我が名は畝傍!艦これの世界にバグ艦男としてログイン! 作:高任斎
おまけ話を5つまとめて投下。
おまけ31:鎮守府に降る雪。
いつもの昼の襲撃を撃退してから、急激に気温が下がり始めた。
朝から曇っていた空も、少しずつ雲の厚みが増しているように思える。
もしかしたら、雪になるかもしれない。
いや、畝傍とヤンデレ女王との戦いの時に、雪が降ってたら格好いいな、とか思ったからじゃない。
あくまでも、状況から鑑みた天気予報に過ぎないから。
それにしても、この天候状況と、鎮守府の立地条件で、風がほぼ吹いていないってのも珍しいな。
吹雪の中の死闘ってのは好みが分かれそうだが、静かに落ちてくる雪の中での戦いなら……。
いや待て。
その状況ならむしろ戦いよりも……。
全てをぶつけ合い、その上で寄り添いあう2人。
音もなく降り積もる雪が、2人を包み込んでいく……。
なんなのその、素敵な婚ディション。
まさに、ベスト婚ディションじゃねえか。
その気がなくても、抱き合ってキスするわ。
ヤンデレ女王様と、バグの畝傍。
ベストカップルとして、心から祝福するぜ。
鎮守府の艦娘達総動員で、周りを取り囲んで拍手させるわ。
おめでとう、おめでとう、心からおめでとう、コングラッチュレーション!
鎮守府の中心で、思う存分愛を叫んでくれよ、獣のように。
だって、畝傍は鬼畜だもの。
つまり、けだもの。
ヤンデレは、意中の男さえそばにいて、常時愛を確認できてさえいれば平和なもんだしな。
これ、誰もが傷つかない、理想のエンディングじゃね?
しかも、そうなったらあの女王様がこの鎮守府の戦力化だよ。
え、なに、この想像するだけで世紀末覇者の香りがする鎮守府は。
ああ、でも2人を別々にする作戦とかは無理ゲーだな。
そのあたりは、ちゃんと女王様を尊重してやらないと……。
ふう……頭が幸せな現実逃避はこのぐらいにしておくか。
そういや、畝傍が拾ってきた艦娘。
ほぼヒキコモリと化してたのに、嬉しそうに泣いてたなあ。
胸の中で泣かれた艦娘のほうが困惑するぐらいに。
いやあ、あのおっぱいに抱かれて泣くとか、何それ羨ましい。
俺が泣きたくなった時にも、あのおっぱいを貸してくれないものだろうか。
まあ、自分をごまかすのが上手い奴は羨ましいよ。
死んだってわかってるはずなのにな。
良かった、死んでなかったんだ、自分の勘違いだったんだ……なんて、本気で言ってるのかどうか、後で確かめないとな。
多分、自分をごまかそうとしてるんだろうけど。
ただでさえ脱走かなんかの、後ろ暗そうな過去持ちなのに、この上にヤバイ知識なんか抱え込んだら、マジで消されかねないからな。
まあ、あの日から少し暗かった鎮守府の雰囲気が、どこか華やいだように感じるのは確かだ。
そのことは悪くない。
畝傍は畝傍で、普通に、いつもどおり。
さりげなく、女王様の標的である艦娘の周辺にいるけどな。
本当にいつもどおり。
戦闘に関してはなんの心配もしてねえ。
戦艦の艦娘を一撃で倒すのと、戦艦水鬼を一撃で倒すのを単純比較すりゃわかる。
まあ、両者ともそれが全力でないにしても、だ。
そもそも戦艦水鬼の攻撃を受けて『痛いだけ』って言ってるんだぜ。
見せられないのが残念だよ、読めないくせにおぞましさだけは漂ってくる畝傍のステータス画面を。
ちなみにこの前は、画面を開いただけでめまいがした。
今は画面を開こうとするだけで指が震える。
もうやだ。
多分俺、SAN値直葬されてる。
まあ、心配なのは本当に戦闘になるかってことと……。
畝傍のやつ、黒いことも言うし、実際にひどいこともする。
必要とあらば、お客さんとはいえ艦娘達も見殺しにする。
だけど、俺が思うにあいつ相当のお人好しだぜ。
あれだ、自分を頼ってくる人間は見捨てられないってタイプのお人好し。
ブラック企業のブラック社員には、上に無理難題を押し付けられるタイプと、周囲の人間を見捨てられないで抱え込んでいくタイプの2種類がいると思う。
あいつは、きっと後者だな。
はてさて、畝傍は切り捨てられるのかねえ。
病んでるとはいえ、自分を慕ってくれている存在を。
空を覆う雲のせいで、夕方だというのにあたりはもう真っ暗だ。
気温はずっと下がり続けている。
艦娘たちは平気そうだが、俺は寒い。
吐く息が白い。
というか、深く息を吸うと肺の中が凍えるような感じになる。
ああ、こうしてると学校のマラソン思い出すわ。
苦しくて息をしてるのに、息をすると辛いの。
やってらんねえって話だよ……畝傍に言ったら笑われそうだけどな。
はあ、もう少しで夜の襲撃の時間にだけど、今日は来ないだろ。
なんとなくそう思うだけだけど、間違いないだろうよ。
ふっと、強い風が吹いた。
一瞬だけの、風。
その風が通りすぎたあと、空から、音もなく、雪が降り始めていた。
おまけ32:艦娘が見る雪。
海を前に、焚き火を囲む。
風が強くないのはいいけど、風が全くないのはそれはそれで大変。
畝傍さんが用意してくれた薪を、焚き火に突っ込む。
あ、あ、まずい。
「空気の通り道を潰すとそうなる……間隔が狭すぎると炎が潰れ、広すぎると熱がばらけて燃え方が悪くなる」
畝傍さんが、手に持った燃えさしでちょいちょいと焚き火をいじる。
ほんのちょっとした行為。
でもそれで、ふわふわしていた感じの炎が、すっと空に向かって立ち上がった。
やがて、それが落ち着く。
「まあ、子供の頃から焚き火とか好きだったからな……田舎じゃ、普通に家でゴミとか燃やすし」
……時々、畝傍さんは私が不安になるような事を言う。
子供の頃ってなんですか?
そんな言葉を飲み込んで、私は揺れ動く炎を見つめた。
静かに降ってくる雪が、いくつか炎に焼かれて死んでいく。
焚き火による空気の流れがあるのだろう、その殆どは炎を避けるように動いて、溶けるように消えていく。
なぜか、『涙雪』という言葉が浮かびました。
聞き覚えのない言葉……ねえ、畝傍さん?
「ん?昔ばあちゃんが、手の中ですぐに溶けて流れていくような雪のことを涙雪っていうとか言ってたなあ。後で辞書で調べたら、見つからなかったから方言なのかもなあ……子供用の辞書だったからかもしれないが」
そうなんですか。
「まあ多分、淡雪って言葉が一番近いんだろうけど、淡雪よりももっと重いイメージがあるんだよなあ。地方の方言もいろいろあるしな、『水雪』って言葉もそんな感じだし、『おぼろ雪』って言葉もあったか」
ふうん。
ばあちゃんって、なんですか?
人間みたいなこと言いますね。
そんな言葉を、また私は飲み込む。
私の前で、炎が揺れる。
雪は静かに降り続ける。
しゃべっているのは、私と畝傍さんだけ。
私はちらりと、焚き火を囲むもうひとりの彼女を見た。
ねえ、あなたは何を考えているんですか?
怖くないんですか?
また、あの……
おぞましくて。
綺麗で。
大好きで。
怖くて。
私の頭に、手が置かれた。
何も言わず、彼女は私の頭を撫でる。
そんな私と彼女の前に、すっと木串に刺された何かが差し出されました。
「ほい、マシュマロがいい感じに焼けたぞ」
え、え?
マシュマロって、焼くのとかありなんですか?
困惑する私とは別に、彼女はそれをポイっと自分の口に放り込んだ。
そして、ほんの少しだけ柔らかい笑みを浮かべる。
私もそうした。
ああ、確かに笑っちゃいますね、これは。
懐かしい味がします。
初めて食べたはずなのに、懐かしいって?
畝傍さんだけじゃなく、私も変なことを言ってる。
でも、それは……嫌じゃない。
私の前で、炎が揺れる。
私の周囲に雪が降る。
わけもなく、いい夜だなと思いました。
ずっと続けばいいのになって。
雪を蹴散らすようにして、迫ってきたそれ。
彼女の頭部を撃砕しかねない速度と質量を伴った何かを、激しい衝突音とともに畝傍さんの手が受け止めていました。
突風が、私の顔を叩いていきました。
炎が激しく揺れていました。
雪が激しく舞っていました。
永遠を望んだ夜が、終わりを告げていました。
おまけ33:鎮守府は見守っていた。
焚き火を囲んでいた艦娘の2人が、攻撃されたことを認識できなかった衝撃から立ち直って、弾かれたようにその場から跳んだ。
着地と同時に、海の方に視線を向け、ジリジリと後退していく。
夜間の警戒に当たっていた艦娘達が、先の激しい音を耳にしたのか、次々と集まってくる。
既に周囲は、戦闘中の緊張感に支配されていた。
しかし、そんな中で畝傍は、焚き火の前に腰を下ろしたまま……受け止めた金属の塊を、手のひらで撫でるようにして確かめていた。
「畝傍さん、来ます」
言わずもがなの言葉に、畝傍はちょっと頷いてから立ち上がった。
そして2人の艦娘を、現状よりもさらに下がらせる。
同時に、集まってきた艦娘達にも、少し離れているように指示を出し、提督の身を守るように念を押した。
そうしてようやく、畝傍は海に視線を向けた。
明かりのない夜の海は真っ暗な闇に等しい。
その闇の中から。
彼女が現れた。
闇色を思わせるロングドレスに、幽鬼じみた白い肌が眩しく映る。
その頭には、妖しく光るコサージュ。
それはどこか王冠をイメージさせて……大本営が『女王級』と命名した理由の一端がうかがえた。
腰まで届きそうな黒髪は、そのロングドレスと一体化したようで、現実感に乏しい。
まるで闇の中に溶け込みそうな儚さと、妖しさが同居している。
白い肌の中の、切れ長で涼やかな紅い瞳は、見る者の目に、心に、とても印象深いモノを残す。
その、冷たく冴えた美貌の持ち主である彼女が、畝傍を見る。
周囲の艦娘達すべてが、その鮮やかな変化に目を奪われた。
『綺麗……』と呟いたのは、おそらく無意識だろう。
微かに頬を紅潮させているものまでいる。
この場において、彼女を直接目にするのは、2人の例外を除いてみな初めてだ。
その、例外である艦娘の1人は震えていた。
反射的に耳をふさいでいた。
「愛しいアナタ、どうして邪魔をするの?」
その歌うような声を聞き、かくんと腰が抜けたように座り込んだ艦娘がいた。
困惑した表情。
混乱した表情。
彼女たちの中で何が起こっているのか、耳をふさいだ彼女は理解していた。
そして、どうしようもないことも、また。
女王がかすかに眉根を寄せるのを見て、艦娘達もまた気ぜわしげな思いにとらわれる。
女王が、子供のように笑ってポンと手を叩くと、艦娘達の気が晴れた。
「そうね、アナタの近くで潰したら、血で汚れちゃうし、臭いもうつってしまうもの」
女王が笑う。
全てをひれ伏せさせるような威厳をたたえて。
女王が微笑む。
恋する乙女の可憐さとともに。
「ごめんなさい。アナタのいない、暗い、昏い、水底に沈めてくるわ」
女王の手が伸ばされた。
耳をふさいでいたはずの艦娘が、背中にかばっていたはずの艦娘の腕を掴み、背中を押すようにして女王の方へと連れて行く。
彼女は、笑いながら泣いていた。
額にびっしりと汗をかきながら、それでも女王に生贄を差し出そうとする動きは止まらなかった。
生贄にされそうになっている艦娘は、彼女を心配そうに見つめながら、自らの足で女王に向かって歩いていく。
周囲でそれを見ている艦娘達も、それを止めようとはしない。
ただ、その顔には混乱や苦痛が浮かんでいた。
そんな中で、『え、こいつら何してんの?』という感じで、艦娘達に視線を向ける提督の態度は異様だった。
女王に捧げられるはずの生贄。
その身体を、畝傍が片手で抱いた。
そして、もう一方の手で、生贄を差し出そうとしていた艦娘の頭を軽くチョップする。
夢から覚めたような表情で、彼女は畝傍を見た。
腕に抱いた生贄の艦娘を、再び彼女にあずける畝傍。
「……ナニ、してるの?」
何かが壊れそうな囁き。
それを耳にした艦娘の幾人かは、胸が張り裂けそうな痛みを覚えて、自覚のないまま涙を流した。
女王は紅い瞳を大きく見開いて、畝傍を見ていた。
畝傍だけを見ていた。
畝傍の中の、全てを見通すかのように、じっと見つめた。
首をかしげる。
身体が、揺れる。
「ァ、ァァ、ァァアアアアアアアアッ!!」
聞く者の心を震わせる絶叫とともに、女王の左右に二対の砲が現れた。
2人の艦娘に向かって放たれる金属の塊。
連続する鈍い打撃音はほぼ同時。
両腕を広げた畝傍の手に、それらは受け止められていた。
瞬間、女王の動きが止まる。
周辺の全てが止まる。
女王の瞳が、畝傍を見る。
女王の瞳が、艦娘を射る。
そしてまた、畝傍を見た。
「キャアアアアアアアアァァァ!!」
悲しみと絶望に満ちた女王の叫びが、闇を切り裂く。
風もないのに、女王と畝傍の周辺だけ、雪が舞い踊っていた。
再び放たれた砲撃を、畝傍が金属の塊で海に向かって弾く。
弾く方向を選んでいるあたり、畝傍のそれには余裕が感じられる。
それはつまり……。
「畝傍ぃぃぃ!」
提督が叫んだ。
「らしくないことやってんじゃねえ!この、鬼畜!色魔!畝傍!」
女王の左右に位置する二対の砲。
それとは別に、闇の中から砲が出現する……。
タイミングをずらしたそれは、畝傍の頬へと叩き込まれた。
おまけ34:畝傍が見る雪。
闇の中から現れた軍艦。
いや、周囲の反応とか『綺麗……』とかいう呟きから想像は出来るんだけどよぉ。
あんまりじゃねえか?
提督も言ってたが、笑っちまったよ。
しかもこれ、俺に向かって話しかけてるんだろ?
何にも聞こえませんし、なんもわかりません。
情緒もへったくれもないが、どうすりゃいいのかね、これ。
艦娘の姉ちゃん嬢ちゃんたちが見とれるような美人で、頭がおかしくなるぐらい俺に執着してて。
さすがに俺でも、攻撃するのためらうわ。
軍艦にしか見えないけどな!
軍艦にしか見えないんだけどな!
とはいえ、やばい状況だな。
女王級って、艦娘達を否応なしに従わせるオーラでも放ってるのか?
と、攻撃も重い。
確かにこれは、桁が違うか。
「畝傍ぃぃぃ!」
提督?
僅かに、意識をそちらに飛ばした。
「らしくないことやってんじゃねえ!この、鬼畜!色魔!畝傍!」
そりゃねえだろ……って、やべ。
重くて鈍い何かが、顔面に叩きつけられた。
……っと、目、覚めたわ。
殴られたら殴り返すしかねえよ、そりゃ。
微かに血の味がする。
衝撃で口の中でも切れたか。
おう、考えてみれば、この世界に来て初めての怪我だよ。
戦い続ける毎日だってのに。
軍艦に向き直り、俺は拳に力を込めた。
踏み込む。
一瞬だけ、軍艦から生まれた艦娘の姉ちゃんのことを考えた。
右手の装備は、白のオープングローブ。
白は浄化のイメージか。
願わくば。
俺は祈りを込めて、その拳を天に向かって突き上げた。
軍艦が宙を舞う。
夜の闇に放物線を描き、そのまま……軍艦のまま、地面へと落下した。
そりゃそうだな。
世界ってやつは、それほど優しく出来てない。
ピクリとも動かない軍艦めがけて、俺は、何かを振り払うように拳を振り上げ。
そのまま左の拳を叩きつけた。
白とか浄化とか、そんな都合の良いことなんかねえよ。
バラバラに壊れた軍艦が消えていく。
まるで悪い夢だったかのように。
幻だったかのように。
後には、何も残らなかった。
気が付けば、雪は降り止んでいた。
辺りを微かに白く染めていたはずの雪化粧も、あとも残さず綺麗に消えていた。
ふと、空を見上げる。
真っ黒な空から、落ちるのを忘れていたかのように、先に消えてしまった仲間の後を追うように、雪がひとひら落ちてくる。
それを救うように、両手で受け止めた。
手の中で、幻のように消えていく淡雪。
その中に、微笑む女を見たような気がした。
おまけ35:鎮守府の愛しき日々。
最低だな、お前。
「いきなり何を?」
結局、軍艦にしか見えなかったのかよ!
俺も最初はなんだかなあって思ってたけどさあ。
美人だったわ!
めっちゃ美人だったわ!
リアルだろうが二次元だろうが、嫁に欲しいレベルの美人だったよ!
チキショウ、やっぱりヤンデレは見た目も中身もパーフェクトのキャラなんだよ!
欠点はヤンデレのみ!
はっきりわかんだね!
もう、お前に殴られる瞬間の表情とか、思わずもらい泣きしそうになったわ!
とどめの一撃とか、微笑みながらお前の拳を受け入れたんだ。
ヤンデレのくせに、最後であれは反則だろ!
それが、お前の目に見えてたのは軍艦かよ!
台無しだよチキショウ!
ふぉぉぉぉぉん!
いつもの警報に、苦笑いを浮かべた畝傍が執務室を出て行った。
いやもう、本当になんなんだか。
フルオーケストラの行進曲にあわせて、もったいないお化けを10万人の大規模で大行進させたくなるわ。
はあ……。
夜でもないし、迎撃の様子を見守る気にもなれねえ。
しかし、美人ってのはあれだな。
好みに合うとか合わないとか言ってる時点で、本物じゃねえわ。
個人の好みとか、性別とかを超えたところにあるのが美人って存在なんだよ。
あの女王様が街を歩きゃ、老若男女に関係なく見とれるわ。
そういう意味では、畝傍の目に軍艦としてしか映らなかったのは幸運だったのかもしれねえなあ。
いや、畝傍なら平気でぶん殴りそうだ。
それはそれ、これはこれって。
つーかなあ、あの夜。
あれって、完全に、最終回ムーブだったじゃん。
画面の中で俺らの姿が遠くなっていって、エンディングテーマとともにスタッフロールが流れてもいいぐらいだったじゃん。
それがさあ、今日も相変わらず鎮守府は襲撃されるわけだよ。
ひと仕事終えた感が半端ねえのに、状況は変わんねえってどういうことだよ。
まあ、ヤンデレ女王の脅威が解消されたってだけでもでかいんだけど、鎮守府として、提督としては、遠征ならともかく、防衛は評価されない項目だよなあ。
はあ、大本営にも、いろいろぼかしはしたが、女王級撃破の報告書は送ったしなあ。
なんか、気が抜けちまったな。
いや、マジでどうやったら鎮守府への襲撃をかいくぐって艦娘達を遠征させられるのかとか、考えなきゃいけないんだろうけど。
そういや、この世界のことも色々探りを入れていかなきゃなんねえ。
課題は山積みってか。
仮に世界を救ったとしても、日々は続いていくってやつだな。
つまり、世界の危機なんかより、日常ものが最強ってことじゃね?
そうだよな、日常ものだったら、あのヤンデレ女王様も精々畝傍のストーキング程度にとどまって、間違いなくレギュラー確定のいいキャラだったはずだよ。
畝傍を相手に、暴れるぐらいなら可愛いもんだったのになあ。
どーせ、畝傍は死なねえだろうし。
ヤンデレこじらせて、艦娘ぶっ殺すとかないだろ。
ホント、暴れるぐらいにしておけよって……それなら、殺さずに済んだんだ。
「おーい、提督」
なんだ、もう終わったのかよ?
ドアを開けて、畝傍が執務室に入ってくる。
幼女を連れて。
おまわりさん、じゃなくて、憲兵さん、こいつです!
「なんか拾った」
慌てるとか、説明するとかしろよ!
……って、白い!
この幼女、なんか白い!
え、髪の毛まで……いや、薄く色素があるのか。
これって、アルビノってやつか?
いやいや、漫画やアニメじゃあるまいし、リアルのアルビノはこんなんじゃ……。
「あー、気がついたら海岸だったらしくて、記憶もあやふやなんだと。名前も覚えてないって言うし、とりあえず、全体的に白いから、淡雪って名付けてみた」
「素敵な名前をつけてくれてありがとう、畝傍さん」
幼女がニコッと微笑んで言う。
待って、俺はロリじゃない!
ロリじゃないんだ!
ときめいたりしてないから。
そもそもロリという概念はどこからどこまでを指すのか?
その定義がなされない限り、俺はロリじゃないと胸を張って言える……良し!
だいたい、欧米人に言わせりゃ、日本の女子高生はロリのカテゴリーらしいからな。
子供を見て可愛いなあと思う気持ち、それはごく当たり前の感情。
つまり、ロリはみんなの心の中にあるんだ。
いやでもこの幼女、幼女のくせに……可愛いというより美人というか。
明らかに幼女を逸脱した雰囲気を持ってねえか。
幼女が俺を見る。
あれ、なんか寒気が……。
幼女が机を回り込んで俺の近くに……股間にパンチ。
「どうした、淡雪?」
「お兄ちゃんに挨拶しようと思ったら、つまずいて、お腹に頭をぶつけちゃった。ごめんなさい」
幼女は頭を下げつつ、苦悶する俺の耳元で、底冷えするような口調で囁く。
「……私の、身も心も魂までも、全て畝傍のものだ。殺すぞ」
やっべ。
こいつ、ロリはロリでも、邪悪なロリ!
いわゆる、邪ロリ。
逃げて、畝傍!
超逃げて!
つーか、女王だろ!
お前、ヤンデレ女王だな!
21世紀のジャパニメーションで鍛えられた俺を舐めるなよ!
くそ、股間の痛みで声なんて出ねえよ!
「痛いの?お兄ちゃん、ごめんね」
お腹をさするふりをして、幼女が追撃をかけてきた、股間に。
かろうじて致命傷は避けたが、幼女は恐ろしい。
しかし、同時に幼女は他愛ない。
男の急所は、バットではなくボールだ。
そんなことも知らないとは、所詮は幼女よ。
処女をこじらせた女王様(笑)だから、仕方ないね。
あ、やめて。
蹴るのはやめて。
角度的に、下からはヤバイ。
ちょ、おま、俺の心の声でも聞いてんのか!?
「提督、まあ、見た目は子供のやることだからある程度は大目に見ろよ」
つーか、畝傍!
お前、本来はもっと鋭いじゃん!
いつから、鈍感難聴系主人公に鞍替えしたんだよ!
いや、こいつ最初から鈍感難聴系キャラだったわ!
あのラストシーンで、軍艦だぜ!
しかも、声すら聞こえないって難聴にも程があるわ!
待って。
今お前、『見た目は』って言ったよな?言ったよね?
気づいてんじゃねえか!
全部わかってんじゃねえか!
ロリか、ロリなのか!
やべえ、邪ロリはすべてを滅ぼすぞ!
見ろよ!
迂闊なキャラならここで畝傍の背後で舌でも出して笑うぐらいの可愛げがあるのに、あの邪ロリ、殊勝なツラして頭下げてやがる。
これ、何を言っても俺だけが悪者にされるムーブだ。
つーか、股間の痛みに耐えてる姿勢って、すっげえ惨めだよね……。
いや、クリティカルじゃなかったから色々考える余裕があるんだけどさ。
神はなんで、男にこんな弱点を与えたのかねえ……。
こ、この邪ロリ、俺の腰を小さな手でトントンしてくる。
俺にだけ見えるように、口元にすっげえ邪悪な笑みを浮かべながら。
でもこのシーン、傍から見るとものすごい微笑ましく出来上がってるんだろ?
全部計算づくってやつだよな、チクショウ!
……ああ、チクショウ。
これからもドタバタした日々が続いていくんだな。
そんな日々を悪くないと思ってる俺がいる。
思ってねえけどな!
そうやって自分をごまかさないと、やってられねえってんだよ。
現代日本人の必須スキルだ、覚えとけ!
幼女に腰をトントンされつつ、鈍くなっていく股間の痛みになおも耐えながら、俺はこれからも続いていく日々を覚悟した。
話の展開に、それぞれ好み、異論はあるでしょうが、一応の一区切りです。
続きに関しては、書き手が『もうちょっと書きたいな』ぐらいで終わるのが、読者としては一番美しい形ではないかと。
つまり、『もっとガッツリ書きたい』と思った時が……。
どちらにせよ、小説形式も含めて色々と時間が必要です、ご理解を。
艦これを知らない人にも楽しめるようにと、少し緩い設定で仕上げてみましたが、逆に中途半端な内容になってしまったかもしれません。
え、ハンカチはディスプレイに向かって投げつけるものですよ?
それにしてもあの1話……ふう、入院中も思いましたが、何考えてたんだ、あの時の私。
何はともあれ、みなさまに楽しんでいただけなら幸いです。
ありがとうございました。
また、機会があればお会いしましょう……具体的には、本日深夜ぐらいに。(爆弾)