パチリ、と指を鳴らす。すると宴会場から──鬼ヶ島の頂上へと移動する。一瞬でだ。
モモ「リッちゃん。見てて」
「モモ!私も・・・」
「おねがい・・・」
・・・温羅相手に、護りきれる自身がない。モモは目線を震わせ、言葉なく告げていた。その心をリッカはあえて否定せず・・・
「・・・解った。見てる」
「ありがとう・・・」
そして、モモは挑む。鬼を狩る存在として──鬼神に使命を全うする。供らと共に・・・!
「さぁ、アサシンとしてアタシ様にどれ程通じるか・・・全霊を以てかかってこい!」
「───!!」
温羅が言う鬼退治。その言葉の真意をあえて考えはせずに髀は刃を振るい、飛び掛かる。どんな理由があろうと、どんな理屈があろうと、鬼であるならば狩るのが自身の存在意義に他ならない。其処に、余分な雑念は不要だった。髀が飛び掛かると同時に三体の供達もまた、戦闘形態となって髀を援護する。
「はぁあ──っ!!」
腕に埋め込んだ刃が、イヌヌワンの迅速な牙と爪が、フワイサムの剛力の拳が、アンクの的確な援護が一斉に温羅に迫る。それらの勢いは並の鬼どころか、サーヴァントですら塵になるであろう嵐の様な怒濤の勢いにして包囲網。一瞬で辺りが粉々に吹き飛び、温羅も無事では済まない──筈であった。
「おぉっ!」
『がぁっ!!』『っ!』『くっ──!』
「・・・!!」
その攻勢に対し、温羅は軽く気合いを入れ、咆哮を発したのみ。反撃と言うにも稚拙な、単なる気迫の発露。──その行いを、鬼神の彼女が披露すればそれは対軍宝具に匹敵するほどの勢いと威力を伴い大地を揺るがし天を震わす制圧に変わる。それを受けた供の三匹は成す術なく吹き飛ばされ、髀もまた天高く投げ出される。辺りを粉々に吹き飛ばし、海水が鬼ヶ島の周囲から吹き飛ばされ、天の雲がかき消される。それほどの天変地異を、温羅は軽く吼えるのみで巻き起こしたのだ。
「っ・・・!」
すぐにも共に戦い、加勢したい気持ちのリッカ。しかし温羅の言葉はその行動を重く留まらせた。『私達で鬼退治』。その言葉の意味を受け止めるなら、自分が意地と身体を張るのは一度、たった一回のタイミング。それは、窮まった一瞬のみ。
「っ──はぁあっ!!」
髀が体勢を立て直し、イヌヌワンの頭に着地、素早くコードを展開し、戌を纏う超迅速へと自身を変化させる。全身のブースターを展開、更にリミッターを解除。人間の四肢が粉々になる加速と機動で、温羅へと襲い掛かる、が──温羅はその速度に、驚愕の対応を見せた。
「鈍いぞ、あの時よりも遥かにな」
なんと、温羅は離脱も、回避らしい回避も行わず髀の迅速を完璧にかわし無力化し、いなしきっている。身体を僅かに傾け、或いは手足をひょいと動かす。一秒前に温羅の身体があった場所が、鬼ヶ島ごとズタズタに切断される。だが肝心の温羅には、傷どころか自慢の一張羅に切れ込みの一つも入れぬ事が叶わない。
『神通力か!まさかここまでの精度で──ぐぁあっ!!』
「ぐうぅっ、──!!」
そのままカウンターめいた拳の一閃にて、イヌヌワンと髀に甚大極まるダメージを叩き付け武装を解除させる。イヌヌワンは弾き飛ばされ地に這い、髀は凄まじい勢いで岩壁に叩き付けられる。
かつては荒ぶるまま、ひたすらに真っ直ぐに暴れる鬼として戦いし温羅。生前の戦いではかわすことなく、全てを受け止めるかのように直撃を行っていたのだ。だが今は違う。金棒も無く子分もいない彼女は、ただ静かに的確に己の能力を使用する。此度の力は神通力・・・髀とイヌヌワンの心を把握したのだ。いくら速かろうと、何処に来るかさえ解っていれば対処するには雑作もない。
「ぐ、ぅっ──!フワイサム・・・!」
『無論、GIの総てを懸けて』
機能停止寸前の身体を、お供と合体することにより無理矢理駆動させる。フワイサムの剛力を宿す、超絶のパワー形態に姿を変え、威風堂々たる温羅に真っ向から殴り合いを挑み、腕部ユニットを雄々しく振り回す。振るわれる拳が、凄まじい勢いで空を切る。
「おぉおぉおおぉおぉお!!!」
「魔改造の割に、捻り出す拳はその程度か!」
だが、真っ正面から殴り合いに応えた温羅の腕力はまさに圧倒的だった。ぶつかり合った拳のユニットが──『一方的に砕かれる』。一度、二度ぶつけ合った左拳のユニットは、粉々に吹き飛んでしまうほどの反撃が叩き込まれたのだ。
「っ!──はぁあっ!!」
それを受けて、髀は右腕のユニットをオーバーロード。全機能を展開させ、出力のリミッターを外し臨界寸前の腕部を全身全霊で温羅に叩き込む。受け止め、手に振れた瞬間──重力を振り切る程の柱となる爆風が天高く屹立する。フワイサムの豪腕の真価、それは『壊れた幻想』並の瞬間火力を叩き出せる事にある。万物を消滅させる破壊の中で、直ぐ様髀はアンクと接続し、天候を操作する。晴天だった空が、瞬く間に雷雨に覆われる。
「これで──!!」
自然現象の化身たる落雷を、温羅に落とす。自然の力ならば、温羅であろうと無事ではいられない。──その刹那、衝撃的な状況が髀の前に示された。
「おぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉぁああっ!!!」
「ぐうっ──!?」
天地を震わせ、特異点を揺るがす咆哮が響き渡る。心胆を砕き、総てが畏怖する鬼神の咆哮。それにより起こされる変化は、驚天動地と喚ぶに相応しいものだ。それは、アンクと髀を吹き飛ばし墜落させるだけに留まらない。其処に、鬼神たる所以の現象が巻き起こった。
「空が・・・!?」
そう。空が──晴れた。雷雨は咆哮の圧により吹き飛び、力尽くにて晴天を呼び起こす。ただの咆哮の音圧にて、自然現象すら捩じ伏せる程の単純明快な結果をもたらす。──それは徹頭徹尾の力任せ。鬼であるが故の理屈無き初志貫徹の咆哮に他ならない。──彼女は最早、天すらも捩じ伏せ乗り越える鬼神であるのだ。これこそが、『鬼』の極致。世界の総てを力で生き抜いた、王として造られた鬼神の力の一端に他ならない。
「どうした、こんなものか桃太郎。ペットどもと単純な接続を選んだ割には大した事が無いじゃないかよ。そんなザマで本気でアタシさまら鬼を狩ろうとしてたのか?」
「っ──!みく、びるな・・・!」
「そうだ、試してみろ。信じることを止め、単純な力に堕した。今のお前の力が何処までの成果を出すのかをな」
「っっっぅう・・・・・・!!はぁあっ!!!」
瞬間、髀は限界寸前にまで自身を稼働させる。自己崩壊すらも厭わぬ霊基の全力運転。それに伴い、三体のお供も運命を共にする。
「づぁあぁっ──!!」
跳躍する髀の身体に、三体の供が合体し装着される。戌の装甲とブースターによる迅速、申のユニットによる全身にみなぎらせる膨大な魔力の確保、雉の、鳥の翼による重力と姿勢制御。力の総てを合体、重ね合わせ。全身全霊にて四身一体の力を温羅に蹴りとして叩き付ける──!
「うぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁぁあーーーーーっっっっっ!!!」
「・・・!!」
咆哮・・・その悲痛さは或いは慟哭とも呼ぶべき絶叫と共に、漆黒の魔力を注ぎ込み放たれる髀の全力の一撃、それを温羅は己の身一つ、己の力のみで受け止めた。インパクトの瞬間、あらゆる総てが余波で吹き飛び、破壊し尽くされる程の魔力の奔流が辺りに満ち溢れる。見守るリッカも、鎧がなければ遥か彼方に吹き飛ばされる程の激突が、髀と温羅の前で交わされる。
「おぉおぉぁああぁあぁぁあぁーーーっ!!!」
【モモ・・・!】
それは、英雄が放つにはあまりにも悲痛で痛ましい絶叫だった。人を護れなかった哀しみ、角無しへの怖れ。鬼への憎しみ、自身への怒り。前向きの感情など何一つない、憎悪と悲哀と、慟哭の一撃。血の涙と吐き出すような絶望が、リッカの胸を撃ちつける。絶叫と共に放たれた、鬼を殺す一撃──だが。
「──忘れたか、桃太郎。お前がかつて何故戦えたのか、何故立ち上がれたのか。その気持ちの源泉を」
厳かに左腕で受け止めた温羅が──静かに右腕を握りしめる。その拳に、聖杯にも匹敵するほどの凝縮された魔力が満ち溢れる。
「忘れてるなら仕方無い。今一度思い出させてやる。──鬼のアタシ様相手に、力で挑むなど百万年早い」
そして、左腕の一払いで髀の蹴りを無力化し──
「!?」
「──お前は!『人を護る英雄』だろうが!桃太郎ッ!!!」
全身全霊にて、叩き付ける。鬼神の豪腕より振るわれる必殺の一撃は、髀の繰り出した一撃を遥かに上回る威力にて髀の真っ向から弾き飛ばし吹き飛ばした。
「っあぁあぁあ・・・っ!!」
イヌヌワン、フワイサム、アンクも吹き飛ばされ、髀も叩き飛ばされる程の壮絶極まる一撃。
【モモ!!皆ッ!!】
リッカが素早くモモを受け止め、勢いを殺し抱き止める。──甚大な被害を受け、身体の各部から火花を放つ髀。その差は、余りにも圧倒的と言う他無いものだった。
「これで解ったろう。己の心に鬼を宿したままで、アタシ様に勝てる筈がない。──いつまで畏れているつもりだ?いつまで自身から隠れているつもりだ?」
「っ、っ・・・」
「お前が逃げているのは角無しからじゃない。再び裏切られるのを恐れ、機械であらんとする・・・己自身からだ。また大切な者を喪う恐怖からだ。──信念を、大義を、誰かを背負う事から逃げたまま振るう刃で。アタシを殺れると思ったか」
言い返せない。モモは弱々しく目を反らす。力に頼り、力にすがったその理由を、鬼神の眼は見透かした。
そして、立ち上がれない。突き付けられた事実は、彼女の弱さそのものだからだ。角無しが恐ろしい。そして、それらに屈した自身もまた角無しと何も変わらない。
「何も信じられない、何も護れない。・・・ならば生きる甲斐など無いだろ。アタシ様が終わらせてやる」
「──!い、いや、いや・・・!リッちゃん、逃げて・・・!」
温羅の言葉に、慌ててリッカを突き放す髀。──自分ではない。リッカの身を一心に案じたものだ。
「もう、喪いたくない・・・!大事な、人を・・・!逃げ、逃げて・・・!」
その眼には、恐怖と動揺に揺れている。ずっと、感じていたのだ。大切な人を角無しに奪われた絶望が、恐怖が。それから逃れる為に、心なき刃としての己を選んだ。
──大事な人を作らないため。大事な人を喪う事が無いよう、心を無くすため。だが、出逢ってしまった。自分がもう一度、護りたいと願う人に、マスターに出逢ってしまった。
【モモ・・・!】
「お願い・・・逃げて・・・もう、喪うの・・・やだぁ・・・!」
──髀の心は、何も感じないのではなく、ずっと哭いていたのだ。鬼により、何も信じられず何も護れなかった自分への絶望により。
「安心しろ。──死ぬのはお前だけだ、躯と成りし桃太郎の慣れの果てよ!!」
温羅は迷い、惑うかつての英雄・・・自身の運命に、引導と安寧をもたらす一撃を振るい落とす──
リッカ【ッ!!はぁあぁあぁっ!!!】
瞬間、リッカの鎧が本領を発揮する。デモンベイン・ゼロビヨンド・ナイアー。その全力で、温羅が放った一撃を全身で受け止める。
「り、リッちゃん・・・!?」
温羅「ははははは!!天晴れ!!よくぞアタシ様を受け止めた!!」
リッカ『ぐぅうぅう、ぅう・・・ッ!!』
童子切、龍哮村正を振るい受け止めた。が、余りの重さに踏み締めた大地が砕け奥歯が磨り減る。だが、それでも──
『──大丈夫!モモ!いくらでも泣いて!いくらでも怖がっていい!!』
モモ「・・・え・・・?」
『私はいなくならない、私は何処にも行ったりしない!あなたを裏切らない──あなたを全部!受け入れる!!』
温羅はリッカを抱き寄せ、首を優しく締め上げる。苦しさはあるが、それをリッカは意に介さず叫ぶ。
『だからモモ!自分を否定しないで!!』
「・・・え・・・?」
『輝く英雄だとしても、怖いアサシンでも!泣き虫なモモでも関係無い!私はあなたが好き!!人を愛し、自分が辛くても私を助けてくれたあなたが!ロマンに溢れた三匹が!私は大好き!!』
モモ「だい、すき・・・?」
温羅(そうだ、もっとだ!心に語りかけろ、アイツの総てを信じられるのはただ一人だ!)
リッカ『(うん!)あなたは鬼を殺す鬼なんかじゃない!兵器なんかじゃない!!どれだけ裏切られても、おじいさんとおばあさんを忘れなかった!人の優しさを忘れなかった!!私を人と言ってくれた!!あなたは英雄で!人に寄り添う正義の味方!!』
「・・・!」
『私が、未来に生きる皆が知ってる英雄──!!桃太郎だよ!!モモ!!』
──瞬間。モモの手の中に、温羅がもたらした土産の容器が飛来し、収まる。
「──こ、れは・・・」
それは──黄金の杯。『聖杯』と呼ばれる願望機。初めから、リッカに先んじて託していたのだ。とびきりの財宝を。
温羅「さぁ、お前は何を願う桃太郎!完全に心を無くした殺戮の機械か!それとも──!」
イヌヌワン『・・・主・・・!』
フワイサム『GIと、あなた様の選択が一緒であると信じています』
アンク『私達の事・・・見てくれているあの子に恥じない姿を見せましょう・・・!』
モモ「・・・。──私は・・・!」
輝く杯に、髀は──今度こそ、願う。
「私は!自分を信じる!そして護る──今度こそ!大事な人を!リッちゃんを!今度こそ、鬼から護る!!」
リッカ「モモ!!」
「その為に、もう一度──!私は信じる・・・!私の真名!それは──!!」
──瞬間。長らく迷い、さ迷っていた英雄の闇が晴れる。信じ抜いた、人の心に応える様に。
温羅「そうら!受け取れ!!」
リッカ「わぁあぁあぁ!?」
高く放り投げたリッカを──確かに、受け止める。
「──ごめんなさい。リッカ。そして、ありがとう。・・・こんなにも迷惑をかけた、私を信じてくれて」
「・・・モモ・・・?」
先程の禍々しい髀の姿は何処にもない。長き黒髪、輝く陣羽織、巻かれた鉢巻、豊満にしてすらりと整った美しき身体。腰に差した神剣。神々しいまでの女性に、そっと受け止められる。
「ならば私も、今一度信じてみます。輝かしき人を、角無し・・・人間が満ちるこの世界を。リッカが信じてくれた自分自身を。私の名は桃子。そして──もう一つの名を此処に」
厳かに剣を抜き、高らかに自らに示されし自身の名を謳う──!
「我が名、
そして──
【ガ、ァ、グアァァアァア!おのれ、おのれぇえぇえ・・・!!】
リッカ『あれは!?』
温羅「怨念だ。桃太郎に巣食った疑心暗鬼・・・アサシンとしての改造を可能にしてた怨霊・・・アタシが追ってた鬼、温羅だよ」
倒すべき相手を、元凶と根源を此処に照らし示す──!
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