人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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【責務―――責務……!この私に、全能者である我々(わたし)たちに、貴様ら人間どもを見守る事が責務だというのか!】

オルガマリー『・・・これは、楽園じゃない側のゲーティアの記憶かしら』


【そもそも『人間の一生』なんてものを見せつけられて面白いとでも!?うんざりだ!どうあっても消えるだけ、最後は恐怖しか残らない!】

アイリーン『目が良すぎた。そして、真面目すぎたのね』

【人間の一生なんぞ、絶望と憎悪の物語だ!そんなもの、見て楽しい筈がない……!】

オルガマリー『その答えを──』

『確かにあらゆるものは永遠ではなく、最後には苦しみが待っている。

だがそれは、断じて絶望なのではない。

限られた生をもって死と断絶に立ち向かうもの。

終わりを知りながら、別れと出会いを繰り返すもの。

……輝かしい、星の瞬きのような刹那の旅路。
これを──』

オルガマリー『・・・ばか。勇気を出すのに、こんなにも時間がかかって』

・・・私は早すぎたけれど、あなたは遅すぎたわ。魔術王・・・いいえ。ロマニ・アーキマン──


訣別の銃弾(グッバイ・バレット)

「これは、この魔術は・・・!まさかオルガマリー!君は、ここまで極めたというのか!『固有結界』!世界を、自分の心象風景で塗り潰す禁忌の最奥を・・・!」

 

先程までの冷たい魔神の巣窟は、もう何処にもない。其処にあるのは、星の一つも見えない曇天の夜。魂すらも凍えさせる絶望の吹雪。地平線の果てまで走ろうとも決して辿り着く事のない無限の大地。何一つ寒さを遮るもののない、真の諦感と劣等感がカタチとなった、心の風景。

 

「しかし、これが君の心の世界だと・・・?君の心は、こんなにも屈辱や不安、焦燥にまみれているというのか・・・?」

 

固有結界は自らの心を形にする魔術。無限の剣を内包した世界、真なる祖の城、名前を忘れる忘却の空間。それらに嘘はつけない。ライネスの口にするように、この風景こそがアイリーン・・・オルガマリーのカタチであるということだ。

 

「アイリーンの名誉の為に言っておくけれど、これは依代になった女の心。褒めてもらいたい、認めてもらいたいと願い、それが無理だと、どうしようもないと悟った一人の人間の諦めの果て。──ほら、もう終わりよ」

 

オルガマリーが指差す先に、魔神はいた。藤丸の存在にて苦しみ悶えるバルバトスが、現在進行形で歩む末路はとても寒々しいものだと認識させる。

 

 

【ォ、オ──】

 

吹雪に打たれ、寒気に晒され、絶望に呑まれ。あらゆる意味、全ての要因の果てに、【バルバトスは生存を放棄した】。身体は氷に固まっていき、生存の意志は奪われ、加速度的に言語能力は失われ、魔術の術式は凍結していく。

 

「カルデアに属さぬ者のステータスランクを三段階下げ、精神判定を行う。魔力かステータスがC以上無い場合──この固有結界の中で終わりを迎える」

 

敵味方関係無くステータスをダウンさせ、カルデアに属さぬ者ならば更に追加で一段階ステータスを下げ、合計三段階の低下を叩き付けるステータス阻害の極致。精神判定や魔力抵抗に失敗した場合、心に淀んだ苦難と絶望の感情と記憶が、対象の生存を破棄させる。それはオルガマリーの心象の具現。【私は誰の役にもたたない、愛してもらえない】という、父に不要とされ周りからも認められない少女の絶望と悔恨を叩き付ける寒々しい観念と諦めそのものだ。──弱ったバルバトスは、それに抵抗できる筈もなく。速やかにその巨体を冷たき氷像へと変わり果てさせた。涌き出る魔神も同様に後を追う。この世界の絶望の側面は余りにも冷たく、ひたすらに苦痛を具現化するものなのだ。

 

「二度と迷い出る事の無いよう、訣別を済ませておきましょう」

 

そして、銃にクラスカード・・・『ソロモン』をインストールし、姿を変化させる。指輪をしていない、ソロモンの纏っていた法衣を装着しロングヘアーへと変化するオルガマリー。手にした二つの銃が連結し、一つのマグナムへとカタチを変える。

 

「所長!それは・・・それは・・・!」

 

「──あなたは忘れていないでしょう?その『別れ』がどんなに辛くとも、哀しくても。その記憶を忘れようとしない。忘れたくないと願い、信じている。だから・・・この一撃がなんなのか、きちんと思い起こせる」

 

銃に、白き輝きが集っていく。──それは、ロマンがひた隠しにひた隠した人間としての唯一の逸話の一つ。

 

ソロモン王は神に指輪をもたらされ、それを民の為にのみにしか振るわなかった。そして定命の運命として死に瀕した時、彼は初めて自身の意思で行動を選択した。

 

『全能は、人の手には遠すぎる』

 

主から与えられた全知全能を手放した、別れの唄。そして、完全なる訣別の証。指輪を天に返した、ソロモン王の見せたかつて唯一の『人間性』。それを、表面上の解釈として限り無く劣化、疑似的に意味合いを変化させたものとして、銃身に装填して放つ。

 

「──ソロモン王は人々の嘆きや哀しみを見過ごしていた訳じゃない。そもそも、人間に共感する自由は喪われていた。彼は神の意志の代行者。それ以外の、何者でも無かった」

 

完全消滅の結果と効果を、相手に突き立て撃ち放つ。その銃弾に当たった存在は、本当の『無』へと至る。記憶の再現ならばもはや再現は不可能になり、生命に放てば、『術者との因果が完全に断たれる』という訣別の弾丸。最早何をしようとも、撃たれた記憶が立ちはだかる事もなく、そして悩む事も無くなる。たった一発のみ撃ち放つ、無への極点へと至る本当の意味での『訣別』の概念武装。

 

「人の生は絶望に満ちている。無駄だと唄う魔神を、彼は違うと言った。死と断絶を越え、ロマンを懐き織り成す輝かしい命の歴史。──それを、愛と希望の物語と彼は言ったわ。だからこの一撃を、本当の意味であなた達に贈りましょう」

 

構えた銃に、穏やかにてゆるふわっとした魔力が収縮していく。それは絶望の極寒を頼りなく、それでも確かに、優しく照らす篝火のような輝きを懐き、銃口に集っていく。魔神に向ける手向けとして、最早自身の時空や歴史では二度と現れないであろう彼等に、訣別の儀として。

 

たった一発、銃弾を放つ。凍え、最早言葉すらも発する事の無くなったバルバトス。そして──かつて自分の面倒を見てくれた恩師へと、最後の自身の心の区切りとして。

 

「──さよなら、レフ」

 

その魔術、あらゆる全てを消滅させる一度の変身で一度のみ放つ、訣別と別れの弾丸。

 

その銘は──

 

「──『独立の刻きたれり、(アルス)其は明日へと踏み出すもの(ノヴァ)』」

 

──放たれた弾丸は真っ直ぐに魔神達に辿り着き、穿たれた銃痕から光が満ち溢れる。記憶がもう悪用されないよう、理不尽な伐採にこれ以上逢わないよう、その手で引導を渡し幕を閉じる。

 

光が満ち溢れ、そしてその光が固有結界を満たす。──今、本当の意味でレフとの想いに決着を着けたオルガマリーの心の風景が・・・景色が静かに変化する。

 

「吹雪が・・・止んで・・・」

 

吹雪が止み、雲が切り裂かれ、光が眩しく辺りを包み込む。何も無かった世界は、オルガマリーの本当の心象の形へと姿を変える。

 

「ここは・・・!カルデアの、外・・・!」

 

藤丸はその景色を忘れない。あの旅路の果てに広がった景色を。あの時に感じた達成感と、こみ上げる涙の感覚を。全て胸に懐いて・・・そっと見上げた『蒼』の色を。

 

「・・・固有結界は取り分けレアなケースだが、心象風景がまさか二つの側面を持っているとはな。それぞれ別の心象を持っていないと望みすら出来ない分裂ぶりだ。そちらのオルガマリー、本当に何があったんだ?」

 

言うなれば先の風景は二重底にして被せられた殻。今のオルガマリーの心象は此処に広がる景色。太陽が輝き、紅き星が煌めき、自身が護ると誓ったカルデアスがあり、──何処までも、突き抜ける青空がある。

 

「──強いて言うなら・・・運命に出逢ったのよ。とびきりで、沢山の運命に・・・ね」

 

見上げた空は何処までも高く、そして輝く真紅の星は太陽よりも彼方にある。広がる山脈と降り注ぐ日差しこそ、自身の全てを受け入れた証。

 

「・・・ありがとう、みんな」

 

いつも感じながら、照れ臭くてやっぱり言いにくい御礼を告げ、そして。

 

「ありがとう、レフ」

 

曲がりなりにも、自身を支え、助けてくれた唯一の相手にも礼を告げ、固有結界を静かに解く。この景色を、塗り替えることは誰にも出来ない。

 

「──さぁ、私の奥の手もネタ切れが近いわ。はやく黒幕を止めにいきましょう」

 

オルガマリーが、オルガマリーであるかぎり。

 

『いつ見ても・・・素敵な場所ね、ここは』

 

(ふふっ、寒い思いはもう、させないわよ)

 

今の彼女が──彼女で、ある限り。




グレイ「すぐそこが・・・フェイク・ロンゴミニアドの頂上なようです」

ライネス「地上の皆も、頑張ってくれてるようだ。兄上も小賢しさをフルに使っているようだしな。急ぐぞ!」

アストライア「えぇ、なんだか力もみなぎっておりますし・・・行けますわね」

「あの姿を見せたなら、カルデア所属の霊基は全て回復、修復されるわ。藤丸君の令呪もね」

藤丸「・・・本当だ!」

「準備は万端でしょう。さぁ、対面と──」

「所長」

「?」

藤丸「・・・素敵な、本当に素敵な景色を・・・ありがとうございます。オレ・・・絶対に忘れません」

オルガマリー「そうしなさい。あの景色と、あなたの隣にいる運命をね」

「──はい!」



少女『・・・私も、そんな風に・・・──』



オルガマリー「・・・迎えに行くわ。そう、長くは待たせない」

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