人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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リッカ「大丈夫?髀ちゃん。辛かったら言って?私がなんでもするから!」

髀「・・・?・・・・・・?」

いぬ『リッカ様は、髀様をサーヴァントとしてではなく対等の仲間として見てくださっております。何卒、その慈しみを無下にせぬよう・・・』

「・・・、・・・やさ、しい。リッちゃん。・・・ごめんな、さい。最初に、言語、使い果たし・・・」

「いいのいいの!モモちゃんも私を助けてくれたでしょ!」

髀「他人に、見えなかった。河上から、どんぶらこ、どんぶらこ・・・」

(魂だけで土左衛門してたんだ私!?)

「私が、してもらったみたいに、真似した。私を、助け、助け、たすけ・・・・・・」

リッカ「!?モモちゃん!?」

モモ「」

イヌヌワン『いけません、情緒面と記憶野に負荷が!桃子様は人体に神格を結合した神造兵装、単独では余りにも不安定・・・!すみませぬ、桃子様をこちらに!』

リッカ「う、うん!」

『我等三体揃い、初めて桃子様は本領を発揮すると言うのに・・・鬼を殺す為、我等をも武器に為さられてしまった。消え去るまで繰り返す破滅の殺戮。・・・この様な事は終わらせていただきたいというのに・・・』

リッカ「・・・髀ちゃん・・・」


角在りの鬼、角無しの鬼

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

『御時間を取らせてしまい、申し訳ありません。長らくマスターとの契約も戦闘も行っておらず、魔力をみなぎらせる霊基も見るも無惨な有り様であり・・・』

 

次なる暴走を行っているユニット、猿を停止させるために一行は山を越えようと道筋を定める・・・のだが、まずはいぬの提言により髀のアジャスト、メンテナンスを行う事となった。死んだようにうなだれる髀にいぬが接続し、少しずつマスターの契約を果たしたサーヴァントとして主君を整備する。そう、いぬ、さる、きじ達は髀のお供であり、同時に彼女を生存させるメンテナンスロボットでもあるのだ。本来なら、三匹が個別に戦いサポートするのが普通であり、先の戦い方はあまりにも消費が多い決戦の切り札としてしか使ってはいけないのだという。

 

「イヌヌワン、あなた達はやっぱり・・・『桃太郎』と三匹のお供なの?」

 

リッカはサポートロボ、いぬ・・・仮称、イヌヌワンに語りかける。犬、猿、雉となれば知らない方がおかしい、金太郎に並ぶ超有名処の英雄『桃太郎』だと予想は容易い。三匹のお供と一緒に、鬼退治を行った無双の鬼退治のスペシャリスト。お伽噺として知らぬ筈がない、ビッグネームである。だが・・・

 

「桃太郎って女の子だったんだ・・・。それに神造兵装ってホント?三匹と一人でホントのホントに鬼退治をやったってこと・・・?」

 

リッカからしてみれば意外と驚きの質問に、いぬ・・・イヌヌワンは静かに頷く。自身に開示された情報を、信頼できるマスターとリッカを見込み語る。

 

『・・・はい。我等は神秘が色濃く残り、人を脅かす怪異達を畏れた民達の願いが星に届き、人を越えた神秘を討つ存在を鋳造致しました。それが、桃子様に我等三体の支援供・・・鬼と神秘を討ち果たす『桃太郎』としての神話の体現なのでございます』

 

人は畏れた。人を脅かす未知を、怪異を、強き鬼を。英雄では足りない、人では勝てない。ならば、『神』なる者達を遣わして欲しいと。それらの願いが星の内海にて神秘を形にし、顕現した存在・・・それが『桃太郎』と呼ばれた髀の在り方であったという。

 

「まさか、最初からアサシンって訳じゃないよね?凄く無理してる様にしか見えないし、不安定で、危なっかしくて見てられないよ・・・カッコよかったけど!さっきの、スッゴいカッコよかったけど!」

 

『カッコいい・・・!おぉ、桃子様をそう称えてくださる方がマスターで本当に救われました!・・・そう。桃子様が夜闇に紛れるアサシンなど本来は選ばれる筈も無し。この状態は、桃子様がセイバーの姿から自身を無理矢理改造したもの・・・否。語弊があります。【桃子様は、サーヴァントとしてどんな姿で喚ばれようともアサシンへと自身をねじ曲げてしまう】のです』

 

どんなクラスで呼ばれようと、どんな召喚であろうとも。彼女はアサシンとして自身を改造し、変異させ、即座にマスターを殺しにかかるとイヌヌワンは分析する。本来相応しきは、セイバーであると念押ししながら。

 

『振るいしは勇猛極まる鬼滅の刃。滾りしは正義と勇気の血潮。女子の命なる黒髪を翻し、鬼を切り裂き千切って投げるその姿。ただしく童話の桃太郎!語られるに相応しき輝きの姿!・・・ですが、『この』髀様は違いまする』

 

「違う・・・?」

 

『英雄などという『誇り』など背負いたくない。人の・・・角無しの為に戦いたくない。同じ姿で在ることが堪えられない。角無しの繁殖に力を貸すのが有り得ない。・・・憎悪と絶望に染まりきった桃子様は、自身の機構と存在意義を【ねじ曲げて】しまっているのです。自身の側面・・・他のクラスの自身すら赦さぬ程に。記憶を封じなければ、刃でなければ存在意義を保てぬ程に』

 

それは尋常ならざる『嫌悪』だった。憎悪や憎しみですらない。見ているだけで吐き気がする類、同じ存在である事が堪えられないといった『拒絶』。人間という存在そのものへの『忌避』であるとイヌヌワンは語る。

 

「そんな、なんで・・・なんでそんなに人間を嫌うの?おじいさんやおばあさんに、大切に育てられた彼女がどうして・・・?」

 

『・・・おじいさん、そしておばあさん。それは桃子様が今も唯一『人間』と認め敬愛する方にございます。この世界における、優しさと慈愛を以て自身に接してくださった仁愛の方々と』

 

その二人から戦う意義を教えられ、その二人を見て人の世を護りたいと願った。鬼を退治し、鬼どもが奪った財宝を取り返す為に戦うと誓ったのだと。

 

『二人は桃子様に仰有ったそうです。『鬼は人とは違う。でも、ただ生きているだけで悪い方たちではない』。『ずっと前から世界にいた、人間達の先輩の様なものだ。仲良くは出来なくとも、せめて互いを傷付けない様な世界になってほしいものだが』・・・桃子様もその心より、人の感情を学んでいきました。鬼を憎むのではなく、人の命を護るために鬼を倒すと。・・・ですが』

 

「・・・何が、あったの?」

 

嫌な予感を感じ、尋ねる。おじいさんやおばあさんがいてくれたなら、髀はこんな無茶をしなくても良かった筈だ。一体・・・何が起きたというのだろうか?

 

『・・・おじいさん、おばあさんの二人は人の村を興した村長夫妻でした。村を護り命を懸けて存続を行ってきた。ですが彼等は追い出された。度重なる飢饉、そして鬼達の襲来を切り抜けられない無能として、『口減らし』として老いた夫妻を切り捨てたのです。理不尽に対する、捌け口として』

 

「・・・!」

 

『そんな境遇にも、二人は誰も恨まなかった。自分達の食事で、飢えをしのげる者が増えるならと。・・・拾い上げた桃子様を本当の家族の様に育て、村に少しでも役立つように、桃子に友が出来るようにと山の幸を持たせ、仕事を与え。・・・ですが、村の者達は鬼の暴虐に堪えかね、桃子を退治という名目で生け贄に差し出す事にしたのです』

 

 

『鬼を退治しろ、私達を救え』『我等にそんな力は無い、お前と違ってこんなにも弱い』。口々に民達は口にしたという。剛力にして美しい桃子を差し出せば、鬼は満足するだろうと。

 

『愛娘を死地に送ることばかりは、二人は猛反対したといいます。『娘を奪わないでくれ』『桃子に命を奪わせないでくれ』と』

 

『鬼を庇い立てるのか』『我等がどうなってもいいというのか』『薄情者め』

 

『我等の命と娘の命、重く、生き残るべきは我等に決まっている』

 

・・・桃子を差し出すまで、代わる代わる夫婦に村の者達は迫害を行った。石を投げ、家を荒らし、衣類を汚し、道具を壊した。徹底的に、二人を苛め抜き桃子を生け贄に差し出す様促した。

 

『彼等を恨んではいけない。人は心に皆鬼がいるのだ』

 

『恨むなら私達だけに。優しい心を忘れないでおくれ。鬼に、お前を差し出す私達だけを恨んでおくれ。優しいお前を忘れないでおくれ』

 

もう嫌だ、鬼を退治する、退治しろというあいつらに二人が殺されてしまう。二人が殺されてしまうならいっそ・・・。そう心を歪ませかけた彼女を救うために、二人は懸命に大義と誇りを背負わせた。生け贄ではなく、誇り高き英雄として愛娘を送り出したのだ。

 

『私が救う、あの二人を。鬼を倒して、あの二人を幸せにする。鬼が集めた財宝をあの二人に、そして村の皆に』

 

心の鬼を育てるのが貧困ならば、富を持ち帰り皆を助ける。きっと自分はその為に生まれてきたのだ。きっと自分が助けてみせる。人を、皆を助けてみせる。

 

『宝を皆で分け合う、か。桃子は優しい子だね』

 

『それなら皆が仲良くなれる。鬼の方々が困らないくらいに、持ち帰っていいよう頼んでね』

 

・・・──鬼ヶ島に行き、財宝を手に入れ桃子は帰還した。沢山の、皆に分け与える分の財宝を持って。

 

『おじいさん!おばあさん!桃子は、桃子はやりました!これで皆・・・!』

 

・・・其処で、彼女が見たものは。

 

【桃太郎は失敗した。我等はもう御仕舞いだ】

 

【役立たずめ、我等はお前達に殺されるのだ】

 

【我等は悪くない。失敗したお前達が悪いのだ】

 

・・・大切な家を焼き払われ、暴行を受け死に瀕した二人の恩人。

 

【お前達が生きていると都合が悪い】

 

【あの娘が万が一逃げ帰ってきたなら、掠めた財宝をお前達だけに渡すだろうからな】

 

【財宝は我々のものだ。貧困に耐えてきた我等『だけ』が報われるべきなのだ】

 

【あの娘も生きていたなら殺してやる。必要なのは鬼を殺す怪物だ、財宝だけだ】

 

【我等の世界に、化け物など要らぬのだ──】

 

・・・その日、その光景の瞬間から。『桃太郎』は死に絶えたとイヌヌワンは言う。

 

【人はもう何処にもいない。いるのは鬼だ、角がある鬼と、角の無い鬼だ。私はなんて過ちを犯していたのだ】

 

其処で、桃子の魂は致命的に違えてしまった。

 

【私は何故──鬼などを助けようと勘違いしていたのだ】

 

・・・人より貰った心は、致命的に壊れてしまった。やがて彼女は、世界をさ迷い鬼を殺す為だけの鬼となった。

 

【殺してやる。殺してやる。鬼を全て、殺してやる──】

 

鬼があるところ、現れ全てを殺戮するはぐれサーヴァントとして。・・・僅かでも鬼を助けてしまったエラーのままに、自身をひたすらに機械として振るうだけの存在として。

 

それが桃太郎の側面、有り得た姿。歴史の虚飾を取り払った、ありのままの神話の実態──




リッカ「・・・モモちゃん・・・」

イヌヌワン『リッカ様を人として認識なさったのは如何なる奇跡か。最早その奇跡こそが最後の救い。何卒、何卒桃子様を・・・』

モモ「・・・・・・・・・起動、再開」

イヌヌワン『!』
 
「おまたせ、リッちゃん。進軍、再会」

リッカ「・・・うん、モモちゃん」

「?」

「──私、モモちゃんと凄く仲良くなりたくなって来ちゃった!可愛いし、カッコいいし!ね、私と友達になってよ!」

モモ「・・・・・・とも、だ、ち・・・・・・?」

リッカ「うん!お友達っていうのはね、一緒にいると幸せになれる相手の事!私、モモちゃんの傍で・・・モモちゃんを幸せにしたい!」

「・・・・・・それ、は、めいれい?」

「ううん!提案!」

「・・・・・・・・・、・・・・・・ぜん、しょ・・・」

「うん!考えておいてね、モモちゃん!」

「あい・・・」

イヌヌワン『・・・桃子様。例えどの様な有り様であろうと、我等の忠義に違いなし。今こそ、今こそ永き放浪に終止符を──』


『ウォオォオォオォオォオォオォオォオ!!!!!!』

リッカ「!?」

イヌヌワン『こ、この声は・・・!!』

髀「・・・さる・・・」

山の頂上に、『それ』はいた。頂にて胸を打ちならし、巨大な鬼を薙ぎ倒す何十メートルもある『それ』

リッカ「マウンテン・・・ゴリラ・・・!?」

『さる』と呼ばれる・・・二匹目の供の姿。それは、真紅の毛を逆立てる、巨大なる大猿──

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