人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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ラヴィニア邸

イシュタリン「はい、荷物は纏めておいたわ。邪教の儀式、本当にお疲れ様。大変だったでしょ?」

ラヴィニア「辛くは、無かったわ。アビゲイルの事を思えば。友達の為なら、辛くないの」

「・・・友達、かぁ・・・あの金ぴか、今が一番楽しいんだろうなー・・・」

「?」

「あ、こっちの話。・・・心残りも終わった事だし、私も帰るわね。お疲れ様、ラヴィ?あなたのガッツ、素敵だったわよ?」

イシュタリンも退去する。ニャルに呼ばれていたが為、役割を終えたが為だ。最後の心残り、それはラヴィニアの身辺を片付けるメイドとしての仕事であり・・・

「最後に、あなたたちだけの場所に行きなさい。きっと素敵なものが見れるわよ?」

最後のメッセージを、彼女達に託して。颯爽と、ウルクの女神は消え去った。また、会えると信じて

「・・・ありがとう、イシュタリン・・・」

決して手を抜かず、メイドと家の防護を行ってくれた彼女に、深くラヴィニアは感謝を示した──


旅立ちの刻

「お待たせ、ラヴィ。待たせてしまったかしら?」

 

セイレムでの滞在を終え、新しき場所へ飛び出す未来をすぐそこに控えた一行。最後に思い思いの時間を過ごし船の到来を待ちわびるなか、ラヴィニアとアビゲイルは最後の待ち合わせを行った。あの時ほうき星と鯨の群れを見つめた想い出の場所。海を見渡せる秘密の場所だ。空は澄み渡り、海は何処までも穏やかだった。

 

「いいえ、私は大丈夫。もう家族もいないし、持ち物も殆ど無い。家の引き払いはあっという間だったもの」

 

ラヴィニアは本来のセイレムの住人ではなく、ニャルが招き入れた魂であるが故に私物はあまり無く、僅かな物品もイシュタリンが纏めていてくれた。大魔導師のローブにエイボンの書だけという簡単な出で立ちだ。それでも八日前のラヴィニアとは、何もかもが違う決意と理知に満ちた姿であることは見てとれる程に変わっている。使命感と戦いの日々が、彼女を美しく変えたのだ。

 

「そっちはもういいの?セイレムの一人一人に挨拶・・・私もついていこうと言ったのに」

 

「ううん、なんでもかんでも頼るのが友達ではないわ。きちんと自分のやるべきことは、自分でやらないと」

 

ラヴィニアの言う通り、アビゲイルはセイレムの一人一人に別れの挨拶回りを行っていた。其処には魔女裁判など無縁の、しかし異なる世界にて死んでいった者達という関係。罪を自覚した自分自身が死に追いやった人達から目を背けたくないと、彼女なりのケジメの一環でもあったのだ。

 

「どうだった?皆、ビックリしたんじゃないかしら?劇団についていくだなんて、とても精力的でお転婆な事だもの」

 

「えぇ、驚かれたわ。でも皆、喜んで背中を押してくれた。『頑張りなさい』『気をつけてね』『元気で頑張るのよ』って・・・。みんな、みんな。とても優しくて素敵な人達で・・・」

 

それきり、アビゲイルはうつむいてしまう。彼女はもう、愛されしいい子のアビゲイルではない。セイレムの魔女だと自分を受け入れた。ならば待っているのは、それらの人々を扇動し弄んだという事実と其処から来る自責の念。こんな素敵な人達を自分は殺してしまったのだという後悔の念である。それこそが、彼女の背負う罪の証であるが故に。それでも、彼女は逃げようとは思わなかった。逃げるようにセイレムから離れるのではなく、胸を張ってセイレムから旅立つ為に皆と語り合ったのだ。皆、アビゲイルとラヴィニアを祝福してくれていた。それが嬉しくて・・・また、辛かった。

 

「罪を見つめる、って・・・凄く辛くて、大変なのね。私、わかっているようで全然解っていなかった。とても辛くて、とても大変な事をしてしまったと・・・皆の笑顔が、辛いの」

 

「アビゲイル・・・」

 

「大丈夫、大丈夫よ。もう逃げない。これは報いよ。決して逃げてはいけない、魔女の私が受け止めるべき罪。其処から逃げてしまっては、私の言葉は嘘になってしまう。だから、大丈夫。だから・・・」

 

唇を強く噛むアビゲイルを、ラヴィニアはそっと招き寄せ隣に座らせた。犯した罪と向き合う事、罪を数える事の重大さと大変さ。そしてそれを背負って立つことの難しさを背負う友達を、そっと労ったのだ。ラヴィニアは、彼女に告げる。

 

「顔を上げなさい、アビゲイル。罪を犯した人間が、ずっと下を向いていなければならない理由は無いわ。前を向いて、歩き出すのよ。私達は、私達の道を。自分の脚で」

 

「ラヴィ・・・」

 

「辛いから、苦しいからといって歩むのを止めてしまえば何も変わらないわ。魔女ではないと目を閉じていたあなたと何も変わらない。どれだけ苦しくても、どれだけ辛くても。それを受け止めて、進んでいく。それが罪を背負うと言うことよ。アビー」

 

ラヴィニアは諭す。それこそが償い、それこそがあがないの道。容易では無いことも、辛い旅路なのも承知の上。彼女が彼女であるかぎり、決してその罪は無くならず、足取りは重いままだろう。

 

だけど、それに押し潰されて下だけを見ていろだなんて事は有り得ないし、それでは救いが無い。罪は罪、今は今なのだ。見つめて下を向き、また立ち止まったとしても。また前を向いていい。歩き出していい。罪は荷物であって重石ではない。歩みを阻害するものでは無いのだとラヴィニアは告げた。

 

「それに、辛いときは辛いと私に言っていいの。私だけじゃない、シスターのナイアさんやリッカ座長、XXのお姉さんや皆に。みんな、あなたをそのまま受け止めた人達だもの。あなたの懺悔を受け止めるくらい、訳はないわ」

 

そう、アビゲイルは一人じゃない。魔女だからといって縁を切るような、迫害を行うような者はいない。仲間として、新たな宝物として、友として彼女を受け入れている。辛いときは、弱音を吐いていい。涙を流して泣いてもいい。スッキリしたら、また歩んでいけばいい。皆で一緒に、罪を分けあって進めばいいのだ。

 

「顔を上げて、前へ進みましょう。アビゲイル。その素敵な金色の髪がくすんでしまうわ。そして、忘れないで」

 

「ラヴィ・・・?」

 

「私のアルビノの肌を、あなたは妖精みたいと言ってくれた。私はあなたに救われた。邪神に招かれ、脅されていたのが始まりとしたって、私はあなたに救われ、友達だと思った。あなたは、私の救いなのよ。アビゲイル」

 

魔女として、誰かを殺してきただけではない。確かに彼女は人を助けた。自分はこうして救われた。だから、私はあんなにも必死にあなたを助けたいと願った。

 

「私は、あなたという運命に出逢えて良かったわ。忘れないで。罪の重さに負けそうになったら・・・あなたは、一人の人間を救ったという事実を思い出して。あなたの救いとして、友達として。ずっと傍に私はいるから。それが・・・友達としての私の想いよ、アビー」

 

「・・・ラヴィ・・・ありがとう・・・」

 

アビゲイルを抱きしめ、泣きじゃくる彼女をラヴィニアはそっと受け入れた。セイレムの人々が彼女の罪と罰ならば、自分は彼女の赦しでありたい。だからこそ、自分はずっとずっと彼女の傍にいる。自分を救ってくれた彼女の為に。邪神にさえ侵せない決意と希望。フォーリナーの定義は、狂気に晒されながら狂気を飲み干した者。その想いこそ、ラヴィニアの全てであった。そして──

 

『二人とも、空を見るニャル!祝福はきませりニャルー!』

 

「空?・・・あ・・・!」

 

「・・・あぁ・・・」

 

ニャルの言葉に顔を上げる。すると・・・其処には、朝の空を駆け抜ける黄金のほうき星が駆けつけていた。どんな見方を、どんな星ならば金色に輝くのか。其処に働いたのは、超常的な存在の力か、或いは・・・涙を嫌う、愛と希望を愛する脚本家の計らいか。

 

「・・・これ以上ない、門出だと思わない?アビゲイル。言ったでしょう?下を向いていたら、見えないって」

 

「えぇ!・・・私・・・これからどんなに迷っても、挫けそうになっても・・・」

 

そう、この光景さえ胸にあれば。どんなにつらく苦しく、魔女に戻りたくなっても。きっと自分は間違えはしないはずだ。だって、こんなに美しい景色なのだから。空は青く、海は広く、星はこんなにも輝かしい。

 

「私は・・・もう、逃げないわ。あなたと一緒に、何処までも行って見せる。世界を駆ける、魔女として!」

 

「──えぇ。とっても・・・安心したわ。アビー」

 

目に輝きを取り戻したアビゲイルを目の当たりにし・・・ラヴィニアは今度こそ、本当に。彼女を救えたのだと確信し、満足げに微笑むのだった──




──そして、出航の時間がやってきた。

カーター「忘れ物は無いね、アビゲイル?ラヴィニア、彼女を頼んだよ」

ラヴィニア「えぇ、お任せください」

アビゲイル「ティテュバ・・・あなたに教えてもらったおまじない、ずっとずっと忘れないわ」

ティテュバ「お元気で、御嬢様。御嬢様にお仕えできて、幸せでした」

セイレムの旅立ちに、皆が見送りを行う。アビゲイルの見送りは、皆でやろうと思い立ったが為だ

サラ・グッド「き、気をつけて。外には出なくちゃ、ダメよ」

サラ・オズボーン「寂しくなるな。だがまぁ、きっと大丈夫だよ。アビゲイル、ラヴィニアが二人ならね」

「はい・・・お二人も、家にばかりいないで皆と仲良くしてくださいね」

マーサ・コーリー「あなた達ならきっと劇団の皆様も受け入れてくれるわ。自信を持って!」

「はい、マーサおばさま・・・!」

レベッカ・ナース「ずっと祈っていますよ、ラヴィニア。思えば、あなたには全然構ってあげられなくて・・・ごめんなさい・・・」

ラヴィニア「あなたは人類の、セイレムの宝です。ずっとずっと長生きしてくださいね」

一人一人に、抱擁と声をかけて。そして別れを告げ、歩み出す。港に待ち受ける、リッカ達の下へ

アビゲイル「皆ー!さようならー!本当に、本当にありがとうっ・・・!」

ラヴィニア「お・・・お元気で・・・!」

「気をつけていけー!」

「ばいばーい!」

「また立派になったら、帰っておいでー!」

「待ってるわよー!」

そして、二人は歩き出す。希望に満ちた、海原を目指して。そして──

アビゲイル「船・・・いったい、どんな船なのかしら?」

ラヴィニア「・・・楽園の使者だから、きっと・・・」

?「ふふはははははははははは!!陰鬱な村よりよくぞ抜け出した小娘どもよ!さぁ迎えと出立の時だ!我が大海のゴージャスな旅を提供する客船に招待してくれる!その名も!!『豪華客船マルドゥーク』にな!!」

マルドゥーク(豪華客船モード)『d=(^o^)=b』

「「金色の船──!!?」」

特異点の最後を締め括るのは・・・やっぱり、楽園の最先端を行く王。ゴージャス・ギルガメッシュでしたとさ──

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