「見たかった、未来と一緒に流星群を見たかったああああああ!」
とある地下鉄の構内、立花響は怒りと共にノイズに向けて拳を振るう。
響はその日の夜、親友の小日向未来と流星群を見る約束をしていた。しかし、ノイズ出現の報告を受けそれは叶わなかった。自身がシンフォギア装者でノイズと戦っていることは最重要国家機密のため、約束を反故にした理由を未来に伝えることさえ叶わない。それが響にとってどうしようもなくつらく、そのいら立ちが今ノイズの向けられている。殴って、つぶして、引き千切る。その戦う姿は苛烈であり人というよりは獣に近いのかもしれない。
瞬く間に構内のノイズたちは一掃され、それを確認した響はノイズが天井に開けた大穴を駆け上がり外に出る。次の怒りをぶつける対象を探すが、そこにはノイズはおらず、少々会いたくない人物しかいなかった。
白い骸骨そのもののマスクを着け、一切の表情は見えず地獄の幽鬼のような近づけば死が待っているような存在、寒気がするのはきっと日が落ちて夜になったことだけが原因ではないと思ってしまう印象、スカルマンがそこに立っていた。おそらく、彼もノイズを狩りつくしたのか、槍を地面につき辺りを見回している。彼もまた、次の獲物を探しているのだろう。
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
どちらも言葉を発さず、沈黙のみが広がる。本来、響はこのような気まずい雰囲気は苦手で、通常なら何かしらの話題を振るのだが、ある出来事が理由で目の前の骸骨男に話しかけるのをためらってしまう。それはつい先日のことである。
「私の憧れを、あの人を否定なんかさせません!」
響は怒る、目の前の骸骨男が憧れを否定したから。確かに骸骨男が言うように戦場とは恐ろしいもので響はそのことを理解していないのかもしれない、そのことは響もわかっている。しかしながら、そんなことは怒りの為に頭から吹き飛んでしまう。
「言ってもわからないなら、その身で分かってもらうしかないな。構えろ、立花響。貴様の甘い考えを、すぐさま粉砕してやろう、そうすれば貴様も戦いから身を引くだろう。」
その言葉と共に、骸骨男はナイフを拳で握り響に攻撃を仕掛ける。慌ててその場から飛びのくことで響は一時的に攻撃を躱すが、それで攻撃を終わらせることもなく、骸骨男は次の攻撃を仕掛ける。繰り出されるナイフを体をひねることで避ける響だが、とっさに繰り出された蹴りへの防御が間に合わずもろに腹にくらい吹き飛ばされる。
「ゴホ、ゴホッ!な、何を、するんですか!?」
「言っただろう、貴様の甘い考えを粉砕すると。どうだ、痛いか?だが、戦場ではこれ以上の攻撃が飛び交うのが普通だ。その痛みにお前は耐えられるか?」
痛みに必死にこらえながら絞り出した響の困惑、それこそついさっきまで抱えた怒りを上回るほどの思いを骸骨男はバッサリと切り捨てる。
「どうした、貴様は攻撃しないのか?これ以上攻撃をくらいたくないなら、闘う覚悟があるなら俺にその拳をぶつけろ。貴様の意思が本物ならばそれが出来るはずだ。」
「で、できるわけがありません!私のこの力はノイズと戦うものためで人に振るうものじゃないからです!」
あなたと戦えないと響は叫ぶ。響は確かに戦う覚悟をしたといった、しかしそれは飽くまでノイズに対してであり人間と戦うなどとは言っていない。覚悟はあるが、それとこれとは話が全く違う。
「まだ、そんなことを言う余裕があるのか。なら、次の攻撃はもっと重くしてやろう。」
「そこまでだ。」
さらなる攻撃をしようとした骸骨男の首に風鳴翼は剣を添える。
「確かに立花響にはあなたの言うようにまだ戦う現実が分かっていないのかもしれない。けれど、その覚悟は本物であると私は認めた。だから、これ以上は私が相手となろう。」
だから手を引けと言外に添える。骸骨男は振り向き、翼の目を見据えるが、やがてナイフを仕舞い攻撃をやめて去ろうとする。
「立花響、貴様は俺に拳を振るえなかった。その甘さが、お前を殺すかもしれないということを肝に銘じておけ。考え直すなら、戦いから身を引くのは今だぞ。」
そんなことがあってから、立花響は骸骨男に対して苦手意識を持っていた。この件に関して、翼はあんな顔も明かさない者の言うことなど気にする必要などないと言い、弦十郎は今度あのようなことがあったら俺がスカルマンを殴りに行くと言ってくれた。
しかし、響はスカルマンの言葉に対して引っ掛かりを感じていた。無論、彼の言動に関しては釈然としないものを感じるし自分の憧れを否定された怒りはある。しかし、彼は自分を助けてくれた恩人であり、よくよく考えると言葉の中身も自分を戦いから遠ざけようとしたものであったため、単純に否定することも出来ず、さりとて受け入れることも出来ず悶々とした思いを抱えて、今に至る。
それにしても、この沈黙は響にとってつらい。そもそも、響はこの骸骨男について全く何も知らず、その時点で二人の関係は微妙なものとなる。それに加えて、先日の出来事だ、もうどう接すればいいのか全く分からなかった。それでも何とか話しかけようとする。
「え~と、あの、その、・・・今日はいい天気ですね!」
「・・・・・・・・・・」
しまった、失敗だと響は内心頭を抱える。なんとか話しかけようとしたが、まったく話題が思いつかず社交辞令のような話し掛けをしてしまった。天気の話題などというとっさにおもいついたような話題という時点で論外であり、しかも今は夜でどう考えても天気の話をする時間帯ではない、百歩譲ってせめて星か月の話である。
骸骨男との間にある間に耐えられず、どうしようかと悩んでいる響は上空での輝きに気付き見上げる。それは離れたところで戦っていた風鳴翼の剣の煌きであり上空のノイズを狩っていたのだ。その光景に見とれ、響はつい見入ってしまう。ちらりと隣を見ると、骸骨男も翼を見上げていてしめたと思い話しかける。
「い、いや~やっぱり翼さんはすごいなあー、あんなふうに空でも華麗に戦えるなんて。スカルマンさんもあんな風に戦えるんですか?」
「・・・・・いや、俺にはあんな戦い方は無理だ。まず、もともとのスペックが違う、あんな身体能力はこのギアでは手に入らない。俺が出来るのは地上の敵が限度、しかも中型までで、大型が相手だと途端にきつくなる。」
響が思った以上に骸骨男は話してくれた。そういえば、この男?の能力は自分たちとは違うと気づく。彼は一切歌っていない。シンフォギア装者にとって歌はシンフォギアの核、聖遺物の活性化に必要不可欠なのにだ。櫻井了子の話によれば、彼の持つスカルギアはシンフォギアに近いようで確かに違うものらしい。歌う必要がない代わりに、シンフォギアほどの出力は望めないとか。そこまで思い出して響は思う、そこまで出力の劣る能力でシンフォギアを纏う自分よりも、もしかしたら翼さんと同等に戦って大丈夫なのかと。
そんな響の死角から、攻撃が飛んでくるが骸骨男にはじかれ、響は自分が攻撃された事実に気付く。
「へぇ、今のを防ぐとはなかなかやるじゃねえか。」
「え?」
暗がりよりその下手人が現れた時、響は驚愕する。なぜなら、それはノイズではなく人間だったからだ。上半身を覆う白い棘の様な鎧はまさにシンフォギア、もしくはそれに近しいものを感じる。
「でもまあ、そっちの女は駄目だな、お仲間を見るのに夢中で周囲に全く気を配ってねえ、あれじゃ殺してくださいと言っているのと同じじゃねえか。そうは思わねえか、骸骨さんよぉ?」
「お、女の子!?でも、どうして、こんなところに!?それに、その恰好は・・・」
「知る必要はねぇ。融合症例は付いて来てもらう。骸骨野郎は・・・ここで死ね!」
両手の鞭を片方は響に、片方は骸骨男に向けて振るう。鞭といっても一般的なそれとは違い、紫のクリスタルで構成されていて、このまま当たれば体を貫けるのではないかと思える程度には鋭利だ。響は飛びのくことで、骸骨男はスカルスピアではじくことでその攻撃をかわす。
スカルマンはそのまま、突撃しつばぜり合いを行った後、白い少女と互いに移動しながら攻撃と防御を繰り返す。
「あれは・・・ネフシュタンだと・・・・!」
「知っているんですか、翼さん!?」
戦いに気付いてこちらに向かってきた翼が、少女の鎧について驚き、響はあれが何か尋ねる。
「あれは、かつて日本政府が保有していた聖遺物の一つ、ネフシュタンの鎧。ある出来事が原因で行方不明になっていたのだが・・・・」
そう、翼にはあの聖遺物に因縁があった。あれの起動実験の最中にノイズが現れたせいで奏が死んだのだ、それ故に翼にとっては忘れることも出来ない因縁の聖遺物。
いや、それは少し違うと翼は心の中で否定する。あくまであの聖遺物はきっかけに過ぎない、奏が死んだ理由、それは・・・・
「そう、すべては私の弱さのせいだ!」
「翼さん・・・?一体・・・」
翼の様子がおかしいので響は心配して話しかける。しかし、翼はそれを無視し、因縁の聖遺物へ突撃する。
「はあああああああああああ!!!」
「おっと、あぶねえ。三対一、いや、融合症例は使い物にならないから二対一か。これは、少しきついな。だから・・・・こいつらで百対二だ!」
翼の太刀をかわし、謎の少女は自分が不利と判断するといなや、持っていた杖からノイズを出現させる。百体とは言っているが、おそらく二百は優に超えているだろう。
「これは、ノイズ!?まさか、あの杖から出すことが出来るの!?」
「・・・ならば、あの少女を殺せばノイズの出現も止まるか。」
「ほう、珍しく意見があったわね骸骨男。」
響は自分の耳を疑う。今、あの二人は何と言った?あの人を、人間が殺す?それは、殺人という名の禁忌、それを骸骨男はともかく、あの風鳴翼も同意したことがショックであった。
「ちょっと、待ってください!殺すって・・・相手は人間ですよ!?」
「「戦場で何を言っている!!」」
「どうやら」
「あなたとは気が合いそうね」
おかしい、絶対におかしい。人を殺すということは人であれば最も忌避することのはずだ。けれど、この場で殺意を持っていないのは響だけであり、少女と翼は互いに意見があったことに笑いあっている。あたかも自身がおかしいかのように響は錯覚する。
「おかしい、こんなの絶対におかしいよ。私たちが殺しあう必要なんて・・・・」
「立花響!上だ!」
「えっ?」
響が上を見上げると数メートルはあろうかという中型のノイズが迫っており、口から何かを吐こうとしている。間に合わない、そう響は直感してしまったが・・・・瞬間、目の前のノイズたちの頭が吹き飛ぶ。スカルマンの投げた槍のおかげだ。武器を手放したスカルマンに謎の少女は攻撃しようとするが、翼の攻撃が激しいために断念し目の前の相手に集中する。
スカルマンが自分の為に無手になったことに気付いた響は地面に刺さった槍を引き抜き持ち主のもとまで届けようとするが、ノイズのせいでそれも出来ず、目の前ノイズたちを殴り始める。
一方、スカルマンと翼はどうにも攻めあぐねていた。完全聖遺物のネフシュタンのポテンシャルは高く、また少女の戦闘経験も豊富なのであろう、隙はほとんどないし、不利だと思ったらいったん引きノイズに攻撃させることで、仕切りなおす。いくら倒しても減らないノイズと謎の少女の苛烈な攻撃に二人の体力はみるみる奪われる。
このままでは、じり貧だと思った翼は大技を仕掛けることを決める。
「おい、骸骨男。いまから、私があの少女をしとめる。だから、お前は周りのノイズの相手を・・・」
「絶唱か?」
スカルマンがこちらの手を読んでいたことに内心舌を巻く。
絶唱。増幅したエネルギーの一斉開放というシンフォギア最大最強の攻撃ではあるがその代償は全身への強烈なダメージであり、下手をすれば死ぬかもしれないほどである。実際、奏はいくつかの悪条件が重なったとはいえこれで命を落とした。それを翼は使うことを決心した。全ては、過去と、弱き自分と決別するために。
「ああ、そうだ。だから、お前は」
「悪いがその指示は聞くことが出来ない。」
「なっ!」
それを、スカルマンははねのけた。
「確かに、絶唱の威力は強力だ、あの少女を倒すことが出来るかもしれん。だが、万が一敵に対してダメージを与えるのにとどまった場合、残っているのは未熟なガングニールと半端な俺だけだ。それでは、ノイズとその裏にいる存在にたいしてあまりに貧弱すぎる。」
「だが、あのネフシュタンの鎧を倒せば、ノイズの出現は」
「ああ、止まるだろうな、だがそれはあの少女が裏の全てだった場合だ。」
「まさか、ネフシュタンでさえ先兵に過ぎないというのか!?」
「あくまで、予想の範疇に過ぎないがな。」
もしかしたら、これ以上の敵がいるかもしれない、そう考えると翼の絶唱を使う場はここではないかもしれない、スカルマンはそう言っていると翼は受け取る。
「ではどうする?なにか策はあるのか?」
「・・・合図と共に、千ノ落涙を発動してノイズ殲滅と共に、土煙を起こして目くらましを行え。そこに俺が突っ込んでとどめをさす。」
「うまくやれるのか?」
「あいにく、殺しの腕はこの中では一番だと自負している。」
スカルマンの明確な殺意、それに翼の体は自然と震える。頼もしさゆえに・・・と言いたいが実際は恐怖のためだ。今から、目の前の少女が殺される、その事実におびえてしまう。しかし、やらなければならない、ノイズを倒すために、恐怖を乗り越えて強くなるために。
翼とスカルマンは攻撃を行う。少女の鞭をかわし、ノイズを倒しながら機会を待つ。そして、一瞬ノイズと少女の攻撃が同じタイミングで止んだ。
「今だ!」
「ああ!」
”千ノ落涙”
空中に大量の剣を出現させ、落下させる。
「ちょせえ!ノイズをこれで殲滅したつもりか?お前たちには悪いが、この杖がある限りいくらでも出せるんだよぉ!残念だったな!」
少女は今の攻撃がノイズを倒すためのものだと思っている。だが、それは飽くまで仮の目的。真の目的は・・・
「ガッ!」
「・・・悪いがこれで終わりだ。」
気付けなかった、気付いた時にはもう遅かった。土煙の中から突撃してきた骸骨男への迎撃が間に合わず、少女の体にナイフが突き刺さり、その部分から血が流れ出る。痛みに思考が止まり、何も考えられない。
翼は思う、今自分は決して引き返せない道に進んだと。
響は気付く、今一人の少女の命が奪われたと。
骸骨男の顔は見えない、ゆえに何を思っているのかも分からない。
「哀れな少女よ、汝その罪を償い安らかに眠るがよい。」
「・・・・・・・・・悪いが、閻魔様にあうのはまだ先の話だ。」
「ッ!!」
生きていた、少女はまだ確かに生きていた。ありえないとスカルマンは思う。確かに心の臓に刺したはずだ、何故生きているのか。
「てめぇのことは一応注意しろって言われてたんでなぁ。それでも、こうして無様に刺されちまったが気を張っていたためにこうして生きていられたぜ。」
「そうか!ネフシュタンの鎧の破片を心臓の手前に融合させて・・」
「そうさ、その通りさ。そして、一足早くお前が閻魔様のもとへ行きなぁ!」
「グガアアアアアアアアアア!!!」
少女は振るい、避けるのに遅れた骸骨男は背中をクロスに切り裂かれ、血が激しく噴き出す。その痛みに絶叫をあげ倒れ伏す。
「はあ、はあ、はあ。ネフシュタンの鎧があるとはいえ、マジで死ぬかと思ったぜ。だけど、死ぬのは・・・チッ!」
舌打ちして飛びのいた場所に、斬撃が飛んでくる。風鳴翼の蒼ノ一閃である。少女としてはとどめをさしたかったが、自身も心臓近くをさされたこと、疲弊したとはいえ風鳴翼がほぼ無傷のことから、撤退を始める。
「次あったら、今度は必ずぶっ潰す。首を洗って待っていな!」
少女が駆け去っていく。翼は追撃したかったが、こちらに負傷者がいること、体力が残り少ないこと、なにより少女がノイズを殿として置いていきそちらを倒さなければならないことから、それを諦める。
「剣、既に綻び、敵を斬るには研ぎなおさなければならないか・・・」
本丸を見逃さなければならないことに唇をかみながら、翼は残りのノイズに剣を振るい始めた。
「ネフシュタンの鎧、および雪音クリスの反応ロストしました!」
「ふうん、逃げられたか。」
隠しモニターの映像を見ながら、男は彼女を逃がしたことが吉となるか凶となるか考える。彼女を殺しておけば奴の手ごまは減り計画遂行に支障が出たかもしれない、しかしそのまま計画を続ける可能性もある。そうなれば唯一の手掛かりを失ったことになる。それは困る、参謀本部の予想が正しければ今回の奴との戦いは負けることが許されないからだ。いかに無限の再生力を持つ組織とはいえ、奴の計画が達成されればどうしようもなくなる。
「まあいい、このまま捜索を続行せよ。」
「ハッ!」
次の一手を男は考える。場合によっては戦力を出すことも必要だ。しかし、ネックになるのはノイズの存在だ。あれに対抗するのは一応は可能だが、兵力が圧倒的に劣っている。
「未だ、総帥も01も03も目覚める気配もない。今は、二課の奴らに働いてもらうが、これは、間に合わないかもしれんな・・・。」
総帥が目覚めなければ、