闇夜を裂く直死の魔眼 作:蒼蠍
アンケートへのご協力、並びに誤字報告ありがとうございました!
今回の話キャラ崩壊注意。
ーとある広大な射撃場にてー
「どうだ我が娘よ!齢60を超えてなお射撃の腕を上げるこの私は!」
そう男は高々と誇るように声を上げた。
一人の女の方へ向いている男の後方にある人型の的には複数の穴が空いていた。
穴の周りがやや焼け焦げている事からそれは銃弾で空けられたものだということが分かる。
この男は300m離れた人型の的の、人間で言うところの心臓がある位置を寸分違わずに撃ち抜いていた。しかも懐から銃を取り出してから1秒も経たない間に発砲したものである。
その速さは実に0.65秒。
この男の年を考慮するとそれはとてつもない技であるだろう。
そんな短い間に撃った銃弾が的確に心臓を撃ち抜いているという事実から、この男が恐るべき射撃の腕を持っていることが分かる。
その様な射撃を見せて誇る様な声で言葉をかける男に対して、声をかけられた男の言う娘こと"アスティ"はというと
「あー、はいはい。オヤジは凄いと思うよ、うん。ホント」
と何処か棒読みな声色でそう返した。
それもそうだろう。
アスティがその様な平坦な反応をするのは撃ち抜かれた的の横を見れば分かる。
そこには四つの同じ形の的があり、それぞれ眉間、肩、腹部、膝を撃ち抜かれていた。
つまりはアスティはこの早撃ちを既に4回見せられており、今ので5回目であった。
初めの1回目にはアスティも感嘆の声をあげたものの、何回も見れば流石に見飽きてしまうのも仕方ないだろう。
だがそんなアスティの様子に気付いていないのか、そう言葉を返された"ピスコ"は益々気を良くしていく。
「そうだろうそうだろう!私の腕は衰えることなどない!ふははははは‼︎まさか還暦を迎えてからこの様な早撃ちを身につけてしまうとはな!私もまだまだ捨てたものではないぞ!」
そう言って高笑いをするピスコにアスティは苦笑いを零す。
「幾ら腕が衰えてなくても、それなりに年食ってんだから無理すんなってオヤジ」
アスティは年甲斐もなくテンションがハイになっている68歳の父親にそう言って気遣いの言葉をかけながら、何故自分たちが射撃場にいるのか思い返していた。
元々ピスコは原作では暗闇の中、銃身にハンカチをかけた状態からシャンデリアの鎖を撃ち抜くという離れ業からかなりの射撃の腕を持つことが分かるが、ピスコの言葉から今までは早撃ちは身につけてはいなかったことが分かるだろう。
では何故ピスコはこの様に早撃ちを身につけたかというと、
当時アスティに入れ込んでいたピスコであったが、我が娘が努力を積み重ね、幼い身でありながら大の男が行うような訓練をしている姿に触発され、還暦を迎えている身であるにも関わらず一念発起。
今の自分に胡座をかいていたピスコは自らの射撃技術を一から鍛え直した。
その時行なった訓練は、ピスコが若い頃に行なっていたものよりも過酷なものであった。
初めのうちは体がついていかずに悲鳴をあげていたものだった。
だが娘が頑張っているのに自分も頑張らずして何が父親かという無駄に硬い意志で訓練を続行。
あのお方にも掛け合って実働部隊での任務も引き受けて、実戦経験を積んで狙撃の腕を磨いた。
これが俗に言う「ジジイ無理すんな」である。(年寄りの冷や水)
だがその結果己を見つめ直して訓練に明け暮れたピスコは、かつての自分の全盛期を超える射撃の腕を得たのであった。
そして思わぬ副産物として、その過程であの様な早撃ちを身につけたのであった。
アスティとしては自身がオヤジと呼んで敬愛するピスコが強くなることは嬉しかったが、それなりに歳をとっているピスコが無理をして倒れるのではないかと気が気ではなかった。
とはいえそれは要らぬ心配となってよかったと思っている。
そうして原作よりも強くなったピスコであったが、アスティには一つの懸念材料があった。
それはピスコの宮野夫妻、及びその娘の長女宮野明美とのちの"シェリー"というコードネームを与えられる次女の宮野志保との親交についてであった。
アスティはピスコが自分を育てつつ、自己の研鑽に励んでいるのを見て
「宮野夫妻らとは会っているのだろうか」
と疑問に感じたのである。
自分が見る限りでは子育て、射撃訓練、任務しか行っておらず、あとは表の自動車メーカーの会長としての仕事に明け暮れていて、とても宮野夫妻らと会う時間はないように見えた。
ピスコと宮野夫妻は親交があり、原作でもその影響でシェリーこと灰原哀を見た瞬間に宮野志保であると気付いた。
そこからシェリーを監禁し、逃げられてしまった後にジンに殺されたのだ。
つまり原作通りにピスコが哀に気付くかどうかは幼少の頃の
"APTX4869"を知っている事がカギとなってくる。
なのにピスコが宮野夫妻と会っているようには見られなかったので、それとなく組織には科学者がいると聞いたが、その人とは会った事があるかを聞いて見るとピスコは
「ふむ、長女の明美ちゃんは小さい頃に会ったことはある。次女が産まれたことも聞いたがそちらとは忙しかったので会ったことはない。
数年後アスティを拾ってからは宮野夫妻とも久しく会っていないな。そういえば何か薬を作っているとは言っていたが詳しいことは分からずじまいだ」
と答えたため、この時点でアスティは前世の原作知識は役に立たないと判断した。
これからの展開がどうなるかを予測するのは不可能であるだろう。
あの時はどうしたものかと頭を悩ませたがそこは無理やり割り切るしかなかった。
(オレというイレギュラーが存在することで原作にズレが出てるな。
このズレが果たして吉と出るか凶と出るか...。)
アスティはそう心の中で呟くと目の前のピスコに意識を戻した。
「心配には及ばんよ。年老いてなお進化を続ける私に寄る年波なぞ恐るるに足らん‼︎」
ピスコはアスティの忠言に対してそのように返して、また新たな的へ銃弾を放つ為に勢い良く向き直ろうとしたが............
ゴキッ!
「あっ........。」
射撃場に鈍い音が響き渡った。
そうしてアスティがその音の発生元に目を向けると...........
「ぬおぉぉぉっ!?こ、腰がっ!腰がァァァ...!」
己がオヤジと慕うピスコが無惨な姿で、腰を抑えながら倒れ込んでいた。
「はぁ.....。」
アスティは額に手を当てながらため息をつくと、助け起こすために呻くピスコの元に駆け寄った。
「よっ...と。大丈夫かオヤジ?」
「はぁ...はぁ...、すまんな....。腰をヤッてしまった様だ...」
「だから無理すんなって言ったんだよ。まったく、こんな姿他の幹部に見られたら笑われ者になるし人目のつかないとこまで連れてくぞ」
「ああ...頼む。グッ、中々にキツいものだなぎっくり腰というのは...。」
「これに懲りたら少しは自重してくれ」
「うむ...、分かった...。」
ピスコが老人とはいえしっかりとした男の体であるため流石に女のアスティには背負うことは出来ないので、ピスコに肩を貸しながらゆっくりと出口の方に歩いて行くことにした。
ピスコを心配したアスティがこの様なことが起こらないようにするために注意しながら通路に入ると
「ん?ピスコとアスティじゃねぇか。ピスコに肩貸してどうしたんだ?」
と声を掛けられたため声がした方を見ると、そこにはピスコの義理の息子でありアスティの義兄に当たる特徴的な眉毛を持った男"アイリッシュ"がいた。
「ああ、アニキか。オヤジが腰ヤッちゃって、一応病院に連れて行く前に冷やしといた方がいいと思ったからそこの医療室につれてこうかとしてたんだ」
「腰を?まあ、経緯は気になるが医療室に行くことを優先した方がいいか。俺が背負ってやるよ」
「いいのかアニキ?」
「普通に体格差考えて俺が運んだ方がいいだろ。ほら、おぶさってくれピスコ」
確かにがっしりとした体格のアイリッシュの方が、細い体のアスティよりも適任と言えるだろう。
「世話をかける...。」
「このくらい気にすんなよ」
アイリッシュに背負われたピスコが申し訳なさそうに言ったが、アイリッシュはそう返して医療室に運んでいったのだった。
医療室にてピスコの腰を冷やしたアイリッシュとアスティは、ピスコを以前アスティが倒れた際に世話になった病院に連れて行った後、病院の外で話し込んでいた。
「次の定例会議は俺とピスコは任務の都合上出れねぇことになった」
「うげぇ、嘘だろ?"ベルモット"の視線から逃れるための盾がいなくなるとか...。」
アイリッシュの言葉を聞いて、アスティは嫌そうに顔を歪めた。
「おい待て、盾って俺のことか?」
「アニキのことに決まってんだろ」
「どんだけベルモットが嫌いなんだよ」
「あんな粘着質な目で見られたら誰だって落ち着かないだろ。
それに
「まあ確かにあの女は信用できねぇし、あん時のことには俺も怒りは抱いているがな」
そうアイリッシュは言葉を一旦区切り、また口を開く。
「だが今は耐えてくれ。他の奴らからすればお前が一方的に手を掛けたように見えるだろう。おそらくボスにもだ」
「
「そういうこった。奴がお前にちょっかいかけても経緯が経緯だけに下手にボスにも言えねぇからな。奴が不利になる証拠を見つけねぇ限りどうしようもねぇ」
アイリッシュはそう吐き捨て、言葉を続ける。
「流石に"カルバドス"の一件だけじゃ無理だ。ベルモットとの関連性はないと判断されるだろうよ」
「薄々そんなことだろうとは思ってたよ」
(原作が始まってベルモットが独断で動いて、ボスに疑念を持たれるまで待つしかないか...)
「今はどうしようもねぇ以上このあたりで話は終わりだ。そろそろピスコを迎えに戻るぞ」
「はいはい、分かったよアニキ」
ーそう言って歩きだす二人は姿形は全く似ていなかったが、まるで本物の年の離れた兄妹のようであった。
ーその頃ー
「俺だ。これから組織との関わりがある宮野明美に接触を試みる」
『ーーーーー』
「問題ない。ああ、では手筈通りに潜入調査を開始する」
そうして徐々に歯車は回り出す。
ー原作開始まで後3年ー
タイトル通りのバタフライエフェクトで一部キャラ強化+シェリー監禁シーン消滅。
そして組織は決して一枚岩ではない。
アンケートでキュラソー忘れてた...。あの人記憶失わなかったら組織側のままだったから出そうか、映画キャラのため存在しないことにするか迷い中。