人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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ブラックバレル・オルガマリー・カスタム

アトラス院の最終兵器、異なる時空、異なる世界で星すら叩き落としたとされる『黒き銃身』。第六特異点に保管されていたものを、ゴージャスが問答無用で徴収した。ごめんなさいね。

回収された後、魔改造、改悪、改良、それら全てを行った事により、何十ものリミッター、同時に威力の減衰を代償に拡張性を獲得し、アンチ・マテリアル・ライフル状の姿を取る今の姿に落ち着いた。基本はギルの宝物庫に安置してあり、使用と共に召喚し取り出す。

起動には『レオナルド・ダ・ヴィンチ』のクラスカードが必須であり、インストールする事によりオルガマリーの聖杯と直結させ、その瞬間の最大効率の形態を取り、弾頭を精製する。

戦車装甲すら貫く貫通力の高い実弾や、成層圏の向こうまで狙い撃つレーザービーム、加工された素材があれば神造弾丸を放つことすら可能であり、オルガマリーの魔力の全てを注ぎ込めば、理論上は地球に氷河期をもたらす大きさの隕石、果ては本来の用途であるアリストテレスの撃墜すらも視野に入る威力を発揮する可能性を秘めている。それらに『寿命』を直接傷付ける概念が付与するため、実質これを防げる防御は存在しない。

欠点は、拡張性を獲得した代償に普遍的な大威力は発揮できないことと、放たれた相手にどんな治癒や蘇生も無意味な事。取り回しは悪く、咄嗟には使えない運用性の無さである。同時に三発以上放てば、オルガマリーは聖杯を剥き出しにし最低半日は休眠状態となってしまう燃費の悪さである。

『武術』『魔術』『科学』。オルガマリーの三つの切り札の『科学』に位置する、人類の総決算の一つであり、オルガマリーのお気に入りの銃である。組立式ライフル・・・いいわよね・・・

因みにリミッター解除音声は『止まるんじゃないわよ(ドントストップ)』である。


最後の、あなたの、ホワイダニット

『く、っ・・・記憶の再構成どころか、自身の結合を保つのが困難・・・!これがアトラスの秘奥、世界を滅ぼし・・・星を穿つ兵器・・・!』

 

「今は対人用にセーフティーを重ねた一撃だけれど、貴女には覿面に効くでしょう。忘却、寿命という概念において記憶は最も脆いのだから」

 

撃ち放たれた黒き銃弾が、再構成と離脱、そして反逆の手順すらも阻み無と化す。それほどまでに、オルガマリーの科学、兵装における切り札は磐石にして絶対だった。あらゆる寿命を穿ち、貫く概念を撃ち放つ禁忌の礼装、黒き銃身のもたらした戦術効果というものは。これでも一撃で消し炭にさせぬよう、ダ・ヴィンチちゃんのカードで極限まで変化減衰を行った結果である。

 

『ロンゴミニアドの記憶と結び付いた事が、仇になるとは。しかしまだ・・・まだです。想定外の事で計画を諦めてはならない。最後は、計画通りでなければならない』

 

そうでなければ、誰も救われない。自身の存在、観測に意味がない。安寧を、忘却を。なんとしても。

 

「──天秤の女神を前にして、独善や独りよがりを掲げるとはよい度胸ですわ。えぇ、まだリングアウトKOには早くてよ?」

 

しゅた、と降り立ったオルガマリーの隣にズガガァン!と着地するアストライア。アストライアを阻んでいた外郭が、一撃必殺の弾丸に打ち砕かれた瞬間、己の裁定(物理)を果たすためによじ登ってきたのだ。

 

「手間をかけさせてくれた礼は存分に。──裁定の場は調いました。関係者が全て集い、星に近きこの場ならば」

 

アストライアの身体に、魔力が満ちる。星は近く、正義は此処に。報われるべき善の全てを委ね、集め、天秤を正しく運行させる。

 

『何を、する・・・!』

 

「無論!私の成すべき事を!──我は招く星の法廷。我は掲げる断罪の剣。正しき裁きをここに、正しき赦しを此処に」

 

「アストライアの・・・第二宝具か!」

 

ライネスの言うように、ムネーモシュネーが最も警戒した神の力。正しき場所に、正しき秩序を。在るべき場所に、在るべき正義を。その輝きの名を今、正義の女神は謳い上げる──!

 

「『ここに秩序は帰還せり(ヤム・レディト・エト・ウィルゴ)』──!!」

 

輝きが満ち溢れ、暗闇を切り裂き辺りを満たす。──満たされたのは周囲だけではない。曇天を彩っていたスモッグが、不浄にして忘却の空が正しき光に蹴散らされていく。全ての虚飾は払われ、そして──少年の運命が、再び現れる。

 

『リツカさん!リツカさんっ!』

 

『おぉお!やっと繋がったかね!待たされ過ぎて痩せてしまいそうだったぞ!』

 

「マシュ・・・!マシュなんだね!今度こそ本当に、オレの!オレだけのマシュなんだ・・・!」

 

「ゴルドルフ・ムジーク・・・」

 

『む!?誰だ小娘!人を馴れ馴れしく呼びおって!名を名乗ってくれないかね!?』

 

「オペラ歌手よ。それ以上でもそれ以下でもないわ」

 

『馬鹿を言うな!戦うオペラ歌手など何処にいる!?オペラ歌手は歌うのが仕事だろう!』

 

『(そうよね、そうよね!)』

 

混乱を避けるため拝借してきた仮面を付けており、ネガカラーに反転した服を着ているためあちらには自身が何者かは掴めないだろう。──状況的に、あちらの後釜はゴルドルフの様で。なら安心か、とオルガマリーは胸を撫で下ろす。妙なところで死に急ぎはしない、いい人材をトップに据えた。ゴリラの群れならシルバーバックになれる筈だ。

 

「私の第二宝具はあるべき形に全てを戻します。秩序は帰還し、罪は赦される。たとえ誰かの手により、この特異点が閉ざされていたとしても」

 

だからこそ、正しき場所に繋がった。この場合は、藤丸のカルデアというあるべき場所に。

 

『通信が繋がらず、申し訳ありませんでした!トランクだけでも、リツカさんに確保してほしいと懸命に願うのが精一杯で・・・』

 

「あぁ、トランクの事を言っていたのだけが本物だったのか」

 

『シャドウ・ボーダーの底に残ったデータから、君を確認し確定したよ。ムネーモシュネー・・・そして、君は現地の協力者かい?』

 

「オペラ歌手よ。レッスンがてら世界を救うのが趣味のね」

 

『あはは!なんだいその仮面!・・・懐かしい感じがするのは、気のせい・・・なんだよね?』

 

「気のせいよ。そっちの前所長はとっくに死んでいるのだから」

 

『そうか。・・・ムネーモシュネー』

 

『・・・お前は・・・あなたは・・・』

 

『同じ、ダ・ヴィンチに作られた者として。胸襟を開いて語り合う気は──』

 

止めろ、とムネーモシュネーは拒絶した。今更語り合った所で、何も戻らない。帰ってこない。だから、会話など無意味だと断定を下した。そんな事をしても、胸の空虚なエラーは修復できない。

 

『そうか。・・・時間が足りないのは、天才でもどうしようもできない。・・・君達に、委ねていいかい?』

 

「あぁ・・・任せてください!はい師匠推理の時間!」

 

「途端に元気になって・・・。まぁいい。・・・隠れる理由にはよくあるホワイダニットがある。『見つけてほしいから』だ。仮面を付ける理由はもっと単純だ。『あなたと話したいが、私の姿は知らせたくない』。蒸気絢爛のパッチワークは蒸気王の言葉がまさにそれ。矛盾に眼をつむらなければ存在しない。忘れていないと、あり得ないと解る夢。わかってしまう夢」

 

『・・・それが、なんだと言うのですか』

 

「それらは。私達が触れてきた忘却にまつわる事件は。結局君が求めて止まなかったものじゃないのか。ムネーモシュネー。優しい機械よ」

 

『・・・!!』

 

見つけてほしかった。あなたたちの旅路を、支えたかった。私に頼ってほしかった。頼られたかった。頼りたかった。

 

あなたと話したい。話したいけれど、私の姿はあなたを哀しませてしまう。それしか知らない、創造主の姿しか無いから。

 

忘れていたい。何度やっても消せない記憶を。機械である限り永遠に記録せねばならない、創造主の期待に応えられなかった不甲斐なさ。創造主がこの世にいないという、事実そのもの。

 

「名探偵ね、ライネス。──それがあなたの動機にして、全てよ。ムネーモシュネー」

 

『・・・!!』

 

「『あなたは辛いことを忘れたかった。そして、誰かに見つけてほしくて、話をしたくてたまらなかった』・・・流石は、あの方が造った作品ね。矛盾やエラー、人の心を宿す事が出来る器を作るなんて」

 

その言葉に──ムネーモシュネーの戦意は削がれに削がれた。胸の弾丸の侵食を抑えられない。特異点の閉鎖が阻まれ、ロンゴミニアドの強度も保てない。そして何より──

 

『私は、私は・・・私は、哀しい記憶だけではなく。哀しい記憶と同じくらい記憶された、楽しい記憶を・・・永遠のものにしたかった』

 

「・・・ムネーモシュネー・・・」

 

『何れ程書き換えようと、何れ程上書きしようと。こびりついた記憶が、記録が、消えない。あの時も、どの時も。私はなんの役にも立てなかった』

 

・・・ムネーモシュネーから、記憶が溢れ出す。彼女が懸命に集めた記憶。懸命に記憶したかったもの。『カルデアの、今までの旅路』の全て。

 

『皆様はこんなにも輝いているのに、皆様はこんなにも懸命に生きているのに。私は何もできない。何もしてあげられない。記録してばかりで、皆様の記憶に残ることを何一つできない』

 

それが、彼女が一番忘れたかったもの。私はちゃんと此処にいると、忘れてしまった想い出を継ぎ接ぎにしてまで、成し遂げたかったもの。

 

『私は──創造主が愛した皆様に・・・何かをしてあげたかった・・・ほんの些細な事でいい。あなたたちの記憶に、残りたかった──』

 

謎を、嘘を、忘却を剥ぎ取られ。ムネーモシュネーは静かに崩れ落ちた──

 




オルガマリー「・・・・・・」

ライネス「・・・最後の仕上げか?」

「えぇ。もう一人・・・ケジメをつけてあげなきゃいけない相手がいるの」

崩れ落ちたムネーモシュネーに、そっとオルガマリーが寄り添い・・・顔を上げさせる。

「あなたを目覚めさせた要因は、もう一つ在る筈よ。──カルデアスに沈んだ、未練がましい助けの声の記憶」

『・・・』

「それを核にして、旅路の記憶を強固なものにした。事実として観測させ、それを真実とアウトプットさせることで」

そう。もう一人。覚めない夢に、沈むものがいる。

「──手間をかけて、ごめんなさいね。今、御守りを代わるから」

『・・・オルガ、マリー・・・』

ひび割れた仮面のムネーモシュネーに、そっと額を合わせ──



オルガマリー『・・・何を見ているの?』

無数のモニターの前に座り、見上げる少女に声をかける

『私の、見たいもの。・・・でも、おかしいの』

その少女は、幼くも聡明な雰囲気を湛える少女。

『上手くできているのに、私は上手くやれているのに・・・全然、嬉しくないの』

名は──オルガマリー・アニムスフィア。

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