人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜   作:札切 龍哦

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リッカ「・・・(サァアァア・・・)」

アンク『消えてる!リッカちゃん消えてる!』

フワイサム『無理も無い。私だってメモリーが消えかけた。・・・桃源郷は恐らく、飢えもなく乾きもなく、貧しさも無かったが故に悪意が産まれなかったのだろう。恐らく、桃や食料は無限にあった、が』

イヌヌワン『欲に溺れず、美徳を重んじ、分かち合った。・・・人の在るべき美徳と人徳が育まれた場所だったんだろう。鬼の彼女すらもありのままに受け入れる程に』

モモ「ぁ・・りえ、ない」

うら「・・・角無しが、優しい事がか?」

「だって、だって・・・どうして・・・」

うら「そんな事も解らないか?悪意はあろう、おぞましくもあろう。──だが人は、それだけの存在じゃあ無いってことだ」

「・・・!」

「今此処にある人間を信じてみろ、桃太郎。美徳も悪意も背負い、世界を救うアタシらの歴史の果てに産まれるこの娘は・・・」

リッカ「?」

「花代達が紡いだ、・・・お前を害した角無し達が紡いだ歴史が咲かせた華だ。善悪も、陰陽もある歴史が、リッちゃんに辿り着いたんだよ」

モモ「・・・!!!」

「悪徳を排せば美徳は産まれん。角無しが愛せないのなら、角無しが赦せないのなら・・・」

リッカ「モモ・・・」

「『奴等が産み出した奇跡』を愛せ。此処にいるリッちゃんは・・・角無しの愚行を産んだ歴史が産み出した宝だ」

モモ「・・・、・・・・・・・・・・・・・・・」




より良い明日の為に、泰平の未来の為に

──桃源郷が送り出してくれたアタシは、それはそれは色んな世界を巡った。本当に色んな世界を巡り、その世界の【最期】を見看り、そしてまた別の世界へと迷い込む、その繰り返しだった。

 

人の世界、神の世界。修羅の世界、餓鬼の世界、神秘の世界、滅びた世界。・・・その世界の様々な文化や特色を知り、触れ合い、やがて世界の終焉を目の当たりにし、新たな世界へと向かう。──アタシの向かう世界に共通している事。それは【必ず滅び去る】ということ。可能性と発展が断たれた・・・いわゆる【剪定】された世界と言うヤツだ。

 

「ババァの呪いとは、こういう事かぁ」

 

アタシが受けた呪いって言うのは、【漂流の呪い】。一ヶ所の世界に留まれず、正しい歴史に辿り着くまで永遠に放浪し、流浪し、渡り歩く事。人間の歴史では初めて人を殺した人間がそんな罰を受けたって言うじゃないか。まさにそれだ。桃源郷は世界が、皆が、アタシを受け入れてくれていたせいか長く長くいられたが・・・他の世界では長くて一年、短くて数ヶ月。その度にアタシの前に空間の歪みが現れ、アタシを招く。或いは爪弾く。アタシを受け入れる世界は何処にも存在しなかった。桃源郷はノーカンな。あそこはきっと、人の理想と願いと美徳が詰まった、世界ならざる世界なんだろうし。

 

世界に認められず、受け入れられず、弾き出されるだけのアタシ。だがアタシは『仕方無い』とは考えなかった。旅人であると卑下もしない。桃源郷の皆にかけて、無様な生き方はしないと決めていたからだ。だからアタシは決心した訳だ。

 

「心配すんな、すぐに出ていく。それより・・・お前らの歴史を『忘れはしない』さ。安心しろよ」

 

アタシは踏み入れた剪定された世界に、可能な限りに寄り添った。剪定された原因を知り、発達したその世界の特色を身に付け、滅び去る最期の瞬間を見届け続けた。

 

「誰の領分かは知らないが、可能性が無い世界と決めつけられた場所にも命がある。歴史がある。──世界を愛する奴等がいる」

 

そんな奴等の想いを、無かった事にはしてやらない。世界だかなんだかの意志がいらないというなら、アタシ様が『そんな事はねぇ』と言ってやる。全部の世界は巡れないからこそ、踏み入れた世界との縁を信じ、その世界が磨きあげた世界の全てを知り、技術を身に付けていった。何でも切れる刀、遺伝子を弄る術、あらゆる病気を癒す仙薬、あらゆる老いと苦痛を無くす葉、神を殺す、世界を殺す兵器・・・美しさも、醜さも、纏めて受け止めた。其処に生きる奴等の歴史を、アタシ様が背負っていったわけだ。剪定された事で、誰も覚えていない歴史達をアタシ様は決して忘れない。忘れる事こそ、忘れられる事こそ。本当の意味でそいつは死ぬのだ。人も、鬼も、世界も。

 

長い、長い旅だった。汎人類史に辿り着くまでに流れた歴史は、世界は十や二十じゃ下らない。数百年か、千年か・・・。本当に、色んな世界を回ったよ。そんな中でも、アタシ様はひたすらに楽しみだった。

 

汎人類史はどんな歴史なんだろう。今も続く終わらない歴史。どんな発展を、どんな進歩をしているんだろうか。アタシ様が巡った世界とは、何がどう違うのだろうか。──桃源郷の皆と、似通っているところがあってくれたなら、嬉しいんだけどなぁ。そんな感傷を胸に、アタシは終わる寸前の歴史に迷い込み、数多無数の世界の生きた証を背負い、終わる歴史の全てを見届け続けた。そん中で荒事は一や二じゃ利かないくらいで、なんなら世界が最後の足掻きを見せ襲い掛かってきた事があったが・・・ま、アタシ様は一度も負けなかった。仮にも世界の一つを滅ぼして吐き出した手間のかかった鬼一匹、負ける道理は何処にもない。・・・虚しい戦いだろうと、誰かにぶつけなきゃどうにもならない事はある。そうしていくつもの世界を回っていた折の事だ。いつものように裂けた空間から、見慣れぬ輩が顔を出した。

 

「あなたが、末世の歴史に現れる【終焉の鬼神】ですわね。御会い出来て光栄ですわ」

 

私はあなたの力になれる。そう語りかけてきたのは、境界を操るという眉唾の妖怪・・・『やくも』と名乗る女だった。長らく呼ばれていなかった役割に、妙な尾ひれのついた名前がついていたのが面白かったので・・・アタシ様はそいつの話を聞くことにした。

 

「いいぞ、力になってくれ。お前達の歴史は、私が背負う。忘れさせはしない、安心して──」

 

「ふふっ。私があなたに力を貸す以上、向かう世界はただ一つ・・・。『汎人類史』ですわ、鬼神様」

 

やくもの言葉は真実だった。アタシ様は遂に招かれた。今も尚前のめりに進む歴史、アタシ様が本懐を告げるべき歴史。『汎人類史』。そこでソイツが管理している『箱庭』・・・全てを受け入れると触れ込みの『楽園』に保護された。

 

「あなたの世界が滅びた理由、それは『受け皿』が無かった事。妖怪達が自身の新たな安住の地を見つけず、人の歴史を奪い取ってしまった。どれ程惜しもうと、憤ろうと、もう世界は人間のもの」

 

ならば必要なのは、妖怪達や幻想種が滞りなく世を去り、人の世からひっそりと距離を取り次代に席を譲ること。在るべき時に在るべき存在に託せなかった瞬間に、可能性は袋小路に入るのだとやくもの小娘は唱えた。

 

「此処はその受け皿の一つ。消えていく何かを、失われる何かを拾い上げもしもの時のつるはしとして保管する場所。──これから話す事は、あなたにしか成し遂げられないものですわ」

 

そう告げたやくもの小娘だったが、自身のやるべき事はその箱庭を見て理解できていた。妖怪達や神達が忘れられぬ様、人を匿い畏れを集める箱庭を作り、妖怪達やまつろわぬ者達を保護している。──それを、歴史の規模でやればいい。

 

「簡単な話だ。人の時代に不要な輩を匿い、お前さまのいう受け皿に招けばいい。人間の歴史を認められない奴等を説き伏せればいい。滅亡や衰退ではなく、『勇退』として座を譲らせる。そういう話だろう」

 

「えぇ。人の世を終わらせようとする妖怪達を鎮め、或いは在るべき場所に還す。人の世界に取り残された者達を、あなたが助けてあげてほしい。怪異を背負い立つ英雄として、本当の意味で神秘を終わらせる。・・・妖怪や神が滅びぬ、唯一無二の道ですわ」

 

アタシ様はその役目を担う事にした。人間の歴史が好きという事も勿論あったが、それ以前に未だに神秘にすがる連中に、アタシ様と同じ【鬼】もいると聞いて黙っていられなかったからだ。

 

「鬼種の悲願とは、日本に【魔の国】の建国・・・即ち、神代としての世界を存続させる事。即ち、人界の転覆ですわ」

 

それらを聞いて、アタシはすぐにでも立ち上がらなくちゃならんと決心した。──妖怪が、鬼が、神秘が満ちた世界がどうなるかを、アタシは誰よりも何よりも知っていた。

 

人も、そして鬼も。歴史を絶やす訳にはいかんと思った。見たところ、鬼や妖怪は人を滅ぼすには至っていない。人も、鬼や妖怪を忘れてはいない。──人が妖怪を駆逐する前に、妖怪が人を滅ぼす前に、在るべき歴史を在るべき姿へ。それがひいては、桃源郷の皆の歴史を護ることに繋がる筈だ。

 

──花代、なつき、子供達が生きる未来を絶対に切り捨てさせはしない。アタシがやるべき事は、とっくに分かっていた。

 

アタシは・・・子供や人間の持つ美徳を未来に繋げる為に、産まれてきたのだと。信じて疑わなかった。

 

「実はここ以外にも、妖怪や神を受け入れる隠れ里はございます。旅館であり避暑地である為、鬼神のあなた様もきっと旅の疲れを癒せましょう。気に入ってくださいますわ」

 

アタシ様はその妖怪賢者の助言を聞き入れ、本当の意味で神代に幕を引き、人間に歴史を託す準備を行う事にした。汎人類史における、自分がやる役割・・・それを見つけたからな。

 

「となると・・・アタシ様がやるべきは自身の存在の定着か。よし、誰かいずれの・・・【鬼】に成り代わろう。アタシが鬼の名を引き継ぎ、汎人類史の歴史の一部となりて神秘を終わらせよう」

 

「それが良いでしょう。・・・具体的な案はありますでしょうか?」

 

「ある。──まずは──」

 

・・・そう。最後に残るであろう役割を果たすために、まずはアタシが悪鬼羅刹にならねばいけない。誰もが恐れる鬼へとならねばいけない。

 

・・・アタシは、異なる世界により造られた『鬼神』。自身の歴史を他者の歴史に明け渡す以上、自身は必ず何処かで敗けを認めなければならない。

 

花代や子供が生きる歴史の為に『退治』される事を目標としたアタシ様は、やがてやくもの箱庭から出て、今の閻魔亭の宮大工を始める事にした。

 

「ここに、異世界の金属や織物がある。全てを換金して、これから住み込む奴等の代金にしてくれ。足りない分は、アタシ様が働いて身体で払う」

 

これから来る、行き場の無い輩を住み込ませてほしい。足りない分は自分が払う。足りない部屋は自分が造る。アタシの角と眼を見たえんまちゃんは、アタシの提案を飲んでくれた。

 

「お前さま・・・わかりまちた。その閻魔様の尺より真っ直ぐな眼を信じるでち。でも、どうしてそこまでするでちか?お前さまのやろうとしている事は・・・」

 

当然、自身も怪異だ。異なる世界の存在だ。その自身の総てを否定させる行いだ。自殺、同胞の虐殺と言っていい。それは百も承知だ。

 

だが──

 

「いいんだ。──続いてほしい歴史がある。未来に続いてほしい歴史があるんだ。アタシは、その歴史の橋渡しになりたいんだ」

 

未来に続いてほしい命がある。ただそれだけが、アタシの願いだ。やがてアタシは、行き場の無い妖怪達を保護し、引き取り、最早どうにもならない奴には引導を渡しながら・・・。

 

「──人間なら、いつか造り出すだろう。神すら越える、願いの結晶を」

 

──人に次代を託す準備を着々と進めていった。人間が紡ぐ歴史が、自身の見てきたどんな未来も素晴らしくなると信じて。

 

──花代達の命が、遥か繋がる未来に辿り着く事を夢見て。




温羅【喰らい、殺し、在るがままに在り、振る舞うままに振る舞う。この我が神秘の総て、この我こそが鬼の王。何れ世界の総てを荒ぶるままに喰らう鬼神の名ぞ】

鬼「ひ、ひぃい・・・」

鬼「さ、流石です、温羅様・・・我等鬼、一生あなたの手足として──」

・・・奇しくもアタシと同じ名を持つ【ソイツ】は、無数の屍で出来た宮殿の玉座で金銀財宝に囲まれ酒を呑んでいた。散々呑み、散々食い荒らしたのだろう。荒ぶるままに振る舞ったソイツの周りには、人と鬼の屍が打ち捨てられ積み上げられていた

【人界、塵がごとき人の者共を喰らい尽くせ。魔の国を、我等が世を再建するのだ。その時にこそ我等の永遠の繁栄が来たる】

鬼どもすら恐怖で縛る、見上げるばかりの巨体、威圧、風格。一目で理解した。邪悪にしておぞましき悪鬼羅刹。【温羅】と呼ばれる鬼の大将。

──こいつなら丁度いい。強く、人が英雄を求める程度に人を害しているだろう。そして・・・『コイツが退治されるまでの物語は、きっと語り継がれるだろう』。何から何まで、きっとコイツは自身に用意された歴史の席とすら感じたさ。

「──いいや、鬼に繁栄なんぞ出来やしない。見てきたアタシ様が言うんだ、間違いないさ」

【!】

「次代に席を譲る時が来た。アタシ様らはもう歴史に不要ず。──お前の総てをアタシが貰うぞ。何れ来る未来の為に」

アタシはコイツを糧にする事にした。コイツなら、きっと産み出す筈だ。鬼の、怪異の道標を。そして──

【──何処ぞの小鬼かは知らぬが。その妄言、よき戯れとなった。褒美だ・・・八つ裂きにしてやろう・・・!】

「鬼ども。身の振り方を決めておけ。──隠匿か、絶滅か。アタシが頭になるまでにな」

──いつか、コイツを倒すために・・・素晴らしき英雄が産まれることを信じて。アタシは汎人類史の『温羅』に、真っ正面から喧嘩を叩き売る──
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