人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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「ちなみに、最初からイヌヌワン達はメカだったの?」

イヌヌワン『神獣としての姿は勿論あります。しかし、物理法則に安定した世界に降臨するには、我等の存在は余りに場違い。世界からの抑止で戦う処では無い為に機械としての受肉を行い、この姿となったのです』

「凄い!メカとしての姿の他にまだ変身が出来るんだね!」

『セイバー、本来の桃子様の姿の宝具としてならば顕現は叶うのですが、今のおいたわしき桃子様にそのような無茶などさせる訳にはいかず。──どうかリッカ様、あなた様の手で桃子様の心を・・・』

桃子「鬼、殺す。鬼、潰す、鬼、滅ぼす・・・。リッちゃん、いく、いく、いく・・・!」

リッカ「わわ、モモちゃん、ほわぁあぁ!?」

イヌヌワン『わ、私もお供致しまする!しかしあの鬼の数・・・もしや・・・頭領もまた『ヤツ』であるのか・・・!?』


お供──さる

『オォ!!ウォオ!!ォオォオォオォオ!!』

 

猛烈なドラミングにて天地を揺るがす程の振動を巻き起こし、万物全てを威圧する巨大なる真紅の大猿。四肢も、身体も、下界を遥か見下ろす程に巨大にして逞しき大猿。真紅の魔力が、まるで筋肉の脈動がごとき生命力の奔流を感じさせる。

 

「「「「止めろーー!!!」」」」

 

巨大なる真紅の大猿を阻まんと、大柄な鬼が群がり無理矢理抑え込もうと群れを為し覆い被さる。その存在が山を降り、暴れ回れば一帯の総てが更地に、平らに均されてしまうことは明白である故だ。だが──

 

『カッッ!!!!』

 

短い咆哮の刹那、強靭な肉体が何倍にも盛り上がり、各所より排熱が行われる。身体中のリミッターを外したのだ。立ち上がり、灼熱の蒸気を巻き起こしながら、鬼の殺戮を開始する大猿。両腕の豪腕を構え、『腕を射出する』。

 

「ロケッ──」

 

そう、ロケットパンチである。撃ち放った右の腕が暴れ回り、鬼の身体を纏めて吹き飛ばし穿っていく。正確に、そして荒々しく。鬼のみを貫き穿つ鋼鉄の鉄拳を撃ち放ったのだ。

 

それだけではない。左腕に凝縮された魔力が、インパクトの瞬間に爆発的に放出され鬼を粉砕する。所謂パイルバンカー・・・どちらの腕にも、鬼を殺戮する為のギミックが凝縮し内蔵されているのだ。

 

『さるの役目、それは巨大なる鬼を想定した武装、防御を打ち貫く剛力無双・・・!それを今、目下暴走無制御にて振るっておりまする!』

 

一刻も早く鎮静させねば!イヌヌワンが言うように、今は鬼を優先しているが故に山頂へ釘付けにされているに過ぎない。防波堤の役割を果たす鬼がいなくなれば、破壊の化身なる大猿は降りるだろう。角無し・・・この特異点に用意されし人間の村落を破壊し尽くす為に。

 

「リッちゃん、いぬぬわんと、さるをお願い。私は、鬼を、殺す・・・──!」

 

鬼を発見し、仲間をリッカに任せ刃を振るい鬼を殺戮に向かう髀。本来ならば猿を止めるまで鬼を減らすのは悪手であるのは明白だが、鬼を見逃すことこそが今の彼女にとっての最悪の手である。そして、彼女なりのマスターの護り方は鬼を早急に殺す事しか知らないが故に、鬼へと飛び掛かる。

 

『リッカ様、桃子様は私をあなたに託されました!どうぞ背に!我が同胞を止めるため、何卒お力を御貸しください!』

 

「もちろん!行くよイヌヌワン!!──合真!!」

 

イヌヌワンがアクティブモードとなり、巨大化すると同時にリッカが鎧を纏う。コンマ0秒以下の瞬時の着用はプロセスをもう一度見たくなる程に鮮やかではあるが、大猿の殺気が悠長な動きを許さない。

 

『一気に顔面部に接近します!どうか振り落とされぬよう!』

 

【オッケー!お願い!!】

 

『カァアァアァアァア!!!!』

 

イヌヌワンがリッカを背にブーストを発射したのと、大猿が二人を認識したのは同時だった。真っ赤に輝き、吠え滾り拳を振りかぶり総てを破壊せんと猿の拳がリッカ達に迫り来る。それを──

 

【イヌヌワン!『鬼』を!】

 

『承知!!』

 

辺りに蔓延る『鬼』を足場代わりに着地し疾走する。大猿に比べて二人は余りにも小さい。大猿を止める為に派遣された数メートルクラスの鬼に着地した二人を狙い砕くには余りにもサイズが違いすぎた。ドリルギアを展開した猿の拳は、悉く鬼の身体を抉り打つのみに終わり、イヌヌワンの物理法則を完全に無視した急停止、急発進、急加速を捉えるには余りにも遅きに失している。

 

【殺人的な加速ぅ──ッ・・・!!】

 

『すみませぬ、リッカ様!あの猿めに掠りもすれば我等は粉微塵!鬼を狩り貴方を護る為にもこの速度にて!!』

 

鎧が無ければバラバラになるような衝撃と風圧に堪えながら、リッカは吉備団子を握り締め懸命に歯を食い縛り耐え抜く。殴り、薙ぎ払い、打ち払い。一つ一つが鬼を砕いていく度に、少しずつ大猿へと近付いていく。吼え暴れる大猿、屍となり果てていく大鬼達。縦横無尽に跳び回るイヌヌワン。そして──

 

『グゴォオォオォォオ!!!』

 

両手を組み、ハンマーナックルにて最後の大鬼を粉砕した瞬間──隙が生まれる。山が崩れんばかりの勢いの一撃を鬼に叩き込んだ代償として、全身の排熱が始まり動きが止まったのだ。

 

【今だ!いっけぇえぇえぇえっ!!!】

 

歯を食い縛り、急加速し大猿の顔面部を横切る刹那、リッカが口に目掛けて吉備団子を放り込む。口に放り込まれ、体内に取り込まれた事をイヌヌワンが確認した旨を髀に告げ──猿の眼が、蒼に変わる。

 

「止まった。ありがとう、リッちゃん、いぬぬわん。──行くよ、さる。真名封鎖、兵装起動、『申』──!」

 

素早くコードを認識させ、空へと跳躍する髀。それに呼応し、正気を取り戻した猿が髀の武装へと転ずる。

 

【おぉっ!また百獣武装きたーっ!!】

 

リッカのテンションをMAXにする武装装着。巨大な猿の装甲は、腕部に装着され髀の腕を何倍も肥大化させる。ドリルユニット、ロケットパンチ、パイルバンカー。そして顔面にバイザー、思考を助ける補助ユニットが装着され、全身の出力を安定させる。

 

『猿の武装は大出力と繊細な分析の両立・・・鬼の弱点を計算、導き出し剛力無双の一撃で的確に打ち砕くストロング&インテリジェンス!ハイパワーと安定性を両立させし対指揮官鬼撃滅兵装、それがあの猿の豪腕!』

 

イヌヌワンの解説通り、申を纏った髀の動きは豪快かつ繊細の極みを見せる。増援として現れた鬼の部隊を分析し、先頭の鬼を力の限りその拳で殴り付ける。

 

「──!!」

 

振り抜き殴り付けた鬼に過剰な魔力を叩き込み、群れに目掛けて叩き込み爆発させ一網打尽とする。そのまま群れに歩み寄り、カウンターの要領で攻撃した鬼にパイルバンカーを叩き込み、弓矢を放つ遠距離の鬼に両腕のユニットを撃ち放つロケットパンチを御見舞いする。ドリルユニットで盾を構え布陣を組む鬼達を蹴散らし、指揮官である大型の鬼を殴り飛ばし、敵戦力を徹底的に討ち滅ぼしていく。

 

「──ふんっ!!」

 

やがて最後の鬼の顔面を粉砕し、敵対者が全ていなくなった事を確認し、降り立ったリッカとイヌヌワンに向かい深々と頭を下げる髀。巨大な鬼は猿が蹴散らしていたので、先の増援が猿を食い止めていた最後の部隊であったようだ。

 

「ありがとう、二人とも。怖かったに決まってる作戦を、果敢にこなしてくれた。私はやっぱり仲間には恵まれるみたい」

 

【あれっ?モモちゃん、IQ高い・・・?】

 

『猿のユニットの真価は賢さ、そして安定性。桃子様のメンテナンスユニットとしての性能は猿が随一なのです。彼がユニットとして接続している間は、言語と情緒機能、生体機能は安定します。つまり調子が良くなるのです』

 

「直ぐに次にいける・・・と言いたい所だけど、マスターに無理をさせたくない。リッちゃんの休憩として、休んでから行くことを提案します」

 

【大丈夫!・・・と言いたいけど、モモちゃんの提案を尊重したいな。だから、休んでいこう!・・・それにしても・・・】

 

ロマンがミッチミチだぁ・・・。男の子が憧れて当たり前の武装を徹底的に詰め込んだ三匹のお供。機動のイヌヌワンと剛力のさる。リッカは興奮とワクワクを抑えられなかった。神話の桃太郎は、想像を遥かに越えた男の子の夢の化身だったのだ。

 

(次の雉はどんな子なんだろう・・・!楽しみだなぁ・・・!)

 

次なる髀の仲間と力の姿に、味わった重力と衝撃など何処へやら。共に在る、可能性に満ちた髀に期待が高まるばかりのリッカであった──。




さる『大変手間をかけさせてしまいました・・・誠忝なく反省するばかり。赦されよ・・・』

リッカ「いいよいいよ、気にしないで!モモちゃんの大切な仲間を、私も取り戻したかったし!」

『優しきお嬢さんだ・・・あなたが桃子様のマスターとなってくださり、本当に良かった』

髀「・・・・・・・・・・・・・・・」

イヌヌワン『いけない、さるの接続はあくまで一時的、魔力の深刻な枯渇と反動による疲労停止が起きている!速やかにメンテナンスを──』

リッカ「あ、じゃあお願いがあるの!フワイサム、イヌヌワン!私に・・・私に!モモの『メンテナンス』の仕方を教えて!」

イヌヌワン『なんと!?』

「マスターとして、友達として。今の壊れかけたモモを放っておけない。戦う機能だけじゃなくて・・・モモの心や傷ついた部分に、直接向き合いたい!──お願い!」

フワイサム『・・・解りました。桃子様の霊基パターンを開示致します。修復の手順も』

イヌヌワン『さる、いやフワイサム・・・!いや、私も勿論異論は無いが・・・』

フワイサム『我等では桃子様の機能を存続させる事しか出来ない。だが、マスター・・・桃子様が『人』と認識した彼女ならば出来るかもしれない。閉ざされた、桃子様の人としての機能を・・・感情や、心を再び動かすことを』

イヌヌワン『・・・それは、我等が最も望む事だ』

「この場限りの関係で、絶対終わらせない」

「・・・・・・・・・・・・」

「私がモモに伝えてみせる。貴女は、鬼を殺すだけの鬼なんかじゃないって──!」



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