ギル《何を懸念する事があろうか。オルガマリーめが有り得た未来に膝を屈する事にか?それは侮辱となるぞ冥界の女神。貴様はオルガマリーの友であろう》
『えっ?』
《ヤツは、我が選び頼みにする女だ。今更どのような未来を知ったところで変わりはすまい。故に、あの娘は楽園の所長として我が認めし輝きを放つ。──魔術師など下らぬ存在ではあるが、ヤツは別だ。オルガマリーこそは、我が旅路が手にした最高峰の財の一つである》
『・・・!』
《おそらくキリシュタリアとやらも同じ考えであろうよ。父が見捨て、世界が見捨てた少女が価値を示した。──それこそが、汎人類史が選んだ唯一の正解だとな。だからこそ、ヤツはカルデアの接触を拒まなかった》
エレシュキガル『・・・オルガマリーが、この旅路で得た最高峰の財の一つ・・・!』
《しかし──我も随分と嗜好が爽やかになったものよ》
『映し出される藤丸の苦悶』
《──苦悩、苦痛、痛みと嘆き・・・。まこと、口に合わん苦汁よな》
──むにゃむにゃ・・・
《全く、誰の好みに染まったのやら。──まぁそれは良い。なればこそゴージャスよ。さて、帰還せし女傑をどう迎えたものか──》
「・・・俺達の戦いの記憶と記録は、こういったものです。所長。オレ達の戦いはもう、誰が正しいとか強いとかじゃない。どっちが生きるか、どっちが生き残るか・・・それだけなんです」
藤丸の言葉に、オルガマリーは肯定の意を返す他無かった。この戦いは、歴史と人類の存亡をかけたものであり、同時に自身が生きる為に復活した有り得ざる歴史を切り捨てる戦い。
「よく解ったわ。どんな戦いに挑んでいたのか、どんな思いを懐いていたのか。とても・・・とてもよく理解できた」
世界を救う大義名分すらもうない。自身が正しいという逃げ道すら許されない。それをしなければ、地球で繁栄してきた自身の未来も無くなってしまう。だから逃げられない。どれだけの辛い道程だろうと進むしか無いのだ。彼等が戦っているのは尋常な決戦ですら無い。滅びた世界が元に戻るかも知れないという希望を信じた、精一杯の対抗戦でしかない。ゲリラ的な小規模で、生きたいと願った者達を滅ぼす最大効率を上げる為の戦いなのだ。
『藤丸君、そろそろ退去の時間みたいだよ。特異点が急速に是正されている。君もカルデアに帰ってくる時間さ』
「はい。・・・所長」
所長に伝えるべきは伝えた。この情報がどう伝わり、どう活かされるかは所長にかかっている。だが実のところ、藤丸はそんなに心配はしていなかった。
「オレは大丈夫なんで。いつか、何処かの『まだ』大丈夫なカルデアに喚ばれたら・・・今の情報、助けにしてあげてください」
何故なら、この所長は・・・いままで一緒に歩んだアイリーンを名乗るこの所長はとても強く、聡明だった。一緒にいてとても心強かったし、彼女も一切手を抜く事なく助けてくれたのは十分程に伝わった。きっと彼女が何処の誰かに召喚されるとしても、絶対に召喚したマスターを助けてくれるだろう。
それなら、自分の戦いにも意味があったと確信できる。自分達が取り零した、見逃した、或いは抜け落ちた事に気付かなかったすれ違いや違和感を、絶対に突き止めてくれる。自分とは違った未来へと、少しでも違った未来へと・・・良い未来へと向かってくれる可能性が生まれるのなら。今の自分の懸命な足掻きも意味があったと確信を以て言葉に出来ると思うから。
「あの、所長!ありがとうございました!あと・・・一つだけ、お願いしてもいいですか!」
退去が始まり、身体が透けて消え行く中、静かに見送るオルガマリーに藤丸が声を上げる。それは、彼が知る唯一の異なる時空への願い。
「『藤丸リッカ』って女の子に召喚されたとしたら、絶対!絶対力になってあげてください!こんな戦いをさせないように!戦いが避けられないのだとしても、せめて・・・!」
「──!」
「『勝ち取るために、胸を張って戦える』!そんな戦いにしてあげてください!何も知らないで、目をそらして相手の未来を奪うしかないなんて、そんな戦いを、あの子にさせたくなくて!だから・・・!」
アーネンエルベで、或いはセラフで一緒に戦った、とても眩しく幸せそうに笑う異なる世界の自分自身。言葉を交わし、顔を知った、生きざまを知ったからこそ願う、彼女への大義と戦いの意味。それが決して、揺らぐことも曇ることも無いように。もう会えないかもしれない。会わせる顔も無い。だからせめて祈るのだ。彼女の煌びやかな旅路が、楽園が、いつか自分自身達とは違った未来へ辿り着くように。
「【滅ぼす】為の殺戮じゃなくて!『勝ち取る』為の決戦に!戦いに!オレ達の戦いの記憶を使って・・・導いてあげてください!お願いします!!」
それが、自身の希望にもなる。これしかなかった、どうしようもなかった、仕方無かったと逃げ出したくなる自分の逃げ道を、願いを昇華してくれたならば。
「リッカちゃんなら・・・!リッカちゃんがいるカルデアなら!絶対!『汎人類史』を背負って戦える!!オレ達より絶対に精一杯戦えるはずだから!だから──お願いしますっ!!」
嵐の向こうで、君が戦えていると信じられたなら。それは何よりの救いとなる。自身の戦いが、誰かの後に確かに繋がる。
『私からもお願いします、所長!私達とは違う道を選べる方が、未来があるのならどうか!より良い未来を選択出来るような戦いを・・・!』
マシュと、藤丸の悲壮な覚悟に所長は目を反らす事なく頷いた。──そして、喪いながらも前を向き、誰かの未来を労る二人の心に心からの敬意を贈る。
「誓うわ。あなたたちの戦いを絶対に無駄にしない事を。──ごめんなさい、リツカ、マシュ」
「所長・・・!」
自分は楽園のカルデアに所属するオルガマリーで、彼等の所長は死んでしまっている。だからこれは、オルガマリーという存在が彼等に背負わせた運命への言葉。
「肝心な時に支えてあげられなくて。辛い戦いにあなたたちの人生を捧げさせてしまって・・・。本当に、ごめんなさいね・・・」
普通に生きる筈だった未来を奪ってしまった。先のない未来を、アニムスフィアが背負わせてしまった。気丈で冷静だったオルガマリーの、あまりにも哀しげな表情と言葉は、藤丸の心を何よりも抉り、もう二度と会えないと割り切ろうとしていたマシュの言葉を告げさせぬ程の衝撃を叩き付けた
『・・・そんな、そんな事ありません・・・!所長は、右も左も解らない私達を、あの冬木の特異点で、ちゃんと・・・!』
それ以上、言葉に出来なかった。──次にいつか会えたなら、告げる言葉を考えなかった筈はない。だが、所長にまず謝罪と悲壮を浮かばせてしまった自分達の今に、言葉にならない慟哭をマシュは漏らした。
「マシュの言う通りだ!所長・・・!オレ達は所長を忘れない!短い、ほんの短い間だったけれど!あなたの最期の願いを忘れない!」
「・・・」
「本当に、本当に・・・!ありがとうございます!所長!何処にでもいるオレに!なんでもないオレに!カルデアという居場所をくれて!!」
辛いことばかりじゃない。悲しいことばかりじゃない。沢山の楽しい事があった。嬉しい事があった。辛くても、苦しくても、それだけじゃないから戦っていける。歩いていけるんだ。
「だから──!ありがとうございます!オルガマリー所長!!絶対!絶対忘れないから──!!」
「──もう、私が教える事なんて何もないわ。行ってらっしゃい。二人とも」
自分達の脚で、眼で。自分達の未来を勝ち取る為の戦いへ。オルガマリーは見届けた。カルデアへと帰還していく藤丸の姿を。
「・・・願いは、必ず叶えてみせるわ。あなたの願った未来と、私の護る未来。それは同じものだから」
誰もいなくなった特異点にて、自身も強く誓う。知った未来に屈しはしない。絶望に呑まれもしない。大切な日々を漠然と過ごさない。カルデアの皆に、殺戮などは行わせない。
「私は私の出来る範囲で・・・カルデアを、未来を、人理を護ってみせるわ」
そう、決意を露に。自身も楽園に帰還しようとしたその時──
『お疲れ様、オルガマリー。連絡が届いているわよ?』
「連絡?」
『えぇ。──ジェームズから。ロンドン・タワーに来てほしいと、ね』
ロンドンタワーへのモリアーティの誘い。怪訝に思いながらも、彼女は大恩ある教授の下へと脚を運ぶ──。
ロンドンタワー
モリアーティ「お疲れ様アイリーン君。君の活躍はアラフィフおじさんを興奮の坩堝に叩き込んだよ。いや本当に素晴らしかった!カッコよかったホームズに全力でマウント取ってやるイヤッホウ!」
オルガマリー「これは・・・」
──其処には、壮麗なピアノを弾き鳴らすオートマタの姿があった。サリエリの魂と記憶を得た、壊れたオートマタが修復されていたのだ。モリアーティの手で。
「でも君、状況が状況だからずーっとムスッとしてて勿体無いと思ったわけでネ。少し位はいい事、いい想い出を持って帰ってほしいじゃないかと奮起して・・・直しました!オートマタ!無論、善意100%だヨ」
アイリーン『ジェームズ、あなた・・・』
「いいかネオルガマリーという少女。未来が見えたからと悲観してはいけない。未来を変えようと奮闘した者達が望んだ答えに辿り着いた例はほぼ無い。それは何故か解るかネ?」
「・・・未来に縛られ、柔軟性を忘れた袋小路に入ってしまうから」
「その通り。──未来なんて曖昧さ。蜃気楼を現実にはできない。だからネ?『未来へ向けて歩んだ足跡を信じなさい』。幻じゃなく、自身の足跡を信じるんだ。その時感じた心の機微が、きっと君達を正解に導く」
芸術を、人生を楽しむ。そうすれば絶望なんて勝手に変わるのだ。未来はそういったプラスアルファが大事なのだと伝えるために──消え去りそうな自身を押して、オートマタを直し。見送りを買って出たのだ。
「退去は哀しいが、そちらには私がいるだろう?私の活躍を語り継いでほしい!そして少し休んでいきなさい。アイリーンに選ばれし人類最高の才女よ」
アイリーン『・・・ふふっ。オルガマリー、沢山の無茶振りはあったけれど、ようやく言えるわね。──一曲、どう?』
エレちゃん『退去、ワンコーラス分は伸ばしてみせるわ。ね?オルガマリー』
「──はい、お願いします──!」
変わらぬ人の、弱さと優しさ。その輝きを受け満面の笑みを浮かべたオルガマリー。
──その笑みこそが、この事件簿の最後の一ページ──
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