「お?ウチの期待のエース様のご登場だ」
「遅いわよ。良い女を待たせるのはダメよ?」
MS訓練用シミュレーター室に行くとレイナ中尉、アーク上等兵が待っていた。他のシミュレーターの操縦席にも何人かが訓練していた。
「俺はエースじゃ無いよ。それと待たせてすいません。じゃあ早速宇宙戦での訓練をやりましょう」
アーク上等兵を新しく仲間に加えた結果、小隊行動の見直しをする事になった。先ずアーク上等兵のモビルスーツはRGM-79ジムだ。今迄量産型ガンタンクを起点にしてたが、これからは小隊として行動が可能になった。つまり俺とレイナ中尉と常に行動する事になる。
レイナ中尉とアーク上等兵は宇宙での実戦は無い。その為宇宙での戦いを改めて覚えて貰う必要がある。其処で今回は俺が二人に教える立場になる事になった。
「状況はミノフスキー粒子が展開されてる宙域で敵の戦闘機ガトル20機の襲撃。勝利条件は敵の全滅。此方はサラミス級が母艦になりますから、撃沈されたら此方の負けです。サラミス級も砲撃はして貰う設定です。今回はシミュレーターとは言え久々の宇宙戦になるから気を引き締めましょう」
『了解。なら早速やりますか』
『私の宇宙での腕前を披露する時が来たわね!』
二人共気合充分な様だ。俺もシミュレーターに乗り込みシステムを起動させる。その際自分の今迄の戦闘データの入ったカードを挿す。このカードによってシミュレーター内でも自分が今迄培って来た戦闘データを反映してくれる。つまり自分の実機に近い状態でやれる訳だ。
そして画面が宇宙空間に変わる。後方にはレイナ中尉とアーク上等兵のジム。そしてサラミス級が待機している。カウントダウンが開始される。
「アークは宇宙での戦闘訓練はやってるよな?レイナ中尉は俺と同じくらいやってたし」
『一応な。だけど基本はモビルスーツの動かし方を重点的にやってたけどな』
「まあ、宇宙での戦闘は最終的には慣れるしか無いからな。ただ、慣れすぎると警戒が疎かになるけど」
『中々難しいわよね。特にレーダーが効かない宙域は常に気を張らないと危険だし』
そしてシミュレーター訓練が開始する。お互いに周辺警戒しながら前に進む。すると前方でレーダーに反応が有る。それと同時にサラミス級から砲撃が開始される。
「さて、周辺に警戒しながら防御体制」
『な、中々難しいな。こう上手く止まれ無い』
「余り吹かし過ぎるな。推進剤の無駄になる。無理と判断したら俺の後方に行けばいい」
『私は出来たわ。そろそろ来るわね』
サラミス級の砲撃とミサイルを掻い潜りながら接近してくる5機のガトル。
『何だよ、たったの5機か。なら直ぐに仕留めるぜ』
アークがブーストを使いガトルに接近する。だが迂闊過ぎる。
「待てアーク。まだ敵が全部居るか分からない。そんな中突っ込むのは危険だ」
『お、そうだな。なら索敵を…あ、サラミスの下に敵機だ!』
アークの言う通りガトル5機がサラミスの下方より接近。サラミスも対空弾幕を展開する。
「サラミスを軸に対処しよう。ジムにはシールドがある。多少の被弾は何とかなるさ」
俺達はお互いの位置を確認しつつガトルを迎撃する。サラミスの対空弾幕も有り直ぐに終わった。
「アーク、どうだったか?」
『中々難しいな。特にレーダーが効かないから敵が何処にいるか見当が付かない』
「その為の周辺警戒さ。俺はルウムでの戦いで有視戦闘を強いられた」
レーダーも誘導兵器も無力化された状況で頼りになるのは自身の目だけだ。今思えば西暦の時に起きた第二次世界大戦の時代の幕開けだったな。
『それでもシュウはセイバーフィッシュでザクと戦ったのね』
「殆ど逃げてばっかりでしたよ。適当に嫌がらせみたいな攻撃をするぐらいしか出来なかったし」
『いやいや、ザク相手にセイバーフィッシュは厳しいだろ』
「一応1機落としたけどな。後は連戦連敗だったけど」
この後何度かシミュレーター訓練をする。ある程度小隊として形は出来て来た所で休憩を取る事にした。しかし問題も起きてしまったが。
「中々上手く連携取れてるな。これなら俺も何とかなりそうだぜ」
「アークも訓練はしてたからな。最初から理解してる分、戦闘に集中できるし」
「そうだな。ラングリッジ中尉はどう思いますか?」
「……そうかしら?私はそうは思わないわ」
レイナ中尉はアークの言葉を否定する。
「シュウ少尉。次の戦いは貴方が前に出て好きに戦いなさい」
「ラングリッジ中尉、何言ってるんですか!シュウを見殺しにするんですか!」
「違うわ。私達がシュウ少尉にとって足手纏いだからよ。今迄少尉は前衛で戦って来たわ。それを活かさなければ、私達は少尉を殺す事になる」
「レイナ中尉…」
そう、小隊での連携行動が可能になった事で問題も起きた。それは機動戦が上手く出来無い事だ。宇宙空間は広い。だからこそ俺の得意分野である機動戦が可能だ。だが、小隊での連携を取ろうとすると上手く出来無い。
しかし連携を取る事で全体の戦闘力は上がるのは間違い無い。
「了解しました。次から囮になります。代わりに援護をお願いします」
「シュウ?お前死にたいのかよ!そんな無茶やれるのかよ!」
「勘違いすんな。お前らを信頼してるからやるんだよ。じゃなきゃ無茶なんてしないぜ」
俺達は再びシミュレーター訓練に入る。今度の難易度の設定は高い。ザク12機とムサイ級巡洋艦2隻を相手にする。此方はコロンブス級補給艦とラングリッジ小隊のジム3機のみ。
『本当にやるんですか?いくら少尉でも無茶ですよ』
『良いから。シュウ少尉、好きに戦いなさい。それが貴方にとって一番戦い易い筈でしょう?』
パチンとウィンクをするレイナ中尉。
「良く理解してますね」
『当たり前よ。伊達に今迄戦って来た訳じゃ無いでしょう?』
やれやれ、レイナ中尉には敵わないな。今回の武装はビームスプレーガンと対艦戦を考慮してハイパーバズーカだ。そして遂にシミュレーター訓練が始まる。
「ガルム2、行きます!」
ジムのブースターを強めにして敵に接近する。先ずはムサイ級巡洋艦からの艦砲が来る。だが回避機動を取れば、そう簡単に当たる訳では無い。
更にザク12機が接近して来る。それと同時にビームスプレーガンの射程に入る。
「行くぞ。着いて来れるか?」
ジムのブースターを全開にして機動戦に入る。ザクは俺の方に4機、残り8機はコロンブス級補給艦の方に向かう。だが、そう簡単に行かせるか!
「遅いぞ。貰った!」
ザクにビームスプレーガンを撃つ。高機動な中でもしっかりとコクピットに向けて狙い撃つ。ビームはコクピットと腕に直撃して爆散する。
「動きが遅いぞ!次!」
更に機動を続ける。今のジムのジェネレーターはRX計画で出来た高出力ジェネレーターだ。つまり。
「そこらのジムとは機動力が段違い何だよ!」
更にザクを3機撃破。そしてビームサーベルを抜き一瞬ザクと擦れ違う。それと同時にザクを斬り捨てる。一撃離脱も可能となってるから戦い易い。
『凄い。アレがシュウの戦い方なのか?』
『そうよ。ガルム3私達も援護に行くわよ。尤も、邪魔しないようにしないとね』
援護を受けてからザクの残りは2機になる。
「自分はムサイを潰します。残りの敵をお願いします!」
『ガルム1了解よ。此処は私達に任せて行きなさい』
『落とされんなよ?頼んだぜ』
武装をハイパーバズーカに切り替える。そのままムサイ級巡洋艦に接近する。ムサイも艦砲とミサイルの弾幕を展開する。
「その程度の弾幕で止められると思うな」
弾幕を掻い潜りムサイ級巡洋艦の下部に入る様に接近。ムサイの構造上、下方に対する艦砲の射角には限界が有る。その辺りはサラミス級やマゼラン級を見習うべきだな。
一気に弾幕が薄くなり接近してハイパーバズーカを撃つ。そしてそのまま上昇して艦橋に直撃させる。
「次!仕留める!」
護衛機も無く懐に入られたムサイには反撃する手立ては無い。そしてシミュレーター訓練は終了したのだった。
……
「ふう、かなり良い感じだったな」
ヘルメットを取り一息つくと二人がやって来た。
「やっぱり思った通りね。基本はシュウが前衛で機動戦をやって、私達は援護に徹した方が良いわね」
「そうですね。自分もそっちの方が戦い易かったです」
「本当か?まあ、シュウの機動について行ける気はし無いけど」
「何言ってんだよ。お前達の援護が有ればこその機動だぜ」
この後数日の間に今の形を基本にして煮詰めて行く。俺の機動に触発されてか二人共機動戦を覚えて行くのだった。
そして間も無く始まる次なる戦場に向かう為に最後までシミュレーター訓練をする。その戦いの先の平和を目指して。