人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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オルガマリー「はい・・・はい。解りました。では、手筈通りお願いします。え?報酬?では・・・とびきりのオペラを」

ライネス「随分と余裕じゃないか、オルガマリー。誰だい?」

「協力者よ。最後のシメのね」

アストライア「一つよろしくて?私、カルデアとはまだ契約を結んでいないのですけれど・・・平気でしたわ?」

「あぁ、それは問題ないわ。凍えさせる相手くらい選べます」

ライネス「万能だな!そういえば真名を言ってなかったが、あれは何て言うんだ?」

「・・・希望の華」

「華?」

「希望の華よ。これより先は、終わったら教えてあげる」

ライネス「ふっ、ますます下手を打つわけにはいかなくなったな!」



閉幕

辿り着いた、フェイク・ロンゴミニアドの内部中枢──閑散とした、墓場のような静けさとカタカタと鳴り続ける歯車、吹き抜ける侘しい風。善なる女神が有する聖槍の再現としてはあまりにも殺風景な空間が広がる。登りきり、ようやくここまで来たというのに。黒幕・・・ムネーモシュネーの姿は何処にもない。

 

「ふむ、我が弟子。何かを感じたりは出来るかな?」

 

「えっと・・・今は特に何も・・・ひょっとしたら奥、なのかな・・・」

 

その場所が行き止まりな事は間違いない。いないはずは無いのだが──そう、藤丸が歩み出そうとした、瞬間であった。

 

『いいえ、此処であっていますとも』

 

「ッ!?きゃあっ!?」

 

「アストライア!?くっ──!?」

 

聞きなれた、あまりにも聞き慣れた声にオルガマリーの判断は一瞬鈍り、空間から現れた攻撃反応にアストライアと共に外壁の部分へと力付くで叩き出されたのだ。強制的に、外郭へ。つまりそれは、戦線の離脱を意味する。

 

「アストライア!オルガマリー!!」

 

「所長っ!!」

 

オルガマリーはアストライアを連れて即座に帰還を試みたが、オルガマリー相手の妨害はあまりに執拗かつ念入りだった。無数の鞭で魔術を使わせまいと、自衛に専念させ吹き飛ばしたのだ。

 

「藤丸君!為すべき事を為しなさい!あなたはあなたの、為すべき事を!私の、友人と共に──」

 

言い切る前に、だめ押しとばかりにロンゴミニアドに変化が訪れる。

 

「ッ!外壁が独りでに・・・!?」

 

退去命令クラスの攻撃により遥か彼方へ吹き飛ばされるオルガマリー、そしてアストライアの復帰を阻むかのように。開いていた外壁が独りでに閉じられる。完全なる分断──先手を取られた形に他ならない。

 

『オルガマリー・アニムスフィアが来るのは想定内の事態ですが、あの神霊は予期せぬ厄介さ。ですのでこのように排除させていただきました。消耗に、魔神柱の記憶は役に立ったということです』

 

神霊たるアストライアの脅威度合は最高峰。戦うことが既に愚か。だから魔神を利用し消耗させ、オルガマリー最大の切り札も開示させた。排除の為の算段と手段は、万全以上に万全だったのだ。

 

「!姿を現せ!!」

 

『・・・魔神柱の場所で倒れてくれれば良かったのに。・・・まだ立ち上がるというなら、共に在ると言うのなら。ここにいるのは、立香だけにしてもらいましょうか』

 

そして、姿を現す声の主を見て藤丸は息を呑んだ。その声音、その姿。──仮面らしきものを口から上で覆っているが、その姿を忘れる筈がない。忘れられる筈がない。

 

「ダ・ヴィンチ、ちゃん・・・!」

 

『本来、私はカタチを持たないので一時的にカタチを取りましたが、これはあなた達にとってはよくありませんでしたね』

 

「・・・自律観測型存在システム、ムネーモシュネー」

 

『その名前に辿り着きましたか。えぇ、その通り。私はレイシフトの際、存在証明の為に作られたサブシステムです』

 

レイシフト先でマスターが無事でいられるのは、無数の平行存在が観測されるのを職員達が手作業で修正しているからだ。ダ・ヴィンチちゃんはその人力が全て途絶えた時のために、別系統のシステムを作っていた。それが・・・

 

『つまりこの私。ムネーモシュネーですとも』

 

「記録というなら、カルデアのシステムというなら何故だ!何故カルデアの者に牙を剥き、庇護するべき我が弟子を狙う!」

 

『庇護する対象『だから』ですよ』

 

「!・・・・・・そうか。そういう事か」

 

『お分かりいただけましたか。それでは、藤丸立香をお渡し願います』

 

その瞬間、ムネーモシュネーから莫大な魔力が滝の様に溢れ出す。目の前にいるだけで膝を折ってしまいそうな重圧と、可視すら可能な魔力の奔流が立ち上る。

 

「なんて、強い魔力だ・・・!オルガマリーもアストライアも弾き出し、いよいよ実力行使と言うわけか!」

 

「負けるか・・・!グレイ!師匠!もう一戦・・・ッ!?」

 

瞬間・・・そう。あまりにも一瞬に過ぎた瞬間だった。戦おうとした藤丸の手段を、瞬く間に削ぎ落とす手腕をムネーモシュネーが発揮した。

 

「ぐぅあっ・・・!!!」

 

「ッ!師匠ッ!!」

 

虚空から現れた、光の鞭にグレイがまともに叩き付けられ吹き飛ばされる。サーヴァントでなければ全身の骨が砕けんばかりの硬質なる一撃。その一撃で、グレイは立ち上がることすら出来ないほどのダメージを負ってしまった。あまりにも深い損傷であった。

 

(なんだ、この威力は・・・!?宝具を使った形跡もない、だがこの破壊力はまるで・・・!)

 

「師匠!大丈夫ですか!?」

 

「っ、問題ない・・・。・・・それより、ムネーモシュネー・・・その身体、ロンゴミニアドの記憶と形に、融合したな・・・!」

 

そう、つまりそれは聖槍そのものに攻撃を加えると言うこと。聖槍そのものに破壊を試みると言うこと。──そんな事は、今の人類には不可能に等しい。功徳に満ち溢れた者の命を懸けた説法か、海すら割る拳でも無い限り。今の人類には、つまるところムネーモシュネーを破壊することが叶わないと言うことになる。

 

「グレイ!君のロンゴミニアドを!」

 

ならば、槍には槍。ロンゴミニアドにはロンゴミニアドしかない。グレイに使用を要請する藤丸だったが──

 

『起動不能。干渉阻害系列の妨害を感知。魔力吸収、不可能』

 

「アッドが・・・!」

 

『当然でしょう。ロンゴミニアドの類感魔術にてあなたたちはここに来た。あなたが槍に干渉できるなら、私もあなたの槍に干渉できる。今、この場では聖槍は起動しません』

 

切り札が、切る前に潰される。カードで覆すのではなく、そもそもカードを『切らせない』。

 

『カードで勝つという事は、こういう事ですよ』

 

その言葉と共に、グレイを。アッドを、ライネスを纏めて吹き飛ばし行動不能へ陥らせる。残されたのは──

 

『やっと、あなたに触れられる。藤丸立香』

 

「くっ、このぉっ!!」

 

身体強化の魔術を付与し、せめてものの抵抗に殴りかかる藤丸。だが、その手を優しく掴まれ・・・

 

「ぐわぁあぁあぁあぁあぁ!!!」

 

ネジ切られんばかりに捻り上げられ、地面に叩き伏せられる。令呪を切る可能性を排する、集中させないための断続的な苦痛の付与。マスターとしての藤丸の才は余りにもか弱い。それが当然なのだ。彼は何処までも、一般の少年なのだから。そしてムネーモシュネーは、紙片を取り出す。

 

「それは!・・・──聖杯の変異した紙片か!」

 

ライネスの言葉は正しい。それは、ムネーモシュネーが用意した、藤丸立香の為に用意した観測の記録。

 

「ぐぅ、あぁあ・・・!離せ・・・っ!」

 

『今度こそ、私の記憶に溺れてください。藤丸立香──』

 

そしてその紙片が──ムネーモシュネーの手により・・・藤丸立香の頭に、直接挟み込まれていく。それと同時に──

 

「ぁあぁ、ぁあぁぁあぁぁあぁぁあぁぁ!!!ぁあぁぁあぁぁあぁあぁあ!!」

 

藤丸の記憶が、塗り替えられていく。塗り潰されていく。哀しみと苦しみに満ちた旅路の記憶が、安らかな、穏やかな忘却へと。

 

 

リツカさん。私──あ◼️のこと◼️──

 

塗り潰されていく。

 

 

せ◼️ぱ◼️!きょ◼️◼️、◼️◼️◼️!

 

塗り潰されていく。

 

 

◼️◼️、◼️◼️、◼️◼️!

 

塗り潰されていく。

 

 

かけがえのない記憶が、愛する者との記憶が、塗り替えられていく。塗り潰されていく。

 

 

「逃げろ!我が弟子──!!」

 

『大丈夫。痛いのも、苦しいのも・・・これが最後』

 

藤丸の絶叫が、か細くなっていく。目に光が無くなっていく。──生気が、薄れていく。

 

「・・・・・・い、いや、だ・・・わすれ、るもん・・・か・・・わすれる、わすれるもんか・・・」

 

『大丈夫。大丈夫。もう、目を閉じて・・・』

 

聖杯の魔力を、直接頭に・・・記憶野に叩き込まれた藤丸は──

 

 

「ま、しゅ」

 

意味のわからぬ言葉を一言だけ告げ。そのまま、糸の切れた人形のように倒れ伏した──




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辛い旅路は もう終わりです

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