人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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ダ・ヴィンチちゃん『ムネーモシュネー、か。・・・うん。あながち解らないでもないよ。楽園カルデアだから完成にこぎつけたが、あのときのカルデアだったなら完成には至れなかった。おそらく、眠ったままだったムネーモシュネーが何らかの形で起動したんだ』

ロマン『観測にしてサブシステム。Aチームの不測の事態に作られたシステム、か・・・マリー、大丈夫かい?』

『対話は可能な限り。・・・でも、無理でしょうね。藤丸君を救うために動いているならば』

ロマン『・・・。──マリー、君にとあるものを渡しておく。ボクの予想が正しいなら、ムネーモシュネーはもう一つ、藤丸君を折るために策を使う筈だ』

『策・・・』

ロマン『あぁ。君もきっと理解する。其処で、それを使ってほしい。──『彼等』は姫様に研鑽の答えと自身の意義を託した。今度こそ、解放してあげてほしい』

『・・・解ったわ。じゃあ──』

藤丸「わっ!うわぁあっ!?」

オルガマリー『!また後で!』

オルガマリー「何事かしら!」

藤丸「いきなり、顔に、紙片が!外れ、外れない!」

グレイ「これは!?」

ライネス「まずい!よほど黒幕は業を煮やしたらしい!【藤丸に直接記憶の汚染を仕掛けてきたんだ】!オルガマリー!手を──!!」

「ッ───」



【あなたは何も感じないのですか!この悲劇を、覆そうとは思わないのですか!?】

【必要性を感じないからね】

【なぜ、何故です!?なぜ平気なのだ!こんなにも傷付いている、こんなにも嘆いている!救ってやれる、助けてやりたい!】

【私は傷付いていないし、嘆いてもいない。救済は、私の仕事ではないからね】

【な──】

【人間とは、自身に危害が加わらなければ殺戮すら意に介さない。国境の制度がそれだ。左の国では未来ある子が死に、右では虚栄で身体を滅ぼす老人が総てを持っている。狂気の沙汰だろう。だが・・・】

・・・──私の知った事ではない。王として、ただ定められた事業を為すのみだ。


【─────】

・・・そう言った王を赦してはならないと、我々の総てが決意した。


断末魔が長い

「こ、こは・・・!」

 

形振り構わぬ、まさに道理も何も存在せぬ手段にて回収され、垣間見せられた紙片の記憶。顔を上げた藤丸が呻きを上げる。その地は忘れる筈もない。忘れられよう筈もない。その地こそは、かの者達が築き上げた三千年の研鑽の地。人類史に向けた偉業の発祥の地。

 

「時間神殿、ソロモン・・・。確かに罠として引きずり込むには最適の場所ね」

 

グレイとライネスの顔色はやや青ざめている。この寒々しい、人間の感情や温もりといったものが一切存在しない地に圧倒され、空間に焼き付いたイメージを見せられたのだろう。

 

「ただの人の身で、随分変わった経験をお持ちですのね。・・・神殿の中央からは、気配を感じ取れませんが」

 

「・・・恐らく、限界があるんだと思います。黒幕の、ムネーモシュネーの再現にも、きっと」

 

ガウェインのギフトが再現出来なかったように、この神殿を記憶から読み取ったはいいが肝心の要は、もうどうしようもない程に可能性が無いという事なのだろう。その理屈を、オルガマリーはかつてロマニから聞き及んだ事がある。

 

「・・・最期の逸話の、再現。英霊の座を含めた自身を完全消滅させる自滅宝具。・・・・・・」

 

それを、使ったことに驚く自分と納得する自分がいる。その宝具は正真正銘の自殺であり完全な無に辿り着く手段。根本的に気が弱く、現状維持しがちなロマンは絶対に取らない手段である事は見れば理解できる。・・・そして、ゲーティアの全能を剥がす手段がそれしかないとして、そうすることでマシュや藤丸を護れるならば。それが、旅路の答えだと言うならば。

 

「──智恵の覇者に相応しき英断です、魔術王ソロモン」

 

そう、寒々とした空間に独白が吸い込まれていった。それを発動したと言うならば、藤丸の傍には、もう。

 

【覇者だと?英断だと?相変わらず君は見る目が無いなオルガマリー。いつまでたってもグズはグズのままなのかい?】

 

生物がいるべきではない空虚な空間に、乾いた拍手と侮蔑の嘲りの声がする。身構える一同、姿を現す一人の男。それはオルガマリーにとって、忘れるには軽くない男の声だ。それは──

 

「──グズはグズなりに成長しているのよ。シバのレンズをカルデアにくれた割には、あなたの眼は何一つ本質を捉えないのね」

 

【・・・─ほざくようになったな、オルガマリー。無様で憐れな君をそこまで立派にしたのは誰だと思っているのかな?】

 

「少なくとも、あなたではないと言っておくわ」

 

緑のスーツ、ニタリと笑う顔。そして微塵も愉快さなど備えない表情。それはまさしく、かつてオルガマリーを依存させ、切り捨てたレフ・ライノールその人だった。侮蔑に皮肉を切り返し、藤丸の前に立ち問いかける。

 

【私は──】

 

瞬間、響く銃声。オルガマリーの弾丸の問い掛けが、レフを名乗る【何か】を貫き吹き飛ばした。そう、オルガマリーにとってのレフはもういない。いや、もっと言えばオルガマリーの旅路に、死んだ後の旅路に『生き恥を晒す、あの結末に納得していない魔神』など存在していない。ただの一柱も、与えた祝福の名を汚す真似はせず。その矜持は昇華という形で報われたのだから。ならば──

 

「お喋りは結構。在るべき場所へ帰るのね、偽者さん」

 

目の前にいる男は、空虚な再現に他ならない。そんなものを懐かしむ時間は、自分には無いのだ。

 

「こいつは・・・君の知り合いか?」

 

「昔の恩師よ。昔の、あらゆる意味で昔の、ね」

 

【──ヒヒ、ヒヒヒヒヒヒヒヒ!無様で愚かな末裔が背伸びをするとは滑稽だ!死に損ない、生き恥の女、無能で愚かな役立たず!また昔のようにすがるがいい、助けて、助けてレフと!それがお前の在り方だ!アニムスフィア!!】

 

罵詈雑言を並べ立て、藤丸にはおぞましい、オルガマリーにはあり得ない肉の塊に変貌を遂げるレフ。眼が柱に備わり、苦悶に満ちた人にて編まれた皮膚のおぞましき塊。それは正しく、魔神柱──!

 

「なんですの!この汚らわしい悪魔擬きは!」

 

「弟子の記憶の、ソロモン王の使い魔・・・再現出来たのは一部だけのようだが、絞り込んで作り上げただけあり数で押すつもりのようだな」

 

ライネスの言葉通り、肉塊が起動する。無数の柱と、一つの個である魔神が無機質な声で読み上げる。

 

【起動せよ。管制室バルバトスを司る九柱。即ち、パイモン。ブエル。グシオン。シトリー。ベレト。レラジェ。エリゴス。カイム】

 

それに呼び出されるように、バルバトスを中心とした魔神が暴れ出る。それらはバルバトスでありバルバトスでなきもの。管制室を司る魔神のモノに他ならない。ライネスの予想が、最悪の形で結実したと言うことになる。

 

「──バルバトス!そうだ、所長!師匠!バルバトスでした、ロンドンに現れた魔神はバルバトスだったんです!」

 

「!くそ、そういう因縁か!ロンドンと君の記憶を紐付ける事で、演算リソースを枠内に納めたんだな!」

 

72の魔神の中で、バルバトスが司るは過去と未来。再演を担う魔神として、これ程の適任はいないと言える。しかし、それはそれとして難題極まりない相手だ。こちらの戦力に不足はなくとも、再現されたのが魔神ならば、一つや二つ薙ぎ払おうとも効果は薄い。

 

「賢しき者は策に溺れる。宙を舞台にしたのがそちらの不幸と思いなさい!──我が宝石庫はこの夜空!あなたの罪はこの星の数!!」

 

宇宙空間に近しい場所、正義の女神のおわす空はそこにある。『裁定の時はいま、汝の名を告げよ』が発動し、愚鈍な魔神目掛け、そのまま流星が駆け抜け叩き落ちた。──神霊なれどサーヴァント。型落ちの霊基で神の力を振るい続ければどうなるかなど、彼女自身が解っていても。

 

「正義の女神が正しく天秤を振るうは当然!悪しき夢には必ず終わりが来る!さぁ皆様、あなたたちはあなたたちなりの解決策を見出だしなさい!」

 

瞬時に涌き出る魔神に、オルガマリーとグレイが応戦し駆逐を始める。肉塊とはいえ、魔神は魔神。アストライアとオルガマリーの魔術の合わせ技で、ようやく再生が追い付かない程の強度を魔神の再現は誇っている。そして、【新たな魔神が無限に涌き出る】のもまた再現の一つなのだ。

 

【無駄だ!何もかもが無駄だ!ハハハハ!ハハハハハハハハハ!!】

 

「相も変わらず、雑な不死身ね・・・」

 

【私は不死身!我々は無尽蔵!この空間すべてが!ワレワレなノだから!!】

 

勝ち誇る魔神柱。増え行く魔神柱。縁に招かれた英雄もなく、たった一人で魔神柱の総てを殺し続けられる英雄王もなく。藤丸の読み取った絶望の記憶に違わぬ事実を、バルバトスは叩きつける。万事、休す──

 

「ふむ。どうやらその言葉も過去の再現と言う事かな?」

 

──その結論を、堅実にして着実を信条とする軍師を宿したもう一人の君主が覆す。そう、ライネス・・・そして、司馬懿の疑似サーヴァントだ。

 

【何を、イマサラ!】

 

「小紙片、特異点の記憶。あれはつまりそれを手掛けたお前達を再現した事により生まれた副産物という事だな?──再演にしてからは随分と粗が目立つじゃないか。召喚魔術の頂点にして鬼札なのは認めよう。だが笑えないな、悪魔が真正面から戦いを挑むなど」

 

【何だ!ナニが言いたい!】

 

「解らせてやるさ。私はそういう非正規の手段、裏技なジョーカーには無敵なのだという事をな!なぁ、司馬懿殿!」

 

『──いいだろう。俺の宝具の条件は調った。これだけ整えば、多少の想定外など歯牙にかけん。もとより俺の宝具はそういうものだからな』

 

司馬懿、ライネスの二人が謳う。そう、今こそ非常識には非常識。予期せぬ奇襲には教本通りの対処に対策を。逆転の目を起こさぬ、着実な試合運び──。

 

「勝負に奇計も切り札もいらぬ。ただ、十全に整え当然と勝つのみ」

 

それこそは、英雄ひしめく三國の世に名を遺せし軍師の本懐──!

 

「『混元一陣(かたらずのじん)』!」

 

唱え、放った瞬間──魔神達に悪夢が訪れる。その悪夢とは、最悪の消費文明の産物──

 

 

【殺したかっただけで、死んで欲しい訳じゃなかった】

 

 

【おぉ、おぉお──おぉおおぉおぁおぉおぉおぉお・・・!!!】

 

震動──否。『恐怖』を覚える魔神柱。悪夢に戦慄く立場が、今逆転する──!

 

 

 

 




ライネス「くくく、さんざんぱら苦労させられたからな!こっちの記憶にされたように!あちらの記憶を塗り替えてやった!素材に我を失ったマスターのおぞましさを思い知るがいい!」

オルガマリー「記憶の改竄・・・。魔神だろうとなんだろうと、記憶である理屈は一緒。そういうことね」

「あぁ!おあつらえ向きに得手を潰し弱点を作るが我が宝具。条件さえ整えば弱点だって作り出す!さっき弟子から記憶を拝見し、トリムとアサシンが集めた小紙片ごとバグとして混入させてやった!──秒速55本ペースの殺戮記録保持者、藤丸立香の記憶をな!」

藤丸「オレが弱点!?」

「あぁそうだ!酷いものだったそうだな!魔神に群がり素材を集めんと猛る君の姿は!戦略的に完璧な順序で攻め落とし、あっという間に陥落させた消費文明の業にて魔神を滅ぼした記録保持者、それが君だ!その記録が傷になる!逸話通りというならば、チーズを頭に叩きつけられただけで死ぬのだからな!」

オルガマリー「噂には聞いていたけれど・・・そんなに酷かったの?」

藤丸「朝起きたら死んでるから徹夜で狩ってました。オレの分の心臓や頁や歯車が誰かに取られるとか有り得ないでしょ」

オルガマリー「人類悪ってこういう事ね・・・」

「さぁ今だオルガマリー!君を散々コケにした奴等を!一気に消し飛ばして決めてやれ!」

「──えぇ、解ったわ。いい加減、きっちりけじめはつけないとね」

辺りに犇めく魔神達に向かい、オルガマリーは自分の胸のポケットにしまっていた一枚のカードを取り出し、くるりとひっくり返す

「──インストール」

その言葉と共に翻す。──其処に刻まれしは。

『ソロモン』と刻まれし、キャスターのカード。そして──

「・・・雪?・・・え、吹雪・・・!?」

グレイの言葉通り。──空虚な神殿に、悔恨と嘆きの冷たさを懐く、雪がしんしんと降り始める──

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