人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
エル「あ、解ってたんだ。顛末」
「当然よ。だがまぁ、我が行ったとしても面白味が無い。雑種ごときに何を言われようとも気にはせんが、それはそれとして不敬は処断せねばならん。向かい合った瞬間に即死させては何も生まれぬ。道化は踊らせねば哀れにも程があろう」
──リッカちゃん、本当に怒っていましたね・・・。しかし、数ある中の暴言で、何が一番リッカちゃんをあそこまで怒らせたのでしょうか?
《フッ、語るまでもあるまい。ヤツは我と、お前のマスターである。と言うことだ》
──・・・リッカちゃん、もしかして・・・
フォウ(うんうん・・・)
──アジタハリッカとして、ラマッス仮面やウルクの尊厳を護ってくださったのですか・・・!?
(あれぇ!?)
《ふはは、非番の際にはとことん思考が緩くなるのだな、お前は》
アルトリア「あっそこドリフトあーっ!!!」
ギル「しまっ──!!」
エルキドゥ「いけないなぁ、お姫様と戯れていちゃぁ(ニコニコ)」
「えぇい、貴様が無慈悲であることは予測していたわ!チェンジだアルトリア!我大ジャンプからのスターにて」
「ほい、サンダー」
アルトリア「あぁあぁあぁあ!?」
ギル「貴様手心というものは無いのか──!!」
エルキドゥ「(けらけら)」
「うん。良かったね、バニヤン」
「えぇ。始まりは酷いものだったかもしれないけれど、終わりはほら、笑顔で本を畳めたわ?ありがとう、リッカ、皆」
聖杯を回収し、そしてバニヤンの手に戻る。それは即ち、この喜劇の終わり。無能と切り捨てられた役者は、事実本当に愚かな劇団と舞台から別れを告げ、笑顔で在るべき場所へ還るのだ。
「あ・・・二人とも・・・」
そう、それは即ち別れの時。名もなきマスターに呼び出された二騎のサーヴァントは、在るべき座へと還る。使い捨てのハンカチでなく、切り捨てられたゴミでもなく。己を己として定義した一人のスタッフ、キャストとして。だから、そこに哀しみはない。無念は無い。あるのは、暖かい笑顔だ。
「いろいろヘンテコだったけど、とっても楽しかったよ。一緒に食べたハンバーグ、美味しかったね」
「うん!ありがとう、ハンバーグもパセリも、とっても美味しかった!」
「リッカ。バニヤンをよろしくね。そっちのわたしたちも、きっと仲良くしてくれるはずだから」
望まれない召喚だったとしても、友達と過ごした思い出が出来た。一緒にシカゴを歩いた記憶があった。なら、それはきっと幸せな事だと信じて。
「──ばいばい、バニヤン。みんな」
ジャックは先に、退去となった。最後まで、笑顔を絶やさぬままに。今回の召喚は、きっと良かったものだと信じながら。
「ジャック・・・ありがとう・・・」
「えぇ。ジャックと私は同じ気持ちよ。素敵な本を読んだあとは、本を畳んだ後も幸せなものなの」
続いて、ナーサリーもまた後に続く。子供達が望んだ子供達の英雄も、儚くも確かな笑みを浮かべて世を去っていく。
「ナーサリー・・・」
「本を読み終わった後の悲しい気持ちも、それはとても素敵なものよ。また同じ本を読んだっていい。自分で続きを書いたっていい。その想いを、人は『感動』と言うのだから」
或いは、ナーサリーは初めから召喚は確約されていたのかもしれない。バニヤン、そしてジャックと言う子を、孤独や寂寥から護る為の英雄として。だからこそ、彼女は召喚されたのかもしれない。だからこそ、彼女は語られる物語として、虚ろなジョークに栞を挟む。
「忘れないで、バニヤン。物語と読者の一つの約束。それは読者が物語を信じること。物語が読者を信じること。始まりがジョークでも、望まれた物語と自分が違っていても。誰かの為の物語は無くならない。一度生まれた物語は無かった事にはならないの」
「うん、うん・・・!」
「忘れないで。あなたを大切にしてくれる読者も、大切にしてくれる本棚も。すぐ傍にあるの──」
物語の英雄として、バニヤンの願いを導くナーサリー。ふわりとした笑顔のままに、彼女はジャックの後を追う。
【・・・二人とも。ありがとう】
本当なら、私達も一緒にと言いたかったのかもしれない。バニヤンだけずるい、と言っても誰も責めはしないだろう。だけど彼女達は、残されるバニヤンに言葉を送り、その先に寄り添うだろう者達に言葉を残し、潔さと共に自らは立ち去った。
彼女達も、紛れもなく人類史のキセキ。怨念の塊であろうと、虚構の存在であろうと。きちんとそこには意志があり、矜持があり、誇りがある。
「ありがとう・・・二人とも。パセリも、ちゃんと食べるから・・・!」
そして──きっと。異なる『自分』がまた、彼女に寄り添うはずだと信じて。総てを今を生きる者に託した。それが、別れを素敵なものへと変える最後のピリオドにして、エンドマーク。
『・・・特異点はもうすぐ無くなるよ。願いを告げる準備は、出来たかな?』
ロマンの言う通り、リッカの退去が始まっている。マシュやイアソン達は、空気を読んで先に帰ったようだ。此処にはもう、何もない。
「・・・リッカ」
【なぁに、バニヤン?】
バニヤンと視線を合わし、言葉を待つリッカ。バニヤンの手に握る聖杯が、願いを汲み取る時が来た。
「えっと、その・・・私は、ハンバーグじゃないの。キラキラ光る、美味しいハンバーグじゃない。そのおまけの、パセリみたいな英霊で」
【・・・・・・】
リッカは何も答えない。ただ穏やかに、バニヤンが告げる言葉を待っている。バニヤンの決意を、静かに聴き受け止める。
「でも、パセリも美味しいの。皆で食べるハンバーグも、パセリも、凄く美味しい。あのとき食べたハンバーグも、ピザも、パセリも。凄く美味しかった!」
【うん。私も、凄く美味しかったよ】
「うん!だから、その・・・このまま、お別れは嫌だから・・・」
望まれていなくとも、英霊でなくとも。此処にちゃんと、自分はいる。確かな物語として此処にいる。二人から貰ったものは、胸の中に生きている。
「あんまり、役に立たないかもだけど。それでも、私を好きだと言ってくれた人が、私も大好きだから・・・だから・・・」
【・・・・・・】
だからこそ、願いは決まっている。告げるべき願いは、きっともうあるのだ。すぐそこに、すぐ此処に。
「だから・・・御願いします!私も、一緒に連れていってください!」
【──うん!もちろんだよ!バニヤン!】
聖杯を差し出したバニヤンごと、リッカが彼女を抱き寄せた。その言葉と願いを、静かに受け止め。そして受け入れた。
『聖杯としてのバニヤンの機能は無くなっちゃうかもだけど、代わりに其処にあるバニヤンの霊基をそのまま楽園に持ってこれる。どうする?やるかい?』
『ロマニ。それは愚問と言うのよ?』
『うっわぁ!ソロモン王が愚問とか此処にもロジックエラーです!智恵の覇者とはなんだったのか!』
『あれぇ!?此処は『流石ロマンだ、風格もついてきた・・・!』ってなってほしかったなぁ!』
『もうちょっとジョークセンスを磨いた方がいいんじゃないか?・・・まぁそれはともかく』
『酷い!?』
『──お疲れ様、リッカ。やっぱり、君は誰よりも上手くできたな。僕ならたぶん、其所で聖杯に目が眩んだよ』
【ううん!『皆で誰よりも上手くやった』、だよ!カドック!】
『──そうか。・・・そうだな。じゃあ・・・戻ってきなよ。一杯奢らせてくれ』
いよいよ、退去の時が始まる。バニヤンの目を、リッカがそっと閉じる。
【じゃあ行こう、バニヤン!嘘みたいなホントの楽園、正真正銘のフロンティアに!】
「うんっ!──ありがとう、ジャック。ありがとう、ナーサリー!ありがとう、皆──!」
ジョークは冗談であり、実在しないものを面白おかしく囃し立てただけなのかもしれない。
でも、ジョークは必ず『誰かを笑わせたい、楽しませたい』という想いをこね、形にして顕すのだ。それは、美味しいハンバーグをこねて形にするように。
『レイシフト、起動!小説で分かりたくなかったFGOの闇作戦、終了!』
『所長!?リヨ粒子が聖杯に!?』
『・・・よく考えたらあっちの私も生存ルートなのよね。ビデオ摺りきれるくらいに死亡シーン見られてるけど・・・』
そう、だからジョークも、そんなに悪いものではないのだ。要は受け取る相手が、どう受け取るかの話なのだから。
【よーし!じゃあバニヤン!楽園にレッツゴーッ!】
「おーっ!」
好き嫌いしないで、見てみればきっと人生の彩りとなるはず。知らなかった前の自分より、ちょっぴり幸せになれるはず。・・・きっと、物語を紡ぐ全ての人は、『読んでもらえた人の人生』を、『読んでもらう前の人生』より、ちょっぴり幸せに出来るように筆を走らせるのだろう。
そう、それはまさに──ハンバーグに寄り添う、パセリのように。
バニヤン「・・・此処は・・・?」
じゃんぬ「新入りね」
「ひゃあ!?」
「えぇ、顔色が悪いのは自覚しているわ。目付きが悪いのもね。でも慣れて。ほら、こっちよ」
バニヤンの手を取り、くいくいと案内する黒い魔女。バニヤンは不思議に想いながら、なすがままに歩き出す。
「あなたは・・・?」
「店長よ。覚悟なさい。私流のサバト、日本でいうオモテナシの始まりよ・・・!」
バン!と辿り着いた扉を蹴破り──
「一名様!ごあんなーい!」
一同「「「「「「「バニヤン!いらっしゃーい!!」」」」」」」
辿り着いた巨人を祝福する小人達の下へ導く魔女がお送りする──
「御覧なさい!クソみたいなマスター観に疲れきったリッカを癒す為にも作った会心策!その名も!『円卓埋め尽くす大きさのパンケーキ』よ!」
「わぁああ・・・!」
歓迎の大きなパンケーキに、バニヤンは心からの笑みを浮かべた──