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「・・・・・・・・」
月下のもと二人の戦士が睨みあっている。一人は青き戦姫、風鳴翼であり、もう一人は黒き怪人スカルマン。どちらもかろうじて己の武器を構えてはいないが、それを握る手には力がこもっておりいつでも迎え撃てるように用意している。
響には、一瞬、人に仇なす物の怪とそれを滅する防人に見え、風鳴翼に憧れを持つことから翼が正しいという印象を受け取ってしまうことを自覚するが怪人が自分と少女を救ってくれたことからどうしても悪しき存在とは感じられず、むしろ感謝すべき人物であった。
「ちょっと、待ってください翼さん!その髑髏の人、スカルマンさんはどこからどう見ても怪しくて悪い人に見えますが、ノイズをやっつけて私たちを助けてくれたいい人です!」
スカルマンが自分たちを助けてくれたこと、いい人であることを必死に伝えようとする。しかし、翼はそれが聞こえながらも目の前の存在への警戒を解こうとしない、解くことが出来ない。
(奴は何者だ?髑髏の特徴を持つシンフォギア装者など聞いたことがない。しかも奴から異常なほどの血の気配を感じる。明らかに人を殺すことに慣れた人物だ。そもそも・・・奴は人間か?)
翼には、人間を殺した経験はない。しかし、目の前の怪人が持つ雰囲気に覚えがあった。自身の実家である風鳴家は国を守護する役割を持ち、その敵は必然的に人間となる。家の中には異様な気配や独特のにおいを持つものがおり、漠然とではあるがそのものが人を殺したことのあるものだと気づいた。
世界が甘い理想ではなく、そのような血生臭い現実で出来ていることに、風鳴翼は若干十八歳で気付いてしまっていた。
(・・・この体の震えは・・・・恐怖、か)
とはいえそれでも十八歳であり、人を殺した経験は彼女自身にはない。自身が戦う相手はノイズに限定されてきた。ノイズは人間にとって絶望的な相手だが、それは通常兵器が通じず触れた瞬間、灰になるからである。しかし、目の前の怪人はノイズにはない物、すなわち人を殺す圧倒的な技術と殺意を持っている。それは翼にまばたきをすれば自分の命の炎が消える錯覚を感じさえ、その髑髏という異形をもって翼を怯えさせていた。
(この私に恐怖という弱さは許されない。あの時からそれは変わらない、変わってはならない。私は・・・強くあらねばならない!!)
「貴様、何者だ!己の所属と目的を明らかにしなさい!しないというのならば・・・斬る!!!」
翼は恐怖を己から振り払おうとし、剣を相手に向けながら威嚇する。それは、近くの響や二課のほとんどの者には歴戦の勇士の姿を、強さを感じさせる。しかし、司令の弦十郎はその姿に、翼が恐怖を心の奥に押し込めただけであり、なくなったわけではないことを見抜く。
翼が戦闘態勢に入ったことにより、空気が張り詰める。スカルマンも自身の槍を構え、一種即発の状態になりこのまま戦いが始まってしまうかと感じさせる。
「そこまでです、翼さん。その人は敵じゃありません。」
「えっ、どこから!?」
しかし、そうはさせまいと虚空から男が突如現れ、現場の空気を和らげようとする。彼の名前は緒川慎次、忍者の家系に生まれしものであり、その力を使ってスカルマンが味方であることをいち早く伝えた。
「司令によると、その人は鎌倉が寄こした援軍、つまり味方です。ですから剣を向ける必要はありません。・・・・・翼さん?」
しかし、それでも翼は剣を下ろさない。緒川は、翼の異常を感じ、再度確認するがそれでもだ。
「・・・・・・・・さらばだ。」
「あの、待ってください!あなたにはまだ聞きたいことが・・・」
「後ほど正式な書類を持って訪れる。今は、その新たなるガングニールの後継者とおびえし防人を休ませるがよい。」
「待て、貴様!それはどういう意味だ!?」
緒川の制止を振り切りスカルマンはバイクを走らせ、その場から去る。緒川自身は彼を二課に連れていき詳しい事情が聴きたかったが、スカルマンにその意思がないのならば、無理に連れて行くわけにもいかず、後に訪れると言われれば黙るしかない。
「待て、待ちなさい!!私が、怯えているだと!!撤回しなさい!!」
そんな翼の言を無視し、完全に立ち去る。後には、響と少女、翼たちや到着した二課の面々が残される。
「私が怯えているだと。そんなはずは・・・くッ!まだ、私は弱いままなのか・・・」
スカルマンの言葉を否定しようと言葉を口に出そうとするが、震える自分の手を見ては何も言えない。顔を下に向け、怒りのあまり震える翼。
そんな中、響は何も言えず、ただ黙っているしかなかった。
(・・・学校の下にこんな施設があったなんて・・・)
響はシンフォギアの説明を受けながら驚嘆していた。漫画に出てくるような秘密基地が自分の学校の地下にあったのだ、無理もない。
よくわからず連れてこられて、よくわからず歓迎され、よくわからず説明された。これには、響も頭をパニックにする寸前で、それを感じた二課の面々は苦笑いするしかなかった。
「全然わかりません!」
「つまり、あなたにはガングニールというすごい武器の破片が埋まっていて、それがノイズと戦う力になっているということよ。これも、奏ちゃんの置き土産ね。」
「置き土産、か」
響に説明する二課随一の天才研究家櫻井了子の発言に先ほどまで黙っていた風鳴翼が反応する。それに弦十郎や了子、響は気付いたが、大人二人は響への説明を優先し響も再開された説明を遮るわけにもいかず何も言うことが出来ない。翼も目を閉じてそのまま黙り込んでしまった。
「とにかく、君にはノイズと戦うための力があるんだ。その力を持つものはとても少なく、我々は常に協力者を欲している。そこでだ、響君。」
弦十郎は言葉をそこで遮り、頭を深く下げる。彼は二課の司令官であり、その頭は決して軽くない。そんな彼が頭を下げるというのは、非常に最大限の協力要請を意味していた。
「君のその力を、人々を救うために我々に貸してくれないだろうか。これは命令ではない、君には拒否する権利もある。その場合は、今回の件を周囲、とりわけ外国に知らせることのないように行動に制限が掛かりしばらくは監視もつくだろうが、ノイズに二度と関わることはなく、君の生活は保障される。」
「私は・・・」
この世界の災厄、ノイズと戦う力があるから戦ってくれなどあまりにも重いお願いだ。響はノイズに触れて人が灰となった瞬間を見たことがある。意思のない殺戮兵器に触れられたとき、人は絶望と悲しみの声を挙げてきた。
まだ死にたくない
家に待っている人がいる
見逃してくれ
トラウマになってもおかしくない、むしろならない方が不思議な経験だ。実際、響はそれを思い返すだけで体は震え、のどは乾き、背筋に悪寒が走り恐怖に悲鳴を挙げたくなる。
(けれど・・・・・私には力がある、皆を助けられる力が・・・)
それでも響は絶望に屈せず、その胸には戦う意志があった。
「私の・・・私の力で、誰かを助けられるなら・・・私は戦います!!」
それが自分にできること。生き残ってしまった者の義務、生き残ってしまったことへの贖罪、そしてそれこそが彼女の、立花響が心から望む絶対の渇望であり、自分が助けられたように誰かを助けるという憧れ。すでに響は戦いへ身を投じることに決めてしまった。
「いい子ですね。」
「果たして、本当にそうだろうか。」
既に翼と共に部屋から出て行ってしまった響に対して藤尭や友里はいい子と評すがそれに対して弦十郎は異を唱える。それに了子も賛同する。
「ええ、ただの女の子にしてはあまりにも覚悟が出来すぎているわ。自身に力がある、風鳴翼と共に戦えるというような高揚感からでもない。彼女は死ぬかもしれないという事実を認識したうえで戦うということに同意した。まるで、そうしなければいけないかというように。サイバーズギルドかしら?」
生き残ってしまったことへの罪悪感。それが彼女をむしばんでいるのか。そうであるなら、あまりにも悲しい。しかし、それだけではないと弦十郎は感じた。
(憧れ・・・そう、彼女は返事をするときここにいる誰も見ていなかった。俺も了子も、ほかの大人も、翼でさえ。ここにはいない、誰か・・・・まるで正義の味方でも見ているかのような・・・)
「少し彼女のことを詳しく調べてくれ。血縁、交友関係、過去、何でもいい。そこに彼女の隠された真実というのがあるような気がする。」
部下に立花響の情報を集めるように命令した後、ふうとため息をつく。翼もそうだが響君も心に何かを抱えている。そんな少女たちに戦場へ行かせなければならない自分たちのふがいなさへの怒りが、そのため息に混ざっていた。
「それにしても、このスカルマンとかいう人物は一体何だったですか?」
モニターに映像を流しながら藤尭朔也がぼやく。そこには白い骸骨のマスクをかぶっていると思われる男が銃や槍でノイズを撃退している姿が映っていた。
「俺もよくわからんが鎌倉からの援軍だと聞いている。それに噂で聞いたことがある、風鳴家は幽霊を操ると。俺も何かの隠喩かと思ったが、そのまま事実なのかもしれん。」
「でも、彼?でいいんでしょうか?歌を歌っていません。それって特定振幅の波動による聖遺物の活性化というシンフォギアの定義から外れてしまいます。」
「けど、シンフォギア以外でノイズと戦える兵器を開発したなんて信じられません。もし、これが外国にバレたらある意味、シンフォギア以上の大騒ぎですよ。ま、まさか、本当に幽霊なんじゃ・・・」
「この職場で働いて、今更幽霊何か怖がってもしょうがないでしょ。聖遺物なんて神話や歴史の遺物を使っているんだから。」
友里と藤尭の疑問ももっともである。第一、シンフォギアの最大のネックは『適合者』といわれる選ばれたものでなくては起動することが出来ないという物。聖遺物自体が希少だが、それでシンフォギアを作っても『適合者』がいなければただの置物だ。しかし、そうでなくともノイズを倒せる手段があるのならば各国も喉から手が出るほど欲しいはずだ。
だが、これはあの髑髏の男『スカルマン』の力が開発された兵器であるという前提の話。そもそもあれば何なのかすら分からない。
「了子君、あれをどう分析する?」
「うーん、アウフヴァッヘン波形ぽいものは検出されているんだけど、ちょっといろいろ違うのよね~。でも一番の違いはこれよ。」
そう言って、櫻井了子はモニターに新たな映像を映す。
「これは聖遺物のエネルギーの流れを表しているわ。本来なら、さっきの響ちゃんや翼ちゃんみたいに歌によって聖遺物のエネルギーが増幅される。けど、そのスカルマンとやらのエネルギーの流れはこれよ。」
「これは・・・聖遺物からエネルギーが放出されていない?」
「そう、全くといっていいほどエネルギーが放出されていない。これなら歌を歌う必要はないわ、だって増幅すべきものがないんだもの。その代わりと言っては何だけど、彼は自身の肉体からエネルギーを取り出している。それで、シンフォギアと似たような効果を示している。人間の体にはいくつかの眠った機能があるとは言われているけど、それを無理矢理引き出してでもいるのかしら?」
「そんなことが可能なんですか?」
櫻井了子と風鳴弦十郎の会話を聞いて疑問に思った友里が声を挙げる。
「基本的に無理であるし普通はしないわ。人に眠っている機能とは、基本的に眠っておいた方がいい物だもの。それを引き出すというのは肉体や精神に多大な負荷をかける。戦っている間に限界が来るかもしれない、しかもそこまでのリスクを背負ってもシンフォギアにくらべたらあまりに微々たるエネルギーよ。それを行っているこのスカルマンはよっぽどの狂人ね。」
二課に沈黙が広がる。弦十郎も鎌倉からの協力ということでまともなものではないと思ってはいたが、ここまで人道に反しているものとは思わなかった。シンフォギア装者と同様な能力を持つのは重要だが、あまりにも不安定、かつての奏のリンカー以上かもしれない。
「・・・いちど、このスカルマンに話を聞いてみる必要があるな・・・・」
鎌倉からの援軍、そのろくでもなさに弦十郎は頭を痛め、そうまでしなくてはならない必要性があることを認めている自分の頭に怒りを抱くしかなかった。
「ま、待ってください、翼さん!」
先に部屋を出てしまった翼さんにやっと追いつくことが出来た。走ったことで少し乱れた呼吸を整えてから、顔を上げ改めて翼さんを見る。目の前にあの風鳴翼がいる、その事実に私は興奮を抑えきれない。私は翼さんの大ファンで、今回の件も翼さんのCDを買いに行ったことからであったのだ。しかし、今言いたいのはそんなことではない。
「いろいろ足りないことがあるかもしれません、私は足手まといかもしれません、弱いかもしれません。けど、これからは私が一緒に、前の奏さんのように戦います。戦わせてください!!」
そう、わたしはこれが、これからともに戦うことを翼さんに言いたかった。まだ戦うことに慣れていない私では迷惑かもしれない、けれどいずれは背中を合わせて戦うことになる。だから、挨拶をしておきたかった。・・・・まあ、ファンとして言葉を交わしたかったという下心もあったが、これぐらいは許されるだろう。
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ、あのッ、一緒に戦わせてください!!!」
・・・握手をしようと思って出した手どころか私の挨拶にも反応がなかったため、もう一度言ってしまった。けれどそれでも反応がない、そもそもこっちを見ておらずベンチに腰掛け壁を見つめている。何か、気に障るようなことをしてしまっただろうか?
「あなたは・・・何故戦うの?」
「えッ?」
反応があったとおもったら質問が返ってきた。戦う理由?それは・・・私がそうして口ごもっていると翼さんはさらに質問を重ねてくる。
「命を落とすかもしれないのよ?それなのにどうして、普通の学生のあなたがああもすんなりと戦うと決められるの?」
死ぬ。その言葉が心に響く。そう、ノイズに触れられたものには例外なく灰になって死ぬという運命が待っている、私は何度もそれをみて、その恐ろしさは十分に理解している。けれど、それでも私は戦えると、戦いたいと言えた。それはなにも考えてなかったからなのか、いいや、それは違う。私は戦いたい、戦わなければいけない・・・・。
「・・・・今日は突然のことで戸惑っているのかもしれないわね。もう遅いし、一度帰って休みなさい。その時までの宿題よ、今日の質問の答えは。それと・・・奏の代わりになんて言わないで。彼女は、もう、いないのだから。」
そういった後、翼さんは私と出口まで一緒に行き私の帰りを見送ってくれた。私はあの翼さんが見送ってくれるというのに、心がさっきの質問に向かっていた。戦う理由・・・どうして私は、戦うことを選んだのか。それをずっと考えていたけど、まったく言葉にできず、そのまま未来と部屋まで悩んでいた。
「・・・・戦う理由か・・・・何を偉そうなことを言っているのだ私は・・・・」
シャワーを浴びながら、先ほどのやり取りを思い出す。立花響、二年前のあのコンサートで奏によって助けられて、ガングニールを受け継いだもの。その事実に私は理不尽な怒りを抱いてしまっていた。ガングニールは彼女、天羽奏の物、他の誰のものでもない、それをなぜ彼女が持っているのか。わかってはいる、これは八つ当たりだと。立花響だって意図してガングニールを受け取ったわけではない。戦う理由?そもそも私たちが彼女に協力を要請したのではないか。私だって、今は一人でもシンフォギア装者が必要なことが分かっているはずだ、だから私はあの場で何も言わなかった。それなのに、一緒に戦おうといってくれた彼女に意地の悪い質問をして・・・。
「そうだ、私だってわかっている。奏はもういない。私が弱かったせいで・・・私がもっと強ければ、彼女だって救えたんだ・・・・・・。結局私はあの日から強くなれていないじゃないか・・・・」
目に雫がたまるが、シャワーと共に流れてそれが涙だったかもわからない。涙であってはならない。
「今度こそ、今度こそ私は強くなければならない。一人でも戦えるぐらい、強くなければならない。誰も失わないためにも・・・」
シャワーの音に紛れてその声は、強くあることを望む剣の嘆きはだれにも届かない。
「・・・以上で報告は終わります。今のところ、ノイズを操るものの姿は確認できません。」
「うむ、それでは貴様は引き続き調査と協力を続け、機会があり次第此度の発起人の首を討て。」
そこで、特殊回線による通信は終わる。いかなる軍でさえ盗聴不可能なほどの秘匿された回線であり一度使用されれば破棄される。報告を終えた御子神辰雄は舌打ちをしながら煙草を吸う。思い返すは先ほどの少女二人、何の因果かどちらも顔見知りときた。
正直言って会いたくはなかった。彼らと自分は生きる世界が違う。彼女たちは自分には眩しすぎる光の存在。対して自分はこの国の暗部に属し、汚いどぶ掃除の様な仕事をしている。彼女たちに自分の穢れが移ってしまうのではないかと思う。だが、今回はそれでも共に戦わねばならない、そうでなければ人々は救えない。なあに、顔が見られなければいい、そのためのマスクだって持っている。
男は、空を見上げる。空の月は、自分の心中に関わらず、いつもと同じように輝いてた。
「何たる失態だ、身内に中に最大の敵を抱えている可能性があるとは。」
「なあに、まだ可能性の段階ですよ。身内に敵はおらず、固い絆で結ばれている可能性だってある。」
ここは日本の闇の中の闇。下手に足を踏み入れれば二度と帰ることのできぬ伏魔殿、鎌倉。会話をしている男の一人は、日本最大の人物、風鳴訃堂。首相ですら会えるか分からないこの大物に対して会う人物もまた大物、ただし闇の世界でだが。
「貴様が持ってきた情報なのだ、少しはその信憑性を訴えることをせぬか。」
「信じてもおらず、さりとて蔑ろにすることもなく、自分の駒を送り込んで監視する。闇雲に信じるか疑うしかできぬ愚か者たちに比べて、実に聡明だ。」
お互いの腹の探り合い。両社は別に協力するわけでもなく、対立するわけでもなく、互いの首に刀を押し付けながらの取引。
「それでは、失礼します。私もいろいろしなくてはならないので。」
「ふん、悪鬼めが。」
そう吐き捨てる訃堂の前に男が置いていったと思われる紙を拾い、火をつける。そのB・Gと書かれた紙はすぐに灰となり、風に吹かれて散り散りとなった。