ヘラクレス「知らんぞ、マジで知らんぞイアソン」
アキレウス「んじゃ、アームレスリングよーい、始め!」
ボギャッ!
「ぎゃあぁあぁあぁあぁぁ折れちゃいけんところからいったぁあぁあァ!!ヘラクレス貴様ァ!手加減するなとはいったが折れなんて言ってないだろうがァ!」
ヘラクレス「いや本気出したら腕の一本や二本は折るだろ難行的に考えて」
アキレウス「肘より先から逝ったなこりゃ。さて先生呼んで・・・ん?」
イアソン「お、おぉ!治った!治ったぞ!まさかオレの超回復か!?」
ケイローン「アスクレピオス、ですね。全く。部屋にこもるでなく、直接こちらに顔を出せばよいものを・・・」
「よっしヘラクレスお前は最後だ!かかってこいペーレウスのガキ!アルゴー船長の力を教えてやる!!」
アキレウス「吠えたな?我が父の名を出したんだ、手加減しねぇぞ!」
ヘラクレス「はい、よーい」
ボギャッ!!
「ぎゃあぁあぁあぁあぁぁぁあぁあぁあ!!」
「だから言ったじゃねぇか・・・こちとら人生の半分をアームレスリングに明け暮れたんだ・・・」
ケイローン「それは言い過ぎでは?」
メディアリリィ「イアソン様、御安心ください!腕を鉄にしますね!」
「エグいことを笑顔で言うなァ!!」
ヘラクレス「そうだ、リッカに右腕、オルガマリーに左腕でやらせてみよう」
「どっちが先に腕を折れるかだな!」
「怖いんだけどコイツら!?」
「アイリス。汗を拭いてくれ」
「はいっ」
こちらは、カルデアのマスターの一人アイリスフィールが最近かかりきりになっている楽園の最新医療総合病院。殺菌、滅菌を完璧に行われたクリーンルームにて、医療の神たるアスクレピオスが楽園の全ての空間とそこにいる者達の身体反応をカルテとしてモニターにデータアウトし、一人一人の健康状態、そしてバイタルの外傷や低下を把握している。
「よしよし、イアソンはヘラクレスがいれば大抵難行を真似し死にかける。実際今がそうだ。ほぼ死んでいるが何故生きているのか解らない、なんて僕の大好物だ。治療のし甲斐がある」
ここは病院にてアスクレピオスの施術を楽園全体に届けるメインルームのようなものであり、日常的に特訓などで怪我をする者や、万が一に病気の兆しがあるものにさっさと彼が楽園のロマンの神殿に張り巡らされている回路を辿りその場から治癒を行っているのだ。全身を砕いて悶絶するイアソンに素早く霊基の治療を施し、ケルト組に致命的な損傷を起こさないよう絶えず術式を展開している。
「わざわざ患者を呼ばずとも治療が出来る。危篤ならば運ばれてくる。僕にとっては此処にいるだけで医術の探究と治療が叶う。良い事づくめだな」
ようするに楽園にいる間は、絶えずアスクレピオスが住人にメスを振るって治療を施しているような状態なのである。怪我は負った傍から治り、風邪気味になれば最適な薬が用法と容量を説明された上で転送される。健康の状態をチェックし、同時に人類が患ってきた病のデータを全て閲覧し研究する。アスクレピオスが望む絶え間ない治療と医療の研鑽を完璧に両立した空間が此処なのだ。
「アイリス、もっと正確かつ的確に事を運べ。一分一秒を区切るな、オペを一連の流れとして身に叩き込むんだ」
「解ったわ、先生。治癒魔術も、こうしてみると奥が深いのね!」
そんな傍らで、アイリスフィールはアスクレピオスの講義と手解きを受ける。人体の構造と部位を完璧に把握し、そして魔術と施術を完璧な領域に達するための魔術訓練。執刀の精度や臓器の把握から始まり、人体全ての器官の把握、同時に即座に完全殺菌された空間を作り上げる魔術の展開。治癒に平行して、執刀と身体の状態を把握し症状を的確に対応できる総合医術を習得した移動医療者、歩く総合病院を目指した特訓メニューにひたすら取り組んでいるのだ。施すものはシミュレーションにおける人間や魔獣、人体とはかけ離れた者達も含めた全てである。
「いいぞ、筋がいい。適切な手段、人体を学ぶという事は人体の破壊の仕方も心得ると言うことだ。もしもの時には治すために息の根を止めてやれ」
「か、過激なのね・・・」
彼の言う通り、人体に精通すると言う事は壊し方や殺め方を知ると言うこと。どの腱を切ればどこが動かなくなるのか、何処に何を司る神経があるのか。そこを触診として掌底を叩き込み、魔術にて切断する術も同時に学んでいる。アスクレピオスの教えとは、対人戦のスペシャリストになるのと同義だった。
「当たり前だ。戦場に立つ医者である以上自衛も出来ないでどうする。・・・む、活動して8時間か。中断して休んでおけ。三時間後にまた始めるぞ」
アスクレピオスは彼女を助手として扱い、データの持ち込みや自身の回復に貢献させている。医者の不養生という事態を避けるための人員、ストッパーとしての採用との事で。逆にアイリスフィールは彼の指示には絶対に逆らわないようにしている。彼が言う言葉は医者の頂点の見解であり、休めと言われたら其処は休むべきタイミングなのだ。彼は、自らの指示を無視する患者を忌み嫌うということを僅かな交流にて早々に把握したからだ。
「はい、先生!またよろしくお願いするわね?」
「あぁ。廊下で死にそうな輩がいたら遠慮なくまずは連れてこい。楽園でそうなるまで暴れたと言うことは、医療の進歩に貢献するために身を捧げると言う覚悟を持っているんだろうからな」
試したいものは山ほどあると笑うアスクレピオス。その姿は、自分の辿り着いた場所をゴールと微塵も考えていない様子の振る舞いだ。医術という観点において、彼は何よりも探究者である。
「あなたより上はいないと思うけれど、それでもあなたは医術を窮め続けるのね?」
「当たり前だ。治らない病があり、治せない症状がある。それらを赦していながら医療を極めたと何故言える?風土病、風邪、癌・・・人類が向き合い、挑戦するものは山とある。止まっている暇はない」
何より彼は、かつて作り上げた真の蘇生薬の再現に余念が無い。かつて神々や腐りきった死体すらも復活させたという蘇生薬。様々な材料と様々な幸運にて作り上げられたその極致は、今は再現が叶わない。必要なものや技術の不足、そもそもの要因の解明。楽園に来たことにより気が済むまで探究することは出来るが、それでも完璧には遠いのだ。
「医術の進歩に果てはない。いつかこの世から病と死を根絶するまで僕らの戦いは続くんだ。覚悟して・・・ん?」
「・・・ふふっ」
アイリスフィールは、何となくそのストイックさに笑みをこぼした。その姿が何処か、覚えは無くとも感じた事のある何かに似ているような気がしたからだ。
何かをしなくちゃいけない、何かをするために進み続けなくてはいけない。悲壮で壮絶な覚悟をしていた何者かがいたような・・・そんな気が何となくしたのである。医術の進歩という極めて前向きかつ素晴らしい命題に比べ、ずっとずっと悲痛なものだったような、そうでなかったような。それでも、其処にかかる想いと願いは、同じくらいに大きかった。そんな気がするような想いがあるのだ。
「どうした、疲労による顔筋の痙攣か?それとも精神的なストレスによる精神の変調か?どちらにしろ弟子がかかずらっていい病じゃない。早急に治療してやる」
まぁ、そんな感傷を医神が額面通りに受け取る筈もなく。おかしくなったかと即座に治療を持ちかける。弟子であろうとも、だ。
「え!?あ、いえ違うの!これは思い出し・・・思い出し?笑いで・・・」
「記憶野にも障害か?聖杯を有したホムンクルスは存在自体が貴重極まる例だ。あまりに悪いようなら見せてもらうぞ。人造人間は何が違うのか知るいい機会だ」
「ま、まだ結構よ!それじゃあ先生また後で!」
即座に離脱し、ダッシュで逃げるアイリスフィール。彼は興味深い症状やカルテを見たとき、非常に言動が恐ろしくなる。圧し殺すような笑いを漏らしたり、小さな独り言を絶え間無く漏らすようになるなど、だ
「チッ。・・・お大事に」
それでも、彼は医者として己の業務と命題に挑み続ける。いつか彼が目指した、真の蘇生薬を手掛け作るために。
「弟子が一人前になるのと、蘇生薬が完成するのはどちらが先になるのやら。・・・案外、弟子の方が早いかも知れないな。手間がかからず筋がいい」
医神は今日も誰かを治し続ける。アイリスフィールはそんな彼に、真摯に教えを乞い続ける。いつかこの楽園の中で、病と死が根絶されるのもそう遠くない未来であるのかもしれない──
アイリスフィール「ふぅ、危なかったわ・・・でも、リッカちゃんや皆とは異なる私だけの腕の磨き方は見つけられたわね。これを伸ばしていきましょう!」
『宿題』
「?宿題・・・?先生からかしら」
『ゴルゴーンの血を採取し、アルテミス伯母さんかマスターから祝福を貰ってくるように』
「あ、その、えぇと・・・大分、無茶なのでは無いかしら・・・?」
マスタールーム
アルテミス「リッカ~!アスクレピオスが私の事おばさんって呼ぶの~!酷くない~!?」
リッカ「これはアルテミスの祝福を貰うための巧妙な戦術・・・!」
「いいわ!そんなに欲しいならあげちゃうから!リッカ、その弓矢で祝福放って!ブスっと!ばしゅっと!」
リッカ「いけないアスクレピオスが死ぬぅ!」
オリオン「弓矢・・・射殺・・・アポロン・・・うっ!!」
「ダーリンがショック死しちゃった!?」
「御兄さんに諭されたアルテミスに撃ち殺された逸話持ちだったねそう言えば・・・」
オリオン「ギリシャの神に目をつけられたら天罰か星になるかだ・・・皆も、気を付けような・・・がくっ」
「ダーリーン!?」
リッカ「人間臭いという拭えないフォロー。ヘラクレスもアキレウスも、ギリシャの神様の話になると微妙な顔になるんだよねぇ・・・」
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