軍需産業という言葉がある。銃や爆弾、戦車等の兵器をを製造・販売を生業とする産業のことだ。人々からは死の商人と揶揄されるものだが、そんな彼らが存在するのはそれを欲するものがいるからであり、莫大な金になるからである。
故に世界には多くの軍需企業があり、ここも某国にあるそんな企業の一つで、来週にはある独裁国家に製品を引き渡す予定であった。
しかし、それは出来そうにない。なぜなら数多の戦車やヘリ、ともすれば一つの街を簡単に灰にできるほどの戦力、それら全てが鉄くずとなり炎に包まれているからだ。
「クソ、なんでここにノイズがいるんだ!」
「いいから口じゃなくて手を動かせ!バーベキューの炭になりたくないのならな!」
哀れな仔羊である企業の社員たちは納品するはずの製品を持ち出して抵抗したが、ノイズに効くはずもなく、それでもわずかに寿命を延ばすべく銃を撃ち続ける。
そんな僅かなあがきも数十分の後、すべてが終わり、後には燃えた鉄くずと灰のみが残り、人っ子一人残らない。
‥‥‥そのはずなのに、そんな地獄に一人だけ立っている。背丈は小さいが、その豊満な体つきから少女であることが分かる。白銀の鎧の様なものをまとっているが、鎧というには薄くむしろタイツに近いほどであり、その豊かな乳房の下側が露出しており少々目のやり場に困るが、ここにはそれを気にする人間はいない。
「フィーネ、指示どうり施設の全てを破壊した。次は‥‥日本?分かった、すぐ戻る。チッ・・・日本か・・・全く思い出したくもない思い出が不法侵入してきやがる。」
少女はフィーネと呼ばれるものに命令の達成を伝えた後、次なる命令を受けて行動に移ろうとする。
その前に、既に廃墟と化した施設に目を向ける。顔のバイザーに隠れてはいるため、他人には確かめようもないがその眼には激しい怒りが浮かんでいる。人を殺したことへの罪悪感も確かに存在していたが、それは少女の激しい憎悪の炎に焼かれて、少女の動きの障害とはなりえない。
最期に、少女はその鎧の鞭を構えて、エネルギー球を発生させ、燃えている施設に投げつけその原形すら破壊して瓦礫の山とする。それでも消えない激情を抱えながら少女は去る。
数時間後、企業の施設ががノイズによって破壊されたという放送が世界を駆け巡るが、そこに一人の少女の姿は存在しなかった。
『‥‥‥の企業‥‥‥が特異災害ノイズによって大規模な被害を受けました、現在生存者は確認されていないということです。この企業は、先日国連の採択に反して、バルベルデ共和国に武器を輸出したとして国際的な非難を浴びており、経済制裁も検討された矢先の出来事でした。日本人の被害はありません。では次のニュースです。』
御子神辰雄は喫茶店で、テレビを見ながらコーヒーを飲んでいた。朝の一杯のコーヒーは格別であり、仕事をうまくこなすジンクスであるとこの男は語るが、単純にコーヒーが好きなのと、コーヒー代を鎌倉に払わせるのが好きというちょっとした嫌がらせであった。
さきほど鎌倉のエージェントからもらった資料にもう一度目を向ける。敵の、ノイズを操っていると言われる者の正体はいまだ不明でアメリカとつながりがあるぐらいのことしか書いておらず、情報の大分部分は二課のことである。
藤尭朔也。オペレーターを担当しており状況判断に優れている。ただぼやきが多いなどストレス体性に難あり。
友里あおい。彼女もオペレーター担当であり冷静な分析を得意としている。最近の悩みは仕事の特異性による異性との恋愛的・結婚的会合、つまり合コンがうまくゆかないこと。
この二人は常人よりはるかに優秀なだけで特に警戒すべき点はなしと結論づける。
問題は、風鳴弦十郎、緒川慎次、櫻井了子の三名である。
風鳴弦十郎、役職は特異災害対策機動部二課司令官。理論よりも自身の直感を信じるタイプだが、組織の運用・部下への指示などは一流。しかし、真に特筆すべき点はその圧倒的戦闘力であり、恐るべき身体能力と中国武術を持つがそれらはすべて映画を見て学んだという。その文面を見た時、御子神辰雄は自身の幼いころからの戦闘訓練は何だったのかと自身の存在意義を短時間ではあるが見失いかけて、頭を抱えた。
緒川慎次、表の顔は風鳴翼のマネージャーだが、裏の顔は諜報員。飛騨忍者の血を引き、忍法を取得しており、弦十郎には劣るがこれまた高い戦闘力、可能な選択肢をいれれば風鳴弦十郎より厄介。
櫻井了子、研究職。自身の考案した『櫻井理論』によりシンフォギアシステムの開発・管理やシンフォギア装者のメディカルチェックを担っている。戦闘力はそれほど高くないが、その頭脳により物事の考察・分析するためある意味一番警戒すべき。下手に手を打つとこっちの全てを丸裸にされる、いや、もう前の戦いでされているかも・・・。
「どいつもこいつも、ヤベー奴しかいねえな、これ‥‥‥」
改めて二課の強さに頭を抱える。自分は彼らと協力、場合によっては敵対する命令が下されているが敵対した場合の勝率は考えたくない。
「でも、まあやるしかないんだよなあ。はあ、シンフォギア装者も、別の意味で戦いたくないしなあ。」
残りのデータの三枚のうち二枚、風鳴翼と立花響、この二人は御子神辰雄にとっては知り合いである。彼女たちとは、自身の感情的理由で戦いたくない、できることなら会いたくもない。
レジで代金を払い、領収書をもらい、そんな憂鬱を抱えて喫茶店を出る。すると、こっちに向かって誰か走ってくる。
「すいませーん!その人ひったくりです!」
「手前、退きやがれ!」
そういってそのひったくりはナイフを振り回してくるので、ナイフを避けて足を引っかけて転ばせる。
正直言ってめんどくさいのだが関わったのは、ちっぽけな正義感、いいことをしたので最近嫌なことが続いているので善行をして厄払いしたいという理由からだ。これで少しは、幸せが巡ってくるといいなあ。
「はあ、はあ、はあ!あ、あの!」
「うん?」
「ひったくりを捕まえてくださって、ありがとうございます!」
‥‥‥そこには息を切らした少女、先ほど会いたくないと思っていた二人のうちの一人、立花響が立っていた。
えーと神様?善行の見返りがこれとはずいぶんと意地悪じゃございません?
「いやー、本当にありがとうございます。飲み物までいただいちゃって。」
「走った後の一杯は最高だろ?目の前の悪事に立ち向かった、善良なる市民へのささやかなご褒美だ。」
そこいらの自販機で買った冷えたお茶を立花響に渡して歩きながら話す。
(何やってんだ俺‥‥今すぐ彼女から離れた方がいいのに‥‥なんでこうして話をしているんだ‥‥)
ひったくりを捕まえて警察に引き離した後、すぐにでも離れようとしたのだが、目の前の少女に何度もお礼を言われ、こそばゆかったので飲み物を買って一時的にだがなんとかお礼の嵐を終わらせることが出来た。
「それにしても流れるようにナイフを避けていましたけど、なにか格闘技の心得でもあるんですか?」
「うん、まあ、少しね。そんな大したものじゃないけどな。」
しかし、それでも流れで響との会話が続いてしまう。別れようとしても、彼女が切り出してどうしようも出来ない。どうしたもんかと頭を悩ます。
「‥‥‥そういえば君はここで時間をつぶしていていいのか?何か予定はないのか?」
ちょっと強引だが、予定を聞くことで立ち去ることを促す。これで彼女もどっかへ行くだろう。
「いえ、別に予定なんてありません。あえて言うなら、人助けが目的です。」
「人助けが目的?・・・それはずいぶんと変わった目的だな。」
「‥‥‥ちょっと話を聞いてもらっていいですか。」
なんだか妙な感じになってきた。人助けが目的とは、はっきり言って非常におかしな話、まるで正義の味方みたいであり、女学生が話すことではない。響は苦笑しながら話し出す。
「昔、大けがをしちゃったことがありました。それで、頑張ってリハビリをすれば、お母さんもお父さんも、おばあちゃんや皆が喜んでくれると思いました。けど、そうじゃありませんでした。それで私はどうすればいいか分からなくて、途方に暮れて、私が助からなければよかったのかとも思っちゃいました。」
「けど、ある日私を助けてくれる人が現れました。顔も名前も知らないその人は、私にとってテレビにいるような正義の味方だったんです。それから私も、その人のように困っている人を助けよう、泣いている人に手を差し出そう決心しました。」
「だから、今日みたいに困った人を探していたら、ひったくりをみつけて追いかけていたと?」
「はい。‥‥変ですよね、会ったばかりの人にこんな話をして。」
‥‥ああもう、なんでこんなことになるんだ。なんでそんな話をするんだ。ふつふつとムカつきが浮かんでくる。
「初対面でこんなこと言うのも何なんだが‥‥それは少し異常だよ。」
「異常、ですか・・・」
「ああ、異常だ。目の前の悪事に立ち向かうのならそれは尊い善行だ。けど、君はわざわざ困っている人を探して助けようとしている。それは君の様な女の子がすることじゃねえ。人助けをずっとしてたら、君は自分のことを省みなくなる。無理に人助け何かせず、君は君のことを考えなさい。」
言葉の裏に、二課の活動から引くような誘導を紛れ込ませる。かつての馬鹿の幻影を振り払わせるためだ。
「‥‥いえ、それは出来ません。私の手が誰かに届くこと、それが何よりもうれしいから‥‥‥そうか、私はあの人に憧れて、闘うことを選んだんだ‥‥‥。悩みがすっきりしました、話を聞いてもらってありがとうございます!」
だが、彼女はそんな俺の思わくなどに従わず、俺の最も嫌がる方向へ考えを向かわせる。
「いや、そうじゃなくて・・!」
「あの、すいません。用事が出来たのでこれで!手伝ってもらったり、飲み物をくれたりして、本当にありがとうございました!」
鳴った携帯を見ると、彼女は行ってしまった。おそらく、ノイズでも出たのだろう。
「クソ、なんでこうなるんだ。何もかもうまくいかない。憧れ?そいつはそんな人間じゃない、美化しすぎだ。そいつは最低で最悪、正義の味方、お前の憧れからは最も遠い男だよ。」
御子神辰雄のそんないら立ちの言葉は、空に消えて行った。
「でやあああああああああああああああ!」
山道にでたノイズに対して立花響は拳を叩き付ける。いまだ、その戦い方は不慣れであり、効率が悪い。遠くで戦っている風鳴翼はその技で一瞬で大量に倒し、スカルマンは最小の動きで効率よく倒していく。出現したノイズの九割はこの二人で倒される。響はそれに対して自身の非力さを感じるが、それでも犠牲が出なかったことに安堵する。
それに響にとって、本命の出来事はこれから始まる。
「立花響、以前の宿題の回答だ。なぜおまえは闘うのか、答えてくれ。」
風鳴翼は、響に以前の質問の答えを、覚悟を尋ねる。その眼は真剣そのもの、響と翼、二人のステージが生まれ、スカルマンはそれを遠くで見つめる。
「私には、翼さんの様な防人としての使命はありません。前のガングニール装者、奏さんのようなノイズを全て倒す思いもありません。‥‥けれど、胸の中の思いはだれにも負けません。私にはある憧れがあります。かつて私を助けてくれた人、私に差し出された手。私は、それを自分でもしたいと思いました。私は、あの人に‥‥誰かを助ける、誰かを守れる人になりたい。だから、私は闘います!それが私の願いだから!」
立花響は自分の胸の思いをさらけ出す。それが、今の自分にできることだから。
風鳴翼は何も言わず立花響の目を見ている。憧れ、それが彼女の戦う理由。そんなもので戦えるほど甘くはない、しかし、その眼は本気だ、本気で言っている。
どことなく歪な目の前の少女の言葉。だが、上っ面ではない、真なる言葉。
「‥‥あなたの思いは分かったわ。今はそれで、剣を鞘に納めましょう。」
風鳴翼は、それでこの場を収める。
「いや、まだそれには早い。」
それに、スカルマンは意義を唱える、立花響の答えでは不十分だと。
「‥‥言っておくが、あなたのことが一番信用できないわ。自分の正体を明かさないような人が何かを言う資格があると思っているの?」
疑惑の目と言葉を向けられるが、それを意に介さず、スカルマンは立花響の目の前に立つ。
「この戦場では、誰もに等しく死が訪れる。肉が裂け、骨は砕け、死が救いにすらなることもある。それを憧れで戦う?そんなものでは、戦うことが出来るはずもない。いくらシンフォギアをまとってもお前の心は守れない。もう一度聞くぞ、立花響。おまえのそのくだらない憧れで本当に戦えると思っているのか?」
「‥‥くだらなくなんかない。くだらなくなんかない!あの人は私を助けてくれた!誰かに手を差し出すこと、それは素晴らしいことだし、そうでなきゃいけない。私の憧れを、あの人を否定なんかさせません!」
立花響は怒る、人を救うことを、憧れを否定されたから。
立花響とスカルマン、二人は互いに睨みあう。
この場を最初に作った、風鳴翼はそれを見つめることしかできなかった。