人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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マシュは戦わなくていいよ、弱いし。レベルもそんなんじゃ役に立たないし

はい、ごめんなさい。先輩・・・でも、きっといつかお役に・・・!



はい、タゲ集中礼装。バフ張ったら退場してね、邪魔だから。

・・・は、はい。ごめんなさい・・・足手まといで・・・



コスト制限0なのいいよね。其処くらいしかいいところないけど

・・・はい。編成してもらえると、コストが浮いてお得なのが、私の唯一の利点です・・・



フレンド強いなぁ。あ、マシュは下がってていいよ。全部フレンドにやってもらうから

はい。絆アップ礼装を持って待機ですね、先輩



やっと強くなったか。遅すぎるよ。まぁいいや、これまでどうしようもなかった分、アーツパで頑張ってね

はい!先輩!マシュは役に立ちます!役に立ちます!だから、だから、見捨てないでください!

見捨てないでください!先輩──!



・・・ごめんなさい。先輩

せめて、たった一度だけでいいから。

私は、貴方の役に立ちたかった──



『・・・君はそのまま、眠るといい。あの旅路は、ボクや君が命を擲つ価値があったのか。首を傾げるばかりだったよ──』


何処かの話

「──、・・・はっ!?」

 

冷たく、凍えるような寒気にたたき起こされるかのように。マシュは身体を起こし意識を覚醒させた。素早く辺りを見回し、戦闘状態に霊基を覚醒させ周囲の状況の確認と交信を試みる。

 

「先輩!御機嫌王!所長、ダ・ヴィンチちゃん!ゴルドルフさん、シバさん!──ドクター!」

 

しかし反応はない。不気味な迄に静まり返った静寂のみが音なく返答を返した。素早く魔力パスの確認と契約の状態を確認する。どちらも問題無く起動しており、自分は楽園カルデアのマシュ・キリエライトだとはっきり認識する。となると考えられることは、リッカが経験したという夢に侵入するという形の・・・

 

「何が起きたんでしょう・・・?それに、此処は・・・」

 

見覚えがあり、懐かしいという感傷を真っ先に懐くそれ。自分には懐かしく、また遠い遠い昔のような感覚を覚えるそこは・・・

 

「カルデアの、無菌室・・・私がかつていた、私の世界・・・」

 

自分がデミ・サーヴァントになる前の、閉じた幸福だった世界。其処に自分は寝かされ、今目覚めたところであると認識する。そして、そこはかつての場所とは全く異なる姿に変質していた。

 

ズタズタに破壊され、傷跡のように壁や床が抉られている。非常電源の不気味な赤い灯りがまるで血塗れになったような印象を与えてくる。よりにもよってこのカルデアの中でこんな惨劇が起きるなど露も思わないマシュは一瞬困惑するも、直ぐ様気持ちを奮い起たせる。

 

「私は先輩のサーヴァント!物怖じするような控えめマシュではありません!立派に自立した天然栽培なすび・・・!怖がるより、勇気を以て行動を!」

 

先の声が伝えたマスターの危機。それを放って驚いてはいられない。幸いリッカの無限に等しい程の魔力がパスを通じて身体にみなぎっているため、活動や戦闘になんら支障はない。全身全霊で、一週間は問題無く戦える筈だ。迷うな、行動するはただひとつ。

 

「先輩!今こそあなたのマシュが助けに行きますからね!いざ突撃です!マシュ・キリエライト!防御という最大の攻撃を開始します!」

 

鼻息荒く無菌室の壊れかけた扉を突破し、走り出すマシュ。まずはカルデアの動力部である管制室を目指して行動を開始する。今までの言葉をレイラインでリッカに飛ばしながら、である。最早先輩を一人で迎えに行ける程に逞しくなったマシュが、一人でミッションへと挑む──

 

 

「ここは・・・カルデアです。間違いなく。しかし、何故こんなにも荒廃し、人の気配が無いのでしょう・・・」

 

見知った廊下、今となっては寒々しい光景。ゴージャスを招く前の、未改装のカルデア。反響する自分の足音以外、何の物音も気配もしないその慣れ親しんだ施設をマシュは歩いていく。薬莢や血飛沫、抉れて荒廃しきったその様は変わり果てたと言ってよく、扉一枚を開けたら一人一人の理想が叶えられた部屋も当然ながら無い。かつて誰かが生活していた、物寂しい部屋があるのみだ。

 

「先輩!せんぱーい!無事ですかー!あなたのなすびのデリバリーですよー!」

 

マスターがレスポンスしやすいような言動にて確認を取るも、寒気を感じる程の空間からは何も返ってこない。耳鳴りがするほどの静寂が、ひたすらにマシュを迎え入れる。踏み鳴らした脚には、驚くことに霜が張り巡らされていた。空調の故障や、壁に穴が空けられる程で無くば決して陥らない異常事態。マシュは最悪の予感を振り払い、振る舞いは堂々と声を張り上げる。

 

「ドクター!ダ・ヴィンチちゃーん!マリー所長!何が、何が起きたんですか!カルデアに何が・・・!」

 

こんな事態に、何故陥ってしまった。カルデアの人々は、大切な仲間達は、頼もしいサーヴァントの皆は、一体何処に行ってしまったのか。そんなマシュが辿り着いたのは、一つの部屋だった。そこの間取りに配置されている部屋は、先輩・・・人類最後のマスターの・・・

 

「・・・先輩!」

 

其処に来れば、いつも先輩がいてくれる。毎日頼光さんやじゃんぬさんに世話を焼かれているあの人がいてくれる。きっとこれは、質の悪い悪戯なのかも。そんな気持ちを懐き、そっと扉を開けると・・・

 

「・・・!」

 

息を呑んだ。其処にあったものは先輩の輝かしい笑顔でも、白き清澄の屋敷でも無い。冷たき氷に凍結された、時が止まった部屋だった。総てが凍り付き、纏められていた荷物が完全に氷に包まれ、覆われてしまっている。

 

「まるで、アナスタシアさんが襲撃したような・・・いえ、そんな、何故・・・?」

 

愕然とするマシュの前に、割れ砕けたガラスの欠片と共に、何かの写真立てが落ちていた。少なき荷物の中ではなく、最後まで持ち出そうとしていたのかも知れない。それを、そっと手に取り裏返す。

 

「──これは・・・」

 

黒髪の少年と、ダ・ヴィンチちゃんが二人だけで映っている写真が入っているのをマシュは見つけ出す、そして、胸に去来する喪失感や虚無感に喉を鳴らした。黒髪に蒼い瞳の少年は泣き腫らした様に目が腫れ、黒い隈が目の下に刻まれている。ダ・ヴィンチちゃんも笑顔を浮かべてはいるものの、それが却って取り返しのつかない状態を示しているような・・・

 

「これは、一体・・・誰なのですか・・・?まさか・・・」

 

これは、まさか。所長が言っていた、無数の平行世界の出来事であり、そしてマスターが経験したという、別世界のマスターの話から、それを照合する。至った結論は、まさに。

 

「別世界の、先輩・・・?──っ!?」

 

瞬間、少年の眼から真っ赤な涙が滴り落ちた。瞳は黒く塗りつぶされ、写真を真っ赤に染め上げていく。まるで尽きぬ慟哭を、絶望を訴えるかのように。しかし、勇気を以て覚醒しているマシュは然程心を揺さぶられはしない。冷静に思考を巡らせる

 

「・・・此処は、別世界のカルデア。写真の先輩が、世界を救ったカルデアということ、なのでしょうか」

 

そう思案し、もう一度真っ赤に染まった写真を手に取る。表情が先程と変わり、苦悶と慟哭を示す叫びのように歪んでいる。この方が先輩だというなら、此処がカルデアだというのなら、何故こんな事に・・・

 

「──じーっとしてても、どうにもならない。ですよね、先輩」

 

その写真を、せめてあるべき場所に。楽園にてリッカが飾ってある写真立てと同じ場所に立て直し、そっと部屋を後にする。

 

「・・・」

 

何故。何故、あの写真の先輩はあんなにも哀しげに涙を浮かべているのか。何故、ダ・ヴィンチちゃんしか傍にいないのか。世界を救ったマスターが、何故あんなにも嘆きを浮かべているのか。

 

「・・・先輩・・・」

 

万が一にも、先輩に何かが起こってしまったら。そんな事態を振り払い、真実へ向けて歩き出す。

 

「・・・どうして」

 

どうして、貴方の傍に私はいないのですか?そんな、浮かんだ疑問を胸にしまい、ドクターの柔らかな笑顔も無い事に、どうしようもない虚しさを覚えながら。

 

それ以上の言葉を浮かべる事なく、また振り返る事もなくマシュは歩き出した。私は、何をしているのか。何処で何をして、何のつもりで先輩の許から去ってしまったのか。

 

自分自身の理解できない選択と行動に、少なくない疑問と。先輩の許からいなくなる選択をした自分に少なからず憤りを覚え、一つの仮説に至る。

 

どんな世界であろうと、自分が先輩を見捨て、ましてや去るなど考えられない。それをするなら、それはきっとマシュ・キリエライトではない。ならば何故、あの先輩であるだろう人の傍に自分はいないのか?・・・それは、『傍にいられなかった』のではないのだろうか?

 

「私に、何が起きたのですか?先輩・・・」

 

別人だとしても、問わずにはいられない。私は、あなたを護りきれなかったのだろうか?なら、この先に待つのは・・・

 

どうしようもなく嫌な感覚を覚えながら・・・マシュは静かに、管制室の扉を開く───

 

 




マシュ「こ、これは・・・!?」

マシュの目に飛び込んできたもの。それは変わり果てた管制室の姿だった。カルデアスの火が、決して溶けぬと理解できるほどの氷に固め尽くされている。これでは最早、レイシフトも未来観測も・・・そして、その前に屹立する摩訶不思議な機械も、更にマシュの驚愕を呼び起こす。

「せ──先輩っ!?」

其処にあったのは、超巨大な『ガチャガチャ』であった。カプセルを詰め、お金を入れてレバーを下ろし、カプセルを取り出す機械。その中に・・・真っ黒に煌めき、三対の翼にて二重に閉じられしカプセルの中で、マスターであるリッカは静かに眼を閉じていた。

それだけではない。そのガチャガチャの中には、無数極まる『藤丸立香』が封入されているのだ。普通の少年であるもの、少女であるもの。体が機械であったり、全身に刻印がされていたり、険しい表情を浮かべていたり、幼き風貌の者すら・・・

【──此処に集められたのは、無数の『藤丸立香』の可能性。平行世界に広がるマスターの因果を封じたものだ】

「っ!誰ですか!?」

【酷いなぁ。僕だよ、『マシュ』】

ガチャガチャの前に現れたのは・・・ガチャガチャに合うと言えば合う、二頭身の少年。服はズタズタに破れ、窪んだ両目は、果てしなく暗い闇に澱んでいる。

【僕は藤丸立香。数多のサーヴァントと絆を結び、無数のイベントを突破し、周回を行い、遂には世界を救った。誰にも出来ない、僕にしか出来ない偉業を成し遂げた。総てマスターの頂点に立つ、fate作品が産んだ──最高のマスターだ】

「藤丸、立香・・・」

【僕は世界を救った最高のマスターだ。レア度最高のサーヴァントも、どんなサーヴァントとも仲良くなり、あらゆる困難を乗り越える世界の英雄だ。僕より凄いヤツはどんな世界にもいない。衛宮士郎?岸波白野?誰それ、世界を救った僕に比べたら大した事無いでしょ?】

──違う。彼は、いや『藤丸立香』を名乗る何者かは、断じて先輩ではない。何故なら、彼が本当にであるなら・・・

【皆僕のものだ。世界を救った功績も、サーヴァントも、名声も、僕こそが主役なんだ。僕にしか出来ない。サーヴァントを一番使えるのは僕なんだから。アルトリアも、式も、ネロも、玉藻も、全て僕のものだ。何故なら、それらのマスターは、世界を救った僕こそが相応しいからだ】

「──あなたは誰ですか!あなたは断じて、先輩ではありません!」

『自分の功績を、決して自慢したりなんてしない』。そんな彼だから、きっと世界を救えたのだ。だから目の前にいるのは、藤丸立香の名を借りた、もっともっとおぞましいものだ・・・!

【マシュ。──そして、楽園カルデア。其処に相応しいのは、二次創作の『藤丸龍華』じゃない。目を覚ますんだ。原作の主人公は僕『藤丸立香』なんだ。原作から外れたが故に、原作よりやりたい放題な結果、どんな世界のカルデアにもマウントを取れる楽園の主人公には、僕こそが相応しい。】

理解できぬ言葉を呟く『藤丸立香』を名乗る何者か。眠り続けるリッカ。彼の目的とは、果たして──

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