人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
藤丸「とある、可能性?」
「何しろ我はこの身体だ。くわえて我が生前作り上げたのは計算機のプロトタイプでな。つまり・・・私が何かを忘れていた場合、なんらかのサブシステムを組んだだろう」
ライネス「なるほど、バックアップか・・・!」
バベッジ「技術者として基本中の基本である。我も当然、そうするという訳だ」
アストライア「サブシステムの場所は、先んじてケリィに探索させて判明済みです。ついていらっしゃい」
藤丸「何が、待っているんだろう・・・」
グレイ「何がいようとも、御守りします。おまかせください、マスター」
ライネス「そういう事だ。じゃあ行こう。鬼が出るか邪が出るか、だ!」
「辿り着きましたわ。ここが、蒸気城の中心ですわ」
隠し扉を開き、隠されていた中心へと招かれる。不可解な機械、計測器。それらに覆われた中心にて稼働する機械を目にし、ライネスが声をあげる。
「これは・・・!?どういう事だ・・・!?」
辿り着いたサブシステム。パッチワークの中枢、この偽りの都市を形作る心臓にして中核。一同が辿り着き、目にしたものは超巨大な蒸気機関。猛烈な稼働効率を見せ、手当たり次第に『あるもの』を吸収し、エネルギーへと変換し胎動を続けている。
『『『『───!!』』』』
「亡霊どもが、巨大な蒸気機関に吸われている・・・」
辺りを漂う亡霊達。それらが頼りない虚像として無作為に蒸気機関に吸われ、取り込まれていく。それらはまるで補食の様だ。亡霊を喰らい、魔力を生成しているという体を取った・・・蒸気機関とは似て非なる恐ろしくもおぞましい機関であったのだ。
「魔力、亡霊から蒸気機関に移動しています。あの空虚な亡霊は、此処から・・・」
『ごめんなさい、マリー。私もうっかりすると巻き込まれるかもだから・・・』
「気にしないで。・・・でも、口が裂けてもこれは蒸気機関なんて呼べないわね・・・」
アイリーンを庇護しながら、オルガマリーが眉を潜める。亡霊であれ、他者を食い物にしエネルギーを得る機関などかの高潔なチャールズ・バベッジが求めよう筈がない。亡霊は生者から産み出される。冥界の女神が尊重するように、刻み込まれた記憶であろうとそれはかつて在ったモノなのだ。より良き未来と発展を。多数の人間の幸福を願うものから生まれた機械が、そんな人々を喰らう悪魔の道具を作る筈がない。──歪んだ夢の結実の元手だった。そして、トリムの調査が更なる事実を暴く。
『マスター、計測結果を報告します。あの機関に紙片が組み込まれていた形跡を発見しました』
「紙片・・・回収だと・・・!?じゃあ元々は紙片はあの機械の中枢で、あの亡霊は紙片が失われた事による代わりだと言うのか・・・、ッ!?」
推測を展開すると同時に、機関が更なる驚愕を生成する。魔力を吸われた亡霊に、はち切れんばかりの蒸気が注入される。すると青白い亡霊が、蒸気と魂を掛け合わせたような霞がごとき様相へと姿を変え、ライネス達へと襲い来る。
『『『──!!!』』』
「グレイ、頼む!」
「承知しました、マスター!」
産み出され、迫り来る蒸気亡霊からライネスを守護するため、弟子と墓守コンビが真っ正面から相対する。魔力をマスターとして懸命に送り、それを受けたグレイがアッドを鎌に展開し躍り出る。
「はぁっ──!」
数は3、真正面から襲い来る蒸気亡霊の一体に狙いを定めたグレイが素早くスライディングにて背後を取り、背後から亡霊を一刀両断する。振りかぶる二体目の亡霊の爪の攻撃を背面に鎌を回し受け止め、弾きカチ上げた後に振り向き様に首を落とす。三体目の蒸気亡霊は蒸気の弾丸を放ち距離を取らんと画策したが、それらを弾き落とし、すかさず鎌を投げ付けたグレイの機転により、真っ二つに両断される。素早く鎌を拾い上げ、藤丸の眼前へと帰還する。
「む!・・・オルガマリー!あそこに原初のコンピューター、階差機関が組み込まれている!あれが恐らく、バベッジのサブシステムだ!」
過剰生成のツケか、或いは侵入者対策の非常停止か。一端動きを止めた機関から、バベッジが手掛けたとされる機関が姿を見せる。
「回収するわ。・・・紙片を回収した人物が記録されているわ。展開するわね」
オルガマリーの手により解析、情報が投射される。以前であろう情報記録に映る人物。蒸気機関から紙片を抜き取った人物は、一同がよく知る人物だった。長髪、そしてスーツに煙草を咥える・・・
「兄上・・・?──いや、待てよ。そもそもここに記憶の紙片があったということは・・・!」
「──『記憶をエネルギーとして消費している』と言うことかしら」
「あぁ、くそ!そうだ!バベッジ卿が忘れていたのはこれだ!順序が逆だ、記憶を奪ったのはあくまで手段、前段階だ!ここを作り上げた何者かは、『エネルギーの手段として記憶を奪ったんだ!』」
魔術において、情報とはエネルギーである。魔術式や呪文で、魔術は制御される。制御という術式を組み込み、支配するのだ。こういった魔術の根幹に当たるエネルギーを集めれば使い道はまさに無限に考えられるだろう。黒幕が、記憶をエネルギーとして使用することを考案し・・・
「異様に記憶のエネルギー変換効率を高め、特異点の生成要素に変えていたのだとしたら・・・」
「そうだ。死者の記憶、生者の記憶。本来ならエネルギー規模としては大したものじゃない。本来なら蒸気機関を動かす程の魔力など作れない。だが、『この特異点は特別』なんだ。記憶のエネルギーが、エーテルより効率がいいのだと仮定すれば・・・!グレイ、今まで戦った死霊の質はどうだった!?」
「はい、ライネスさん。・・・ロンドン塔の亡霊もそうでしたが、ここの死霊からは異様な魔力濃度を感じます。あの紙片からも・・・」
「くそっ!だったら兄上が襲われた理由なんて明白だ!私としたことが、弟子達と行く旅行気分で見落としたものが多すぎる!」
瞬間、オルガマリーとトリムが同時に振り返る。──逆探知のアプローチを、把握したのだ。
『逆探知を感知しました』
「ここのサブシステムはバベッジ卿と連動、独立して稼働しているのは明白ね。・・・エルメロイ二世を追っていたのも、エネルギーとして記憶の紙片を求めての事かしら」
「そのようだ、あれはあり得ない蒸気機関のオートマタだ!つまりこのパッチワークの産物であり、規格が違うのはサブシステムの規格のせいだ!今の逆探知からして、またオートマタが動き出す筈だ!」
となれば、集合住宅に残るエルメロイを取り巻いていたオートマタが動き出す筈だ。──先の紙片を回収した人物から、紙片を奪い返す為に。
「こうしてはいられない!集合住宅に戻るぞ!先の逆探知を受けて、全員が動き出す筈だ!兄上が近くに保管していた紙片を奪いに!」
初めから、スタートとゴールは同じ場所にあったのだ。最初から、エルメロイの握る情報と紙片が全ての鍵を握っていた。物語の様相は、更なる舞台へと移っていく。
「面白くなってきましたわね」
その推理を後ろから見ていたアストライアが、一同に声をかける。ようやく自らの裁定が振るわれるに値する真相を見つけた事への所感、或いは独り言。
「それでは、集合住宅にてお会い致しましょう。紙片はあちらにあるのでしょう?・・・アイリーン・アドラー。あなたはあの紙片を回収するに足るもの。煉獄へと至ったあの地へ、脚を踏み入れる覚悟はありまして?」
「問われる迄もないわ。──先に行くわね」
オルガマリーは転移魔術を使い、魔法陣を通り集合住宅へと先に参ずる。ライネス達を置いていったのは、【一足先に行かねば足の踏み場も無い】からだ。
「あ、待てオルガマリー!せめて弟子とグレイを──あぁもう!即断即決のなんて早いロードだ!全く!」
「私もすぐに向かいますが、どうなさいます?死地に飛び込むと言うなら、連れていって差し上げますが」
「無論行く!此処まで来たんだ、今更犠牲なんて容認できるか!覚悟を決めろ、二人とも!」
「勿論です!やろう、グレイ!」
「はい!」
アストライアに連れられ、蒸気機関から飛び立ち集合住宅に向かうライネス一行。──最後の紙片を巡る、最終舞台の幕が上がる──
集合住宅【だった場所】
亡霊【【【【【───!!!!!!】】】】】
オートマタ『『『『『『──────!!』』』』』』
ロンドンの都市は、もうどこにも無い。辺りは紅蓮の炎に覆われ、燃え盛る大地をオートマタに亡霊が闊歩する。
オルガマリー「謎解きはライネスに任せた。──なら私は、塵掃除を先にしておかないとね」
アイリーン『大変な有り様ね・・・もうロンドンの地形が影も形も無い・・・』
「──最後の紙片。それを藤丸君が回収するという事態を『避けれれば良し』。・・・あるいは、回収しなければならない仕組みなら──」
【【【【!!!】】】】
『『『『───!!』』』』
「どちらにせよ、最後の紙片を回収しなくちゃ始まらないと言うことね。準備はいいかしら、アイリーン?」
『勿論。あなたが行く場所が、私のオペラ会場よ』
「ふふっ──それでは、ショータイムと行きましょうか・・・!」