戦鬼深淵スカルマン   作:アラバス体系

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それぞれの道

 少女、風鳴翼は剣を振るう。その無駄のない動作は美しいとさえいえるほどだ。だが、風鳴翼には違う。

 

 「‥‥‥まだ遅い。それに圧倒的に殺気が足りない」

 

 前の戦いでは、殺意をもって剣を振るうことはしたがその意思を徹底させたとは言い難い。殺意を持つことに意識を割きすぎて、体には無駄に力が入り戦場の全てに目が行き届かない。これでは駄目だ。殺意を持つことを自然と行えなければならない。

 

 けれど、あのネフシュタンの少女の首を切り裂くことを想像すると、体から汗が噴き出て手が震える。想像ですらこのざまだ、実際にやってしまったらどうなるのか、なんとなくだが想像できる。

 

 「私はまだ弱いままなのか。まだ、あの時の幼子のままなのか。どうしたら強くなれる、教えてくれ奏、教えてくれ兄上」

 

 そんな言葉が自然と口から出てくるが、愚かしさに笑って捨てる。兄はあの日から一度も会えていない、奏もあのノイズとの戦いで散ってしまった。せめて幻覚や夢でもと何度も祈ったが現れてはくれなかった。

 

 それはきっと強くなりたければ、一人でやるしかないというとなのだろう。再び風鳴翼は剣を振るう。目指す強さを手に入れるために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあああああああ!」

 

 掛け声と共にサンドバッグに拳を叩きつける。中の重い砂に衝撃を吸われて、拳の威力は殺されて全く微動だにしない。

 

 「響君、そうじゃないッ!稲妻を喰らい、雷を握りつぶすように打つべしッ!」

 

 師匠、と呼ぶようになった風鳴弦十郎司令の曖昧で抽象的すぎるアドバイスが飛んでくる。ハッキリ言って意味は全然分からないが、何を言いたいかはなんとなくわかるので、それを意識しながら拳を握って一気に放つ。

 

 「————————ハァッ!」

 

 拳はサンドバックに大きく沈み込み、へこむ音が響き渡る。その音に驚いたのか、あたりの鳥たちが一斉に羽ばたいて去ってゆく。これだ、師匠には威力は遠く及ばないけれど、腕だけでなく体全体で殴ること、それを再現できた。今度はしっかり威力がサンドバッグに伝わり、大きく揺れるどころか吹き飛んで近くの池に飛び込む。そのことが嬉しくて、ついはしゃぎながら師匠に叫ぶ。

 

 「やった、やりましたよ師匠!」

 

 「ようし、よくやった!では、次の段階に入るぞ!」

 

 「はい!」

 

 そうだ。こんなところで止まってはいられない。こんなものではまだ足りない。これでは、だれも助けることなんかできない。翼さんと骸骨男、ネフシュタンの少女の戦いではどうすることも出来なかった、ただ戦いをやめるように言って、それで終わりで、ただの傍観者だった。

 

 けど、もう見ているだけでは嫌だ。人同士が傷つけあっていることなんて強要することは出来ない。私は闘いを止めたい、それには力が必要だ。だから、こうして師匠の下で力を手に入れるんだ。

 

 そんなことを思いながら、次の準備をする。同時に、昨夜の出来事を思い返す。あれから、あの人はどうなったのだろうか、あの骸骨男はどこかで傷をいやしているのだろうか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 「スカルマンさん!スカルマンさん!?」

 

 ネフシュタンの少女が去ったことを確信した後、倒れたスカルマンさんに声を掛けながら体をゆするが何の返事もない。背中の傷からは大量の血が流れていて、明らかに命の危険性がある。

 

 「退きなさい、立花!」

 

 翼さんもやってきて、私を押しのけてスカルマンさんの状態を確認する。救護班が向かっているとの連絡がきたが、とりあえずこの血を止めなくてはならないと思いコートを脱がせようとするが……

 

 「あ、あれ?ぬ、脱げない…どうして!?」

 

 「ッ!立花!それはおそらくただのコートではなく、この男の力の一部からできたもの、言ってしまえば私たちのスーツと同じようなものよ。だから、脱がすには起動した機能を停止させなければならないわ。」

 

 「それにはどうすればいいですか!?」

 

 「分からない!」

 

 私や翼さんのシンフォギアと似て非なるスカルマンさんの力。けれど、似ているなら止める方法も似ているかもしれない。私のような体と融合しているようなら気を失えば解除されるはず。けど、そうじゃないというなら翼さんと同じ装備型のはず。

 

 翼さんと手分けして彼の体を探るが解除するためのギアが見つからない。なら、残るは頭のマスクのみ。マスクを脱がせば顔が見えてしまうが命には代えられない。恐る恐る顔のマスクに手を掛ける。

 

 瞬間、その手がガシッとつかまれる。びっくりして顔を見るとマスクの目に再び光が宿っている。その眼は私を貫かんばかりに睨んでいて小さく

 

 「ひっ」

 

 と悲鳴を上げてしまう。

 

 「こ、の、マスクに…マスクに触れるな!!!」

 

 そう言って、ひどい傷にもかかわらずスカルマンさんは立ち上がる。慌てて翼さんが止めようとするが躱して、激しい痛みを感じているだろうにそれを感じさせずに歩いていく。彼の剣幕に押された私たちはただそれを見ていることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ガァァァァァッ、痛!くそ!思い切りやられたなこりゃ…」

 

 背中の痛みに耐えながらなんとかあの場を去った後、鎌倉の爺の息のかかった病院で治療を受けた。思いっきり肉を引き裂かれたが、幸い、と言っていいのか内臓や神経まではやられてはいなかったのですぐに戦線に復帰できる。医者には動くなと言われたが、そんなこと鎌倉の爺に言ってほしいと心のなかで愚痴る。こういう時、俺のギアの貧弱さを憂い、シンフォギアというのがうらやましく感じる。この程度の傷、あれなら防げたのに俺のスカルギアは守ってはくれず、包帯グルグル巻きとベッド送りの刑だ。

 

 痛みに呻きながら、病院のベッドの上で昨日のネフシュタンの少女について考える。あの少女の狙いは立花響だった。だが、なぜ彼女を狙う?そもそも、奴の目的は何なのか、立花響をさらって何をしようというのか。そういえば、奴は立花響を融合症例と呼んでいた。融合症例、それは立花響に聖遺物たるガングニールが埋めこまれているからそういわれる。あの少女も、ネフシュタンの鎧を体に融合させている感覚がした。

 

 「奴の狙いは、ネフシュタンとの完全なる融合か・・・?」

 

 なるほど、完全聖遺物であるネフシュタンは他の聖遺物と比べても強大な力を秘めている。それを我が物とすれば、人間を超え神の領域にすら近づく存在になれるだろう。

 

 だが、その先は?そんな存在になってあの少女は何をしようというのか?そんな力でいったい何をしようというのか?力を求める求道者?ただ破壊を楽しむ愉快犯?世界を滅ぼそうとする破滅願望者?そのどれもが違う気がする。

 

 「やっぱり、あいつの裏に誰かがいて、そいつに命令されたという線か…。なんにせよ、もう一回戦って聞き出すしかないか。拷問なんてしたくねえんだが…」

 

 それなら、一気に逝かせてしまった方がいいと悪態をつく。その言葉を思い返して苦笑する。

 もはや、ここまでの外道に自分が成り下がっているとは。人の命の価値すらわからぬ悪鬼、命令に従う狗、国家を守るという大義のもとにどこまでも残酷になれる正義、表現する言葉はいくつもあるがなんにせよあまりいい言葉ではない。

 

 それに比べて、あの二人、立花響と風鳴翼はどうだ。かたや、かつての馬鹿の一度の善行に憧れて人を救わんとする優しき拳、かたや戦場においてもその美しさは損なわれず悪を切り裂く凛々しき剣。影で人を狩ってきた俺が近くにいるだけでどうしようもなく恥を感じる。

 

 そんなセンチなことを考え始めた自分に気付き、バカバカしいと思考を止める。そんなことを考える段階はとっくに過ぎた、俺は俺の任務をするだけだ。

 

 枕もとの電話が鳴る。おそらく爺からの電話、丁度いい、きっと次の作戦だろう。動けば、薄皮一枚で生死を分ける極限の命のやり取りの中でならこんなこと考えずに済む。

 

 「はい、こちら御子神辰雄」

 

 「おめおめと生きておったか未熟者め。ネフシュタンを取り戻すどころか、下手人を殺すことすらできぬとはとんだ役立たずよ」

 

 「開口一番に嫌味とは、まったく恐れ入るよ。それも長年の政争の賜物かな?だとしたら大した努力だ、想像するのも絶する」

 

 電話での罵り合い。無駄なやり取りだが先方からやってきて、思わず返してしまった。だがこんなことをしているなら寝ていた方がましだ。さっさと用件を聞こう。

 

 「次の奴らの狙いが分かったのか。なら、さっさと教えてもら」

 

 「先ほど、広木防衛大臣が襲撃を受けて殺された」

 

 「‥‥‥ノイズにか?」

 

 「現場からは薬莢がいくつか見つかっておる。作戦の決行と撤収も迅速であるから訓練と経験も積み、組織的な犯行だ」

 

 「米国、か」

 

 いくら同盟を組んでいると言っても国と国の間はこの程度のものだ。奴らはシンフォギアを欲しがっているが日本はそれに応じていない。

 

 「事態を重く見た政府は本部奥に眠る完全聖遺物デュランダルの移送を決定した。だが、これはエサだ。敵はデュランダルを狙って仕掛けてくる。貴様はこれを迎え撃ち、ネフシュタンを捕縛、最悪抹殺せよ」

 

 デュランダル。EUの経済破綻の時にもらったものだったか。完全聖遺物二つをかすめ取ろうとはたいした欲深さだ。痛む体を起こし、さっそく準備をしようとする。だが、爺の話はそこで終わりではなかった。

 

 「これまでの失敗を踏まえ、此度の作戦は特務災害対策機動部二課、貴様に加えてもう一つの組織の三者共同で行う」

 

 「もう一つ?」

 

 「奴らの名前はブレインズ・ギア。本来なら奴らと関わるのは避けたいが不甲斐ない貴様が失敗したおかげで更なる戦力が必要だと結論が出てな」

 

 ここにきて更なる嫌味とは……なまじ間違ってもいないため俺も唇を噛んで口をつむぐしかない。

 

 「いいか、決して奴らから目を離すな。確かに戦力にはなるが、下手をすればデュランダルを持っていかれる可能性もある。米国による襲撃にもおそらく関わっている。都合よく利用し奴らには何も渡すな」

 

 そこまで言って電話が切られる。そんな奴らの手を借りねばならないとは爺もよほど焦っているな。事態の深刻さを改めて認識して準備の為にベッドから立ち上がる。

 

 その時、コンコンとドアをたたく音がする。ドアの向こうの気配に俺は警戒レベルをマックスにする。明らかに医者や看護師の気配じゃない、そもそもドアをたたくまで気配にも気づけなかった。

 

 「失礼するよ」

 

 ドアの向こうから現れたのはサングラスをかけた二メートルを超えた偉丈夫だった。肉体も筋肉質で服の下には鋼の様な肉体があるだけでなく、服の僅かな歪なふくらみからただ鍛えただけではない。何らかの改造を行っているのだろう。

 

 「連絡があったと思うが、私がブレインズ・ギア代表のホグートだ。どうかよろしく頼むよ」

 

 笑みを浮かべながら手を差し出してくる。一見友好的な関係を築こうとしての動作だが、俺はそれに瞬時に返答することが出来なかった。その顔に浮かべた笑みに邪悪なものを感じたからだ。爺の警告もあながち大げさではない、目の前のこいつは、今まで会ったどんな奴よりも濃い闇をまとっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あれが立花響に櫻井了子、そしてデュランダル一行か」

 

 「ほう、あそこにかのデュランダルがあるのですか。かの騎士ローランが使ったと言われる決して折れぬ剣。確かあれはEU危機のときに日本に渡ったと聞いています。あの時は私たちも援助を申し上げたかったんですが、破壊された工場の再建に手いっぱいでしてな。気付いた時には既に日本政府にしてやられて、悔しい思いをしたものです。いやぁ、それにしても一度拝見したいものですな。これが終わったらあなたから政府に取り合ってくれませんか?」

 

 「残念だが、俺にそんな権限もコネもないよ。そんなに見たいのなら鎌倉のじじ……風鳴訃堂にでも頼むしかない」

 

 双眼鏡で対象を眺めながらそんな世間話、もとい微妙な牽制をしながら敵が来るのを待つ。丁度いい、いくつか質問してみるか。

 

 「なんであんたはこの件に協力する気になったんだ?協力してメリットでもあるのか?」

 

 「それはもちろんあります。第一に、協力することで日本政府に貸しが作れます。第二にノイズのデータ、そしてそれを操るヒントが手に入れられます。ノイズは通常の兵器では太刀打ちできないが、それを打倒する手掛かりが少しでもほしいのです。そして最後にこれは私たちの新製品のお披露目会なのです。つまるところ、これはビジネスです」

 

 おもったよりもホグートははっきりと理由を言ってくる。ビジネス、ブレインズ・ギアは軍事企業らしい。兵器を金儲けの道具にする奴らは気に食わんが、そんなことをわざわざ言う必要もない。兵器を使う俺には言う資格もない。

 

 「次の質問だ。あんたたちはどうやってノイズと戦うんだ?あんたもさっき言ったようにノイズには既存の兵器は通用しない。それも新製品とやらでどうにかするのか?」

 

 「まあ、そんなところです」

 

 その言葉に耳を疑う。ノイズに対抗できる、それは位相差障壁を無効にできるということ。その技術はシンフォギア以外ではどこの国・企業でも到達できておらず、もしできるのなら世紀の大発明だ。それを、こいつらがやったというのか。

 

 そのことについてもうすこし聞こうとするが橋が落ちたことで襲撃があったことに気付く。残念だがここまでか。俺は手に持っていたマスクをかぶりスカルマンに変身する。

 

 「ほう、それがスカルギア、もといスカルマンですか。いささか興味がわいてきますな。ああ、わが社の製品は遅れていきますから気にせず」

 

 そんな言葉を背に俺は走る。既に無駄口をたたく精神ではない。すでに心なき悪鬼、強化された脚力をもって風となる。目指すはネフシュタンの命のみ。

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