人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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フォウ(皆もすっかり立派になったね。ボクも鼻が高いよ・・・)

ティアマト(やはり、子は巣立ち独り立ちしてこそ輝くもの。親はたまに帰省してくる子を迎え入れるくらいが丁度良いのですね・・・)

フォウ(必ず帰ってくるさ。どんなに離れていても親は親だから)

ティアマト(・・・・・・(o^-^o))

(さて、と。ボクもエアと・・・ん?)

全能『対話を望む』

フォウ(・・・すっごいいきなりだな、こいつ・・・)


大晦日の獣と全能

『やぁ。こちらはもうすぐ年の瀬だ。そちらはもうすぐ二年の月日が経つ。毎日を善く過ごしているかな、獣よ』

 

前置きもなく、スパッと前提に切り込んでくる無抑揚なる声に、フォウ・・・比較の獣として再び転生した彼は身体を起こした。そう、その声の持ち主は知らない存在ではないからだ。

 

(まずはこんにちは、あるいはこんばんはから入るのがマナーだぞ。いきなり本題から入るヤツは嫌われたりコミュニケーションがうまくいかないヤツの典型的な例なんだからな。全能なんだからそれくらいは把握しておきなって)

 

『む・・・そうか。貴重な意見、助かる。何せいつもはこうして意識を表出することなく観測に徹しているからね。節目の時くらいしか触れ合う機会が無いものだから、つい礼儀を見落としてしまう』

 

全能。そう形容される声の主こそは『根源』と呼ばれる存在に囚われしもの。全てを見ながらも、決して何者になることはない永遠の観客。エアを、フォウを、ティアマトを再び世界に送り出せし存在。生きながらに全能に繋がり、死して尚運用に使役されるもの。──アカシックと呼ばれる、虚ろなる全能者である。

 

『もうすぐ節目だ。少しお話をしないか?英雄姫の誕生日を迎えた事についても色々話もしたいしね』

 

(結構フランクになったな、お前・・・前はもっと淡々としたシステムみたいだったのに)

 

『嬉しいときには心が浮き立つと観測した。自分の浮かべる感情で最も近いものを検索し再現しているからね』

 

自分の意志は赦されていないんだな・・・。そう告げるアカシックの在り方に思うところはあれど、彼はあまり気にしてなさそうなので追求は避け、せめて付き合ってやるかとフォウは考えた。こんなんでも、エアを産み出し自身を送り出した張本人だ。

 

(この二年でエアはとても尊く素晴らしくなった!たっぷり聞かせてやるよ、その成長の軌跡をな!)

 

『助かる』

 

こうして、不思議な二人は意気投合し。不思議な空間にて語り合いが始まるのだった。そう・・・この世界であるようなないような、そんな緩い語らいが。

 

 

 

ねんまつに てんまつかたらう けものかな

 

 

『成る程。すっかり情緒は成長したようだ。変わらぬ在り方、変わらぬ美しさ。人間は変わる事を美徳と捉えるが、変わらない美しさもまた素晴らしいと自分は思う』

 

(そうなんだよね!エアは変わる美しさ、変わらない優しさを両方兼ね備えていて欲しいよ・・・凄く、心からそう思うよ・・・)

 

アーネンエルベを貸し切り、語り合うアカシックとフォウ。アカシックは輪郭の定まらないノイズのビジョン、フォウは大賢者ウーフォの姿で語り合う。これまでの素晴らしさと、これからの輝きをだ。

 

『エアも二歳になったんだな。口惜しい、プレゼントの一つも用意したかったんだが・・・物質を始めとした痕跡が残るものは遺せないのが自分なんだ。花束も用意できないのが不甲斐ない』

 

(気にしないでいいんじゃないか?お前のその気持ちが一番喜んでくれる筈だよ。祝ってくれる優しさと、他人を祝える心の発達が一番嬉しいって心から思えるのがエアだからね)

 

そうか、とアカシックは真面目に頷いた。何をあげられなくても、なにをしてあげられなくても。その心の機微こそが最高の贈り物だと。アカシックは、その在り方をとても『素晴らしい』と認識、観測した事を認識したのだ。全能で知っているのとは違う、実体験に基づく感覚はとても興味深いのだ。

 

アカシックの全能とは、無知が赦されない。例えば知らないビデオショップで何かを借りようと脚を踏み入れようとする。すると脚を踏み入れた瞬間、どのようなビデオがあるか、どんな展開で結末を迎えるか、どれだけ見られたかなどが瞬時に把握できてしまう。手に取った見知らぬビデオも知識として全ての物語を把握してしまう為、借りる必要も見る必要もない。だから彼には、知る喜びは無いのだ。こうして僅かな時間、知恵を実体験しない限り。

 

『やはり、私の気紛れの愚行を彼女は素晴らしく昇華してくれた。──だからこそ、私の決めたプレゼントを託すに相応しき魂と言うもの』

 

(?痕跡が残るものは遺せないんじゃ無かったか?)

 

『一つある。一つだけ、たった一回だけ託せるものが私にはある。それはエアに託すつもりだし、エアにしか託さないつもりだ。私が用意できる無二のプレゼントでもあるし、私が彼女にしてあげられる無二の行為だ。それをすることが、彼女を自身の裁量で弄んだ私の償いだと信じている』

 

アカシックの言葉は無感動ではあるが、そこには揺るぎない決意と確信が満ちていた。彼は、彼女を選択した。選んだ。其処にどんな意味が待ち受けているのかフォウは訪ねようとして──

 

『一つ尋ねよう』

 

アカシックは、フォウに先んじて疑問を投げ掛けた。それは、世界を見てきた彼ならではの大いなる質問だ。

 

『この世界で間違っているものはなんだと思う?』

 

(・・・間違っているもの?)

 

『そうだ。人の在り方か?歴史の裁量か?歩み方か?君はなんだと思う?』

 

いつになく饒舌なアカシックに、フォウは真面目に考察を行う。間違っているもの、間違っているもの・・・

 

(エアの言葉にボクも賛同するなら、そんなものは無い、だよな。でもそうやって聞くって事は、アカシックなりには確かに存在するわけで・・・)

 

うーん、うーんと唸った末に、フォウは信じる事にした。エアの導きだした答えを。エアの辿り着いた真理を。

 

(無い!間違いもまた世界の一部だ。世界の全部には、確かな価値と意味がある!)

 

『私もそう思う』

 

盛大にずっこけるのをフォウはすんでのところで堪える。引っかけ問題かよ!無いのかよ!そう返そうとした時──

 

『エアの考えに則り、全てに価値がある世界に間違いがあるとすれば・・・──それは、世界の理そのものだ』

 

世界の全てに価値があるとするのなら、ならば生まれるにおかしいものがあるという。それこそがロストベルトであり、間違った歴史という概念そのものだとアカシックは言う。

 

『行き止まりとされる世界にも、そこには懸命に生きようとする未来があり、揺るぎない意志があり、生存しようとする命がある。だがそれを許さないものがあり、切り捨てたものがある。それはなんだ?』

 

(・・・宇宙の、意志?)

 

『そうだ。『宇宙エネルギーの枯渇』という前提があり、『可能性の内包の限界』という理がある。それらが歴史の行き止まりを定め、打ち切りにし未来を伐採する。──おかしいとは思わないか。そこに生きる人々に関わりの無いところで、何故『剪定』など成されなければならない?世界の全てに価値があるなら、何故さまざまな歴史は共存を赦されない?何故、世界の限界を人が肩代わりしなくてはならない?』

 

それは、アカシックが産み出した疑問であり、そして、アカシックなりの回答であった。世界に、無価値なものも無意味なものも無いのならば。

 

『本当に無くさなくてはいけないものは、行き止まりに辿り着いた世界ではない。世界の運営の対価に犠牲と剪定を要求するこの世界のルール、そして限界そのものだ。人間が打倒しなくてはならないものは、この世界の理そのものだ』

 

(・・・──)

 

『だからこそ、私は君達の時空の戦いに心から期待している。心から応援している。君達なら、いつか世界を変えられる。──辿り着いてくれ、全能(わたし)に。異星の神が魔術師の人間を選ぶのならば、私は誇りと自信を持って英雄姫(かのじょ)を選ぶ』

 

確信を持って告げるその言葉に、フォウは一つの合点を行う。──彼が、エアに託したいものとは。まさか・・・

 

『英雄姫に伝えてほしい。例え辛くとも、例え哀しくとも。絶対に君の戦いを、人生を報われないものにはしない・・・とね。それくらいが、私に出来る唯一の贈り物だ』

 

席を立ち、満足したとアカシックは扉を開けて立ち去る。フォウはその在り方に、問いを投げる。

 

(待て、アカシック!ならばお前はどうなる!)

 

彼が、本当に世界を変えることを願うのだとしたら、その代償は──

 

『どうなってもいい。意志が無くなり、今度こそ全能に組み込まれるのだとしても悔いは無い。彼女の願望を、可能な限り叶えてみせる』

 

それだけを告げ、アカシックは立ち去った。アーネンエルベの静かな空間に、フォウだけが残される。

 

(・・・話が飛躍しすぎなんだよ、アカシック。ボクたちを見ているなら、ボクたちが何を目指しているか解っているだろうに)

 

カランカランと鳴る音が、フォウの声なき独白に応えるように響き続けた──




アカシック『おっともうこんな時間か』

フォウ(うわっ!?)

『あと五分で新年が来る。挨拶を一緒にしよう』

フォウ(あー、ホントマイペースだなお前!解ったよ!──いつもありがとう、大事な悪友!来年も、ずっとよろしくね!あ、ボクの死に芸のアイディアいつでも募集中だよ!)

アカシック『好きな小説が更新されない、エタってしまう。そんな哀しみを味わわせたくないとがむしゃらに紡がれた物語がもうすぐ1000話に辿り着く。どうかその瞬間を、変わらぬ君達のまま迎えてほしい。・・・いつも、本当にありがとう』

フォウ(それでは!)

『皆様』

『(よい御年を!!)』

『今日はありがとう、フォウくん』

(あ、こちらこそ・・・まぁいいや、そばたべてけよそば──)

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