我が名は畝傍!艦これの世界にバグ艦男としてログイン!   作:高任斎

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もう本当におまけ話じゃないけど、例によって5つまとめて投下。

注意:後半、艦娘が死にます。
名前は明言してませんし、そのシーンは一瞬ですが、一連の流れに不快感を覚えるかもしれません、ご了承の上でお読みください。


6:嵐とともに歩む鎮守府の愛しき日々。

 おまけ21:帰ってきた畝傍。

 

 

 報告、連絡、相談。

 いわゆるホウレンソウは、社会人の基本だ。

 でも、ほうれん草って案外料理には使いづらい感じがするよな。

 一番最初に浮かぶのがおひたしで、次に浮かぶのがハムとほうれん草の卵とじ、あとはグラタンとか。

 なんか貧弱な感じがしない?

 これが芋とかになると、ずらずらずらっと、メニューの数々が頭を流れていくのに。

 まあ、俺のほうれん草料理のレパートリーが少ないだけといわれたらそれまでだが。

 

 ところで提督、なんかプルプル震えてるけど大丈夫?

 

「大本営からの『タスケテ』ってマジだったのかよ!」

 

 ん、ああ、精神的に追い詰められた連中が、各地の鎮守府に通信送りまくってたわ。

 まあ、どこも助けなんかよこさなかったけど。

 つーか、俺を借りたこの鎮守府に救援を依頼するかね、普通。

 

「人間追い詰められたら何かやるかわからないって、お前が言ってたじゃんかよ」

 

 そりゃそうだ。

 まあ、向こうではそんな感じでやってた。

 ところで提督。

 艦娘って、食事をとらなかったり、睡眠をとらなかったりしても、なんの問題もなく戦い続けたりできるのか?

 

「無茶言うなよ……ゲームのシステム的に言うと、ちゃんと『疲労』ってステータスがある。つーか、この世界で試そうとも思わねえけど」

 

 なるほど。

 ちなみに、俺は大本営で20日間、飲まず食わず、ほぼ眠らずで戦い続けたけど、戦闘力および、判断力の乱れはなかった。

 いやあ、自分が人間じゃないってはっきり自覚したよ、マジで。

 

「性能がバグすぎるだろ、それ」

 

 この身体(パーツ)さえあれば、24時間働いたうえで、10年は戦えるな。

 

「さわやかな笑みを浮かべて言うセリフじゃねえよ……日本のサラリーマンって、そこまで過酷なのかよ」

 

 

 

 ふぉぉぉぉぉん!

 

 

 おお、この警報を聞くと帰ってきたって実感が湧くなあ。

 

「チクショウ!俺もそう思っちまったよ!お帰りなさいだよ、この、鬼畜!色魔!畝傍!」

 

 提督のエールを背に浴びて、俺は海へと向かって駆け出す。

 ははは、よくも俺の畑を。

 ははははははは、覚悟しやがれ。

 

 

 畑を潰された恨みのせいか、ちょっとエキサイティング。

 逃げ遅れた軍艦の懐に潜り込み、膝のバネを十二分に活かしてアッパーカット。

 ずしゃあっと、車〇漫画のキャラみたく、軍艦が宙を舞う。

 舞い上がった軍艦が太陽を背に受けてシルエットだけの存在になり、虹のような綺麗なアーチを描いて、海面に頭から着地。

 うむ、見事な車〇落ちだ。

 

 いや待て、頭?

 

 ゴシゴシと目をこすって、もう一度見る。

 軍艦をぶん殴ったら、中から艦娘?のお姉ちゃんが出てきたでござる。

 あれえ?

 バッチリ手応えアリだったので、軍艦ならそのまま海中に沈んでいくはず。

 沖の方に目を凝らす。

 かろうじて、逃げていく軍艦の姿を視認。

 俺の目がおかしくなったわけじゃ……ない。

 つーか、このお姉ちゃん……生きてるなあ。

 それにしても、寒そうな格好だな、おい。

 

 

 

 

 

 

「提督、軍艦ぶん殴ったら、艦娘のお姉ちゃんが出てきた」

 

 秘書艦が入れてくれた紅茶を盛大に口から吹き出した。

 やべえ、気管に入ったのか、咳が止まらねえ。

 さすって。

 俺の背中を優しくさすって。

 香取姉さん、いないんですか?

 

 つーか、ドロップ艦かよ。

 すっかり忘れてたわ、そんな設定。

 チクショウ、ゲームならワクワクする場面なのに、なんだか寒気がしやがるぜ。

 いや、相手は姫級や鬼級。

 つまり、ボスクラスのレアドロップ?

 スゴイの出るんじゃね?

 スゴイの出たんじゃね?

 いやでも、所詮は鎮守府近海だしなあ。

 すべての提督が一度は通る、駆逐艦のロリハーレムだろ。

 そういや、あいつら最近は『一緒に寝てください』とか言ってこないよなあ。

 精神的に強くなったんだなあ、でも強くなるって良いことばっかりじゃないんだなあ。

 いやいや、腐っても姫級、鬼級。

 そういえば、畝傍のやつ、『お姉ちゃん』って言ったな、言ったよな?

 来るかおっぱい。

 来たかおっぱい。

 

 落ち着け、俺は提督。

 鎮守府に必要なのは、バランスのとれた戦力だ。

 バランスが取れているってことは、選択肢が広がるってことだ。

 選択肢の多さが、勝負を決めることも少なくない。

 そもそもこの鎮守府は、最初から明石と間宮がいる時点で望外の環境だってのに、戦艦に空母の艦娘までいた。

 いきなりの連続襲撃にかろうじて耐えられたのも、俺に選択肢が与えられていたからといってもいい。

 欲望に流されず、提督として考えろ。

 今この鎮守府に必要なのは……特にないというか、むしろ火力が欲しい。

 火力が強いということは、むしろおっぱい比率は高まる。

 つまり、俺の希望をそのまま反映しても何の問題もないということで。

 

 期待するな、期待したらダメだ。

 重巡なのに、胸部装甲薄いっすね、サーセン……とかいうオチが待ってるに違いないからな。

 そして、失礼発言の挙句に蹴られる俺。

 重巡なのに従順じゃなくて反抗的じゃねえか……で、お約束のワンセットだよ、チクショウ。

 

 よし、あらかじめ最悪のケースを想定してから事に臨む。

 さあ、新たな艦娘の正体やいかに。

 

 

 

 

 

 

 

 ……うわあ。

 鎮守府へようこそ、新しい艦娘さん。

 いきなり戦艦とか、引き、強すぎんだろ、畝傍。

 いや、この場合は俺?

 

 

 

 おまけ22:畝傍は港を整備する。

 

 

「何してるんだ、畝傍?」

 

 いや、鎮守府というか、港の整備。

 海底に瓦礫とか転がってて、これじゃあ、船が入ってこれないからなあ。

 そりゃ、艦娘達は水の上を歩けるからいいだろうが、普通の船を港に入れようと思ったら、ちゃんと海底を浚渫して航路や泊地を確保しないとな。

 海底に潜って、まずは航路を確保するために瓦礫や土砂を整理していく。

 この作業はもう、ある程度目処がついた。

 今は、瓦礫そのものを片付けるために、抱えて浮上、また潜る、を繰り返してる最中だ。

 土砂は真水で洗って塩気を抜けば、コンクリートの材料にも使えるしな。

 瓦礫は瓦礫で、砕けば鎮守府周辺の道路整備に使えそうだし。

 まあ、浚渫船みたいにはいかないが、この身体はやっぱり便利だよ。

 

 ……提督、正直に言え。

 意味が分かってないな?

 

「いや、えっと、船?」

 

 襲撃してくる軍艦と違って、普通の船は水面下に船底がある。

 つまり、それなりの水深がないと、底がひっかかって進めないというか、ひっかかったのが岩なんかだと、船底が裂けて沈むからな。

 船乗りが岩礁地帯を恐れるのはそのせいだ……それを避けるために、船の航路ってやつがある。

 これは港の中でもそうで、厳密に守られなきゃいけない。

 港だったら船が行き来するからな。

 岸壁に横付けするとか、向きを変えるとか、水深を確保する範囲を広く取らなきゃいけない部分……それを泊地っていうんだけどな、自然の海岸はなだらかに水深が深くなっていくことが多いけど、港の場合は岸壁からすぐに水深が必要になる。

 

「なるほど、定期的に手を入れなきゃ港が維持できないのはわかった」

 

 天然の港の条件は、いきなり水深が落ち込んでて、すぐ沖に潮の流れがあってそれに乗れることって感じだ。

 あんまり開けた場所にはならないんだよな。

 反対に、砂浜に乗り上げる船なんかは船底が平たい、平底船になったりするんだが……そのタイプは、近代において主流とは言えん。

 だから、近代では人工的な港ってやつが登場してくる。

 まあ、船の大型化が進んだからってこともあるけど。

 つーか、この世界って……物流とか、貨物船とかどうなってんだ?

 

「ああ、そこからか……とりあえず、『艦これ』の世界では、深海棲艦……えっと、お前が追い払ってる連中の総称な……が現れて、世界の海運がほぼ全滅した状態。ちなみに、通常兵器では奴らを倒すことはできません」

 

 え、この世界ヤバくね?

 

「深海棲艦の前に為すすべもなかった人類の前に、突如現れた艦娘達。彼女達だけが奴らに対抗できるってんで、各鎮守府に就任した提督が、艦娘達を指揮して、世界の海を取り戻せ……ってコンセプト」

 

 艦娘の扱いとか、色々と突っ込みたい部分はあるが、じゃあ、迎撃してるだけじゃダメなのか?

 七つの海を駆け抜けて、あの軍艦を殲滅せよって感じ?

 

「いや、俺も……この世界がどうなっているのかとか、ほとんど考えてなかった。いや、マジでどうなってるんだろうな?畝傍の言うように、ヤバイというか、既に詰んでる状況と言われても仕方ないぞ。提督としてちょっと調べてみるわ」

 

 つーか、あいつら陸の上を滑るように動いてたけど。

 海も陸も関係ないんじゃね?

 つーか、あいつらに拠点とかあるの?

 いや、今まで戦い続けてきて今更だけどさ。

 

「……一応、陸地を拠点にしてたりもする。なんというか、鎮守府というか、要塞というか、そういう拠点が擬人化されたボスキャラなんかもいて……いや、この世界ではどうなってんだろ、マジで」

 

 ああ、うん……まあ、そのあたりはこれからの課題として。

 まずはちゃんとここの鎮守府を再建しなくちゃな。

 俺も、ちゃんと畑を復活させないといけないし。

 え、鎮守府と畑を同列にするな?

 何を言ってやがる。

 食は生活の基本であり、王道だぞ。

 食を蔑ろにするやつに、未来はない……まあ、これは俺の考えで、提督には提督の視点があるよな。

 俺は、出来ることからやっていく。

 まあ、とりあえずは、海底を掃除するさ。

 提督が俺になにかさせたいというなら相談してくれ。

 

 

 

 ふぉぉぉぉぉん!

 

 

「……迎撃、お願いします」

 

 了解。

 

 

 

 おまけ23:艦娘は考える。

 

 

 畝傍さんが帰ってきました。

 嵐のような毎日が帰ってきました。

 毎日楽しいです。

 

 ……あれ?

 

 

 

 

 

 荒れ果てた畑を前に、畝傍さんが膝から崩れ落ちたときは、申し訳なさで泣きそうになりました。

 涙ぐむ私に声をかけ、畝傍さんは畑を移動しながら、時々土を手で拾って、舐めたりしてます。

 何やってるんだろうと思ったら、土が塩気にやられてないか確かめてるんだとか。

 

 ……ああ、海からやってきたあいつらが、好き勝手に走り回りましたからね。

 あいつら絶対ぶっ殺さないと。

 

 ところで畝傍さん。

 提督には、ここに帰ってきたことちゃんと報告したんですか?

 

 畝傍さんが慌てて報告に行きました。

 それだけ、この畑が大事だったってことですよね。

 ……やっぱり、あいつら殺さないと。

 でも、今の私じゃ無理。

 強くならないと。

 強くなるだけじゃなく、賢くならないと。

 

 とりあえず、畝傍さんにボコられて逃げようとしてた戦艦水鬼めがけて、遠方からですが、一撃を入れることに成功しました。

 ……ダメージはほぼなかったみたいだけど、これが私の第一歩。

 

 

 

 ひと悶着あったみたいですが、戻ってきた畝傍さんが、スコップで畑を掘り返し始めました。

 そしてまた指先で、じっくりと何かを確かめるように。

 あれ、なんか笑ってる……のかな。

 聞けば、このぐらいならなんとかなるらしいです。

 しばらくは植える作物に気を使う必要があるけど、1年もすれば元に戻るって。

 

 1年もすれば……って、気軽に言いますね。

 でも、あいつらのせいで、1年も、1年も……ふうん。

 この日から、私は訓練だけじゃなく、みなさんとの演習に参加することにしました。

 あと、畝傍さんが追い払ったあいつらへの追い撃ちがしたい。

 できればとどめを刺したい。

 というか、ぶっ殺したい。

 力が足りないなら、武器で補えばいいじゃないとアドバイスされたので、遠距離砲撃が可能な武装を無理やりどうにかできないかなあと考えてる最中です。

 あと、その反動に耐える体力作り。

 

 

 

 

 畝傍さんが手を入れ始めて、畑が蘇っていくのがわかります。

 私も似たようなことをしたはずなんだけど、一体どこが違うんだろう。

 そういえば、時々間宮さんがこの畑を眺めて、首をかしげていたっけ。

 畝傍さんも、畑の世話をしながら『なんで育つかなあ?』とか、『おかしいよなあ』などとよく呟いていました。

 一度提督に、『おかしいのは畑じゃなくて、畝傍さんだったりして』なんて冗談を言ったら、提督は笑いながら……ずうっと笑いながらどこかに行ってしまいました。

 

 ……もしかして、本当に畝傍さんがおかしいんだったりして。

 畝傍さんがおかしいのはいまさらだし、その内容がひとつやふたつ増えたところで、畝傍さんはやっぱり畝傍さんのままだと思うし。

 こう、畝傍さんから溢れる不思議パワーが、畑や農作物に不思議な影響を及ぼして、ありえない収穫へとつながってるとか。

 

 うん、牛乳飲んで体操しようっと。

 

 そういえば、畑のそばに石窯が完成しました。

 竈とは別に、です。

 なんか提督が『ピザが食べたいんだよぉぉ』などと言い出したのが原因らしいです。

 でも提督、なんか間宮さんが睨んでましたけど。

 普段からちゃんと、間宮さんに感謝の言葉とか、かけてあげてますか?

 あ、ピザは美味しかったです。

 

 でも、畝傍さんは石窯を見て別のことを考えていたみたいです。

 いつもの昼の襲撃が終わってからすぐ、大物狙い用の釣りの仕掛けを手に、沖に向かって走って行きました。

 

 夜の襲撃までに帰ってこられるのか心配だったんですが、夕方頃帰ってきました。

 大きな魚を1本、小ぶりの魚を2本ぶら下げて。

 

「狙いとは違ったけど、まあよし!」

 

 なんでしょう、ブリ……はもう少し丸かった気がしますし、色もちょっと金色っぽい。

 

「ブリだったら最高だったんだがな、それはカンパチだ。店で買う分には、ブリのほうが大きいのが多いから一般的にはブリのほうが大きい魚って思われてるけど、多分流通的な問題で、釣り人的にはカンパチのほうが大きいって認識なんだよなあ」

 

「ちなみに、ブリだったら最高ってのは単に俺の趣味の問題。カンパチ美味しいです。明確な旬がないっぽくて1年中美味しくいただけるし、寿司ネタなんかでは超便利で人気。歯ごたえあるので、刺身は他より薄めに切るのがポイントだ」

 

 エラにナイフを刺して、血抜きしながら引っ張ってきたそうです。

 サメとか大丈夫なんでしょうか。

 あ、サメの方が危ないかも。

 この人、普通にサメも食べそう。

 というか、絶対食べます、この人。

 え、いつもの姉ちゃん呼んで来いって……いいんですか?

 まあ、呼ばなくても勝手にやってくる人ですけど……わかりました。

 どうせ、2人じゃ食べきれないサイズですし。

 

 

 なぜか、もうひとりついてきてしまいました。

 最近鎮守府の仲間入りした艦娘さん。

 寡黙な感じですが、その凛々しい表情を裏切って、時々視線がお皿の方に。

 タイプは違うけど、多分この人も……たくさん食べる。

 カンパチのお刺身が、次々と二人のお腹の中に消えていきます。

 そして全部消えてしまいました。

 私は食べてませんけどね。

 いや、怒ってませんよ。

 

 

 ふぉぉぉぉん!

 

 そして夜の襲撃です。

 食べるだけ食べた二人は、立ち上がって……腹ごなしの警戒任務ですか?

 ふうん。

 

 

 帰ってきた畝傍さんは、なんだか楽しそう。

 そして、石窯の扉をちょっとだけ開けて……あ。

 

「くくく、本命はこっちだ」

 

 いわゆる兜焼き。

 サイズが大きいから、こういう石窯じゃないと入らないとか。

 ブリが最高って言ったのはそういう……。

 ブリカマにブリ大根……えへへ。

 小ぶりの魚を素早くさばきながら、畝傍さんが笑う。

 

「まあ、ブリが釣れるかどうかは運だからな……とりあえず今日は、カンパチの兜焼きで我慢してくれ」

 

 竈では、ご飯がふっくらと。

 小ぶりの魚は、きざんで叩いて、ネギと混ぜて……なめろうっぽいですね。

 あれ、そっちは……炙ってからすり身にして、焼くんですか?

 わからないけど、美味しそうです。

 

「ダミー作戦成功ってとこだな。兜焼きは見た目は豪快だが、食べる部分が多いってわけじゃないし」

 

 ああ、カンパチの刺身を二人だけに食べさせたのは……。

 そして畝傍さんが、石窯の扉を開けて、それを取り出しました。

 ほわあぁぁん、と何とも言えない香りが周囲へ広がって……。

 

 畝傍さん、フラグだったかもしれません。

 だって、こんなに美味しそうな匂い……ごまかせないですよ、きっと。

 

 

 

 おまけ24:姫様は見ていた。

 

 

 あの人に殴られた戦艦水鬼の身体が宙を舞う。

 落下しながらその身体は不思議な光に包まれて。

 

 艦娘になった、元戦艦水鬼は、あの人に抱き抱えられて。

 あの人に抱き抱えられて。

 水鬼が、艦娘に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 血を吐くまで叫び続けた。

 何だあれは!

 何が起こった!

 違う!

 ごまかすな!

 ドロドロとした原形質の感情の塊がアタシの中をうねり狂う。

 叫ぶ。

 喉をかきむしる。

 暴れた。

 何かを巻き込んだ。

 

 一体どれぐらいそんなことを繰り返していたのか。

 はっきりと感じる、アタシの中の、懐かしい想い。

 

 

 

 

 

 

 

 羨ましい、羨ましい、羨ましい、羨ましい、羨ましい、羨ましい、羨ましい、羨ましい……。

 

 

 

 

 

 

 

 アタシは覚えている。

 隠れていたアタシに、『ここに置いとくから食えよ』と言ってくれたあの人の微笑みを。

 あの暖かさを。

 心震える味わいを。

 

 アタシは覚えている。

 あの夜味わったスープの味わいを。

 あの人が使ったスプーンで。

 あの人と同じスープを。

 あの人と同じ時を過ごした。

 

 それだけじゃない。

 あの人はよく、アタシのために食事を用意してくれた。

 とっておきのって感じに、小皿に分けてそっと、微笑みながら置いておいてくれた。

 特別。

 アタシのための特別。

 

 他の艦娘はいい。

 だが、あいつだけはダメだ。

 アタシと同じあいつだけはダメだ。

 あいつだけは許せない。

 あいつはあの人の料理を食べた。

 

 アタシの特別が穢された。

 

 穢された、穢された、穢された……。

 アタシの特別が穢された。

 アタシと同じ深海棲艦に。

 お前があの人の何を知っている?

 ふざけるな。

 そこはアタシの場所だ。

 

 ああ、ダメだ。

 これ以上特別を穢される前に。

 

 深い水底に沈めてやる……。

 

 お前の居場所はそこじゃない。

 お前の居場所は、暗くて昏い水底だ。

 

 

 

 おまけ25:艦娘、鎮守府に死す。

 

 

 あの時、なぜ目が覚めてしまったのだろう。

 あの時、なぜ気になってしまったのだろう。

 あの時、なぜ……。

 

 

 

 

 草木も眠る丑三つ時に、ふと目覚めてしまった。

 数分、あるいは数秒の逡巡のあと、私は身体を起こしていた。

 眠れない。

 軽く散歩して、温かいものでも飲めばいいか。

 私は、部屋を出た。

 鎮守府内の、艦娘の寮。

 以前所属していた鎮守府から逃げ出した、未だ立場のはっきりしない私にも部屋が割り当てられている。

 ありがたい。

 そして暖かい。

 夜を歩く。

 星空を見上げる。

 あの鎮守府では考えられなかったこと。

 今の私は笑える。

 畝傍さんの言う何かが、私の中で生まれようとしているのが分かる。

 この鎮守府を守りたい。

 たぶん、そんな感じ。

 まだはっきりとした想いじゃない。

 

 それとは別に、深海棲艦の連中をぶっ殺したい。

 胸いっぱいの殺意を、あいつらにぶつけたい。

 この想いは、はっきりしている。

 星が綺麗だった。

 そして……。

 

 雨も降ってないのに、地面が濡れていた。

 

 よくあること。

 いつものこと。

 なのに、なぜか気になった。

 どこに続いているんだろう。

 

 私は歩き出す。

 そして、見た。

 

 

 この世のものとは思えないほど美しい何かを。

 

 

 その横顔に見とれた。

 闇の中に浮かび上がる存在に身体が甘く痺れた。

 艦娘がいた。

 目を見開いて、身体を震わせて。

 普段の凛々しさは見る影もない。

 

 張り詰めた空気の中、どれほどの時が流れたのか。

 突如、艦娘が艤装を展開する。

 その瞬間、艦娘は潰されていた。

 軽く腕を振っただけ。

 それとも、私には見えない何かがあったのか。

 夜風に乗って、妖しく美しい声が聞こえてきた。

 

「身の程をわきまえない()ね」

 

 そして、くるりと。

 彼女が私を見た。

 ひゅぅ、と喉から空気が漏れる。

 

 彼女の存在が恐ろしい。

 彼女の微笑みが恐ろしい。

 いつの間にか彼女の前に跪いていた私が恐ろしい。

 

「そんなに固くならないで。アナタ、いつもあの人を手伝ってくれる()よね。感謝してるわ」

 

 指先が私の顎をつまみ、顔を上げさせる。

 

「これからも、あの人のことを手伝ってあげて」

 

 そう言って、優しく頬を撫でられる。

 怖い。

 嬉しい。

 綺麗。

 死。

 光栄。

 

 優しい、優しすぎる手が私を撫でる。

 妖しい、妖しすぎる声が私を揺さぶる。

 美しい、美しすぎる微笑みが私の魂を掴む。

 

 笑っているのが分かる。

 自分が笑っているのが分かる。

 彼女は恐ろしい。

 この人の存在は危険だ。

 この人に命令されたら、従ってしまう自分がわかる。

 ようやく気づいた。

 彼女は、女王だ。

 ああ、まさしく女王そのもの。

 

 女王が、艦娘だったモノの身体を抱きあげて、心の底から楽しそうに笑う。

 

「この()の居場所は、暗くて昏い、水の底」

 

 歌うように。

 踊るように。

 女王は艦娘の身体を連れて行く。

 遠ざかっていく。

 やがて、闇に消えていく。

 私の身体と心を縛り付ける呪縛は、なかなか解けなかった。

 

 

 逃げるように部屋に戻り、布団をかぶって震え続けていた。

 耳をふさいでも、あの声が響き続ける。

 目を閉じても、あの姿がまぶたに浮かぶ。

 フラッグシップ?

 姫?

 水鬼?

 そんなものがなんだというの?

 あの女王の前では、全てがかすむ。

 恐怖が姿を変えたもの。

 威厳が姿を変えたもの。

 華麗にて荘厳。

 周囲に恐怖と理不尽を振りまく、おぞましくも美しい女王(ナニカ)

 

 

 

 あの夜何が起こったのか、提督や畝傍さんにそれを伝えられたのは二日後のことでした。




さあ、読み直して姫様を探そう。(笑)

なお、作者の経験的には、自分で釣った魚を刺身にしようとすると、結構な割合で寄生虫がこんにちはしてきます。(特にひどいのはイカ)
火を通したり、冷凍したり、身体を切断されたら死ぬタイプがほとんどですが、店で売ってるものと違って、そういうリスクがあることは覚えておいてください。
知人曰く、『よく噛んで食べましょう(笑)』
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