・・・彼女の犯した罪を、突き付けた。
「い、いや・・・知らない・・・!私はそんな事していない!私は、ただセイレムを出たくて、それで・・・!」
【懺悔をしたいと言ったのは君だろう。目を逸らそうと、心地よい夢に逃げようと罪は消えない。君を追いかけ縛り続ける。なぁ教えてくれ。本当の魔女は誰だったんだ?】
「知らない、知らない、知らない・・・!何も見たくない、何も聞きたくない・・・!私は、魔女なんかじゃない・・・!」
【それはおかしい。魔女がいないのに魔女裁判なんか起きるはずが無いだろう。──赦しを乞うなら答えるといい。そもそも、君がいい子ちゃんなんて無理がある。なぜなら君はこう言った筈だ。取り調べを受けた時に──】
「──!!」
【【私たちは楽しみの為にやったのよ。私たちには楽しみが必要なの】──とね。どうだ。自分自身の言葉すら信じられないか?アビゲイル・ウィリアムズ】
「・・・・・・私は・・・」
【・・・・・・】
「私は・・・魔女なんかじゃない・・・私は悪くない、私だけのせいじゃない・・・私だけがやったんじゃない、私は魔女じゃない・・・」
【──それでいい。なら、顔をあげなさい。そんな君を赦す言葉を教えよう】
「え・・・?」
【──君が魔女でないのなら、君以外の全てが魔女だ。魔女を見つけて裁くといい。そして魔女になるのが嫌なのなら・・・】
「・・・わたし、以外の、全て・・・」
【──セイレムという穢れた地を破壊するといい。そうすれば、魔女という存在はみな死に絶えるだろう。──証明し続けろ。自分の罪を直視できないのなら、『自分以外の全てが罪だと』】
「──・・・・・・・・・・・・」
【さぁ、アビゲイル・ウィリアムズ。──最後の夜を始めよう──】
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