人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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「あ、もしもしギル?うん、うん。ごめん、ちょっと特異点に呼ばれてたの。大丈夫、ちゃんとクリアしたよ。──あ、お部屋ロックしてくれたの?ありがとう!ちょっと宴したら帰るね、うん!大丈夫大丈夫!」

桃子「楽園への御連絡・・・大事ですね」

温羅「身柄を預かった立場だ。きちんと報連相を行わなくちゃなぁ。心配している人に気を揉ませちゃあいけないよな」



ギル「委細承知している。心配はしていたが不安は懐いておらん。我等のマスターならば当然であろうよ」

『ありがとー!えっとね、凄いよ!グランドセイバーとね、グランドバーサーカーの英雄がいてね・・・!』

紫「──ふふっ。此度は快い協力、誠に感謝致します。ご機嫌王に姫様」

「構わぬ。冠位資格のサーヴァントを招き入れる為の苦労としては破格の釣り合い故な。リッカめも実り多き戦いであったろう。凱旋が楽しみではないか。よし!乙姫!番頭王の名代として宴を盛り立てよ!」

乙姫「お任せください!宴に生きて宴に死す!!私の本領を御見せします!!」

─まさか、レイシフトを自在に行える方がビースト以外にいらっしゃったなんて・・・

(この世界には知らないことが満ちておりますわ。一時たりとも、退屈することはございませんわよ。姫様)

「しかし意外ではあったな。貴様は賢者なのであろう?他者にかしずく真似は不馴れではないのか?」

やくも「王ではありませんもの、プライドだけでは世は渡せませんわ。心配なさらないでくださいな。王への敬意の際の礼ならば全然・・・月の輩に頭を下げるよりは。TV放送で恥をかかされるよりは(ニコニコ)」

(月の民とやらは嫌いなのだな)
──月の民が嫌いなのですね・・・

紫「ふふっ、それでは。──いつか、幻想郷への来訪をお待ちしておりますわ」

ギル「待て、賢者よ。──暫し付き合え」

「あら?──私、これから寄るところがあるのですけれど」

「ふっ、惚けずともよい。──最後の仕上げであろう?我等も混ぜよ。完全無欠の結末の為にな──」


ぱーちーだ!酒を飲め!酒を飲め!前編!

「この度!長年の懸命な大捕物が無事達成された!影となりし疑心暗鬼を、偉大なるマスター藤丸リッカと心を繋いだ桃太郎が討ち果たし心の闇を晴らした!最早生き恥を晒す鬼は無く、鬼を殺す鬼もない!このめでたき日と善き縁に乾杯しよう!今日は無礼講だ!!──乾杯!!!」

 

 

「「「「「「かんぱーいっ!!!!」」」」」」

 

閻魔亭を貸しきった大宴会・・・は流石に他の利用者に迷惑だと諫言を受け、ならばと大宴会の間を中心とした閻魔亭に脚を運ぶ総てを巻き込んだ超絶大宴会。温羅が言うまでもなく用意、準備を行っていた部下達。そして帰りを待っていた紅閻魔と雀達。そして楽園から派遣された乙姫の幹事から食材までこなせる海鮮物の霊達の山と海を巻き込んだ大騒ぎが、逢魔が刻より総出を挙げて執り行われる。

 

「凄いぜ姉御!とうとうやったな、あの疑心暗鬼の退治をよ!」

 

「凄いチュン!凄いチュン!流石は温羅サマだチュン!温羅サマは全妖怪の憧れにして希望だチューン!」

 

「わっはっはっはっ!!誉めると最高級食材と酒が出るぞぉ!おーい!向こう百年分の酒と食べ物お願いしまーす!!」

 

最上座に用意されし温羅専用の座敷に、代わる代わる酌を注ぐ妖怪、そして雀、或いは宿泊している百鬼夜行に魑魅魍魎。彼等は口々に温羅への称賛、感謝、そして憧憬と尊敬を捧げている。そして温羅は、それを一気に飲み干すのだ。豪放磊落な笑顔と共に。

 

「至極当然なんだけど、温羅ネキの人気すごぉい・・・!酌の行列がフロントまで延びてたよ!?」

 

「それは当然でち、こほん。当然です。温羅サマこそは、妖怪と行き場の無い霊達、忘れられ零落や精霊に格落ちしていた神様の面倒を一手に見てくださる方なのですよ」

 

舌と喉がゴージャスの聖杯により治りし紅閻魔が、静かに飲み交わす桃子とリッカの酌を行う。妖怪のらんちき騒ぎは温羅が担い、気を遣いお供と桃子、リッカの主従の時間を確保したのだ。

 

「話を聞けば、彼女は異世界を巡って集めた宝や財宝を総て幻想の都、閻魔亭に託したそうです。それは軽く見積もっても向こう一万年は遊んで暮らせる一大財産・・・それを、財無く行き場の無い輩の生活費に、そして各地の秘境を紹介し結界や建築物を直す宮大工会社の設立に使用し、妖怪達の隠匿に尽力を行っていたとか」

 

「すっごいなぁ、温羅ネキ・・・もう誰もが認める、妖怪達のヒーローで救世主だね!」

 

桃子はその言葉を受け止めた。最早鬼や妖怪だからと拒絶する事は無い。外道や畜生、鬼に堕ちる人がいるならば、また輝かしい妖怪や鬼もいる。鬼神・・・誰かの想いを背負って立つ彼女の名を、正しく理解出来たと彼女は静かに頷いた。

 

(桃子様、しっかり縁を結ぶでちよ。リッカ様はとびきりの優良物件。英霊が選ぶお仕えしたいマスター様うるとられあでち!・・・です!)

 

『イヌヌワン!この霜降り肉が、イヌヌワン!』

 

『ぬうぅうぅうぅうぅう!!!・・・蟹味噌、うまし』

 

『パンの耳は出されてないわね・・・私鳩かなんかと勘違いされてないわね・・・さ、今よモモ。しっかり伝えなさいな』

 

「うん。──リッカ様。此度は我が身の醜態、大変お見苦しい所をお見せしてしまいました。後世に名を遺す英雄として、深く御詫び致します所存・・・」

 

黒髪長髪の大和撫子の体現とすら言っていい美女の美しき所作の礼節に、リッカは反射的に素早く土下座を返していた。それはそれは美しい土下座フォーム。最敬礼(物理)である。

 

「いえいえそんな!私はモモを信じて、一緒に戦っただけだよ。醜態なんて何処にも無い。アサシンのたどたどしいモモも、グランドセイバーの神々しい今のモモも!全部私の大切な桃太郎の一面だって思ってる!」

 

「──。慈悲深き御言葉、大変痛み入ります。・・・温羅が告げていた人の未来、未来の宝。本当の意味で、理解が及んだ気がします」

 

鬼と笑い、堕ちた英雄をも見捨てず絆を結ぶ『人』の在り方。飢えを知らず、弱さを受け入れ、強さを掴む誇り高い在り方。自分達の未来の歴史に、こんな素晴らしい方々が産まれる事の奇跡にして喜び。その中で、自分達の名が、活躍が、物語が誰かに親しまれる奇跡。

 

「温羅は間違っていなかった。私もまた、彼女の言葉が理解できた。──あなたの在り方が、そう教えてくださりました。本当に、本当に。あなたが私と温羅の間に立つ方で本当に良かった・・・」

 

「う、ぁ、う・・・そ、その・・・日本の英雄の中の英雄のモモに誉められると、その、恐縮極まりますと言いますか・・・タジタジと言いますか・・・照れもす・・・」

 

(もす!?)

 

(GI。彼女は悪性感情には完全無欠の耐性と強靭さを持つが、称賛と好意には致命的な模様)

 

(今更気付いたの?ふふっ、可愛らしい娘じゃない。・・・さっきの仮説、間違っていたわよフワイサム)

 

(理解。──彼女の下に英雄が集まるのは、資格や世界など関係ない)

 

(彼女が彼女だから・・・部員ネットの皆様の理解度は、GIを上回っていたな)

 

(敗北を認める。素晴らしきは人の絆だ)

 

照れ照れなリッカに、畳み掛けるようにモモは告げる。アサシンの時に壊れていた情緒は完全に治っている。──だからこそ、彼女は攻めの一手であった。

 

「──リッちゃん。私、冠位を捨てました。冠位を捨てたということは、世界の使命より個人を優先し個人の感情を優先させられるということ!そこでっ!(ズイッ)」

「ほわっ!?」

 

「この吉備津彦命こと、桃子!正式な契約を結びリッちゃんのお役に心からの助力を願いたく思います!(ズズイッ)」

「あ、それは勿論喜んで!あっ、圧!圧がすごぉい!」

 

桃子、一度決めたら揺らがず裏切らない。誰もが認める英雄にして、星が鋳造せし彼女がリッカに拘る理由は更にあった。

 

「アサシンとして醜態を晒していた私に寄り添ってくださったリッちゃんの優しさは霊基に、温羅の金棒の一撃並みに深々と刻まれました・・・!そして理解しました!あの気持ち!まさしく愛!

 

「愛!?」

 

(あ、酒が回ってまちねこれ)

 

「そして同時に私は願いました!元々私は人の願いを受けて造られた兵器!自分の願いは泰平以外無かったのですが・・・リッちゃんの優しさはとても心地好かったものです!私は味わいたい、あなたの優しさを・・・!ですのでリッちゃん!私の姉妹機!つまりになってくださいませんか!?」

 

「姉ぇ!?いやそのですね!家族は増えて嬉しいし大歓迎だし大丈夫だけど!天下の桃太郎さまを妹扱いとか私の畏れ多さがですね!?」

 

『何を仰有る!我が主!そこは違いましょう!』

 

「イヌヌワン!あなたはまともなワンパチ・・・!」

 

其処は正式に妻を名乗るべきでは!!

 

「イヌヌワンッ!!!」

 

「おぉ!なんだなんだ楽しそうな話してるな桃太郎!リッちゃん!混ぜろ混ぜろよぅ!」

 

「そうだ温羅!あなたもいつまで冠位などに拘っているのです!スパッと捨ててリッちゃんの妹になりましょう!」

 

『冠位は投げ捨てるもの』

 

『抑止力はどう思うのかしら・・・』

 

「義兄弟の契りか!いーや、それじゃあ足りないね!世界を救って尚も戦うリッちゃんとアタシに区別はねぇ・・・。そう!!五分と五分の盃を交わすぞ!!

 

「ほわぁあぁあぁあぁあぁあ!!待ってください待ってください!!世界を救えた理由はゴージャス五割カルデアスタッフの頑張り二割部員の皆の応援三割の配分なんです!私個人の力はほんのちっぽけなものなんですぅ!結ぶならカルデア!楽園カルデアとお願いいたします!!」

 

「アタシは冠位を捨てるぞ!モモーッ!!!楽園カルデアに行きたいかーッ!!」

 

「「「「「いぇえぇえぇえーい!!!姉御なら人間の英雄にだって負けないぜーッ!!リッカの姉貴!姉御をよろしくお願いいたします!!」」」」」

 

「やめてぇー!わた、私を持ち上げないでぇ~!カルデアの皆!カルデアの皆を誉めてあげてぇ~!」

 

・・・そんなノリで、温羅が冠位霊基を賽銭箱にシュウゥーッ!!超!エキサイティン!!したり、乙姫の玉手箱速明け大会を行ったり、宴は夜通し、徹底的に行われた。二次会、三次会、四次会と騒ぎに騒ぎ、はしゃぎにはしゃぎの大騒ぎ。

 

「はいどーもー!リッカでーす!」

 

「どもどもー!お呼ばれましたビッキーでーす!二人合わせて!」

 

「「戦姫絶笑!グランドギアでーす!」」

 

友達を呼び即興コンビ組んだり・・・

 

 

『イヌヌワン、力で来い』

 

『なんだなんだ森の賢者。そんな挑発に乗るはずが無かろう!犬猿の仲だぞ私達は!』

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

『・・・・・・前肢で仕留めてくれるわ!!

 

キレ芸を見せたり・・・

 

「それでは、紅と桃の刀剣演舞」

「始めるでち!抜刀術と冠位の剣技、しかとその目に焼き付けなちゃい!」

 

火花と神威散る絶技を見せたりと。決して途絶えること無い大盛り上がりを垣間見せた。

 

・・・しかし、リッカが一番命の危険を感じたのは、これらの無茶ぶりではない。(温羅の酒宴にて、パワハラアルハラセクハラは首ネジ切り獄門、未成年飲酒は尻百叩き、勧めた奴は鉄拳制裁)そう、寝る前の温泉にて──

 

「はぁ食べた騒いだ!明日には帰らなきゃ・・・!また新しい仲間が増えるぞー!妹・・・妹・・・?あとは・・・」

 

「多分アタシも世話になる!ペット三匹鬼一匹!桃太郎共々よろしく頼むな、リッちゃん!」

 

「もちろん!これからよろしほわぁあぁあぁあぁあぁあ!!?」

 

「お背中、お流ししますね。リッちゃんの疲れが取れますように!」

 

「世話になるんだ、女三人裸の付き合いと行こう!酒を飲める日になるのが楽しみだ!さぁ飲むぞ!ピーチジュースをな!!」

 

突如予測していなかった、鬼と人の頂点クラスの美女の同伴に──

 

「・・・105、70、98・・・95、55、89・・・」

 

藤丸龍華ははいじ、・・・──土左衛門となった・・・。




?「もう宴を始めていたか。………鬼も人も共に宴を言祝ぐ。時代は確かに移り行っているのだ。新しきと旧きが共に在る有り様に」

閻魔亭へ向けて架かる大橋に立つ白き人。彼、若しくは彼女がその脚を踏み出す度に、人肌を撫でる心地よい風が吹く

「まだ鬼は在り、更なる困難は間近であるが・・・無粋な真似で場を乱すまい」

彼、或いは彼女が歩むその先、閻魔亭ではあまりにも賑やかな声が聴こえる。

「確かに、貴様の行いは報われているぞ。鬼神──そして、命よ」

 その声に、彼/彼女は笑みを浮かべ、足を進めて閻魔亭の受け入れ雀に顔を通す。


「チ゛ュチ゛ューーン゛!!!お、女将!タケちゃん!タケちゃんのお目通りだチューン!!」


雀の魂の叫びは宴の賑やかさによってかきけされた。


 その姿を千里を見通す眼をもって視た英雄王。
 彼は閻魔亭にようやく姿を見せたヤツに口元をつり上げる。

「どうやらこれらの騒ぎ、前哨に過ぎぬようだ。──更なる一波乱を告げる者・・・ふはは、退屈はせぬようだな!」


――王よ、誰か見られたのですか?

(何、気にするな。家鴨の宴に白鳥が紛れただけの事よ。・・・隠せていると思う辺り、天然の気が在るようだな)

――アヒル?白鳥?――

王はこれより来る更なる愉悦に笑い、姫は鳥の市場かなと困惑し、それでも宴は変わらず。


・・・──いずれ行われる京巡り。その鍵を握るもののお忍びに気付く者・・・もう一人の『冠位の剣士』、今は僅かのみしかいなかった・・・──

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