人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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グレイ「しーしょう♪しーしょう♪」

藤丸「御機嫌だね、グレイ」

グレイ「はい!師匠が無事で何よりで、皆様がこうやって揃ったのです!拙はそれだけで、嬉しさがもりもりです!」

藤丸(かわいい・・・ハッ!?大丈夫、大丈夫だ・・・マシュの気持ちは揺らがない。大丈夫、大丈夫だ・・・)

オルガマリー「慕われているようね、彼」

ライネス「弟子、というのはそういうものなのだろうな。兄上もグレイには全幅の信頼をおいている。・・・よし、私も師匠らしく、弟子をからかってやろうか」

オルガマリー「確かに、それは言えてるわね」



モリアーティ「はい、今日の授業はここまで。何か質問、あるかな?」

オルガマリー「はいお父さ、──あっ・・・」

モリアーティ「」

「ご、ごめんなさい。間違えました、今のなし!教授・・・教授?」

「」

「・・・死んでる・・・」



オルガマリー「弟子に慕われると、師匠は死ぬわよね」

ライネス「いやそこまでじゃないだろう!?」


死んだふり孔明、生ける仲達をパシらす

「・・・なるほど、そういった事情か。確かに、我の考察とも辻褄は合う」

 

時と場所を移し、一行がやって来たのは蒸気の城。偉大なる蒸気の王、チャールズ・バベッジに記憶の紙片を渡し、解析を要請しにやってきたところである。エルメロイ二世の分析では追いきれぬ部分まで、踏み込んだ解析を行うには彼の力が不可欠であった。

 

「この紙片についても、ある程度分析はできた。確かに、エルメロイ二世が言う効用があるらしい」

 

「流石です蒸気王!ロボットだから、出来たこと!」

 

「少年、出来て当然の事をして褒められる道理はあるまい。加えて、黒幕に繋がる手掛かりになりそうだが・・・こちらはもう少し時間がかかる。我が城の部屋を提供する故、待っていただきたい」

 

異論を唱える者はいなかった。蒸気王の奮闘と助力に感謝こそすれ、悪態と催促を行うような恥知らずはこのメンバーの中には一人もいない、という事である。此処は束の間の休息、といった局面なのだろう。敵の行いを見破り、討ち果たすための最後の、だ。

 

「仕方ありませんわ。そして今のうちに確認したいことがあるのですけど」

 

そんな折、アストライアが意見を挙げた。彼女は気にかかったのだ。この記憶を巡る事件における『何故』が。

 

「何故藤丸に、偽りの記憶を吹き込む必要があったのでしょう?」

 

「この紙片を取り込みかけた者なら分かるかもしれない。その際、特定の誰かや何かに記憶が影響されなかったか?」

 

「・・・多少ね」

 

オルガマリーがその推察に頷く。姿は見えずとも、その声には聞き覚え・・・いや、最早親の声よりずっとずっと聞き及んだ事がある声音だ。それは、自らの礼装と技術を作り上げ、育ててくれた万能の天才の──

 

「あなたはいかがですの?エルメロイ二世。推理の一つでも開陳していただけません?」

 

「・・・改めてその顔で言われると、どうもな。一応、仮説はある」

 

「仮説段階で話す気はない、とかどこぞの探偵みたいな事でも仰有るつもり?」

 

思わずオルガマリー・・・正確には中のアイリーンが噴き出す事を、正しい意味での失笑を抑えきれ無かった。妙な所であの人の、妙な悪癖だけが知れ渡っている事への失笑だ。オルガマリーもそれに影響され、ハムスターみたいに頬を膨らませた笑いを堪える表情になったのを見たのは、たまたま耳聡く感覚が鋭いグレイだけであった。ギャップのあまりの違いにグレイ自身も大層驚いたのは無理もない。

 

「私は魔術師であり、探偵ではないよ。だから言ってしまうが・・・この行為には敵性より、【憐憫】に近い何かを感じる」

 

「──え、と。拙達を憐れんでいるという事でしょうか?」

 

「「・・・!」」

 

藤丸、そしてオルガマリーが同時に顔をしかめた。その感情は、その情念は、今を生きた二人にとって決して無視できないもの。最も人類を殺戮した、恐ろしくも美しき感情であったからだ。

 

「あくまで印象の問題だがね。必ずしも悪意だけが、人を傷つける訳じゃない。むしろ善意だからこそ、傷つける事を躊躇しない。そんな事だってあるさ」

 

それは宗教や戦争にも通じる概念だ。人が最も残酷になる瞬間は悪を為している時ではない。オルガマリーやモリアーティはその極致だが、悪こそ美学や形式、言ってしまえばロマンやルールを遵守する。そして、何よりもケアレスミス・・・計算違いを嫌悪する。無用な殺害や被害などもっての外だ。何故ならば、悪には悪であるという自覚と、ある意味での自負がある。計算に必要な被害や破壊には微塵も頓着しないが、計算に不必要な破壊や殺戮は断じて行わない。悪には『理性』と『叡智』がなければならないからであり、それが非道と美学を分ける、言ってしまえばポリシーやロマンの有無から生まれる鮮烈さや人を惹き付ける魅力が介在するかの分かれ目だからだ。

 

ならば人が最も残酷になるのはいつか。それは自分が正しいと確信した瞬間である。正義に陶酔し、自らの行為を自らが罰しない、咎めない。宗教戦争、民族浄化、テロリズム、クーデター。それらは全て正義の名の下に行われる行為である。とりわけそれが『相手の為』という大義名分を得れば最早止められる者は何もない。正義と悪は表裏一体ではない。悪はある意味で己自身の美学の追及。ならば正義の反対に位置するものは何か。

 

 

『オルガマリー君。忘れないでくれたまえ。正義の向こう側にあるものは『別の正義』であり『寛容』なのだ。悪はいつだって、ある意味で正義が勝つ事を祈っている。世界の輝きを信じ、自らを糾弾する心の正しさを求めるのが悪なのだ。ならば正義を否定する要因は何か?それはね、その正義と相反する『別の正義』なのサ。約束の地、エルサレムが誰もの約束の地となった事は無いだろう?──正義は互いを赦さないのだよ。何故なら、不寛容と無慈悲を備えなければ、正義は正義を貫けないからネ』

 

 

「・・・よく解っている事ね。ロードの名を名乗るに相応しい見識と博識よ」

 

「お褒めに預り光栄だ。ロード・アニムスフィア」

 

「じゃあ二世を付けるのを止めるわね」

 

「それは飛躍しすぎだ!まだこの名前は重すぎる・・・!」

 

屈託の無い称賛と、自慢気な表情が皮肉にもあの時高笑いしていた青服の初代エルメロイに似ていたので釘をブッ刺しておく。頭のいいお話は此処まで。休息に入るのだが・・・

 

「あ、だったら師匠。髪を梳かせてください!」

 

「んん!?」

 

グレイ、突然の世話焼きタイム。弟子にズブズブに依存しきっていたエルメロイ二世の関係が此処で明らかとなった。弟子の死角からの善意にて、だ。

 

「だってあまりにもボサボサです。サーヴァントでも、身嗜みは整えないといけません」

 

「ほーう?くくく、いつものペースに戻ってきたな。ついでに靴も磨いてもらうといい」

 

「・・・師匠、もしかしてエルメロイ二世さんって・・・」

 

「御覧の通りさ。カルデアではどうか知らんが、我が兄は他人に頼り出すとズブズブでな。時計塔では寝起きから髪のブラッシングまで、グレイがいないとろくに成り立たない有り様でねぇ」

 

困った兄だよ、全く。此処だけみればしっかりものの妹の憂いだがまぁ実際面白がっているだけである。

 

「それはそれは良い御身分ですことロード・エルメロイ。そう言えば前身のアーチボルト卿も自らの箔付けの為に妻連れで聖杯戦争に名乗りを挙げた自信家でしたわ。そういった気品や風格を身に付けておられるようで何よりです」

 

「ご、誤解だ!止めないかライネス!グレイも止めろ、私の手を引っ張るな!」

 

「ふふふ、揉みくちゃにされてしまえよ兄上・・・あ、そうか!分かったぞ!」

 

「師匠のだらしなさがでしょうか?」

「師匠の意地悪ぶりがでしょうか!」

 

「「違う!」」

 

「──エルメロイ二世さんの無茶と単独作戦の失敗が、縁を辿ってライネスやグレイを召喚した、という事ね」

 

「・・・──まあ、その、なんだ・・・」

 

各方面からフルボッコにされ続けるエルメロイ二世。その最後の奇策のきっかけが自らのしくじりという事実。それをよりによってライネスに思い出された事に、二世は沈黙する他無かった・・・。




藤丸「どういう事です?」

ライネス「簡単だ。失敗しなければそもそも死んだりしないだろう。ロード・エルメロイでありながら!」

オルガマリー「二つの霊基がある、なんて軽々しく口にしたけれど、相棒を引き剥がすのが生易しい筈がない。文字通り我が身を引き裂く苦渋の決断だった筈よ」

アイリーン『マリー・・・』

ライネス「それで死んでもおかしくない。なのに決行したのは追い詰められていたからさ。まず死ぬなら、僅かな生存に懸ける手段を選んだんだろう、兄上?」

エルメロイ二世「間違いでは、ないが・・・」

オルガマリー「・・・言われてみれば。召喚されたサーヴァントは偏りがあるわね。グレイ、ライネス、ルヴィアさん。あなたと縁が深い者ばかり。・・・孔明が残した模範的なる軍師の書。EX宝具、『出師表』を適用し、疑似としてサーヴァントを作り上げたのね」

「・・・君達が敵でなくて良かったよ。そうだとも、この場合、特異点で召喚されるだけの形を彼女らに与えてしまった」

「成る程。エルメロイ二世と孔明・・・それに近しい形態を取らせたから私と司馬懿か。考えてみれば単純だ。そして孔明がいない現状を、私がエルメロイ二世と思い込む事で回避させた」

オルガマリー「全力ダッシュさせられたわね、司馬懿殿?」

ライネス「全くだ。よくも尻拭いに使ってくれたな・・・!」

「・・・その・・・申し訳ない。まさか君達が召喚されるとは・・・」

ライネス「まったく。他人に頼るのは普段嫌がるくせに、本当にどうしようもなければ躊躇いない。まぁ・・・そんな土壇場で頼ってこない薄情ものはもっと御免だがね」

藤丸「困難には助け合い!大事ですよね!」

ライネス「さて、話をしていたら頭が疲れた。──オルガマリー、付き合ってくれるか?ティータイムと行こうじゃないか」

オルガマリー「えぇ、喜んで」

孔明「では・・・藤丸。私も君に話すことがある。少し時間をもらえるか」

藤丸「あ、はい!」

今度こそ疑問が解かれ、一同はそれぞれの時間を過ごす──。

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