AM4:00 ジオン山岳地帯補給物資保管場
「ふあ…、眠いぜ。全く見張なんて要らないだろうに」
「確かに。こんな辺鄙な場所に来る連邦が居るかよ」
「まあな。精々来たとしても航空機ぐらいだしな」
だが、ジオン兵達は平気だった。何故なら対空兵器は万全だったのだ。更に対空の要となっているモビルスーツが有ったのだ。
「ダメ元で現地改修したら結構良い感じになったしな」
其処には情報に無い機体が鎮座していた。
MS-06Vザクタンク。現地改修が多い機体の為、様々なパターンが存在する。そして、この山岳地帯補給物資保管場に有るザクタンクもその一つである。腕部を全て廃止して40㎜対空砲4門とシールドを搭載。更にグフカスタムに使用する75㎜ガトリング砲を右肩部に1門搭載している。左肩部にはザクのモノアイとレーダーを搭載しており対空能力及び索跡能力向上に成功した。又3連装ミサイルを2つシールドに装着していた。そして機動力が低い事を想定してグフのシールドを前面に装着。更に各部に追加装甲を取り付けている。
「へっ、連邦共がここに来たら後悔させてやるぜ」
旧ザク2機、ザクキャノン2機、現地改修ザクタンク1機、そして多数のトーチカ。この補給物資保管場に来る連邦軍をお出迎えする準備は完璧だった。
……
同時刻、山岳地帯麓より約3km。
俺達ラングリッジ小隊は最後の作戦会議をしている。
『ルイス伍長、敵の動きはどう?』
『依然沈黙しています。またミノフスキー粒子も他の地域より濃い様です』
『成る程ね。ならそろそろ行くわよ。ミノフスキー粒子が有るとは言え、これから先はバレる可能性が高くなるわ。先ずは敵モビルスーツを最優先で破壊よ』
「了解」
『ガルム3も準備は良い?モビルスーツが無理なら補給物資を砲撃して頂戴』
『任せ給え。僕の射撃の腕前をジオン共に見せ付けてやるさ』
各員の戦闘準備が整う。
『それじゃあ、戦闘開始!』
『『「了解」』』
俺とレイナ少尉は敵補給物資保管場に向かう。最初に攻撃を仕掛ける場所は山の麓に有る保管場だ。
『前方12時方向にある保管場には旧ザクが1機居ます。お気を付けて』
「分かりました。先ずは其奴からか」
ジムを加速させる。そして敵の保管場所からサイレンが鳴り響く。それと同時に照明弾も打ち上げられる。
「見えた。前方に旧ザク。更に奥の方から旧ザクが麓から降りて来る」
『ならこれでも食らいなさい!』
レイナ少尉はハイパーバズーカを撃つ。しかし距離が有った為、旧ザクには当たらず。更にトーチカから砲撃が来る。
「うへぇ。正確な射撃だ。シールドが無かったらキツイいな」
『全くよ。ルイス伍長、支援砲撃要請。ポイント座標送ったわ』
『了解しました。直ぐに砲撃開始します』
俺はそのまま山岳地帯を利用して敵からの射線を少なくする。まるで歩兵戦闘だな。
「モビルスーツ自体人型だから有ってるのか?うわ!?だから狙いが正確なんだよ!畜生!」
敵の攻撃をハイパーバズーカでお返しする。しかし旧ザクには当たら無い。そして遂にガルム3からの砲撃が来る。砲撃は敵のトーチカを次々と破壊して行く。更に物資保管場も巻き込み破壊する。
「これで残り保管場所は二箇所か。その前に前方の旧ザクだな。ガルム2からガルム1へ。今から前に出ます。生き残ってるトーチカにハイパーバズーカでお願いします」
『分かったわ。だけど無茶はし無いで』
「了解です。では、行きます」
俺はシールドを構えながらブースターを吹かす。旧ザクの前をブースターを使いながら移動する。すると生き残ってるトーチカからも砲撃が来る。
「先ずは其処だ!」
旧ザクのザクマシンガンからの攻撃をシールドで防ぎながら、ハイパーバズーカでトーチカを一つ吹き飛ばす。もう一つはレイナ少尉が破壊した。
「そもそも、お前らが麓から降りてきた時点で駄目なんだよな」
待ち伏せをし続ければよかった物を。恐らく連邦のモビルスーツを破壊して戦果が欲しかった口だろう。俺は旧ザクを狙い付けてハイパーバズーカを撃つ。そして腹部に直撃させる。旧ザクは一瞬止まり爆散した。
『ほらほら、こっちも居るわよ!』
レイナ少尉も90㎜マシンガンで旧ザクを倒す。
「残り二箇所ですね。これから先が大変だよな」
『そうね。ガルム1からガルム3へ。次の砲撃要請があるから準備はしておいてね』
『了解したよ。任せてくれ給え』
更に前進して次の補給物資保管場に行く。しかしザクキャノン2機とトーチカ群が待ち構えてる。そして砲撃が多数飛来して来る。
「畜生…あんなにバカスカ撃ちやがって。ポイント座標送ります。支援砲撃を!」
『了解しました』
量産型ガンタンクの砲撃がトーチカ群に対して猛威を振るう。しかし、其処には奴がいたのだ。
『砲撃ポイントの逆算に成功。ザクキャノン隊、反撃開始』
『『了解』』
ザクキャノンが在らぬ方向へ砲撃をする。
『不味いわ!ルイス!アーヴィント逃げて!』
『え?何できゃっ!?』
ルイス伍長との通信が切れる。まさか、彼奴ら量産型ガンタンクの砲撃から予測したのか!
『ルイス伍長!アーヴィント少尉!返事をしなさい!』
レイナ少尉が通信を試みる。だが目の前に突然ザクタンクが現れる。不味い!
「ガルム1!レイナ少尉逃げろ!」
それと同時にザクタンクの肩部の75㎜ガトリング砲が火を噴く。
『え?っ!?』
レイナ少尉は咄嗟にシールドを構えるがガトリングの75㎜弾の雨が降り注ぐ。レイナ少尉のジムの脚部と右腕が被弾損傷。更に山岳に居たので滑り落ちる。
「追撃何ぞさせるかよ!」
即座にジムのリミッターを解除して、シールドを構えてレイナ少尉のジムの前に行く。そしてハイパーバズーカを乱射する。兎に角ハイパーバズーカの爆発で少しでも目眩しになれば良い。
「ガルム1動けますか!敵は俺が引き付けますから!」
『くっ…ちょっと厳しいかな。さっきの衝撃でバックパックも壊れたみたい』
レイナ少尉のジムは行動不能。ルイス伍長達との通信も出来無い。考えろ…2秒だ。チェイス教官が言ってた。全てを2秒で決めろと。
「 ……ガルム2からガルム1へ。先に謝ります」
俺はレイナ少尉の返事を待たずにジムを蹴り落とす。兎に角敵の射線から隠せれば良い。レイナ少尉から悲鳴と文句が来るが平気そうで何よりだった。
「行くぞ!先ずはザクキャノンからだ!」
ハイパーバズーカを放棄してビームスプレーガンを構える。そしてバックパックのブースターを全開で吹かす。そのままザクキャノン2機に接近する。
『馬鹿か!態々空中に跳んでくるとはな!』
『鴨撃ちにしかならねえよ!』
ザクキャノン2機からの攻撃が来る。その瞬間シールドを手放しジムをブースターを使い右に傾ける。そして、再度一気にブースターを全開にする。
途轍もないGが身体に掛かる。だが、視界を失う事は無い。狙いをしっかり付けてトリガーのスイッチを押す。ビームはザクキャノンのコクピットに直撃する。そして次の瞬間爆散する。
『ジャクソン!野郎、やりやがったッ!?』
仲間が死んだ事に一瞬目を離した隙にザクキャノンに向かってブースターを全開にして接近。そしてビームサーベルを抜く。
「貰ったああああ!!!」
ザクキャノンから砲撃が来る。だが砲弾は左側を通り過ぎる。俺はそのままビームサーベルを振り下ろす。
ザクキャノンの左肩部からコクピットに掛けて斬りつけた。そしてザクキャノンは暫く棒立ちになりゆっくりと後ろに倒れる。
「後、1機は何処だ!」
目視で探そうとする。しかし次の瞬間、衝撃と共に左腕が被弾する。俺は急いでジムを山影に隠れさせる。如何やら待ち構えていたようだな。
『やってくれたな連邦め!生きて帰れると思うなよ!』
『今度はちゃんと当てろよ?仲間の仇だ。生かして返すなよ!』
ザクタンクから75㎜ガトリング砲と40㎜対空砲の攻撃が来る。ビームスプレーガンで反撃を試みるが前面に装着してるシールドに防がれる。
(ジリ貧だな。敵の歩兵が来る可能性が有るし。それに弾切れを狙うのは厳しいかな)
左腕は被弾した際に動か無くなった。ビームスプレーガンで応戦するが、ザクタンクは戦車ならではの横移動で避ける。然も脚部が全長の高さが低い為、直ぐに岩陰に隠れてしまう。
「くそ、ジェネレーターもこれ以上の負荷はダメか」
ジェネレーターや周辺機器に警告が出ていた。然もバックパックもオーバーヒート気味に成っていた。やはりリミッター解除と無理な機動がジムにダメージを与えていた。しかし、敵はこっちの事情何ぞ知った事がと言わんばかりにミサイルを撃って来る。
『おらおら!さっきまでの威勢は何処に行った?』
『所詮連邦がモビルスーツを使う事が生意気何だよ!』
(さっきから遠慮無く撃ちやがって。早く弾切れになってしまえ!コンチクショー!)
内心この状況に愚痴るしか無い。そんな時、ルイス伍長から通信が来る。
『ガルム2……えますか?…2!応答……います!』
「此方ガルム2!ルイス伍長無事でしたか!うわっ!?畜生!此れでも喰らえ!」
ビームスプレーガンで反撃するがエネルギーゲインから警告が鳴る。如何やら無駄撃ちし過ぎた様だ。
『此方は無事です。ガルム3からの支援砲撃も可能です!』
「本当か!今、座標ポイントを送ります!」
急いでルイス伍長に座標ポイントを送る。此方もザクタンクを足止めする為に60㎜バルカンを撃つ。
『そんな攻撃が効くかよ』
『そろそろ仕留めるぞ。奴はもう死に体だ』
ザクタンクがゆっくり近付く。だが、少し来るのが遅かったな。砲弾が来る独特の音が響き渡る。そして、ザクタンク周辺に着弾。
『ぐわっ!?まだ生きてたのか!』
『このままだと不味いぞ!急いで後退を!?』
ザクタンクが砲撃から逃げようとする。だが、逃してたまるか!
ビームサーベルを抜き、再度ブースターを全開にして敵に接近する。だが、回避するだけの余裕は無い。ザクタンクも馬鹿では無い。此方に照準を向ける。俺はビームサーベルを投げる。そして60㎜バルカンでビームサーベルを撃つ。
ビームサーベルに60㎜弾が当たる。それと同時にビームサーベルからエネルギーが放出される。
『一体何だよ!』『こ、これは!?』
よく聞く言葉だ。戦場での一瞬の隙は命取りになる。ザクタンクが止まった瞬間にビームスプレーガンを構える。それと同時にザクタンクの横にジムを移動させていた。
「終わりだ」
至近距離からビームスプレーガンでザクタンクの3連装ミサイルを撃ち抜く。そして爆発してザクタンクが横転する。するとザクタンクからパイロット2人が脱出して逃げようとする。
《其処のジオン兵に告ぐ。直ちに降伏しっ!?》
別の所から対MSロケット弾が飛んで来た。やはり歩兵が居たか!60㎜バルカンで反撃をするが弾切れになる。ビームスプレーガンも撃てそうに無い。
「……これ以上は無理か。ガルム1、これ以上の戦闘は困難です。自分のジムも各部に警告が出てます。一旦後退しましょう」
『そうね。私のジムも駄目みたいだし。前線基地まで後退するわ』
「ルイス伍長、聞いての通りこれ以上の戦闘は困難です。ガルム1を連れて撤退します。残りの補給場所に砲撃と撤収準備をお願いします」
『了解しました。敵モビルスーツ隊は如何なりましたか?撤退の支援砲撃は必要なら直ぐに砲撃出来ます』
「敵モビルスーツは全て撃破完了です。補給場所の破壊を最優先で」
『了解しました。此れより敵補給場所に面制圧砲撃を行います。その間に撤退して下さい。我々も撤収準備に入ります』
「了解。ガルム2撤退します。ガルム1行きますよ」
砲撃に巻き込まれる前に急いで撤退する。
『ええ、了解よ。シュウには助けられっぱなしね』
「そんな事無いですよ。機体動かせますか?」
『手を貸してくれれば大丈夫かな?』
レイナ少尉のジムに近付き手を貸す。脚部もやられてるから肩も貸す。
「兎に角この場所は危険です。何時敵の増援が来るか分かりません」
『そうね。なら急ぎましょう』
ガルム3の量産型ガンタンクから砲撃が開始される。轟音が鳴り響く中、俺達は撤退して行くのだった。