人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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バベッジ「さては、我は民の安全を守ろう。国土に配備していた各種装置の使い時だ!」

エルメロイ二世「不思議な方だ。不合理な夢を摘むといいつつ、ギリギリまで守護に当たるとは」

「その通りだ。こんな夢の実現はあり得ない。しかし、この夢に住んでいる人々は現実だ。ならば守る。夢が破れる瞬間まで。これは英霊の責務としての決断であり、矜持を汚すものではないと信じている」

エルメロイ二世「・・・まさにその通りです。しばしお待ちを。我が弟子達が道を拓いたならば、軍師としてお手伝い致します故」

アサシン「なら、僕も手伝おう。・・・依頼主の頼みだ」

「助かる。・・・不思議な感覚だ。何処かであったかもしれないが・・・今の私たちには関わりない。頼らせてもらおう、暗殺者」

「こちらこそ、よろしく頼もう。軍師殿」


この輝きは旅路の尊さ。道を示そう、あなたの未来に

「さて、そろそろ総決算と行こうじゃないか諸君。グレイに必要とされる分の魔力リソース、小紙片は回収した。となると後は乗り込むだけだが・・・」

 

「開場を待ちきれない皆様方が熱烈な行進を開催中よ。──この城からも見えるくらいにオートマタ、そしてゴーストが近付いてきているわ」 

 

絢爛なる蒸気の城のテラスに一旦集合した一行。最後のブリーフィングとなる舞台に集う役者達。槍の狭間よりゴーストが湧き溢れ、続々と吐き出されるオートマタの行進が波が如く押し寄せる。出来なくは無いが、殲滅は大いに手間がかかるだろう。それをしている内に逃げられるか、生産速度が殲滅スピードを上回れば意味がない。結局根本的な解決は、ムネーモシュネーを止める事のみだ。

 

「御心配なく。あの有象無象は私とグレイさんが始末いたしますわ。・・・手がありますのよね?グレイさん?」

 

「はい!謎のひろい・・・じゃなく。グレイにお任せください。私にいい考えがあります!」

 

それは言わない方がいい、エルメロイ二世に頭をぽふられながらグレイは告げる。マスター、師匠、そして友達に囲まれたグレイはいつもより何割増しかイキイキしているのである。藤丸はそっと目を閉じ、エルメロイ二世とコンタクトを取った。

 

(グレイ、いいよね)

 

(いいだろう・・・)

 

「バベッジさんの仰有る通り、あのロンゴミニアドは本物ではありません。恐らく、マスターの記憶から汲み出したんです。最高の硬度を持つ、隠れ場所として。・・・ですから、そのロンゴミニアドのイメージに、拙がむりくり干渉し道を開きますっ」

 

「類感魔術。似ているものは互いに作用し合う。魔術の基本的な概念ね」

 

「はいっ、オルガマリーさん!具体的にどうするかは、どうか御覧になっていてください。アストライアさんと協力し、突破口を開きますから!」

 

やる気に満ち溢れたグレイに、オルガマリーは託すことにした。チームプレイならばすべてを自分がやる必要は無い。出来る者に、出来る事を託すのも大事な事である。

 

「信頼しているわ。──それでは、アストライアさん!」

 

「えぇ、今回が私の力の初披露。かつ最初から本気で参りましょう。こと此処に及び、出し惜しみする必要もありませんものね」

 

合図を受け、アストライアが手に剣と天秤を取る。正義の、そして裁定の女神の本領を発揮する姿を顕し、蠢き犇めく有象無象を遥か天空より見下ろし告げる。

 

「今こそ亡者達に、偽りの記憶に裁きを下しましょう。──これはあなたの、善の軽さ」

 

掲げた天秤が、傾く。オートマタとゴーストの魔力が乗った皿が、跳ね上がらんばかりに上向いたのだ。それは即ち、為すべき善の欠落と弁論の余地なき罪を抱えた魂である事を意味する。

 

「そして、あなたがたの罪の重さ」

 

次は、深々と片面が釣り下がる。魂に罪の在処を問うた天秤の受け皿が、重量のあるバーベルを乗せたかの如くに傾いたのだ。これは、裁かれる人間の懐いた罪を如実に顕している。

 

「我が宝石庫は、この夜空」

 

そして、高々と剣を振るい上げる。──その瞬間、暗く澱んでいた空が、宝石を散りばめたかの様な見渡す限りの星空へと変化する。これこそは、罪過を得た魂を裁く正義の女神の断罪の礫──!

 

「『裁きの時はいま。汝の名を告げよ(クストス・モルム)』──!!」

 

──星が、落ちた。目を疑わんばかりの絢爛なる流星群が、目に見える全ての星が一斉にオートマタと亡霊に降り注いだ。一つ一つが隕石クラスの威力と魔力を込めた宝石弾。正確無比に罪人のみを撃ち貫き、瞬く間に蹴散らし撃ち抜き、消し飛ばしていく。

 

「・・・原理は宝石魔術・・・でもこれは、そんなスケールの話では無いわね」

 

「なんて威力と範囲だ・・・!あんなもの宝石魔術どころか、ほとんど流星を叩きつけているものじゃないか!」

 

雨の一つ一つが全て隕石、流星であったなら。そこに生き残れる者など、防げるものなどありはしない。成す術なく蹴散らされ解体されていく敵に同情すら覚える無慈悲な蹂躙。──正しき神威が、裁きの女神が正義を示したのだ。

 

「露払いはこの程度でよろしくて?それではグレイさん。お手並み拝見といきますわよ」

 

「了解です!マスター、皆さん、下がっていてください」

 

決意に満ちた言葉に頷き、藤丸は一歩、オルガマリーとライネスは傍からそっと離れる。エルメロイ二世は変わらない、いつもの位置だ。

 

「行きます、師匠!」

 

「あぁ。やってみせるんだ、グレイ。きっとその輝きは、散ったヒロインXに届くだろう」

 

「──はい!・・・Gray(暗くて)……Rave(浮かれて)……」

 

『詠唱確認。貯蓄魔力全解放、モード・キャメロット解除。疑似人格、凍結』

 

詠唱と共に、アルティメットアッドに変化が起きる。世界を襲う地響き。──変化は訪れた。

 

蹴散らされたオートマタが、糸を切るように倒れていく。ロンゴミニアドから産み出されたゴーストが、吸い寄せられるようにアッドに吸収されていく。──アッドが喰らっているのだ。辺り一体、全ての魔力を。

 

「・・・!」

 

メディアとダ・ヴィンチちゃんが編み込んだ魔力固定礼装を着ていなければ、即座にオルガマリーの肉体が霧散するほどの吸収効率。グレイに集う魔力が、膨れ上がっていく。

 

「見ろ、我が弟子。グレイの宝具ランクだ。先はD、今はどうかな?」

 

「C・・・B・・・A・・・まだ、まだ上がっていく!?これって・・・!」

 

そう。思い至れば難しい話ではない。類似しているものだというのなら、それはロンゴミニアドに類する何かを所持しているということ。だが、予測としてはそこ止まりだ。まさか、それが文字通り『本物』であるのだと思い至る者は少ないだろう。

 

Crave(望んで)……Deprave(堕落させて)……」

 

アッドが、グレイが武器を隠す理由が此処にあった。それは、振り回し取り回すにはあまりに雄々しく、また強大すぎる。

 

Grave(刻んで)……me(私に)……」

 

それは彼女が受け継ぎ、所持せし至宝。アーサー王の聖剣に比類する、世界を繋ぎ止める最果ての槍。

 

Grave(墓を掘ろう)……、for you(あなたに)……」

 

『魔力の収集率、規定値を突破。第二段階限定解除を開始』

 

そう──長らく所持すれば、所持者を神の領域にすら引き上げる・・・──

 

「──聖槍、抜錨」

 

人理の敷物を固定する、星に刺さった錨の影。星を落とし、空を裂き、海を割り、あらゆる虚飾と神秘を焼き尽くす最果ての塔。

 

その名、グレイが受け継いだ宝具こそは──

 

「───『最果てにて(ロンゴ)』ォッ・・・!!・・・ッッッ『輝ける槍(ミニアド)』ッッッ──!!!」

 

貯蓄された魔力が、食らいつくされた魔力が光の螺旋となりて放たれる。──最早、その威力を現し、語る言葉などない。

 

「・・・なんて、強大な・・・光──」

 

アストライアすらも、その輝きに心を奪われた。光が瀑布となり、光が渦となり軌道にいる総てを呑み込み、喰らい、消し去っていく。そしてその光は、微塵も減衰し、揺らぐ事なく──フェイク・ロンゴミニアドへと着弾した。その結果は、すぐに導き出された。

 

「見ろ!フェイク・ロンゴミニアドの外装が!」

 

「剥がれ、吹き飛んで・・・ロンゴミニアドの光と融け合っていく──」

 

そして、その光はやがて莫大なる輝きを放つ足場、天空より槍に突き刺さる梯子となる。その輝ける軌跡は、まっすぐ槍の頂上へと示されていた。

 

「これを上っていけば、黒幕の下へ行けるはずです!皆さん、行きましょう!」

 

そう。アストライアとグレイが道を切り拓いた。ならば後は、進むのみ。

 

『準備はいい?オルガマリー』

 

(ええ、誤作動を起こしたムネーモシュネーを、斜め45の角度で叩き直しに行きましょう)

 

いよいよ、ライネス達の事件簿は最後のピリオドを打つ局面へと向かう──!




藤丸「やったね、グレイ!令呪を魔力リソースにするから、少しでも回復するんだ!」

グレイ「ありがとうございます、マスター・・・!」

エルメロイ二世「私も行きたいところだが、まだ剥離した孔明の霊基が回復していない。・・・私は此処までだな」

藤丸「エルメロイさん・・・」

「心配するな。代わりに我が義妹に内弟子、そして──神代魔術を極めし、現代にて並ぶものがない冠位君主(グランドロード)がいるんだからな」

オルガマリー「また適当な事を。オペラ歌手よ、本業はね」

エルメロイ二世「無事に帰り、是非とも皆に聞かせてやってくれ。──さぁ行け、マスター!」

藤丸「はい!!」

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