人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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『オルガマリーから送られた報告書』

──凄いです!あれだけの活躍を行いながら、報告や連絡に一切の手抜かりが無いなんて・・・! 

AIエレシュキガル『オルガマリーの仲間はアイリーンだけでは無いのだわ?ちゃーんと、彼女は私に逐一連絡を通してくれてる。LINEをし合う仲なのだわ!』

《細々とした気遣いを忘れぬは佳き女の条件よ。自らの研鑽と他者への配慮を忘れた瞬間に人間は腐るのだからな。──フッ、かつてのエアの見立て、まこと慧眼と呼ぶ他あるまい。善き拾い物をしたものだ》

──御言葉ですが、ギル。ワタシは彼女が此処までの進化をすると見越した訳ではありません。ワタシの予測はずーっと前に覆されています!(フンスッ)

フォウ(あっ──)

──此処まで立派になったのは、紛れもなくオルガマリーちゃんの努力と成長!ギルのお役に立ちたいという尊き感情のタマモノですよ!帰ってきたらフォウスタンプとバターケーキを差し上げなくちゃ!

《ふはは!──始まりは退屈かと思えば。今改めて、我等の始まりにすら財の宝庫であったとはな──》

フォウ(危なかった・・・致命傷でなんとかなった・・・)

《いや、死んでいるではないか珍獣》


ロード御茶会・エレガンツ

「ほう、珈琲も悪くないじゃないか。いや、これは君の手腕あっての事かな?」

 

「私と言うより、日本のレジェンド・サムライのワザマエよ。日本は繊細さにおいて最強だもの。あなたの紅茶も、素晴らしい味わいよ」

 

「そうだろう?何せ私のとっておきだからな。君でいう、最高の豆というやつさ」

 

テラスにて、二人きりの御茶会を行う二人のロード。蒸気機関ロンドン等という滅多に見れるものではないそれを一望しながら、互いの嗜好の品を飲み交わし合う。珈琲の甘みと味わいに舌を唸らせるライネスに、紅茶の爽やかな酸味を堪能するオルガマリー。・・・かつて遠い過去、二人で行った御茶会の記憶の再演に、奇しくも相成ったと言えるだろう。お互い、大きくはなったが。

 

「・・・。礼を言わせてもらうよ、オルガマリー」

 

「?無償の恩なんて性質の悪いもの、売った覚えはないけれど」

 

「いや、立ち振舞いがきっかけや奮起、或いは救いになることもある。・・・今回の事件の話だよ。正直なところ、君や弟子がいなかったら・・・私は兄上が死んだ段階で詰んでいた」

 

大切な人の死、突然の別れ。覚悟をしているつもりであっても、相対し死体と対面するのではまるで違う。実のところ、彼処で自身の思考は空白になり、涙を流すことすら忘れたほどに衝撃を受けたのだという。・・・彼女も、暖かい心を持つ人間ということだ。魔術師にしておくのは勿体ないのかも・・・そうでもないかもしれない。サディストなのは事実だし。

 

「弟子だけでもなんとかしなければ・・・そして、君の鮮やかな振る舞いと発破がなければ、私は兄上の死体の前から、ずっと動けなかっただろう。あの場でオートマタにやられていてもちっとも不思議じゃない」

 

「護れて良かったわ。あなたという、大切な友人をね」

 

「──ぅ、あ・・・て、照れくさい事を躊躇いなく口にするな君は、全く・・・」

 

ライネスは正直な所、此処までの一時を苦しいものとは思っていなかった。かつての対等な盟友が、頼もしく強くなり大人になった姿で再会し、そして困難に共に挑む。年頃の娘や少年が、ノートに思い描くファンタジーの物語の様な展開に、見知った人達と挑む。そんな事実が、得難いものだと。

 

「弟子も、背中を預けるに相応しい盟友も。私には初めての経験でね。・・・私はきっと、嬉しいんだろう。グレイが生きていて、我が兄が生きていて、・・・惚れ惚れする程に美しく、カッコ良くなった君と出逢い、共に戦う事が出来て」

 

「・・・ふふっ。褒めても事件解決の手助けしか出来ないわよ?」

 

「充分だよ。君がいるだけでどれほど・・・、・・・あ、いや、待った。我が兄が生きていて嬉しい、って所は兄上には言うなよ。我が最初の対等な盟友として打ち明けてるんだからな!」

 

解っているわ、と念を押す。女子だけの神聖な会話をネタにしたり友達をゆする様な低俗な教えは受けていない。友情や信頼を、踏みにじるものは外道という。悪ではないのだ。

 

「えぇ。勿論よ、私としても、懐かしい顔に出逢えて嬉しいわ。やっぱり上の立場は、色々あるものだから」

 

「そういう割には、君は以前の焦りや不安というか、ぶっちゃけヒステリーが微塵も見えないな。何が君をそんなに変えたんだ?」

 

変えた切っ掛け・・・。それはあの時、あの体験。今でもずっと忘れない、あの最初の特異点の出来事。

 

「・・・臨死体験・・・」

 

「!?君ほどの実力者が死にかけたとか、どんな土壇場だったんだ!?」

 

「あぁいえ、別に最初からこうだった訳じゃないわ。・・・あなたの言う通り、焦って、不安で、どうしようもなかった私を、認めてくれた人がいたの」

 

 

だって、やっと褒めてもらえたの!大儀であるって、褒めてもらえたの!初めて褒めてもらえたのよ!?

 

──そんな当たり前の言葉が、そんななんでもない言葉が、本当に嬉しかった。生きていて良かったとさえ思った。この人の為に頑張りたいとさえ思った。ずっとずっと頑張りたいとさえ願った。

 

 

やっと、やっと認めてもらえたのに!頑張って、認めてもらえるのが嬉しいってやっと解ったのに!

 

──それなのに、やっと本当の気持ちに気付いたのに。その気持ちが、全部なくなってしまうのが本当に怖くて、恐ろしくて。

 

やっと生きようと思えたのに!やっと自分なりに頑張ろうと思えたのに・・・!こんな終わり方なんて嫌ぁっ!

 

──死ぬ事よりも、その人に・・・私を初めて認めてくれたその人に、何も恩返しが出来ずに終わってしまうのが、堪らなく嫌で、怖かった。

 

 

「・・・君は・・・」

 

「泣きわめいて、みっともなく叫んで。ようやく自分の本当に望んでいた事に気付いた時・・・その人は躊躇わず、私なんかの存在を救ってくれたの」

 

 

『無念が残るならば、足掻け!!』

 

──あの時のあの人の輝きは、一生忘れない。今も、ずっと心の中でその激励が響いている。

 

『生き汚さが貴様ら人間の美徳であろうが!懺悔でも呪詛でもなく、ただ『願え』!』

 

──その言葉があったから今の私が此処にいる。その期待があるから、私は何処までも戦える。

 

『何をしている!もっと魂から絞り出せ!貴様の裁定の時は──今ではなかろう!!』

 

──いつか、あの人が私の価値を定める時。最高の自分を見せたいから。私は今も走り続けているの。

 

わ、私!友達を残して・・・!死にたくない──!!

 

──それが、今も変わらない私の・・・意地のようなものよ。その気持ちは、今も色褪せていないから。

 

 

「──・・・・・・」

 

穏やかな笑みで、かつての記憶を思い返す。・・・一年前なのに、ずっとずっと昔のような気さえする。それだけ、毎日が楽しく充実しているから、だろう。

 

「・・・ははーん。解ったぞ?」

 

「?」

 

「君、さてはその人とやらに惚れ込んでいるな?」

 

良いことを聞いた、とばかりに尻尾を振る小悪魔の悪戯げの笑みを、サラリと受け流し答える。

 

「えぇ、心から敬い、愛しているわ。・・・あのお姫様の足許にも及ばないけれど」

 

「えっ、あ、・・・う、うん。そうか、愛しているか・・・」

 

「魔術師の陰謀はかわせても、直接的な告白には弱いようね。レディ・ライネス?」

 

「くそっ!腹立つ!凄く腹立つ!その余裕に満ちた態度が崩れる瞬間を見たいというのに全く!君と言うやつは!」

 

まさか鉄板である恋愛ネタですら誠実に返されては打つ手がない。不機嫌そうに突っ伏すライネスを、やっぱり楽しげに眺めるオルガマリー。

 

・・・──死んでみるものね。リッカやマシュに続いて、素敵な友人がまた増えたのだから。

 

「なんだ、ニヤニヤして。・・・しかしカルデアか・・・確か君、所長なんだろう?」

 

「民主主義に支えられて頑張ってる、至らない所長だけれどね」

 

「・・・どうかな?私やグレイをそっちに連れていく気は無いか?縁があれば行けるのが疑似サーヴァントだ。もしかしたら、そちらに召喚されるかもだぞ?」

 

・・・それはきっと面白い事になるだろう。楽園にいるエルメロイ二世の胃袋にトドメをさせ、・・・素敵な再会になるに違いない。

 

「心から、心から!歓迎するわ。この後でも逢いましょう、ライネス?」

 

「きょ、強調したな。だが・・・君にそんなに願われるのは悪い気はしない。その時は、よろしく頼むよ。オルガマリー?」

 

二人は親しげに握手を交わす。──楽園に持ち帰る素敵な戦果が、一つ増えた瞬間であった。そのまま二人は、他愛の無い話と共に御茶会を進める──

 




オルガマリー「そう言えば、時計塔も迂闊ね。まさかこれだけ事が大きくなっても動かないなんて」

ライネス「権力に溺れた輩なんてそんなものさ。まさかロンドンの危機だと言うのになんの動きも──」

・・・此処で、二人のロードは気付く。オルガマリーの観点から見れば取るに足りない、ライネスの観点から見れば俗物でしかない。そんな認識が目を曇らせた。

「・・・有り得ないわ。時計塔がいくら愚かでも、魔術と神秘の秘匿を蔑ろにする筈がない」

「その通りだ!なぜ疑わなかった!こんな大事、なんの対策も打たないはずがないだろう!」

・・・認識の齟齬が失われた瞬間、パッチワーク・ロンドンは変容する。時計塔から、一つの姿へ

オルガマリー「あれは・・・」

その威容は、まさに──

「・・・ロンゴ、ミニアド・・・!」

パッチワークの中核に穿たれた、偽りの星槍が姿を顕す──

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