ムネーモシュネー『はい、マスター。どの様な記録なのか、とても楽しみです』
「だろう?絶対に後悔はさせないよ。そんなもの、何処にもないからね!」
ロリンチ『ねぇねぇ、私もいつかリッカちゃんたたちと戦える日が来るのかな?』
「もっちろん!私は最早楽園の中枢、決して失われてはいけない存在になってしまったからね!私の分まで頼むよ、ロリンチちゃん?」
『まっかせたまえ!君なんかよりずっと身軽で、軽快なフットワークを御見せしよう!』
「こいつぅ!──さぁ二人とも、行こうじゃないか。長い間、悲鳴を上げながら走り続けた自由からやっと逃れ、人生の墓場に足を突っ込む馬鹿者の祝福にさ!」
『人生の墓場・・・それは死ぬと言うことですか?』
『えぇ!?大変だ、連れ戻さなきゃ!』
「あはは、まだまだ情緒やジョークは早かったかぁ!まぁいいさ、学ぶ時間はいくらでもあるからね──!」
「あっ、あっ・・・あまこー・・・もふもふ、もふもふ・・・え、にくきゅー・・・にくきゅーも・・・?」
「ワフ(ぺとり)」
「ほわぁあぁあぁあぁ・・・!!」
結婚式が迫る今、ちらほらと月へと転移する者達も現れる中、我等がリッカはあまこーと戯れていた。ポカポカの温もりと肉球の柔らかさに、緊張をほぐしながら自分自身をリラックスさせているリッカの日課である。
「ロマンが結婚・・・結婚だよあまこー。自分の事みたいに緊張するよねあまこー・・・するよね・・・」
「ワフ」
御祝いする側にて、自分はうまくできるか不安のリッカの気持ちを読み取り、然り気無くやってきたあまこー。頼光にも声をかけたが、彼女だと結婚式であることを忘れてお互いに眠ることもあり得るので、メリハリをつける為に自分が選ばれたという。どんな事であれ、リッカが望むならとリラックスの戯れを行っている所・・・
「リッカ君?いるかい?ボクだよ、ロマニだよ。少し、時間いいかな?」
「ロマン・・・!?」
リッカだけのリラックスタイムにやってきた予想外過ぎる来訪者に、ふにゃふにゃだった気持ちを引き締める。このタイミングで遊びに来るにしてはビッグ過ぎる名前に、姿勢と襟を正して扉を開ける。
「ろ、ロマン?どったの?結婚式、もうすぐだよ?シバにゃんといなくていいの?」
夫婦水入らずって言うし・・・。そんなリッカの気遣いに笑顔で礼を返し、ロマンは段ボール箱をリッカに差し出した。その中には、彼の宝と言っていいものが収められている。
「ボクの宝物・・・マギ☆マリグッズと自作ノートパソコン。これを、リッカ君にあげようと思って。受け取ってくれるかい?」
「え・・・うぇえっ!?」
「あと、話したいこともあるから・・・ちょっと上がってもいいかな?」
どゆこと・・・?困惑しきりなリッカは、あまこーと顔を合わせる。何故このタイミングでこんな大事なものを・・・。ロマンの真意を掴みきれずとも、彼を無下にする理由などないリッカは慌ててもてなしの準備を整える──
~
「懐かしいなぁ・・・此処は最初、ボクがサボってて君が尋ねた形で出逢ったんだっけ。それが君も、この部屋も。とっても立派になって・・・」
「逞しくのびのびと育ちましたよー。お陰様で!」
あまこーが淹れたお茶と、好物の桜餅を頬張りながらリッカとロマン、始まりの二人がほんわかと一時を過ごす。そう、本当の意味で最初に出逢った始まりの一因は、この二人でもあるのだ。レフボンバーから免れたのは、結果的に追放されたリッカとサボっていたロマンの二人だけという最初の奇跡。
「人は皆、変わっていく。楽園の皆も同じだよ。だからボクも・・・遅いけど、君達みたいに変わろうと思って。その一歩として・・・」
ドルオタを卒業して、シバ一人をまずは見つめる生き方をしたいとロマンは言った。その為に、苦痛と苦難の逃げ場にしていた象徴であるマギ☆マリを、手放す事を決めたという。
「いいの?ずっと応援してたのに・・・」
「いいんだよ。何よりマギ☆マリ本人に言われてね。『所帯持ちになった癖にいつまで私を当てにするのかダメ人間。いい加減覚悟を決めなさい』とガツンとね・・・」
このままじゃダメだ。偶像にすがり、伴侶を蔑ろにするのはかつての過ちと同じだ。だから、ヘタレでありチキンの象徴であったマギ☆マリと、訣別しようと発起したとロマンは言う。変わるというなら、それくらいはしなくちゃダメだと。
「でも、捨てるのも今までの人生を否定するように思えて・・・。何より、変わる事は捨てることじゃない。新しい自分になることだと思う。だから、こういったものを大切にしてくれる君に、持っていてほしいなって」
冷静に考えてドン引きもののドルオタグッズを、なんの先入観もなく受け止めてくれるのは考え得る限りリッカ君しかいないから。だから受け止ってもらいたい。ボクの弱さを、決意として。
「どうかな?ちゃんとパソコンは君が使いやすいように、レオナルドにカスタムしてもらっているから・・・受け取ってくれるかい?」
「──解った。安心してロマン。貴方の決意と弱さの証、確かに受け取った!」
ワン!あまこーが一鳴きし、そっとリッカより受け取り荷造りを行う。その中に詰まっている、ロマンが見出だした安らぎの全てを受け止めて。
「あぁ、良かった。これで思い残しの一つが無くなったよ。色んな意味で、君にしか頼めないからね」
「ロマン・・・あなた・・・消えちゃうの・・・?」
「消えないよ!?いや我ながら覚悟決めすぎかなぁとは思ってるけど!・・・コホン。それともう一つ、ボクが向き合わなくちゃいけない、君の事があるんだ」
そう告げ、ロマンはリッカに向き直る。キョトンとするリッカの瞳は、かつて見た澱みきり、品定めするような混沌ではなく。煌めくような光を宿している。・・・そこまで変わって、明るくなってくれた事に心から祝福を贈りながら──
「──リッカ君。君の人生を歪ませ、狂わせたのは・・・ゲーティアの、そしてそれを使い魔として使役していたボクの責任だ。君の受けた謂れのない苦痛、背負わされた悪は・・・ボクが君に押し付けたと言ってもいい」
「───」
そう、リッカの周りの人物の悪性を呪いにより引き出し、人為的な魔術としてリッカの人間性を封印、剥奪し。【無条件で貶め、害していい誰か】と下地を作り、人為的な獣を作り上げる実験の被験体として選別したのはゲーティアであり、それを産み出した自分に責があると告げた。それは、ずっと何処かで逃げていた『ゲーティアがやったことだから』といった自分の弱さとの訣別。
「今更何を、と言われても仕方がない。でも、ヘタレやチキンをもう言い訳にしないと決めたんだ」
「ロマン・・・」
「だから・・・もし。ゲーティアに、誰かに。言いたくても言えない、鬱憤や恨みがあるのなら。今、ボクにぶつけてくれ。もう、ゲーティアは君が倒したから。君の慟哭が、怒りが残っているのなら。ボクが受け止める」
そう言って、ロマンはリッカから目を逸らさない。どんな感情も、どんな言葉も受け止めるとの覚悟に満ちている。もう、決して逃げないのだと
「君は、今・・・自分の人生をどう受け止めているのか。教えてほしいんだ」
あまこーが、リッカの手をぺろぺろと舐めそっと寄り添う。そして、ワフっと一鳴き。
『貴女の想いを届けなさい。ありのまま、感じた事を思い切り』
「あまこー・・・」
頭の中に響く、慈しみの母がごとき声。それを受けて拳を握り──
「・・・ロマンッ!!」
「ううっ・・・!」
「───ありがとう!私に、『立ち向かう力』をくれて!」
ぶん殴られるのも仕方無い。そう覚悟を決めたロマンに告げられたのは・・・御礼だった。リッカの口から出たのは、感謝だったのだ。
「私に、戦う力を・・・皆を護る力をくれて。私なんて何処にでもいる誰かを、世界を救える一人にしてくれて、ありがと」
「な・・・そ、そうじゃないだろう!?だって、だってそれじゃ君があまりにも、あまりにも惨いじゃないか!勝手に仕立て上げられて、勝手に世界を背負わされて、君の始まりはいつだって・・・!」
「ロマン?もー。マリッジブルーってやつ?今更だよそんなの。今までずっと私の、私達の旅路を見てきたんでしょ?──その中で、私が一回でもマスターを止めたいなんて言った?」
覚悟を決めたはいいけど、悲観的になるのも良くない。力はどう手にするかじゃない。どう振るい、どう使うかだ。だからこそ、私は私自身の力を、人生を。感謝こそすれ恨んだ事なんてない。それは何よりも雄弁に、自分の生き様で語ってきたつもりだとリッカは告げる。
「そ、それはそうだけど・・・」
「それと、間違えないで。私は世界を救ったんじゃない。『世界に救って貰った』んだよ。それは、自分の中でずっと変わってないから」
そう。要らないものとして捨てれば良かったのに。不要なものとして駆除すれば良かったのに。そうしなかった。私自身すら望まれなかった私に、グドーシを、高校の友達を、楽園の皆を自分に寄り添わせてくれた。──自分が世界を救ったなんて一度も思った事はない。自分が、自分こそが。世界に救われたんだ。
「だから私は、楽園で戦うの。未来を救うし、困難から絶対に逃げない。私を救ってくれた世界に恩返しがしたいから。私が世界から貰った幸せは、世界を一回二回救ったくらいじゃ返しきれないから」
「・・・リッカ君・・・」
「だから、ありがとう。なんにもできない小娘に、こんなに立派な力をくれて。私を、滅ぼされて当たり前の何かから、藤丸リッカにしてくれて。・・・だから」
だから。私が世界を救うから。私が世界の全ての未来を護るから。あなたがくれた力を、皆の幸せの為に振るってみせるから。──私はこの世界が、いまここに生きている自分が大好きだから。
「だから──とびきりの運命を私にくれてありがとう!ロマン!今まで頑張ってくれた分、うんと幸せになってね!その幸せ、未来!絶対に私が護るから!!」
「・・・リッカ君──!」
ロマンはたまらず、リッカを抱き寄せ泣いていた。恨み言を言っても良かった。なんで私がこんな目にと、言われる覚悟をしていた。
──目が曇っていたと言う他ない。もう彼女はとっくに、泥まみれの底から突き抜ける青空へと翔んでいたのだ。
「ありがとう・・・リッカ君・・・!世界の命運を担ってくれたのが、君で・・・本当に良かった・・・!」
「えへへ。止めてよぉ~。私、褒められ慣れてないの知ってるでしょぉ~。照れちゃうよ~」
「・・・ワッフ!」
総てを呪い、呻く獣ではなく。総てを見つめ翔ぶ龍の様に。その比類なき成長と、本当の意味で肩の荷を下ろしたロマンを祝うように。慈母は一声染み渡る様な鳴き声をあげた──
そうして、泣き止んだロマンと一緒に、色んな事を話した。
これまでの事。
これからの事。
どんな家族にしたいか、子供は何人欲しいか。カルデアの皆は、これからどんな困難に立ち向かうか。
その度に、私達なら絶対に大丈夫!そう笑い合い、せっかくなのでマギ☆マリのブログを見て爆笑したり・・・
穏やかな夜を過ごし、そして運命の日はもうすぐに──
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