我が名は畝傍!艦これの世界にバグ艦男としてログイン! 作:高任斎
何故かこうなった。どうしてこうなった?
導入部分をちょっと修正。
1:我が名は畝傍……え、畝傍?マジで?
電話の音で目が覚めた。
もしもし……って、兄貴?
なんだよ、こんな時間に?
『おお、いつかけても電話に出ないから、早朝ならどうかと思ってな』
迷惑な……と言いたいが、何かあったんか?
そういや、一番下の姪っ子はそろそろ中学だったっけ?
なんか贈ろうか?
『ああ、いや……なんというか、その、なんだ、また子供が出来たというか……』
は?
いや……まあ、めでたい事に変わりはないけどさ。
つーか、義姉さんって、もうよんじゅう……。
『現役であることを名実ともに証明するなどと、出産に向けて筋トレを開始した……』
ああ、うん、そうなんだ……相変わらずなのね、義姉さん。
で、男?女?
まだわからん?
まあ、母子ともに無事ならそれで良しだろ。
つーか、男ならどうすんの?
まだ、戦艦シリーズ続行するんか?
長男大和に、次男武蔵……どうせなら、兄貴の言ってた『畝傍』とかつけちゃう?
波乱万丈の人生送るんちゃう?
『さすがに親として、それはないわ、〇〇』
ん?
兄貴、今俺のことなんて呼んだ?
声が遠くなって……もしもし、もしもし?
なんだ、いきなり視界が暗くなって……。
……ああ、もしかして、これ夢か?
夢から覚めるのか。
暗い水の底から、身体が浮かび上がっていくような……眠りから覚めていく感覚に身を任せた。
光が近づいてくる、眩しい光だ……。
「なんじゃこりゃあっ!」
頭を殴られるような大音量に少しイラついた。
なんだよ、腹でも刺されたのか?
ネタが古いぜ。
身体を起こし、頭をかく。
立ち上がり、大きく伸びをして……お、なんかものすごく体の調子が良い感じがする。
軽く腕を振り、屈伸運動……気のせいじゃない。
痛みもなく、まともに体が動かせるって、中学以来か?
なんだ、怪我だらけの俺の身体とは思えん。
「え、何これ?レアなの?つーか、男の娘?つーか、男じゃん、まんま男じゃん!艦娘じゃねえじゃん!誰得だよ、チキショウ!」
辺りを見渡す。
さっきからうるさいのはコイツか?
いや、待て、どこだ、ここ。
少なくとも俺の部屋じゃないというか……住居とは思えないというかむしろ工場っぽい?
「なけなしの資材突っ込んだのに!わけわからんっ……つーか、詰んだ。はい詰みました!艦これの世界に転移して提督になってヒャッホウとか喜んでたのに、現実は非情でしたぁっ!」
うん、まあ、なんというか……。
俺はそいつにアイアンクローを決めた。
おお、肘や肩に痛みが走るでもなくちゃんと力が入る。
そういや、痛みがないってこんな感じだったか、懐かしいなあ。
「ちょっ、やめて!お前、何提督に逆らってんの!バグにも程があるだろチキショウ!」
俺の全盛期の握力は100キロです。
ちなみに、成人男性の頭蓋骨は200キロの圧力まで耐えられるんだそうだ。
「やめ、やめてやめて!艦娘の反逆!ブラック鎮守府が、ブラッディ鎮守府に!」
アイアンクローを決めながら、身体の各部を確かめるように動かす。
痛くない。
まあ、こいつが叫びまくるせいで耳が痛いが。
うむ、おかしい。
何かがおかしい。
俺の身体で、無事と言える部分は左肩と右膝ぐらい。
高校2年生で『うん、君は歳を取る前に寝たきりになる……腰もそうだけど、はっきりいって、全身ボロボロだよ』などと、医者に宣言されたからな。
それでもだましだましやっていたら最後に首を壊して、野球を諦めざるを得なかった。
スポーツやってる人間にとって、治るケガは怪我とは言わない。
「お願いします!マジでやめてください!しかもガン無視とか、頭と心が痛いです!つーか、マジで頭割れる割れる!」
うん、叫べるうちは平気。
ここでニッコリと笑ってやるのが肝だ。
まず心から殺す……野球も喧嘩も同じで、結局は人と人の戦いだから。
つーか、痛みに弱すぎるだろ、こいつ。
「え、マジ?お前も日本からの転生者なの?いや、転移とか召喚か、この場合。俺死んだ覚えないし」
泣いたカラスがもう笑ったとは言うが、こいつ泣いても笑ってもうるせえ。
しかし、異世界ねえ。
しかも、ゲームの世界?
ヤンキーが異世界で現代知識を活かして内政する小説のようなもんか?
で、『艦隊これくしょん』ってなんだよ?
「お前マジで言ってんの?どんな情弱だよ……やめて、腕はそっち方向に曲がりません!」
多少の肉体的コミュニケーションを挟みつつ、お互いの情報をすりあわせる。
どうも、同一世界の日本からやってきたようなのだが、お互いが生活していた時代がずれている感じ。
俺の記憶にあるのは1995年。
こいつは、2015年。
それでなんで同一世界って判断したのかって?
『エロマンガ島』
これが一致したら、もう同一世界に間違いないだろ。
つーか、携帯電話は知ってるが、スマホってなんだよ?
ジェッターマ〇スは現れなかったようだが、20年でいろいろ進化したらしいな。
それにしても、コンピューターの進化は予想してたが、ネットワークインフラの発達やら、進歩が早すぎるように思えるぜ。
能力というか小型化まで進んでるってことは、回路作成なんかの精密作業能力というか、基礎工業力を発展させる何かがあったんだろうな。
チクショウ、12メガの増設メモリが7万もした時代だったんだぜ?
こいつ、きょとんとして『12ギガ?』とか言いやがった。
ギガのメモリーってなんだよ、チクショウ。
ハードディスクの単位はテラ?
やべえ、憎しみで人が殺せそう。
……っと、いかんな。
痛みがなく身体が動くからちょっとバイオレンス方向に意識がシフトしちまう。
考え方によっちゃ、コイツは俺よりも20以上年下ってことじゃねえか。
子供を相手するようにおおらかな気持ちで接しなきゃな。
つーか、艦これってのは知らないが、ゲームなら俺も大学時代に結構やったから、それなりに話にはついてけると思うぞ。
あれじゃねえの、お前がプレイヤーとしての提督って存在なら、俺のステータスとか見えるんじゃねえのか?
「そうだよ、俺提督!鎮守府で一番偉い人。ここ重要、すっごく重要!テストに出ます!はい、リピートアフタミー!」
なあ、りんごってのは……握力が130キロを越えると、砕けるって知ってるか?
俺、今ならイケル気がするんだが。
今なら、あの化物親父を超えられる。
「はーい、ステータスチェック……って、やっぱりバグってんじゃねえか、チキショウ!つーか、唯一表記がまともな名前の漢字も読めねえ!」
読めねえって、どんな漢字だよ?
「えーと、こんな漢字……『畝』『傍』」
紙に書いてくれた文字を見て、ちょっと納得した。
馴染みのない人間にはちょっと読みづらいのは確かだからだ。
これは『うねび』って読む。
畑の、『畝(うね)』って言葉ぐらいは聞いたことあるだろ?
関西の人間には、割とお馴染みの地名なんだがな。
ああ、地名の元は畝傍山からきてるんだっけか。
軍艦の名前になるってことは、そうなんだろうな。
「……畝傍なんて艦娘、艦これには出てこなかったはずだが……つーか、男ですぅ、娘じゃなくて男ですぅ!」
いや、待て。
ステータスの表記で俺の名前が畝傍だと?
俺の名前は……名は……思い出せねえ。
社会人やってたことも思い出せる、通ってた学校の名前も思い出せる。
両親、兄弟、友人の名前も思い出せるのに、自分の名前が出てこねえぞ。
この世界が『艦隊これくしょん』というゲームの世界で、提督であるこいつが建造したら俺が出てきたってことは、俺は軍艦で……おい、あの夢と関係あるんじゃねえだろうな。
いや待て、畝傍って……あの……。
「どしたの?すごい汗だけど?」
悪い、10秒くれ。
俺は、大きく深呼吸した。
そして、『畝傍』という軍艦の知識を思い起こす。
行方不明って……沈んだんじゃなくて、まさか異世界転移……マジか。
「10秒経過、いーち、にー、さーん……」
こいつうぜえ。
まあいい。
誰かに説明することで、俺自身も考えをまとめることができるかもしれん。
俺の兄貴が、戦艦とか好きな人でな、ガキの頃ペラペラしゃべ……説明してくれたんだ。
まあ、その受け売りってことになる。
「どーせ状況は詰んでんだから、さっさと説明!ハリー!ハリハリハリー!」
もしかすると、こいつはものすごい勇者なのか。
この、痛みに懲りない提督を少し見直しつつ、俺は語り始めた。
畝傍、確か巡洋艦だ。
日露戦争、いや、日清戦争に備えて、フランスに製造を依頼したっていうから、多分1880年代に製造された軍艦だったと思う。
そして、完成してフランスから日本にやってくる間に行方不明になった。
うろ覚えだが、東南アジアのどこかまで来てたことは記録に残ってたとか。
だから清の海軍に沈められたとか、当時はいろいろ推測されたが、証言や目撃者もなくて、まあ、途中で沈没したんだろってことに……当然乗組員とか、生存者はなし。
「はぁ?」
まあ、幻の軍艦というか、悲劇の軍艦ってことで、兄貴いわくマニアの間では有名らしい。
思ったんだが、この行方不明って、実は航海の途中で異世界に飛ばされたとかだと笑っちまうなあと。
「はぁ?何ドリーマーなこと言ってますぅ?異世界転移とか……」
俺もお前も、日本からここにやってきたんだよな?
「異世界転移とか、ゲームの世界にこんにちわとか、よくあることだよね」
二人して、変な笑みを浮かべてしまった。
残念だが、立ち直りはコイツのほうが早かった。
「はい、お前戦力。鎮守府の貴重な戦力です!決めた、一番偉い提督が決めました!ちなみにスペックは?」
おい、『艦隊これくしょん』って太平洋戦争で活躍した軍艦が戦力なんだろ?
40年以上昔に製造された軍艦が、まともに戦えると思うか?
飛行機が初めて飛んだのはわずか10秒程度だったってのに、それから10年ほどで戦争に使われる兵器になっちまうほどの開発速度だぞ?
正直、基礎スペックなんかろくに覚えちゃいないが、確か石炭で動いて、甲板上に石炭保管庫があって、これも防御のうちだとかいう設計だったはずだ。
つーか、今思ったが、それって重心バランス悪くね?
途中で沈んだの、絶対そのせいじゃねえのか?
「なあ、戦いに必要なのは、戦うという意志だと思わない?」
大事だとは思うが……つーか、『艦隊これくしょん』では、提督はどう戦うんだ?
軍艦に乗って指揮する感じか?
つーか、俺って、自分が軍艦って感じが微塵もしないんだけど?
何、いつの間にか改造されてて、膝からミサイルでも……軍艦だから砲弾でも撃てるのか?
おい、目そらすなよ。
改造……は、最初の反応からして違うな?
おい、提督はどうやって戦うんだ?
40年以上昔の軍艦を特攻させて、それを強要する提督様はどうやって戦うんだって聞いてんだよ。
言っておくが、魚雷が威力を発揮し始めたのって、レーダーが開発されてからだからな?
いや、最初に水雷艇ができて、それに対抗するために駆逐艦ができたんだったか?
なんにせよ、畝傍って軍艦には、魚雷に対する備えなんか、これっぽっちも考えられてないような気がするぞ。
ふぉぉぉぉーん!
なんだ?
「やべえ、マジ詰んだ!」
説明、5秒だ!
「鎮守府襲撃。敵が直接ここに……チクショウ、艦娘とイチャイチャする暇も、セクハラする余裕もなかった!転移直後から連続襲撃とか、どんな苦行だ!最初から艦娘の人数がそれなりにいたのはいいけど、バランスとか、燃費とかむちゃくちゃじゃねえか!」
錯乱してる場合か!
迎撃だろ、命令出せ。
俺も出る。
お前も根性見せやがれ!
「ドッグで修理中とか!まともに動けるのは2人しかいねえよ!2日で襲撃3回とか、なんだこの詰みゲー!チュートリアルを要求する!」
うるせえ!
ハッタリでもなんでも、戦うって姿勢を見せないとなめられるんだよ!
おら、行くぞ!
「行きません!提督は戦いに出ません!やめて、マジやめて!戦えないから!提督はマジで戦えないから!艦娘だけが、軍艦だけが戦力だから!」
だったら見てろ!
目を背けずに、見てろ!
最後の一瞬まで見続けろ!
それが提督ってやつの、誰かを戦わせるやつの義務だ!
言い捨てて俺は走る。
身体が軽い。
聞いた感じじゃ、これは戦争だ。
命がかかってるってのに、身体が思い通りに動くこと、痛みもなく動けることに、喜びを感じてやがる。
口元が緩んでるのが分かる。
まったく、どうかしてるぜ俺は!
前を見る、海、港。
何かが見えた。
人……は?女子高生?巫女さん?
よくわからんが、セーラー服を着た女の子と、なんとなく巫女さんを思わせる女が、そのまま海へと……どうなってやがる?
海の上を、人が歩いて……。
なら俺も、いけるのか。
根拠のない自信。
イケル。
イケ。
俺は大きく海に向かって跳躍した。
堅めの粘土を踏んだような感触。
勢いのままに俺は駆け、セーラー少女と巫女さんを追い越した。
全身が躍動する、それがたまらない。
いかん、浮かれてる場合じゃない。
こちらに向かってやってくる軍艦。
軍艦?
いや、俺生身だろ……ぶん殴るの?
痛そう……主に俺の拳が。
つーか、サイズがおかしい。
いや、俺が大きくなってるのか?
全長が俺の身長と同じぐらいに見える。
……軍艦は所詮船、ひっくり返せば沈むよな。
艦砲が俺に照準を合わせようとしているのを確認してから横に回る。
水中に手を突っ込み、横倒しに。
海面を歩けるのに、普通に水中に手が突っ込める、ご都合主義だな。
でもまあ、これで一隻……え、ちょ、なんか感触がおかしい。
船のくせに、なんで魚みたいに暴れんだよ。
とりあえず、艦底に膝蹴りを叩き込む。
動きが止まったところを完全にひっくり返した。
また暴れだしたので、艦底に蹴りを入れ、そこにまたがってから肘を落とした。
案外痛くない。
ならばと、なんどもなんども肘を落とす。
大きく痙攣するように震え、船が沈んでいく。
よし、いけそうだ。
次の敵。
軍艦の名前の知識はあるが、形状やシルエットで種類を判別できる程のマニアじゃない。
速度が速いのが駆逐艦、そう思おう。
ならば、こいつらはさっさと潰すべき。
ダッシュで駆け寄りながら、海水をすくってぶっかけてみた。
後ろに回って船尾を掴む。
ドラゴンスクリューの要領で、身体ごとひねるようにしてひっくり返す。
やはり暴れる。
なんか、機械というより生き物っぽい。
踏みつけて、水中へと沈める、沈める、沈める。
足の裏に激しい振動が襲って来るが、断末魔か、最後のあがきみたいなもんか。
体重をかけて、肘を落としてやったらそのまま沈んでいった。
動きの速いのを片付けたら、でかいのがきた。
横に回って殴る。
痛ぇ。
洒落にならん。
さっさとひっくり返……重い。
激しく暴れだす。
これは機械で俺は人だ。
ならば知恵で倒す。
テコの原理。
左手を甲板上の最高部に、右手を水中から艦底にかける。
一度左手を引きつけてから、もとに戻ろうとする反動を利用して……よっしゃあ。
やべえ、暴れ方が半端ねえ。
だったら、柔道の押さえ込みで、ガンガン膝をぶち込む。
つーか、この船の動力どうなってんだよ?
完全にひっくり返してるのに、なんでバタバタ暴れるんだっての。
スクリュー仕事してますか?
つーか、やべえ。
もたもたしてたらほかの軍艦が……痛ぇ。
え、痛いだけですむの?
怪我は……してない、な。
なめんな、俺は痛みには慣れてる。
軍艦の砲撃を受け止め、それを思いっきり叩きつけてやったら、抵抗が止んだ。
海中に沈んでいく軍艦を見て、ふと思いついた。
直接殴ったら痛いからな。
引っ張り上げて、ひと振り……よーし、良い武器だ。
つーか、この
だったら構えて、敵の攻撃を……打ち返す。
命中!
ムカつくコーチにぶつけるため、めちゃめちゃ努力したからなあ。
俺のスイングだと、アウトローを全力で引っ張ると、ピッチャーの顔面にいくんだ。
努力は人を裏切らない、いい言葉だ。
さあ、こないならこっちから行くぜ。
軍艦で軍艦をボコ殴りにしていく……かはぁ、ハイな気分だぜ!
確かに戦争ってやつは、性格変わるわ。
残りはって、逃げ出しやがった。
逃がすかよ。
相手の嫌がることをすすんでやるのが、勝負の鉄則だ。
軍艦の船尾を掴んだまま、俺は追いかけた。
身体が軽い、さっき以上に軽い。
力がどんどん湧いてくる感じだ。
叩きつけたら、少し狙いがそれて軍艦の主砲っぽいのが千切れた……それをキャッチする。
俺の肘から先ぐらいのサイズでちょうどいい。
ひっくり返して、艦底にぶっ刺す。
うわ、すげえ暴れてる。
動力とか、スクリューとかもうどうでもいい。
ちょ、ひっくり返ったままスゲエ速度で逃げ出した。
おい、軍艦だろ?船だろ?
おかしいだろ?
……って、ほかの軍艦も、さっきまでのが嘘みたいな速度で逃げ出した。
くそ、追いつけねえ。
熱が引いていくのが分かる。
なんとなくだが、戦いが終わったのがわかる。
俺は、しばらくの間戦艦が逃げていった方向を見つめてから、踵を返した。
帰ろう。
正直、まだ状況がよくわかってない。
海面から、陸に上がる。
変な感じだ。
自分が軍艦っていうのはともかく、人間じゃないのは実感できる。
お、セーラー少女が俺を見て……
なぜ逃げる。
あれ?
俺、活躍したと思ったんだけど、違ったか?
恥ずかしいとか、そういうんじゃなくて……恐怖か。
そりゃそうか。
男がガチで暴れてるのを見たら、女はドン引きするわ。
じゃれあうような喧嘩はともかく、ガチ乱闘を目撃して『格好良い』とかいうのは二次元の女だけだろ。
んじゃ、提督様は……。
おい。
なぜ建物の影からチラ見してやがる。
いろいろ聞きたいことがあるんだが。
「いや、あの、お前の……じゃなくて、あなたの悪魔超人を凌駕する鬼畜残虐ファイトっぷりに、身体の震えが止まらないんですが……つーか、俺の考えてたセクハラとかおままごとレベルだったってわかりました、はい」
言ってる意味がさっぱりわからないんだが?
「いやもう、鬼、悪魔、畝傍っていうか、鬼畜!色魔!畝傍!って感じで」
ラチがあかない。
俺が1歩進むと、3歩下がる。
おい、怒らないからちょっとこっち来いや。
「嘘だ!子供が生まれて最初に経験する嘘ワードじゃねえか!鉄板だろ!二番目は『今度の休みはどこかに遊びにいこうな』で、三番目は、『お年玉は将来のために預かっておくから』だ、チクショウ!」
「えーと、何に見えますか?」
提督が、巫女を指して聞いてくる。
美人のお嬢さん。
えーと、巫女服っぽい衣装を着てる。
黒髪が衣装の白と赤に映えて、なんというか眼福だな。
提督が促すと、巫女さんはそそくさと逃げるように立ち去った。
……なぜか、尻を手で隠しながら。
「さっきも言ったけどさ、もう一度言うわ。『艦隊これくしょん』ってゲームは、軍艦を擬人化して……ぶっちゃけ、軍艦をみんな可愛い女の子のキャラにした、男性向けの萌えゲームです」
燃え?
ああ、爆発炎上ってことか?
敵の軍艦は、海中に沈んでいったけどな。
「あんたの時代に、『萌え』って言葉なかったのかよ!つーか、話進まねえ!」
提督は頭をかきむしり、続けた。
「敵の深海……って言っても意味ないか。つまり、敵の軍艦も擬人化されてるんだよ!ちょっと化物っていうか幽霊っぽい表現はされてるけど、美形の女性キャラとしてな!」
いや……俺には軍艦っていうか、船にしか見えなかったんだが。
つーか、化物?幽霊?
「そこはどうでもいい!敵の軍艦は、綺麗なお姉ちゃんですぅ、その綺麗なお姉ちゃんに、何やった?何やらかしたよ、あんたぁ?」
……最初は、水中に手を突っ込んで艦底に手をかけてひっくり返して。
「女性!綺麗なお姉ちゃん!あんたの目にどう見えてるかはどうでもいい!重要なのは、艦娘や俺の目にどう見えるかなの!想像してみろよ、軍艦じゃなくて綺麗なお姉ちゃんだって!」
想像しろったって……
女性が海の上に立っている。
横に回り込んで、えーと足首を掴んで水中に上半身突っ込んで、暴れるのを蹴り入れて黙らせて、窒息するまで……。
ああ、あの暴れ方。
確かに、人間だとするとなんか納得できる。
でもまあ、戦争だからなあ。
命かかった状態で卑怯もなにも……。
「わかってねえ!全然わかってねえ!あんたのいう艦底っていうか、水中部分は多分、綺麗なお姉ちゃんの尻だ!」
尻?
ヨガの瞑想のポーズで海面を進んできてるってことか?
何それこわい。
「チクショウ!想像しちまった!この鬼畜!色魔!畝傍!つーか、俺の口から言ってやる!綺麗なお姉ちゃんに電気あんまとか、鬼畜過ぎだろ!最後なんか、あんた姫級に、姫級にあんなもんぶっ刺して……ドン引きだよ!萌えもエロもありゃしねえ!」
え、艦底が尻ってことは電気あんまと……おう、ぶっ刺したなあ。
ああ、うん、なんとなく理解した。
あの逃げっぷり。
うん、なんかスゲエわかるわ。
えっと、個人的には理不尽だと思うが、提督とか、艦娘?たちが、俺見て逃げるのは理解したというか、納得はできる。
いや、でもあれだ。
敵の軍艦も、綺麗なお姉ちゃんなんだろ?
そんな目にあったなら、もうここには襲ってこなくなるんじゃないか?
こりゃあ、不幸中の幸いってことで。
「というか、なんなの?マジでなんなの?畝傍って、チートなの?バグなの?ステータスは……やっぱり文字化けして読めねえ!つーか、なんか読めねえけど、ものすっげえおぞましい感じがする!読めないんじゃなくて、読まない方が良いって感じの!」
……まあ、この鎮守府?っていうのか?
女ばっかっりの世界なんだろ?
相手が男じゃないと話せないこともあるだろうし、まあ、そんな感じで頑張ろうや。
さすがにこの状況で見捨てたりはしないから。
「助かったけどさあ!冷静に考えると助けてもらったけどさあ!なんか状況は変わらずっていうか、さらに悪化したような気配がプンプンするんだよ!この先ずっと絶対に平穏なんかおとずれねえって感じるんだよおぉ!」
艦娘達が怯えるというので、俺は1人でひっそりと飯を作り、食べ、倉庫っぽい場所で毛布使って寝た。
まあ、会社のデスクの下とかに比べたら天国だこりゃ。
ふぉぉぉぉーん!
「やっぱりじゃねえか!やっぱりじゃないかよおぉぉ!めっちゃ怒ってんじゃん!『あの男出せやゴラァ!』とか、『あたしはデブじゃねえ、訂正しろ!』とか、ヤンキーみたいに凄んで叫んでんじゃん!しかも昨日の倍は引き連れてんじゃん!」
朝からうるさい男だぜ、まったく。
余裕なさすぎだろ。
来ちまったもんは仕方ねえだろうに。
「つーか、今気づいたよ!あんた艤装しろよ!生身で戦ってんじゃねえよ!」
艤装?
「なにそれ?みたいに、首かしげてるんじゃねえよ!あんたそれでも艦娘かよって、男ですぅ!男ですぅ!つーか、可愛くねえよ!野郎が首かしげても、腹立つだけだよ!」
テンション高っけえなあ。
つーか、余裕のなさからくる狂躁状態なんだろうなあ。
会社で、失踪前の同僚がこんな感じだったわ。
もう少し、コイツに優しくしてやるか……で、今度は俺のほうが余裕なくなって、誰も優しくしてくれないってパターンだよなあ。
しみじみ考えてる場合じゃないな。
よくわからんが、艤装ってのは武器の装備みたいなもんだろ。
ゲームで、軍艦が女の子ってことは、呪文とか変身ポーズでもあるのか?
「……やっぱバグってんじゃんかよ!しらねーよ、もう」
なんだか、こいつのこと哀れに思えてきたな。
まあ、なんだ……。
行ってくるわ。
なんか俺は死なないような気もするし。
俺は海に向かって走り出す。
おい、セーラーと巫女ぉ!
俺見て全力で逃げるのはやめろよ。
敵前逃亡じゃねえのか、それ。
まあいいか、綺麗なお嬢さんに戦わせるのは抵抗あるしな。
自分の名前も思い出せねえし、なんか涙が出てきたぜ。
哀しみを怒りに変えて、怒りを力を変えて、敵にぶつけるしかねえな。
俺はあらためて海に目をやった。
おお、結構いるなあ。
でもやっぱ、船にしか見えないんだよなあ。
別に、感触が柔らかいとかは全くないし。
また、『鬼!色魔!畝傍!』とか言われるのかよ。
残虐でもいい、たくましく育ってくれてありがとう、とか言ってくれよ。
綺麗なお姉ちゃんに囲まれてもみくちゃにされるってシチュエーションだけなら、男の夢っぽいんだが。
まあ、確かに相手が人間で、しかも、綺麗なお姉ちゃんときたら攻撃の手が鈍ったかもしれないか。
これは幸運ってことだろ。
さて、行くぜ。
続かない。
でも多分、このあと1日3回、綺麗なお姉ちゃんが鎮守府に襲撃にやって来るようになる。
他人を振り回して大暴れする話って、書いてて楽しい。