(しかし嘆かわしい事だ。本来想定されている状況が正しいならば、ロストベルトは神が降臨するまでの暇潰しや時間潰しでしかない)
【・・・ククッ。行き止まりに至りながら誰かに利用され、滅びるために甦るとは。悲しいな、行き止まりの歴史よ】
(と言っても、楽園なら何とかするだろうが。となると分岐点から算出して、一番危ういのは・・・)
【・・・仕方無い、インド辺りでやらかしそうな輩のケツを叩くとするか。細々と細工するのが、派手な仕掛けの前準備だからな──】
近日フォーカスしてきたように、今や楽園のマスターは藤丸龍華だけではない。多種多様の綺羅星の様なマスターが揃っている。しっかりと分担やシフトを組めると言う時点でブラックや極限状態とは程遠い状態へとカルデアはとうに脱したのである。
努力し続けるマスター、師を仰ぐマスター。なんか同じ顔がめっちゃいっぱいいるマスター。リッカを除いたマスターだけでも、立派に物語が紡げる程の層を実現した。・・・だが、嬉しい事に、まだまだサブマスターの紹介は終わらない。特大の微笑ましく優秀なマスターの紹介が残っている。
前所長、マリスビリー・アニムスフィアが直々にスカウトし、優秀かつ最有能の証たるAチーム、『クリプター』・・・楽園においてこの名は明かされていないが・・・な、もう肩書きからして最高最善な雰囲気しかしないマスターも楽園に招かれている。そのミステリアスさは他の追随を許さない、そしていざとなれば自分も戦うことが出来るもう一人の規格外にして最高峰のマスター。一人でマスター平均年齢をバカ上げしている何っちゃん。そう──不老不死の仙女、虞美人。この人の紹介を無くして、楽園のマスターは語れない(?)・・・!
知られざるぐっちゃんのマスターとしての生態を、二周年を控えた此処でフォーカスしていくとしよう。尚、文体のフランクさはぐっちゃんの親しみやすさを強調していく為の処置ゆえ赦されたし。それでは、fate最速ギャグ落ち記録保持者の実態に迫るとしよう──
~
「カドック。私とあんたは同じAチームだったわけだけど、あまり交流が無かったわね」
「うわっ。・・・なんだ急に」
「焼きそばパン買ってきなさい。楽園として再編されたこのカルデアじゃ、私の方が先輩よ」
店に殴り込み注文代わりに同僚に年齢と序列でマウントを取り始める我等がぐっちゃん。どうか不快に思われないでいただきたい。自分から話しかけている辺り夫が感涙するほどの進歩なのである。
「なんで僕が・・・、・・・いや、いいか、アナスタシアにカップラーメン頼まれてるし。解った、少し待っててくれ」
「──!え、えぇ。早く行ってきなさいよね」
自分から頼んでおいて思ってた反応と違う・・・みたいな失礼極まりない対応を取るぐっちゃん。程なくして売店から戻ってきたカドックから焼きそばパンを受け取りながら、難しい顔で退出する。そんな不思議な先輩を、カドックは不可思議な顔で見送る他無かったのであった。
「・・・せめて注文くらいはしていけば良いじゃないか・・・」
そして、このすぐ数時間後。食堂で漫画を読むマストリアに対し、スッと側に近寄る仙女様にして人妻なぐっちゃん。当然いつも気難しげで近寄り難い雰囲気の先輩に当たる人物にこんな事をされたら驚きを隠せないわけで。
「あ、あの、何か・・・?」
「面白そうな漫画ね。私にも読ませなさい」
それだけを告げ、漫画を要求してくるなんか変な格好した先輩。それ以上追及したら何が起こるかすら未知数な訳で。マストリアの取るべき行動は一つだった。
「あ、ではどうぞ、差し上げます。お代とか諸々は結構ですので・・・それでは・・・!」
「あっ、ちょっと・・・!」
マスターでありながら高ランク直感を所持するマストリアが選んだ行動。それはなるべく関わらないという最適解であった。ヤンキー通り越して極妻めいた雰囲気の正体不明かつよく知らない存在から漫画を犠牲にしそそくさと離れるマストリアを呼び止める暇なく取り逃がしてしまうぐっちゃん。手に残されたのは、マストリアが読んでいた読みかけの雑誌のみ・・・
「ぐぬぬぬ・・・」
手にとって読み終わった後、彼女は苛立たしげに退出する。そしてその後に向かったのは、最近出来上がった病院に入り浸るアイリスフィールの場所なのだが・・・
「・・・私怪我なんかしてもすぐ治るし、病気なんかかかった事無いわ・・・」
不老不死の仙女であるが故に肉体の不死性は折り紙付き。全くもって医者の厄介になった事などないぐっちゃんは入るのに躊躇われる。そもそも医療施設を見て思い出すのは、不老不死に釣られた人間どもの野蛮な欲望・・・
「ふんっ!誰が厄介になるもんですか、バーカ!不老不死なんて良いことないわよ!肩凝りとかスッゴいんだから!こっちから御断りよ!」
帰る!!ずかずかとUターンして行ってしまったそのすぐ後、拗らせた病の気配を感知したアスクレピオスが顔を出す。
「・・・病院の前では静かにしてくれないか。非番だからいいものを・・・」
不機嫌そうに呟き、また引っ込んでいく。伝言の一つも頼むという発想が無いのがぐっちゃんのコミュニケーション能力の限界でありましたとさ。
さて、なぜぐっちゃんがこんな奇行を繰り返しているのか気になっているかもしれない。端から見れば極妻が不機嫌そうに話しかけてくるだけの恐ろしげな事象でしかないのだが、本人の意図していた所とは全く違ったのだ。彼女はレクリエーションルームにてダーツに勤しむ自分の同類・・・いや近類種に歩み寄り・・・
「ちょっと!全然ダメだったわよアルク!どういう事!?」
「えー?リッカがいつもやる秘訣教えたのにー。やり方とか間違えてない?」
アルクェイド・・・正真正銘の星の触覚にキレながら詰め寄るぐっちゃん。そう、今までの奇行実はこれ『彼女なりの歩み寄り』だったのである。
「紅ちゃんに『運命共同体なんでちから、コミュニケーションはとっておくでちよ』と言われてやってみたはいいものの!親しげに話した回数なんて放浪の中で片手で足りる!どうやってやればいいか解らないからあなたに聞いてみたらこの様よ!私が悪いのこれ!?」
「んー、何が悪かったのかしらねー?私が考える限りこれで失敗する方が難しくない?あ、それとも・・・」
ピッ、と刺さったダーツにダーツを刺す芸当を行いながら、アルクェイドがあっけらかんと告げる。思い当たる場所は・・・
「その露出狂みたいな格好がバッドコミュニケーションなんじゃないかしら?項羽サンの嫁さんなんだから、ヤクザの妻にしか見えないわよそれ。攻め攻めなのは悪くないけどね?」
「はぁっ!?ヒナコ衣装じゃないとダメってこと!?」
「その格好よりまずいの、もう裸しか無いんじゃない?」
そこまで・・・!?流石に同類にして完成度の高い相手の意見を無下にするわけにもいかず、いそいそと引っ込み、インナーを着込みふたたびやって来る。ここまで来て、引き下がるわけにもいかない。先輩としての沽券に関わるのだ。
「で・・・他にどうすればいいか知恵を貸してよ、アルクェイド。ほら、あんた色々上手くやってるじゃない。私と違って・・・私と違って!」
「其所で怒らないのー。そういう所よポンコツぐっちゃん?」
「誰がポンコツか!聡明と訂正してッ!」
「ぶっふっ!あっダーツ外しちゃったじゃないもー!自己ベストもっと行けたのにー!」
まぁ、ぐっちゃんも割と真剣に悩んでいるのは理解しているアルクェイド。本来なら人間を毛嫌いしている筈の存在が自ら歩み寄ろうとしていくのは奇跡といっていい事象であるが故に。なるべく力になってあげよっかなー?と気紛れを起こした以上ほっとくのも不誠実。吸血鬼は人間と違って嘘を付かないのである。
「んー、言葉や会話でダメならもうあれしかないわね!皆大好きアレよアレ!」
「アレ・・・?何よ、解るように言ってくれない?」
「ふふーん。リッカが得意にしてるもう一つの手段よ!それはねー・・・」
ぐっちゃんに示される、リッカ流のコミュニケーションの方法とは──
ぐっちゃん「──と言うわけで。リッカ、まずは後輩のあんたと殴り合う事にしたわ」
リッカ「どういう事!?私楽園の皆と本気で戦うとかやだよ!?」
ぐっちゃん「何を言っているの。これは必要な儀式であり手っ取り早い最適解だってアルクェイドが言ってたのよ!あんた発祥なんだから間違いないわ!さぁ行くわよリッカ!私と仲良くなりなさい──!!」
リッカ「待って待って待ってふわぁあぁあぁ!?」
「どうしたのリッカ!あんたの力はこんなものじゃないでしょう!?本気でやりなさい!手加減は不敬よ!不敬!」
リッカ「うぐぅ!出来ません!楽園の皆は、私にとっても宝物だから・・・!」
マウントを取られ人妻に詰め寄られる少女。危機を察知した職員数名にて事なきを得たが、そのシチュエーションが幾人かのインスピレーションを刺激したのは言うまでもない。──そして、ぐっちゃんの柄にもない試みは上手くいくのだろうか?
次回へ続く──
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