人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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アンク『改めまして。助けてくれてありがと。アンクよ、ヨロシク♪』

リッカ「リッカです!女性の方なんだぁ」

アンク『そうそう♪私はモモちゃんのメンタルケア、スキンチェック、メモリーセーブがメインの役割なの。乙女のプライベートの管理は、男には任せられないでしょう?犬みたいに生真面目な子とかは、女の子との間には不向きだし』

イヌヌワン『女性が増えたら是非とも見てもらいたい。犬が持つ愛くるしさを!』

『猿は理詰めでモモが困っちゃうだろうし・・・』

フワイサム『栄養補給にバナナ缶を・・・開かない。ならばGIは導き出す──蓋の部分をパワーで開ける!ぬぅうぅうぅうぅん!!(バギャ)・・・美味しい』

『そういう秘密の会話は、同姓じゃなくちゃ。・・・あの日から、めっきり私は機能しなくなっちゃったけど。ね、リッカちゃん。辛抱強く主に付き合ってあげてね。私達のコミュニケーションはあくまでも自己啓発の延長、本当に心を動かすのは、他人からの干渉なんだから』

リッカ「勿論!じゃ、モモのとこに行ってくるね!」

雉『行ってらっしゃい♪・・・リッカちゃんがいてくれたお陰で、最悪の可能性は避けられるわね』

(・・・アサシンなんて弱体化を選んだままじゃ、手も足も出ないもの。温羅は生易しい相手じゃないわよ、主・・・)

イヌヌワン『・・・私は狼だったような、いや!私はイヌヌワンだ!』

フワイサム『おいしい』

『・・・よっぽどリッカちゃんは優秀なのね。一匹や二匹死んでるかと思ったわ・・・』


鬼神(ばか)

「・・・・・・・・・・・・」

 

雉、アンクの暴走も終わり、穏やかさを取り戻した海。浜辺にて、静かな波の音が響き渡る。夜の行軍が終わり、空が白んでくる頃合い・・・夜明けの時間帯の静寂の空間。髀は体育座りにてぼんやりと待機していた。その視線の先には広がる海、そして・・・巨大な鬼の顔をした島、『鬼ヶ島』が厳つく聳えている。自身がかつて鬼退治に向けて駆け抜けた戦場を、感慨も無く見つめていた。もう全て、遥か過去に終わった事だから。

 

「隣、いい?モモ」

 

「!(ぺしぺし)」

 

いや、モモにとって新しい事は既に起きていた。自身を信じる新しきマスター、リッカ。自身のお供として、或いは大将として共に戦う『ともだち』。生前はいなかった存在に耳から煙を出し、隣に座るように促す。

 

「ありがと!・・・まずは、さっき。ありがとね、モモ」

 

「?」

 

「ほら、コンビネーション。自分はどうすればいい?って聞いてきてくれたでしょ?モモが心を開いてくれたみたいで、嬉しかったんだぁ」

 

肩を寄り添い、リッカは共にモモと景色を見る。彼女は心が繋がる瞬間がとても好きだという。見えないし、掴めない。でも確かにある心が、他人と繋がる奇跡が味わえるから会話と対話が好きなのだとリッカは語る。

 

「・・・・・・リッちゃんと、いると。こわく、ない」

 

そう、常に鬼を殺さなくてはとの強迫観念、或いは恐怖。焦燥・・・そういった類いに突き動かされる自分を、うまく制御出来るようになり始めた。先程までなら、全てを優先して鬼を殺すのを再開したというのに。

 

少しずつ、少しずつだが。思い出したような、懐かしい気持ちが沸き起こるような感情処理を感じているのだ。かつて、誰かの為に、何かの為に鬼退治を行っていたあの頃。・・・そして巡り会った、強き、強き鬼。『鬼神』と記憶に刻まれた唯一無二の鬼の存在、先程語りかけてきた存在・・・温羅の名を。彼女もまた、召喚されたのだろうか。

 

「初対面、って感じじゃなかったよね?あのウラって鬼と、知り合い?」

 

リッカの疑問に、こくりと頷くモモ。風邪を引くといけないので、自身のマフラーをリッカに巻きながら彼女は記憶を開封する。リッカのコミュニケーションは、確かにモモを髀の忌名から解き放ち始めていた。

 

「強い、強い、鬼。私達が、全員で立ち向かった、鬼の大将。鬼神・・・鬼たちから、そう、呼ばれていた。その通りの、強さ、だった」

 

「鬼神・・・そんなに・・・?」

 

「私達の、全力で・・・一週間、戦った。寝ず、食べず、朝も、夜も。私達は、四人。温羅は、一人で。子分は、脱出させて、たった一人で」

 

かつての風景を思い出すように目を細める。──実のところ、三匹のお供の性能と桃太郎としての自身の存在は、数多無数の鬼を想定したものではなかった。たった一匹、たった一人の鬼の大将を討ち果たすために設計、想定されたものだと件の鬼神に相対した際に理解したとモモは言う。

 

 

『世の為、人の為に鬼を退治する、か・・・。うん、いい理由だ。星の兵器さんよ、いい人らに育てられたみたいだな』

 

『何を。鬼の癖に人の善し悪しが解るのか!』

 

『勿論解るさ。鬼は基本的に穢い。人は臆病者だ。だが──それだけじゃないからいいんだろ?』

 

『──お前を退治する!人間の、生きる世界の為に!』

 

『あぁ、来い!英雄よ、アタシ様にガツーンとぶつかって来やがれ!!』

 

・・・鬼ヶ島での鬼退治は、桃太郎としての全盛の自身に神獣の供を抱えた全身全霊を以てして一週間の月日を要した。一分一秒すらも気の緩まぬ極限の戦いが、総てを揺るがす超絶なる気風にて巻き起こされ覇を競い合ったのだ。

 

『──!!』

 

強かった。本当に、凄まじいまでに強かった。イヌヌワンも、フワイサムも、アンクも絶え間無くその鬼に・・・鬼神に立ち向かい、何百、何千と返り討ちにされた程だ。桃太郎も何度も何度も死を、生命の危機を覚悟し何度も死に瀕した。

 

『強い・・・!!』

 

強い、そして──とても清々しく、美しかった。数の不利に文句一つ漏らさず、自身が有利でも気を抜かず、自身が不利でも笑顔を絶やさず。瀕死の相手は狙わずに、回復している際には攻撃をしない。騙し討ち、闇討ち、卑怯な真似は決してせず、ただ真っ正面から総てを迎え討ち、立ち塞がったたった一匹の鬼神。その戦いの中で、自身は鬼という存在がなんたるかを骨身に叩き込まれた。

 

強く、雄々しく、嘘をつかず。逞しく、朗らかで、生命力に溢れた生き物。退治する相手と解っていても・・・その生き様は、戦いの中で魂に焼き付いた。いや、魂に叩き込む為に或いは戦っていたのか。

 

・・・決着は、一週間最後の日の出だった。信じがたい事に、食事の不要な兵器たる自身達に、飲まず食わず、休息を挟まず。そして終始数の不利をものともしないその鬼神は、敗けを認め倒れ付した。

 

『あ~~~~~~!!!腹へったぁ~~~~!!』

 

天地を揺るがす腹の虫の音が、終幕の合図だった。鬼神は朗らかに敗けを認め、自身の首を差し出した。

 

『見事だ!本当に天晴れ!まさかアタシ様に勝てるくらいに人間の意志は研ぎ澄まされたなんてなぁ!やっぱ、時代に必要なのは単純な強さじゃない!願い、受け継ぎ、紡ぎ、造る!人間みたいに『重ねる』事か!ははははは!鬼はもう時代遅れだ!哀しいが!喜ばしい!』

 

『・・・悔しく、ないの?負けた、くせに・・・』

 

『無い!!お前を英雄として送り出した方々に感謝しろ、アタシ様は人の願いと意地に負けたかった!そうだ──野蛮な暴力じゃない、歴史を前に進める力に!』

 

『・・・。・・・敗けを認めたなら、退治は、終わった。・・・今日は、このくらいで・・・』

 

・・・限界を迎え、倒れた私達をその鬼は介抱してくれた。壊れた箇所を直し、美味しい御飯を振る舞い、たくさんの財宝を持たせてくれた。

 

『ここの『温羅』が溜め込んだもんだ、アタシ様にゃ必要ない!持っていけ桃太郎、お前の幸せにしたい人の為に使ってやれ!』

 

『えっ、でも。あなたはどうするの?』

 

『派手に負けたからなぁ。ま、今まで鬼どもが殺した輩の供養に生きる。最後の神秘のアタシ様が敗けを認めた以上、妖怪は皆いなくなり始めるだろうよ。──よく頑張ったな、桃太郎』

 

そうして、あの鬼神は朗らかに私達を送り出してくれた。自分を討ち果たした相手を、心から祝福して。親友を送り出すように。

 

『見事なり!天晴れだぜ桃太郎!!日ノ本一のつわものよ!達者で暮らせ!親孝行を忘れるな!元気でなーっ!!』

 

・・・色んな事を語った。色んな事を話した。鬼でありながら、人の技術や歴史に感銘を受けた鬼神だった。彼女はずっと考えていた。『鬼のこれからの在り方』を。

 

『鬼や妖怪が好き勝手やる時代はもう終わる。そのツケを払い神秘は閉じるだろう。──だがその瞬間までアタシ様は鬼の在り方を、鬼の認識を少しでも変えたい。後の世に示したいんだ』

 

恐れ、恐ろしいばかりの存在ではない。いつか、いつか彼方の時代にて、鬼という存在は親しみのある存在であってほしい。

 

『アタシ様はやる!アタシ様はアタシ様なりに、『鬼の歴史』を護り、伝えていく!だから桃太郎、お前は人を護れ!お前を兵器から人にした、人間の善き心を護る刃であれ!』

 

『・・・温羅・・・』

 

『アタシの名前は誰にも言うな。アタシはただの鬼でいい!鬼という存在を退治したつわものとして、鬼退治の英雄として名乗りを挙げろ!そうすりゃ、アタシ様も報われる!鬼も、お前の武勇伝と共に永遠になる!そして、お前と一緒に後の子達を笑顔に出来る!』

 

天晴れ!遥かな後の時代にまで、桃太郎の名を轟かせろ!そしてその名と共に、鬼の悪名も永遠なれ!いつか子供達が、笑顔で本を捲り、鬼の名を口に出来るような平和な時代にまで語り継がれん事を!

 

『天晴れなり桃太郎!!天晴れ、鬼退治──見事果たせし人の歴史よ!!』

 

・・・自分の敗北まで、桃太郎の武勇伝に譲ってくれた。敗北すらも受け入れた、あの『4本角』の鬼神。・・・彼女が、鬼の在り方を定めたと桃太郎は確信した。

 

強く在り、そして遠く在り。自由で、嘘をつかない強い鬼。──それが、とても・・・

 

 

「・・・強い、鬼だった」

 

「そうなんだぁ・・・!」

 

彼女を語る時、恐怖ではなく、笑顔でいられる。モモが戦った鬼神とは、そんな気持ちのいい『鬼神(ばか)』だったのだと。リッカに貰った心がそう告げるのだ──




?「おーい!!待たせたなー!!迎えに来たぞー!!!」

話をしていた二人に送られる、巨大なる怒号。素早くお供達が戦闘体勢に入る──が。

モモ「大丈夫。・・・迎えに来ただけ。絶対に、攻撃は、しない」

リッカ「・・・あれ!?なんか大漁旗掲げてない!?」

?「いやー遅れてすまんすまん!!船を出すとは言ったけど操舵者も航海士も全部出払わせてたわ!だからアタシが直接こうして来た訳だ!詫びにマグロやら鮭やら取ってきた!鬼ヶ島で振る舞ってやるから楽しみにしといてくれ!!」

その船は──クルーザー漁船としか言い様の無いカスタムシップであった。大漁の獲物の魚を携え、大漁旗を掲げ、そして魔力で動く精密極まりない船。その船首に、『鬼神』と呼ばれるそれはいた。

「楽園カルデアのマスター!えんまちゃんから話は聞いている!!よくぞ不甲斐ない人理とだまくらかされた閻魔亭とそこのボロボロな桃太郎の面倒を見てくれた!!お前のお陰で桃太郎を読む子供達の未来が護られた!本当にありがとう!!」

その姿は──異質だった。遠目でも解る185越えの体躯。虎柄のコートをサラシを巻いた爆乳の素肌に直に着用し、腰巻きと褌の男らしい出で立ち。──リッカの数倍は引き締められた女体を魅せる、脚にまで届くほどに伸びた紅き髪。そして──頭部側面に映え、後頭部に向かって伸びる一対の角に、額から伸びる雄々しき二本角。更に真紅の瞳と、金色の瞳のオッドアイ。何より目を引く肌は、病的な白さをたもっている。

「今からお前らを案内しよう!!(誰もいなかったので)アタシ様直々に!!そう、アタシ様こそ!泣く子はなんとかして笑顔にし!堅気に迷惑かける悪鬼羅刹はブッ殺す鬼の中の鬼神般若!!温羅さ」

モモ「うるさい」

温羅「確かに!!じゃあ積もる話は鬼ヶ島だな!よーし乗れ乗れぇい!!」

リッカ「あちらが・・・?」

イヌヌワン『バカです』

フワイサム『GIに語るまでなく』

アンク『バカよ』

温羅「見ろ!夜明けだ!!海で見る夜明けは格別だ!早くのれー!刺身だ刺身ー!!」

鬼神の破天荒ぶりに、困惑しきりなリッカをそっと労るモモ。

・・・そして一同は、鬼の首領を倒すために鬼の首領が用意した船に乗り、鬼の首領の手で鬼の首領の本拠地に向かう──

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