人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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シェイクスピア「ほうほう、聞き取りですか!アリバイ、残念ながら吾輩持ち合わせておりませず!」

藤丸「あー、じゃあ・・・ピアノの感想はどうでしたか?」

シェイクスピア「素晴らしいの一言!あれほどの音、情熱の火が燃え上がらぬ筈もなく!」

藤丸「独占したくなったり?」

「しましたとも!そう!きらびやかな黄金ならば当然!なに、『金さえあれば何だってうまくいくさ!』」

「引用と捜査撹乱、ありがとうございました・・・」



M「発見当時?あぁ、シェイクスピアは私より先に部屋にいたね。やはり犯人は彼!!」

藤丸「誘導じゃないですかそれ・・・」

M「ははは、アラフィフのたしなみでね!擦り付けられそうなら自動的に擦り付けちゃうサガなのさ!」

「協力、どうもです・・・!」



女王「音楽家を浚う動機などないが?」

藤丸「あぁいやそうではなく!あなたにピアニストを紹介したのは、ぽっと出黒幕おじさんですよね?」

「──くくっ。そうだ。私にピアニストを紹介したのはぽっと出黒幕おじさんだ。それは覚えている」



藤丸「聞き込みはこんな所かな?師匠達の所に戻ろう!」

(誰も不幸にしない、滅ぼさない戦い。現地の人との、等身大のコミュニケーション!戦うなら、こんな役回りが良かったなぁ)

「・・・なんでオレは、誰かの未来を摘み取らなきゃいけないんだろう。主役になりたいなんて、一回も思った事無いのにな・・・」


旋律の真実

「聞き込み、終わりました!」

 

藤丸がワークを終え、情報を持ち帰還する。即席の夜のティータイムに励んでいたライネスにオルガマリーが、その情報を整理する。

 

「御苦労。ではトリム、私の魔術回路を通して途中演算を送る。私の無意識が重視しているキーワードを拾ってくれ」

 

「器用なのね、ライネス」

 

「細やかで繊細な捜査は私の得意分野だ。推理パートくらい、君も羽根を伸ばすがいい。私達は頭脳労働で貢献してやろう。司馬懿殿から何か?・・・あなたは英霊になってさえ現実主義ですね・・・」

 

『神秘とか知らないから任せる』と一言。自身が神秘まみれになった存在になろうとも、ファンタジーやメルヘンは信じない軍師であった。死者の影など、そんなオカルトあり得ません。

 

「マスター。演算から抽出した結果、忘却、亡霊、疑似サーヴァントが浮かび上がりました」

 

「妙な組み合わせね」

 

「全くだ。確かにサーヴァントは死者ではあるが、英霊として世界に召し上がられた以上、死人の甦りというわけじゃ・・・いや」

 

それだけを告げたライネスが考え込む。無意識の断片だけあり、其処には思い当たる『何故』があったのだろう。推理は、疑うことから始まるのだ。

 

「オルガマリー。我が弟子もだ。君達は音楽家をイメージするとき、誰を挙げる?」

 

「?・・・アマデウス・モーツァルトだけれど」

 

「オレは・・・サリエリ、かな」

 

食い違った認識、稀代の二人の音楽家の羅列。此処に、確かな齟齬とヒントが隠されているとライネスは捜査の糸を伸ばす。

 

「オルガマリーの言う通り、まず候補に上がるのはアマデウスだ。だが、我が弟子はサリエリと答えた。──ピアノの音を聞いて、我が弟子はサリエリと思った。『あの時、何故我が弟子はサリエリだと思ったか』だ・・・、・・・──!そうか!そういう事か!」

 

「え?師匠?え?」

 

「解ったぞ二人とも!付いてきてくれ!」

 

そして答えに至り、走り出すライネス。その背中を、顔を見合わせ追いかける二人。

 

『お手並み拝見と行きましょう?勿体振らない推理は大好きよ』

 

(誰の事かしら、ね)

 

一同の向かう先、そこはピアニストが住むとされるブラッディ・タワーの最上階──

 

 

「よし、襲撃を受けた時のままだな。・・・あのアサシンは自分は犯人ではないと言った。『M』やシェイクスピアにも誘拐する時間は無かっただろう。だから、ピアニストがいる場所はここしかない」

 

そう言いながら、ライネスは襲い掛かってきたオートマタの残骸を調べる。すると、其処には英語で『記憶』と書かれた紙片が所持されていた。おとぎ話のパッチワークにて見つけたものと、同じものだ。

 

「──成る程。疑似サーヴァントの仕組みと同じと言うわけね」

 

「そう言う事だ。人間という器に英霊を憑依させたもの。これもまた同じ理屈だよ」

 

えっと、つまり・・・?いまいちピンとこない普通の脳細胞をしている藤丸に、分かりやすく飲み込みやすいようにライネスが補足と解説を加える。トリックの述懐は推理の華であるからだ。

 

「この人形に、特定の人物の記憶を吹き込む。すると人形は、『その人間として』動くのさ。・・・動いていた、といった方がいいか」

 

「紙片に込められた魔力ね。女王らも知っていた事実なのでしょう。しかし、──皆、忘れてしまっていた。でしょう?M・・・いえ。『ジェームズ・モリアーティ』」

 

Mとして、否・・・モリアーティとしての自己を思い出した・・・後ろをつけていた・・・老人は全てを思い出した。記憶の断片により奪われていた記憶を、取り戻したのだ。

 

「──あぁ、そうだ!そうだった!彼は、『サリエリは、この場ではサーヴァントになれなかった』!風評被害の無い、本来のサリエリがサーヴァントとなるためには霊基が足りなかったのだ!」

 

そう。彼はモーツァルトを殺した一点のみで座に在るもの。──皮肉な事に。モーツァルトのいない彼は、英霊とは認められぬのだ。普通の、一人の人間としての彼では、サーヴァントにはなれず。亡霊のままにさ迷っていた。ロンドンの地を当てもなく。だからこそ──

 

「だから、私は・・・私とシェイクスピアは『サリエリを作ろうとした』!私が立案し、シェイクスピアが綴り、偶然手に入れた紙片で魔力を補って!」

 

「作り上げたサリエリを、あなた達は女王に紹介した。女王は、全て承知していた。・・・──『何故』?」

 

「あぁ、そうだ。何故なんだヨ、麗しき君。『何故、私は忘れていた』?手塩にかけて手掛けたものを、作ろうとしたものを、作ったものを。──あれほどの美しき音楽家の存在を、どうして忘れていられたのだ?」

 

忘れる方も、忘れられる方と同等に辛いのだとモリアーティは言う。どれ程重く、どれ程大切な想い出であろうと、人は容易く忘れてしまう。奪われたのなら尚更だ。そして人は一様に、『無くしてから大切なものの価値に気付く』。

 

「・・・あとは単純な擦り切れだろう。繊細な楽器は、使えば調律をしなければならない。しかし、彼等はピアニストの真実を忘れてしまった。メンテナンスも調律もされない人形は・・・力尽きる瞬間まで演奏し、最後に私達を襲うくらいにまで歯車がズレた」

 

奏でる事を至上とした名器は、やがて錆びれ、崩れ、崇高な意志すら喪い、やがて果てた。何のために、誰のために奏でていたのかすら忘れて。その奮闘と公演を、誰にも思い出されぬままに。

 

「・・・茶番だが、君達には感謝を告げよう。君達がいなければ、茶番に幕すら引けなかった」

 

「『──それほどまでに。あの亡霊さんのピアノは素敵だったのね』?」

 

それを口にしたのはアイリーンだった。彼女もまた、人の心を動かす歌手であり、芸術家だ。だからこそ、あのピアノの価値がどれ程かなど、今更語るまでもないほどに痛感していたのだから。

 

「・・・うん。私はこのパッチワークで、あの亡霊の曲を響かせて見たかった。皆があの曲を聞いて、踊るところを見たかった。・・・ただ、それだけだったんだ」

 

「『美しいということは、ただそれだけで価値がある。善も悪も、美の前には等しい・・・でしょう?』」

 

「そうだとも。君や、君達の様に」

 

解決のため、誰かのために奮闘出来るもの。その心こそ美しい。モリアーティはそういった感情を、決して否定はしなかった。

 

「・・・師匠は、どうして分かったんですか?」

 

「君がサリエリを思い出したからだ。オルガマリーのように、普通ならアマデウスを思い出すことが通例だ。だが君は、復讐者を思い出した」

 

其処には理由がある。それを思い出す理由が、思い出した理由が必ずある。『何故思い出したか』。・・・これもまた、ホワイダニットだとライネスはいう。

 

「君は不完全だと思ったのだろう。アマデウスにサリエリが劣るという話ではない。高レベルの音楽のみが見せる、奏者の『在り方』に。それが、サリエリと同じく。後は単純なパズルだ」

 

忘却は、先のパッチワークで起きた通り。音楽家がサリエリかどうかはともかく、この人形が身体という推察をライネスは打ち立てたのだ。

 

「論理性には欠けるが、そういう推理もあるのだネ」

 

「女の勘をとくと崇めてほしい!・・・さて、この紙片を回収してしまいたいが・・・」

 

ライネスが手に取らんとした紙片。──その時だった。オルガマリーが素早く、ライネスと藤丸の前に立つ。

 

「来るわよ。──二度目ね、女神」

 

「──えぇ。その様子だと、裁定を受ける覚悟は出来ておりますのね?」

 

ゆっくりと歩み寄る女神、アストライア。一度目の警告は終えた。ならば、次に訪れるのは。

 

「ならば、私の裁定を受けていただきます」

 

「御断りよ。──私を決め、見定めていいのはこの世界で一人だけ。それは、貴女じゃないわ」

 

神に向け、銃を突き付ける。ライネスと藤丸は、十二分に役割を果たした。ならば次は──

 

「さっさと失せなさい、ベイビー」

 

己が引き金を引く番である。アイリーン・アドラーなる少女は、神殺しの決意を固めトリガーに指をかける──




アストライア「大きく出ましたわね。お名前を御伺いしても?」

オルガマリー「アイリーン・アドラー。この世で最も聡明で麗しい、あのホームズを完敗させた女よ。以後、お見知りおきを」

アイリーン『お、オペラ歌手よ・・・オペラ歌手が本業なの・・・良かったら聞きにきてね・・・』

モリアーティ「はぁあぁあぁあぁあ!!?」

ライネス「名乗ってなかったか、そう言えば・・・」

藤丸「じゃなくて!アイリーン所長!ダメです!相手は神様なんです!いくらアイリーンさんが神代魔術やパンクラチオンを極めた女傑だとしても──!」

モリアーティ「ワトソン!アイリーンに何を盛っているのかネ!?」

ロマン『あぁ!やっと繋がった!って!どういう状況!?』

ダ・ヴィンチちゃん『おぉい!?私の最高の弟子が神に銃を向けてるじゃないか!カッコいいぞ~!撮影だ!撮影だロマニ!』

アストライア「宜しい。ならばこの手袋を──」

騒がしい中、戦いが巻き起ころうとしたその瞬間──

???「──お待たせしました!ライネスさん!」

間に割って入り、鎌を振るうフードを被った灰色の少女がアストライアを阻む。

アストライア「ッ!なんですの・・・!?」

鎌『決闘なんぞ酔狂だと来てみればやっぱルヴィアだったか!イヒヒッ、邪魔するぜぇ!』

ライネス「グレイ!グレイなのか!?」

オルガマリー「藤丸君!」

藤丸「!──うぉおぉお今だぁあぁ!!!」

謎の少女の介入に混乱が起きた瞬間──藤丸が、記憶の断片を確保したその時。


獅子王『──お前達が私を否定するなら、私もお前達を否定するまで──』

藤丸「・・・!」

新たな記憶が、藤丸の魂に取り戻される──

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