人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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ある日の楽園カルデアにて

メディア「見てちょうだいオルガマリー!この、直径50センチのジオラマ!」

オルガマリー「これは・・・魔術結界ですか?固有結界の亜種めいた」

メディア「そうなの!流石私の一番弟子!細かい魔術を積み重ねて積み重ねて作った至高の結界!あなたにだけ、特別に見せちゃうわ♪」

オルガマリー「ボトルシップ好きとは見受けていましたが、こういった大物も手掛けるのですね・・・」

メディア「ふふっ、当然よ。だってここ、貴女の修練場になるのだから」

オルガマリー「・・・ホワイ?」

「さぁ、意識を楽にして──いらっしゃい、私のイマジナリーアース・ソーシャルプラン・ワールド。略して!イアソンワールド・ジャパンに!」



イアソンハンター「ツラいい男しねぇえぇぇ!!」

イアソンキラー「二人一組の全ての存在に死を!!!」

イアソンエース「むっ!!・・・23か、ギリギリアウトだな・・・」

ネイキッドイアソン「オレを!オレを認めない世界が憎いぃいいぃい!!!」

オルガマリー「暴走してるんですけど・・・」

『修行とメンテナンス、お願いね♪』

「・・・はい」



エレちゃん『どうしたのかしら、オルガマリー?』

オルガマリー「・・・いえ、なんだかよくわからないものを・・・」

『???』



優しい嘘と傷付く真実

「―ったく、塵屑(ゴミクズ)風情が生意気な。サーヴァント諸共、今すぐ消えてくれる?」

 

「あぁ・・・」

 

次なる紙片の回収。突入した記憶の閲覧。さてどんな記憶の再現と齟齬が待っているのかしら・・・等とちょっと期待混じりに身構えていたオルガマリーを一瞬で萎えに萎えさせまくったこの声。パッと聞けば人当たりが良く優しげな好青年。その気になればオヤカタサムゥアァアの熱血漢やウッディ!などといった狂いし少年の声すらこなせそうなそのパッと聞きでは爽やかなゲスボイスを聞いて全てを察するオルガマリー。白い雲、気持ちのいい潮風、突き抜ける青空・・・

 

『もしかしなくても、オケアノスなのだわ・・・そして今いる此処はアルゴー号。あのギルガメッシュ擬きな金色のワカメさんは・・・』

 

「イアソンね。・・・そっかぁ、よりによって此処なのね・・・」

 

今度は割と前半な特異点。第三特異点オケアノス。大海賊フランシス・ドレイクとの大冒険やヘラクレスとの切磋琢磨が記憶に新しい。そして、そのヘラクレスが所属していた海賊船、英雄達の船を纏め上げる船長が彼、イアソンである。楽園では肩の荷が下りたのかそれとも嘗ての日の続きと捉えているのか尊大かつ小心なあんちゃんポジションではあるが、目の前のイアソンはメディアリリィに諭され今度こそ王になれると舞い上がりに舞い上がっている陶酔テンションの困ったちゃん状態。──おそらく話し合いは無理だろうとオルガマリーは素早く決断する。

 

「よくいるんだよねぇ。何の力も無いくせに幸運だけに恵まれて勘違いしちゃう馬鹿が。そこのお前、なんのとりうぉあぃっ!?」

 

「惜しい、外しちゃったわ。コレモシショウノキモチヲオモンバカッテ」

 

「外したんじゃない!避けたんだよぉ!?なんだそこの、メディアに眼光がそっくりな女!話をしてるんだぞ!?このイアソンの演説はギリシャの英雄総てが聞き惚れうわだだだだだだだ!!」

 

ホルスターから銃を抜き放ちイアソンに無様なダンスを踊らせる。イアソンと言えば師匠の一人たるメディアにとてもとても酷い事をしたとして有名だ。神に恋心を懐かされイアソンを王にするために邪魔者たる前王を惨殺させられ、それを咎められイアソンと共に放浪。放浪先でイアソンが王族のグライアと婚姻を決めるとあっさり彼はメディアと間の子らを捨てた。『魔女め、お前を愛した事など一度もない』などと訣別の念入りまでして。修行終わりのランチタイムで100回は聞かされたから完璧に把握している。

 

「なんだその銃!?手にまるで反動が無いくせになんでそんなレベルで乱射が出来る!?つか危ないっ!止めろ!はやまるなうわちっ!?うわぁあおっ!?」

 

まぁ、其処はメディア師匠が国ごとグライアを灰にした事で終わっているから外野は口を出さない。それとは別に、自分にとって許せないことがある。そう、彼が最初にビジュアル公開された際の真名当て考察の際に・・・──事もあろうに。

 

「あなたがギルの別クラスなどと予想された事実が一番赦せないわ」

 

「いやそれ私も被害者じゃないのか!?うぉお止めろ!死ぬ!被弾したら死ぬぅ!!」

 

記号が敬愛する恩人に似ていたと言うだけで、同一視された事実が一番腹に据えかねるものであった。その紛らわしいツラが気に入らないわ。顔面剥いで航海祈願の御守りに船首に張り付けましょう。メディアの複雑な感情が、オルガマリーに流れ込み狂わせているのかもしれない。そうじゃないかもしれない。

 

「や、ヤバい女だ・・・!大人のメディアそのものだ!転生体か!?くそっ、これだから少女は可憐なままが一番なんだ!心も身体もピークを過ぎたら腐るだけなんて哀しすぎるだろう!」

 

「よしやれ、オルガマリー!今ヤツは人類の半数を敵に回したぞ!」

 

「調子に乗りやがって・・・!メディア!私の可愛いメディア!年増じゃないほうのメディア!私の願いはわかるよね? あいつらを粉微塵に殺して欲しいんだ!頼むよ早くしろよ!」

 

ダメ男ムーヴ全開で、互いを見ていないサイコパスに最も近い可憐なメディアを呼び出すイアソン。またエイの伐採かしら・・・そんな感慨を浮かべながら脚を鳴らした、のだが。

 

「──その前に、あなたに私のドス捌きを披露しても宜しくて?それはもう刺さるわよ、ドスだけに。ドスドスと」

 

「ぎゃあぁあぁあぁあ!!ホンモノーーーッッッ!!!」

 

記憶の再現と齟齬がギリシャの神々ムーヴを発揮した瞬間である。イアソンさま♥️と可憐に従うメディアを期待した彼の前に現れたのは、裏切りの魔女の烙印を押された大人のメディアだったのだ。

 

「ありえん!断じてありえん!!何故私のアルゴー号に『このメディア』が乗っている!?王女メディアならいい!私も反省した二度と裏切らない!だがこのメディアは違うだろう!?例えゼウスが雷霆を落とそうともこれだけは許されない!絶対に許されないミスだぞ!!」

 

「聞き捨てならないわね。多少の不満があるのは私も同じよ。『この』私が、貴方の無鉄砲な夢を乗せた船に乗っているのが満足だと思って?あなたがした事、幼い私と違って全て・・・」

 

「あーあーあーあー!聞こえないうるさい聞くものか!ヘラクレスは!私の、私だけの無敵の英雄は何処だ!さてはお前が隠したなメディア!出してっ!?なんかあのガキ怖いの!身のこなしがケイローンのソレなの!あの脚の鳴らし方エゲツない蹴り技が来る時のケイローンの合図とそっくりなの!」

 

「ヘラクレス、ヘラクレスとバカの一つ覚えみたいに・・・。それ以外に頼るものは無いのかしらこの穀潰しは!!」

 

「ア バ ブ ッ ! !」

 

あまりに無体な言い方に完全にブチキレた若奥様の、ついカッとなったドス捌きが炸裂した。振り向き様に土手っ腹に突き刺し、背中に周り心臓に振り下ろし、そしてそのまま首をカッ捌いた。ギャグで中和しきれない凄惨なコンボである。溜め込んだ愛憎、推して知るべし也。

 

「あぁ・・・あぁ・・・なんてこと、だ・・・」

 

火サスめいた殺害被害者になり、涙と血塗れになり穏やかに消えていくイアソン。夢の残骸に押し潰されるのに対し、今回はきちんと嫁と夢に看取られて消滅が叶った。幸せかな・・・幸せかも・・・幸せな結末だったと言える。

 

「やった!やったわ!いま人生のクライマックス!このまま消えたい気分!ありがとう、そこの素敵な娘さん!」

 

「あぁ、その・・・はい、お見事なお手前でした」

 

「次にイアソンと会ったら次はあなたがやるのよ!任せたわね!よーし、この達成感を座にまで持ち帰ってやるわ!!」

 

消え行くイアソンを追うように、メディアもまた消えていく。先立つ夫を追い掛ける、素晴らしき良妻ムーヴである。裏切りの魔女など悪質なデマであることが、諸兄には分かっていただけた事だろう。先立たせたの妻だけど。

 

「◼️◼️◼️◼️・・・」

 

「あっ・・・ヘラクレスさん・・・」

 

ざばぁ、と巨大なタコとサメを引き上げてきたヘラクレス、全てが終わった事を悟る。友がなんか水浴びしたら死んでた・・・な状況を静かに受け止め。

 

──現代の少女も侮れぬ。よもや只の一分で、イアソンを一度滅ぼすとはな・・・

 

・・・別に割と真っ当な英雄なら余裕じゃねこれ?などと言った表情を、口にしてから浮かべながら。イアソンのおバカに付き合っていたヘラクレスは静かに消滅していった。タコとサメを残して。

 

「・・・・・・」

 

「・・・オレたち、何もしてないような・・・」

 

「言うな」

 

タコとサメを残して。




グレイ「その、えっと、なんと言えばいいのか・・・」

ライネス「人と人が出会うにはタイミングがあるものなんだよ、グレイ。うん、こいつは如何にも悪すぎたな。・・・世の中には、騙されておいた幸せな関係と言うものもある。騙されない年齢になったら、それが切れ目さ」

アッド『イッヒヒヒヒ!含蓄のある言葉だな!気を付けろよ、藤丸!なんせ、如何にも騙されやすい顔してるからな!』

藤丸「騙すより騙される方がいいんで!その時は騙されておきます!時にはプライベートや隠し事を見てみぬフリをするのも円満な関係のコツだって、リッカちゃん言ってたし!」

オルガマリー「賢明ね。そういうの、最後には得になって帰ってくるわ。必ずね」

(・・・レフを信じたのも、間違いではなかったわね。曲がりなりにも、彼が支えてくれたのは事実なのだから。・・・随分と苛立たせてごめんなさいね、レフ──)

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