人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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エレシュキガル『えっとえっと、報告書報告書!纏めなくちゃ、纏めなくちゃ・・・!大変なのだわ・・・!』

アイリーン『ロストベルトの理論は邪神さんが教えてくれてはいたけど、・・・もしかして、それなのかしら』

エレシュキガル『あ、でもシークレットにはしなくちゃ・・・!エアやリッカには、絶対知らせないように!こんなもの、受け止めるには重すぎるのだわ・・・日常どころじゃなくなっちゃう・・・!』

アイリーン『!・・・あぁ、だから、だからなのね』

エレシュキガル『?どうしたの?』

『だから、オルガマリーだったのよ。この事実を冷静に受け止められるのは、ただ一人──』

エレシュキガル『・・・マシュでもなく、リッカでもなく・・・!成る程・・・!』

『私も手伝うわ。千里眼持ちには恐らく見えているでしょうけど・・・邪神さんや王様に、分かりやすく伝えないと』

エレシュキガル『えぇ!オルガマリー、もう少し頑張って・・・!』


漂白の何故(ホワイダニット)

『オレ達、いや・・・新カルデアメンバーはAチームの蘇生作業を行い、コフィンから彼等を復活させたそうです』

 

「・・・他人称なのは、何処かに押し込まれ軟禁状態だったから・・・という事ね」

 

『はい。・・・ですが、コフィンには一人残らず、『Aチームはいなかったそうです』』

 

・・・いなかった・・・?その言葉の意味を理解するのに、オルガマリーは数拍かかった。解凍作業を行うまで、コフィンの中は確かに実数証明はされていない。生きているか死んでいるか解らないからこそ、所長自身はそこに押し込んだのを記憶している。だが内部の人間が、解凍作業をしていないのにいなくなったとはどういう訳か?

 

『引き継ぎ作業に立ち合ったダ・ヴィンチのデータからもそれは確実だよ、オルガマリー。解凍作業を行う前から、彼等は何者かに救出、回収されていたんだ』

 

・・・こちらの時空とは、決定的な齟齬が生まれているのは明白だった。カルデアの解凍作業は行われ、五体満足のまま彼等を送り返した。こちらの時空では、一人残らず生きていた。だが、そちらの世界では『何者かが既に回収を行っていた』。・・・誰が、どうやって・・・?

 

『驚いているようだが当然だ!私だって驚いた!だが大方、かの連中の手引きなのは解っている!忌々しいコヤンスカヤが手引きしたのは明白だ・・・!我々、殺されかけたのだからね!』

 

「・・・新所長、あなたが殺しかけたのではなく?」

 

『我々もろとも、だ!忌々しいカドック・ゼムルプスとそのサーヴァント!アナスタシアがカルデアに乗り込み、スタッフを虐殺し、カルデアの機能を凍結させた!』

 

・・・カドックが・・・?楽園で、誰よりも懸命に奮闘し懸命にリッカを支え、乗り越えて見せると輝いている彼が?何故・・・?

 

足許が崩れる様な衝撃を味わいながらも、オルガマリーは推測と予測を行う。Aチーム・・・確かロマニが言うところ、父が名付けた名前は『クリプター』と仮称しよう。彼等はカルデアを襲い、スタッフを虐殺した。そのホワイダニットは何故か?何故、カルデアを機能不全に陥らせる必要があった?

 

『コヤンスカヤの手引きとロシアの黒兵の手引きから、我々は命からがら逃げおおせた!シャドウ・ボーダーに乗り込み、南極の山脈を滑り落ちてな!そこで・・・』

 

『・・・ダ・ヴィンチちゃんが殺されました。コトミネと名乗る神父に、一瞬の隙を衝かれて』

 

────そんな。いや、動揺している場合じゃない、なんで、どうして?あの人はサーヴァント、人に殺される訳がない、馬鹿な、そんな筈ないわ。落ち着いて、嘘よ、そんな・・・──

 

『彼も疑似サーヴァントだったんだ。コトミネという身体に宿ったサーヴァント、捕虜にしたカドックを助けに来た。真名は推測されるに・・・グレゴリー・ラスプーチンで間違いない』

 

『コヤンスカヤ、ラスプーチン!いいかね元所長!覚えておきなさいよ!エロいピンク髪の軍事組織と怪しげな神父は信用しないことだ!』

 

「・・・解り、ました」

 

思考の一部を強制カットし、無理矢理平静を整える。その二人の名前を、忘れない様に記憶した。そして、平行時空でありながらも師匠の死を悼み、彼が託した最後の希望の価値を噛み締めながら。──そして、いよいよ本題だ。

 

「カルデアの外は、何が起きていたの?Aチームは、一体何を行ったというの?」

 

『──そこからは、私が語ろう。丁度君に持って帰らせる資料の作成が終わったのでね』

 

その口調、その言葉を忘れる事はない。教授のライバルにしてアイリーンの相方、シャーロック・ホームズ。務めて淡々と、彼は事実を提唱した。

 

『カルデアの外の人類は、脱出から3ヶ月の期間でほぼ全てが抹殺された。地球は宇宙や外界から切り離され、汎人類史と呼ばれる文明は全て漂白された。漂白、とは言葉通り。全てを消され真っ白になったという事だ』

 

「・・・その、目的は?」

 

『Aチームの頭目とされるキリシュタリアが全人類に宣戦布告を行った。『汎人類史を抹消し、神々の時代を再興させる。異聞帯、ロストベルトを新たな時代とし定着させる』とね。──人類は、戦う前から滅ぼされ、その席すら与えられなかった。漂白された地球のテクスチャには、七つのロストベルトが確認された』

 

ロシア、北欧、中国、インド、ギリシャ、イギリス、南米。それらに根付いた『空想樹』と呼ばれるモノを育て、地球に新たなる歴史を根付かせるのが彼等の目的であるとホームズは告げた。そして、それに反抗することも抵抗する事も赦されず、汎人類史は滅び去ったのだという。

 

「───そう・・・!そういう事・・・!」

 

だが、その情報で教授から賜った叡知がフル回転し、ロストベルトとクリプターのホワイダニットを彼女は解き明かし、そして同時に仮説を組み立て推測される事実を計算し、頭の中で導き出した。

 

(選ばれたのね、キリシュタリア・・・。『この星』の存在では無い、何者かに・・・!)

 

キリシュタリアは天体科、アニムスフィア・・・星科の魔術を得意とする魔術師だ。自分も類似した魔術を使えない事もないが、キリシュタリアの扱う『ソレ』は文字通り次元が違う。天体全てを魔術回路として使用する『惑星轟』と呼ばれる魔術は、星々そのものを叩き落とす事すら可能だ。だが、それは不可能だと前に聞いている。

 

環境が整っていないのだ。今の人類の環境は神代の魔力は枯渇している。キリシュタリアの魔術を行うには余りにもエネルギーも基盤も足りない状態。故にそれは机上の空論だ。だが、それを行える環境を整えられる存在がいるとしたら。それが、異なる世界の存在だと仮定したら。

 

(Aチームを救出したんじゃない。必要なのはキリシュタリアだけで他はついででしかなかった。天体を司るアニムスフィアこそ、新たな歴史の・・・神々の時代の伝道師に相応しいと選ばれた・・・!)

 

神代の魔力に満ちた世界に、天体科の体現者のキリシュタリアが君臨出来たなら。それは、或いはリッカと真正面から戦い、勝敗が予測できない程の力を発揮するだろう。例え神霊だろうとも倒せる力を。彼の力は星の全てなのだから。

 

恐らくキリシュタリアが、世界を漂白させた何者かに嘆願したのだ。彼はフェアさや公正さを求め、強き歴史を競合させる為にAチームを復活させたのだろう。人類の可能性をよりよく選別させるために。そして──カルデアのレイシフトを封印しカルデアスを消し去ったのにも完全に合点が行く。

 

(ロストベルトそのものを『遡って解決』させられるレイシフトはまさにロストベルトの、クリプターの天敵。なんとしてもカルデアスを機能停止させる必要があった!そう、つまり・・・カルデアスそのものが汎人類史の最後の希望・・・!)

 

ニャルラトホテプが提唱し、実演したロストベルトとは、行き止まりの歴史。例え一万年経とうとも変わらない人類の袋小路。或いは発展を極めた世界、或いは滅亡寸前の世界。宇宙そのものが不要とした『剪定』の未来。──つまり、ロストベルトに至る『何か』が過去にあったということ。

 

それを知れば、それを突き止めれば。レイシフトで『ターニングポイント』を直接攻略できる。ロストベルトそのものを『汎人類史』に組み込む事が出来る。過去改編、過去改竄の禁忌こそレイシフト。だから奪った。だから凍結させたのだ。カルデアスを。

 

(・・・カルデアスさえ落ちなければ、希望はある。ロストベルトそのものを、『剪定』ではなく『解決』することが出来る・・・!)

 

こちらの時空の成すべき事はそれだ。カルデアスを、楽園を護り、『異星の存在』から地球環境を防御し、ロストベルトを打ち込んでいる樹を伐採、或いは消滅させる。

 

「──ありがとう。皆の戦いは・・・確かに希望に繋がったわ」

 

『所長・・・』

 

そうだ。彼らの足掻きは無駄ではなかった。相手が分かれば、やりようはいくらでもある。存在する。それは彼等の奮闘があればこそ。彼等の戦いがあればこそだ。

 

「あなたたちの戦いに・・・私は確かに、救われたわ」

 

値千金の情報に、彼等の懸命な戦いに。オルガマリーは深々と頭を下げ、敬意と共に礼をした──




オルガマリー「・・・踏み込んだ事を聞いていいかしら」

藤丸「・・・はい」

「・・・いくつ『切除』したの?」

藤丸「・・・二つ、です。ロシアの強い歴史と、北欧の優しい歴史を」

「・・・そう」

「・・・・・・カドックに言われました。僕らなら、もっと上手くやれた、と」

オルガマリー「忘れなさい。そんな事誰も思っていないわ。カドック自身も」

藤丸「はい。・・・そして、オフェリアさんが」

「オフェリアが?どうしたの?──まさか」

マシュ『・・・・・・オフェリアさんは、北欧の特異点にて・・・スルトを、倒すために・・・命を落とし、ました・・・』

オルガマリー「・・・、・・・・・・・・・──」

・・・・・・自身が死んでから、自身がいなくなってから・・・

・・・あまりにも、変化が多すぎる。オルガマリーは、その運命の過酷に告げる言葉が見付からなかった。

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