戦鬼深淵スカルマン   作:アラバス体系

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口調が、防人の口調が難しい。子供の頃だからということで、一つ。



剣の記憶

 私、風鳴翼には子供の頃、兄がいた。とはいっても実の兄ではない。遊んでくれた人を兄と呼んでいただけだ。 何?そんなに幼い時から堅苦しくよんでいたのか?・・・子供の頃だからおにいちゃんと呼んでいたような気もするが・・・き、気にするな!

 

 ごほん、話を戻そう。あれは、そう、お父様に連れられて祖父、風鳴訃堂のいる鎌倉を訪れたのだったか。お父様に大事な話があるから席をはずせと言われたが、何もすることがなく屋敷の縁側に腰を掛けて庭園を眺めていた。

 

 すると、ペタペタと人の歩く音が聞こえてきて、音のする方を見ると年上の男の子が廊下の奥の曲がり角から曲がって来るところが見えた。

 

 男の子は私を認識するとその場で固まってしまい、友達もおらず人との接し方が分からない私もどうしてよいか分からずお互い見つめあう状態になってしまった。

 

 おそらく数十秒程度だったかもしれないが当時の私にはそれ以上の時間見つめあったような気がした。

 

 

 どうしようかと迷っていると、幸い男の子の方から話しかけてくれた。

 

 

 

 「・・・何してんの?」

 「・・・・・別に・・・・・・・・・・・・ただ庭を眺めていただけ。」

 「ふうん。・・・・・面白い?」

 「そんなわけないでしょ。」

  

 そこで会話が途切れてしまい沈黙が広がった。実を言えば庭を眺めるのも飽きていて、しかしどうやって会話を進めればよいか分からないのであちらに主導してほしかった、はっきり言えば遊んでほしかった。

 そんな私の内心を知ってか知らずか男の子は

 

 「・・・・何か一緒にする?」

 

と聞いてくれたので、私は間髪いれず頷いた。

 

 

 とはいっても、遊ぶための道具は何もなかったので、じゃんけんや庭の石投げをしてみたがいまいち乗り切れず何をしようか考えていると男の子が私に

 

 「お前、歌は好きか?」

 

と尋ねた。

 

 愚問だと言わんばかりに私は勢いよく首を縦に振った。当時、織田光子の「恋の桶狭間」という歌が非常に流行しており、かくいう私も何度も歌い、歌詞はおろか振り付けも完璧に覚えたと豪語するほど好きだった。

 

 そのことを伝えると、男の子は「そうか、好きか。」といい、彼が知っている歌について教えてくれると言った。

 

 「これは、俺の家に伝わる歌でな。代々、親から子に教え伝えるんだ、一族であることを忘れないために、誇るために、そしてそれに相応しくあることを身に刻むために。」

 

 彼は自分の言ってることにうんざりしながら、けれど嬉しそうに、そして悲しそうにしながら歌い始めた。

 

 「歌を忘れたカナリアは、後ろの山にす

 

 

 

 「貴様!いつまで無駄骨を食っている!それに、その方は貴様ごときが話しかけてよい御方ではない!!」

 

 急に怒鳴り声がしたかと思うと、おじい様の部下だろうか?かなり体を鍛えていると思える胴着服の男が男の子の襟をつかんで引きずっていった。

 

 

 

 「あっ・・・」

 

 

 

 

 まだ歌を聞き終えてないのに。まだ、遊んでほしいのに。まだ、一緒にいたいのに。そう残念がる私の心を案じたのか、彼は

 

 「じゃあ、また明日!」

 

と言って、廊下の奥に連れていかれた。

 

 

 私はまた一人になってしまったが、それでも彼にまた明日といわれたことで、明日は何をしようか、何か持ってこようかと考えることで寂しさを紛らわすことが出来た。そうして、明日の想像をしているうちに、お互いの名前を聞いていないことに気付き、明日はまず最初に名前を聞くことに決めた。

 

 

 

 次の日、私は朝から屋敷の縁側に座っていた。男の子と早く会って遊びたかったのだ。屋敷を漁って遊び道具のけん玉やらおはじきも持ってきた。準備を万全にして、内心興奮して待っていた。

 

 しかし、彼はなかなか現れなかった。それは私が朝早くから待っていることも原因なのだが、幼い私はそのことに気付かずまだかまだかと待ち続けていた。せいぜい二、三時間、私の感覚ではあまりにも長い時間待っていると、彼は現れた。ただ、歩き方が少し変で足を引きずっていたし、腕をさすってもいたが早く遊びたかった私はそのことをあまり気にしなかった。

 彼は私が道具を持っているのを見て、ニカッと笑った。つられて、私も笑った。

 

 

 「準備は出来ているようだな、え~と~」

 「翼。風鳴翼。あなたの、名前は?」

 「俺は辰雄。御子神辰雄だ。よろしくな、翼。」

 

 こうして私たちは、お互いの名前を知った。

 

 

 それから、私たちは毎日のように一緒に遊んだ。私が遊び道具を持ってきて遊ぶこともあれば、彼が遊びを提案することもあった。どちらにせよ、私は本当に楽しかった。今にして考えてみればたわいもない遊びであったが、友達がいないために誰かと遊んだことがない私からすれば新鮮で毎日が新しい経験であった。

 

そうして遊んでいるうちに、私は彼に兄と呼ぶことを願い、彼はそれを許してくれて、彼は私の兄となった。

 

 とはいえ兄は私と長く遊ぶことは出来なかった。ある程度の時間が経つと、あの怒鳴り散らす人かその同僚が彼を探し連れて行くのだ。

 

 「ねぇ、おにいちゃん。」

 「んー、なんだ翼。」

 「いっつもすぐ連れていかれるけど、もっと長く遊ぶことは出来ないの?」

 「あー、なんというかまぁ、まあ怖いお兄さんに連れていかれるから、それは出来ないんだ、ごめんなぁ、翼。」

 「うーん、肩車してくれたらいいよ!」

 「よっしゃー!ほーれ、翼!」

 「うわー!すごいたかーい!おにいちゃん、あっちへGO!!」

 

 ・・・こんな風に遊んでいただろうか?今思い出すとと変な声が出そうだ・・・。

 

 

 ある日、兄に早く会おうと彼が縁側に現れる前に道場の方へ行ってみた。すると何かビシビシと叩く音が聞こえた。私は気になって恐る恐る扉を開けて中を覗いてみた。

 

 

 そこには絶句するような光景が広がっていた。

 

 

 「注意力が散漫だ!!!それではすぐに死んでしまうぞ!!全身から相手の殺気を感じろ!戦場では一撃が命取りだぞ!!!!」

 

 そこでは兄が何人もの男たちに囲まれ全身を木刀で叩きつけられていた。一人の子どもに、大の男たちが全力で攻撃されているのだ、誰がどう見ても、百人が見たら百人が異常だと答えるだろう。

 

 無論、耐えられるわけがない。やがて、兄の手から木刀がこぼれ、床に転がる。至極当然だ。

 

 だが、男たちは攻撃をやめない。

 

 「何故武器を手放している!何故倒れている!立て!立って、立ち向かってこい!!そうでないものは死が待っているぞ!!立って最期まであがき続けろ!!!」

 

 そう言って、倒れている兄に蹴りをいれ、木刀を振り下ろす。

 

 もうそこに居られなかった、もう兄が傷つくのを見ていられなかった、もう恐怖に耐えられなかった。気が付くと私は、道場から走り去り元居た縁側で震えて、兄が死なないことを祈っていた。

 

 どれくらい待っていただろうか。顔を伏せてうずくまっていると足音がしたが私はどうしても顔を上げられなかった。

 

 

 

 「翼?どうしたんだ、寒いのか?」

 

 

 けれど・・・兄の声が聞こえた途端、私は無我夢中で兄に抱き着き、涙を流しながら兄に謝った。

 

 

 

 「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 

 

 

 ああ、兄は困惑しただろう、理由も言わずに抱き着いて涙を流して謝っているのだから。

 けど、どうしても言えなかった。兄が傷つけられていることに耐えられなかったこと、それなのに兄を助けられず恐怖から逃げ出し兄を見殺しにしてしまったことをどうして言えようか。この涙も純粋に兄を思っての涙ではない、弱い自分に対する悔し涙も入っている、なんと私は恥知らずなのだろう。

 

 そんな私は兄は何も言わずに受け止め頭をなでてあやしてくれている。なんと優しく強い人だろう、全身痣だらけでその痛みは想像を絶するだろうに、なんとも無いように振る舞っている。私が兄が傷つけられている様子を見ていたのを知らないから。

 

 私は強くなりたかった。自分の弱さを克服し、大切な人を守れる強さが欲しかった。

 

 けれど、今だけは・・・そう思って兄の胸の内で泣いていた。

 

 

 どんな出会いも別れが来る。お父様と共に東京へ帰る日が迫っていた。

 

 帰る前日、私は兄に遊ぶ代わりに一緒にいることを選び、二人で縁側に座っていた。何故かその日は、怒鳴る人たちも現れなかったために、私たちはずっと一緒にいられた。

 

 その日は雪が降っており、身に染みるような寒さがその場に漂っていたが、兄が自分の上着を私に被せてくれて、それで寒さが和らいでいた。

 

 

 

 ・・・自分でも甘えていることは分かっていたが、寒さに震えていた私を見兼ねて、上着を無理矢理被せた、その親切を否定することが出来なかった。

 

 

 

 「わたし、明日東京へ帰るんだ。だから、おにいちゃんに会えるのは今日で最後なの。」

 

 兄に寄りかかりながら私は帰ることを伝えた。

 兄は何も言わずにずっと黙っていたが、やがておもむろに口を開いた。

 

 「なあ、翼。俺、まだ最期までお前に歌っていなかったよな。」

 

 そう、そうだ。

 最初に出会った日、兄は私に歌ってくれようとしていた。きっと、兄にとって大切な歌だ。

 兄はそう言うと、子供に効かせるように、子守歌のように歌い出した。

 

 

 「歌を忘れたカナリアは、後ろの山に捨てましょうか。」

 

 

 民謡、だろうか。母親が子供に聞かせるような、古くから伝わる歌。

 

 兄も、兄の母から聞かされたのだろうか。

 

 

 「いえいえ、それはなりませぬ。」

 

 

 兄はそこまで歌うと私の顔を見つめながら言葉を紡いだ。

 

 「この続きは次に会った時にお前に教えるとしよう。その時は・・・お前が俺に歌ってくれ・・・」

 

 そういうと兄は口を閉じそれ以上何も言わなかった。

 

 私も何も言わず、降り積もる雪を二人でずっと見つめていた。

 

 

 

 

 それから、私は兄と出会えておらず、歌の続きも教えてもらっていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「風—————サン—————そのま———」

 

 夕暮れ時の道を大型バイクが駆けていく。それに乗ってる男は何やら歌を歌っており、見ようによっては能天気に見えるかもしれない。

 

 別段どこに向かっているようにも見られない。今時珍しい暴走族の可能性もあるが、バイクのスピードはしっかり制限速度を守っていて、バイクに改造したあとはないためまっとうなバイク乗り、ライダーであることがわかる。おそらくただのツーリングに見えるであろう。

 

 そしてそれは当たらずとも遠からず、男は風を感じながら景色を見ていた。その目的は、ただ単に風を感じたいのが一割、街の地形を感じたいのが二割、そしてある相手と連絡を取るのを少しでも後回しにするのが七割であった。趣味と実用を兼ねた行動と言えなくもない。

 

 男が気持ちよくバイクを乗り回している中、ポケットの中の連絡機器が鳴る。げっ、と思いながら男はバイクを道路沿いに止め電話に出るべきか出ないべきか迷う。別に出て困ることはないのだがそれはそれ、心情的に苦手な相手の電話に出るのは嫌なわけであり、少しでも後回しにしたいのが人情である、実際さっきまで逃げてたわけだし。

 

 しかし、出なければ後日もう一度電話がかかってきてこの葛藤をしなければならない。あと、その時何を言われるか分かったものではない。

 

 ここは意を決して電話に出よう、そうしよう。

 

 「——こちら、スカル」

 

 「特異災害対策機動部二課の司令官風鳴弦十郎だ。」

 

 よっしゃとガッツポーズを取りそうになるが慌てて止める。何が悲しくておっさんの電話に喜ばなきゃいかんのだ。いや、そりゃあのクソ爺に比べれば、このおっさんは本当に血がつながってるのか怪しくなるぐらいの聖人だ。ただ、いい人すぎてこちらとしては苦手なのだ。

 

 気を取り直して再び電話に向かう。

 

 「声帯認証確認。確かに風鳴弦十郎本人だと確認した。何用だ?ノイズでも出現したか。」

 「その通りだ。至急現場に向かってほしい。」

 

 電話の向こうの相手からポイントを指示され電話を切る。

 

 電話をポケットではなくバイクの収納箇所に仕舞いながら煙草を取り出し一服する。これは吸いたいという欲求でもあるが同時に覚悟を決めるために毎回する習慣でもある。

 

 

 何度やっても戦いは慣れない。ましてや戦うためにはあれを使わなきゃいけない。自分の意思が深い闇の中に沈み、代わりに他人の記憶が入ってくるのは毎度のことながら不快感がすごい。ましてや、いくら能力が強化されようとも防御に関しては焼け石に水だ、気休めにもなりやしない。

 

 

 しかし、戦わなければならない。それが自分の仕事なのであり、力を持つ者の義務なのだ。

 バイクに乗り走らせる。走りながら、男は戦うための呪文を呟く。

 別に呟く必要はない、しかし自分の中の恐怖を押し殺し、勇気を出すために必要なもの。これより自分は自分ではなくなり、異形の怪人と化す。

 

 さて、今回は何と言おう。そうだ、あれにしよう。

 

 「—————変・身」

 

 一瞬のうちにバイクと男が闇に包まれる。闇が散ったとき、バイクの姿は変わりその上の男も骸骨の怪人と化す。

 夕日が沈む夜に変わる街をバイクは駆けて行った。

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