人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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ライネス「お?ちょうどパレードの時間なのか?」

藤丸「うわぁ、蒸気騎馬が一杯だ!凄いぞ、ギアホースだ!カッコいいー!」

グレイ「藤丸さん!蒸気の馬車です!」

藤丸「カッコいいー!!・・・あれ、もしかして・・・」

市民「王様が来たぞ!」

市民「蒸気の王!我等が王だ!」

バベッジ「民よ、安じているか!我が栄光ある蒸気機関の力は、全て汝らの為に!我こそは蒸気の王!灰塵と鋼を纏う紳士!そう、このチャールズ・バベッジはいつも汝らと共にあろう!」

「「「「「誉れ高き蒸気の王!チャールズ・バベッジに栄光あれ!!」」」」」

ライネス「・・・間違いなく紙片の関係者だな。天才数学者、名高き蒸気王。・・・さて、オルガマリーはうまくやるかな?」

グレイ「オルガマリーさん。あんなに大きくなって・・・」

ライネス「別世界らしいが、変わらず接してやれ。パレードが終わり次第、蒸気の城に行けと言われている。──どう約束を取り付けるのか、お手並み拝見と行こうじゃないか・・・」



叶ってはならぬ夢

「あり得ない世界ね、此処は」

 

『あり得ない・・・?珍しいわね。あなたが物事を頭ごなしに否定するなんて』

 

路地裏の狭間、静かに大路地で起きる蒸気王が引き起こすパレード。絢爛なる蒸気世界における王、チャールズ・バベッジを一目見たオルガマリーが結論を下す。此処は、あり得ない世界。一目で理解して然るべき、歪められ捻れた世界であると。

 

『結論と推察に至った考え、聞いてもいい?私、推理はそんなに得意ではないの。何故、この都市は有り得ないのかしら』

 

誰もが笑顔で、誰もが幸福に満ち、そしてそれを支える王がいる。見るからに磐石で、見るからに幸福な都市であることは明白だ。それの、何が有り得ないというのか。──オルガマリーは口にする。この至上の楽園は、王が夢見た有り得ざる夢であると。

 

「チャールズ・バベッジ。コンピューターの父とまで言われた聡明にして賢明なる数学者。誇り高き蒸気王。彼の宝具は彼の鎧そのもの。有り得たであろう蒸気世界の名残を鎧として纏う、固有結界なの。──それは、彼が夢見た世界が『実現しなかった』からこそ宝具として成立するもの。だからこそ、彼は有り得ざる蒸気王として楽園に招かれている。──でも、今彼は現に王として君臨している。蒸気王として、実現しなかった蒸気世界の名残を纏いながら」

 

それは致命的な矛盾だ。『実現しなかった夢』を纏ったバベッジが、『夢見た蒸気世界』に王として君臨している。それは彼と言うサーヴァントの根底を覆すロジックエラー。『夢』と『現実』は決して同居しない。『現実』が『夢』を折るか、『夢』が『現実』を乗り越えるか。そのどちらかしか有り得ないのだ。

 

「第四特異点、ロンドンでバベッジ氏は同じ事態に直面したわ。自らの蒸気機関を組み込んだ聖杯搭載機関アングルボダ。自らの夢見た蒸気世界の顕現の足掛かりとも言える特異点。でも、彼はそれを良しとせず、理性と誇りを以て事態を解決しようと立ち向かった」

 

フランケンシュタインの作り出したイブを娘として庇護し、己の意志ある限り狂い果てた歴史に立ち向かった。正しき歴史の英雄として、有り得なかった世界を、夢の実現を否と断じて。

 

「正しき人理の英雄として、人理焼却の最中ですら汎人類史の為に尽力した彼がこの世界を心から望むとは考えられない。彼が望み、実現したいと願った世界や国が間違っている事自体を誰よりも認識しているのは、間違いなくバベッジ氏自身なのだから」

 

それを先の調査と町の散策でオルガマリーは素早く察知し、結論を出した。この世界の成り立ちそのものが間違っている。──チャールズ・バベッジの世界を、夢を利用した、悪辣なパッチワークであるのだと彼女は断じたのだ。

 

『真剣ね。推理、ライネスちゃんに任せると言っていたあなたが此処まで理論を組み立てるなんて』

 

彼女は藤丸が眠っている狭間に、粗方の調査を終わらせていた。隅々まで行き届いた夢の実現だった。あらゆるものが蒸気にて動き、数多のものが蒸気にて生成される。礼賛する民達、産み出される幸福。それは一人の英雄の夢をこれ以上なく甘美に再現し、これ以上なく──悪辣に利用していたものだったのだ。叶えたかった夢で現実を歪め、在るべき世界の幸福を無かった事にする。在るべき世界を、行き止まりの幸福で潰す。その誰も幸せにならない、幸せにできない手段に・・・オルガマリーには思うところがあったのだ。

 

「悪党ならばそれで構わないわ。倒した時に良心が痛まないから。野蛮な犯罪者ならそれでもいいわ。罪を償わせるだけだから。──でもね、アイリーン」

 

『・・・』

 

「人の願いや夢、尊い想いを利用し、踏みにじる者を私は絶対に赦さないわ。『あなたの夢を叶えました。これがあなたの望みでしょう?』だなんて、解った様な口を利いて人の心を弄ぶ者を、私は存在を赦さない」

 

甘い夢は誰でも見る。望みの世界や願いは誰でも抱く。だが、それを利用し悪用する様な輩は悪党ですらない。ただの外道なのだ。この世界に、踏みにじられていい想いや願いなど何処にもない。

 

「チャールズ・バベッジの夢を、これ以上辱しめられる訳にはいかないわ。この甘い夢(ナイトメア)を、一刻も早く終わらせないと」

 

チャールズ・バベッジは確かに夢の世界の実現を夢見た。だが決して、今まで発展した世界を否定はしていない。彼は自分の夢と同じくらいに、人類の発展を愛していたのだ。ロンドンの特異点で、楽園に力を貸してくれた理由は、まさにその矜持の発露に他ならなかったのだから。

 

『──良かった。ジェームズに教えを受けても、あなたはちゃんといい子なのね』

 

「私だってリッカと同じよ。姫様とギルの想いと言葉を胸に生きている。──誰かの大切なものを、利用されるのが赦せないの」

 

尊重しているからこそ、戦う事を躊躇わない。自分の譲れない想いがあるならば対立する。護るために戦う。それもまた、立派な尊重なのだ。

 

「だから──今回は私も解決に尽力したいの。こんな風にね」

 

姿勢を正し、ゆっくりと歩みを進めやって来た威風堂々たる存在に目を伏せ、敬意を示す。其処には、漆黒の女王が立っていた。

 

「『M』から事情は聞いている。事件を見事に解決したようだな、アイリーン・アドラー。──オペラ歌手にしておくには余りに惜しい人材だ」

 

「人類が産み出した至高の女傑。そうお見知りおきください、陛下」

 

『あわわ・・・』

 

「フッ。次はその歌声を聴かせるがいい。──女王として、お前に褒美を与えにやってきた。なんなりと申し付けるがいい。大抵の事は叶えてやろう」

 

その言葉と同時に、オルガマリーは告げる。次なる方針、決め手となる女王の一手を手に入れる。

 

「蒸気王との謁見をお願いいたします。女王が自ら褒美の為に足労するとはあまりに気前が良すぎます。──下賜はあくまでついで。あなたの遠出の本懐は、蒸気王との謁見では無いでしょうか?」

 

「──つくづく有能なオペラ歌手だな。そうだ、ちょうど私は蒸気王に会いに行くつもりだった。ついてくるがいい。私抱えの歌手として連れて行ってやる」

 

「私の愉快なファン達もよろしいでしょうか?」

 

「構わん。お前達はどうやら、新鮮な楽しみを持ってくる星の巡りなようだ。傍に置いて損はあるまい」

 

楽しげに笑い、竜の闊歩がごとき足取りで歩む女王を見送り、ライネスに念話で旨を伝える。

 

「えぇ、蒸気王と謁見できるわ。蒸気の城に向かって頂戴。・・・どうやったかって?オペラ歌手になれば、王のお気に入りになるくらい造作もないのよ。私を誰だと思っているの?アイリーン・アドラーよ、ふふっ」

 

納得させ、歩き出すオルガマリー。──ネームバリューを利用してばかりなので、きちんとフォローも欠かさない。

 

「アイリーン。色々あなたの名前と霊基に箔を付けるために異名や功績をあなたに渡しているけれど、あなたが出来ない事があるだなんて悩む必要は全然無いのよ」

 

『え、えっ?・・・パンクラチオンも神代魔術も固有結界も出来ないのよ、私・・・?』

 

「いいえ、あなたは出来るわ。だって、私とあなたは一心同体。『オルガマリー(わたし)が出来る事は全部、アイリーン(あなた)が出来る事』なのよ」

 

最初から、オルガマリーはアイリーンを分けて考えてなどいなかった。自分に力を貸し、霊基を託し、宝具を使ってくれる相棒。自身の半身。だからこそ、彼女は自分の出来ることをアイリーンの名前で披露した。『あなたはもう、自分と同じ存在だから』と、オルガマリーは考えていたからである。

 

『オルガマリー・・・』

 

「・・・わ、分かりにくかったかしら。でも、本心よ。だから何も出来ないなんて言わないで。私だってオペラは歌えないもの。アイリーンとして、オルガマリーとして。出来るところと出来ないところを共有していきましょう、相棒?」

 

『──えぇ!そういう事なら・・・オルガマリーはオペラの天才だものね!』

 

「・・・発声練習からお願いするわ・・・」

 

オルガマリーは、最初から。アイリーンに自分の研鑽を預けていたのだった。・・・アイリーン・アドラーの偉業と伝説は、これからも増えていく。其処には、もしかしたら・・・

 

──『アイリーン・アドラーはこんなにも凄いのよ』という、彼女なりの自慢の気持ちの表れだったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 




蒸気の城

バベッジ「いらっしゃいましたか、女王」

女王「ごきげんよう、蒸気王。こちらが我が抱えのオペラ歌手に、事件を解決した物解き屋だ」

ライネス(いつの間にか御抱えられてるじゃないかあいつ!)

『いえーい。ジェームズ、ホームズ見てる~?』


バベッジ「・・・うむ。我が運命がやって来たか。この、『有り得ない国』に引導を渡す者が」

ライネス「どういう事です?」

「・・・積年の悩みを、此処に告白しよう」

チャールズ・バベッジは告げた。夢の結実と己のサーヴァントとしての矛盾を。それは、オルガマリーが告げた言葉と寸分違わぬものだった。

「この世界でどれだけ我が歓喜したか。我が胸が高鳴ったか。・・・だが、それは有り得ない。『あり得ない未来、叶わぬ夢で現実を否定することは赦されぬのだ』。いかに美しかろうと、いかに望んだものであろうと。正しき現実を潰してはならぬのだ。故に破壊する。我が願いが、未来に生まれる貴様らの道を阻むならば、この手で」 

藤丸「!!」

バベッジ「未来に生きる貴様らの存在。それに勝る過去の念など存在しない。お前達の歩みは、お前達の栄光なのだから」

ライネス「・・・あなたに心からの敬意を、蒸気王」

オルガマリー「あなたの生きた国の子孫として、その志を誇りに思います」

「そういってくれるか。女魔術師、麗しき歌手よ。ありがとう」

?「──話は纏まりましたわね。それでは、あなた達が戦うべき場所へと案内致します」

藤丸「!アストライア・・・!」

アストライア「ごきげんよう。パッチワークの仕組みは分かりまして?みな記憶が欠けておりますわ。私も同じく。だから私は、ロンドンのパッチワークで紙片を集めておりましたの。皆が欠けているなら、優れた価値のものが満たされた方が世界は美しく回りますもの」

オルガマリー「傲慢ね。──どんなに困難でも、奪われた全てを取り戻す。それが私の戦いよ」

アストライア「・・・あなたたちはともかく。アイリーン・アドラー。あなたには資格がありますわ。皆が等しく欠ける中、正しき答えを掴む資格が」

オルガマリー「光栄ね。──案内していただきましょうか。パッチワークの紙片の下へ。・・・さぁ、次はあなたたちの番よ。ライネス」

ライネス「解っている。やるぞグレイ、弟子!オルガマリーのスタンドプレイ等認めるものか!」

藤丸「はい!やろう、グレイ!」

グレイ「頑張ります!任せてください・・・!」

アストライアの導きにより、一同は彼女が見つけた蒸気機関の中枢へと向かう──

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