月面都市フォン・ブラウン。この場所はAE本社が有る場所で有名だ。一年戦争時でモビルスーツ分野で急激な経済成長により発展を遂げた。その影響故にAE社に入社出来れば安泰とも言われている。しかし、裏では死の商人の巣窟とも比喩されてる。
サラミス改級ロイヤルはAE本社の演習場近くにある格納庫に停泊する。残りはフォン・ブラウンの宇宙港に向かう。
「さて、我々は数人を艦に残してフォン・ブラウンに向かう。シュウ中尉はアナハイムの人が迎えに来るそうだ」
「了解しました。アーヴィント艦長はどうするので?」
「無論、レイナと一緒にフォン・ブラウンに視察しに行くのさ」フサァ
(視察と言う名の観光巡りとデートだな。間違い無い)
そう内心思いつつ了解ですと返事をするのだった。
……
暫く格納庫で待機していると何故かレイナ大尉を筆頭にアーヴィント少佐、ルイス少尉も付いて行くと言って来た。因みに2人は階級試験を受けて合格した結果今の階級になってる。
「シュウ中尉があんまりにも寂しそうにしてるから。仕方無く付き添って上げるわ!」
豊かな胸を張りながら堂々と言い放つ。
「別に寂しく無いんですけど。まあ、飽きたら観光に行っても良いですからね」
「気にし無くていいさ。僕はレイナと共に居れば何処でも構わないからね」フサァ
「私はシュウ中尉とお話しがしたくて。最近余り話せて無いので…」
アーヴィント少佐は相変わらずで安心だ。そしてルイス少尉はちょっと頬を染めて胸にクル台詞を言う。正直、俺に脈あるんじゃ無い?と思ってしまう。
「ゴホン!安心しなさい。後で時間作って皆んなで観光に行くわ。その時はシュウ中尉の奢りだからねー」
「ねー、じゃ無いです」
可愛らしく上目遣いを使いながら言うもんだから一瞬同意仕掛けた。全く、この人は油断も隙も無いんだから。因みにウィル少尉は薄情にもフォン・ブラウンに行ってしまった。別に恨むつもりは無いさ。唯…今度の模擬戦は手加減無しで徹底的に鍛えます。ええ、私怨はこれっぽっちもございませんとも。
皆んなと話してると水色の制服を来た女性がやって来た。襟首にはアナハイムマークのバッチが付いてる。
「初めまして。シュウ・コートニー中尉でいらっしゃいますか?」
「はい。貴女が迎えの方で?」
何処か知的な雰囲気を出しながら、整った容姿に青い瞳で金髪をボブカットにしてる女性は笑顔で手を差し出す。
「ニナ・パープルトンです。どうぞ、宜しくお願いします」
「シュウ・コートニー中尉です。本日は宜しくお願いします」
握手をしながら感じた事。パープルトンさんの笑顔が無知の様に見えたのは気の所為だと思いながら。
……
格納庫に向かう為移動する。そして全員の動向の許可も下りた。
「コートニー中尉の戦歴を少し拝見させて頂きました。素晴らしい戦果ですね。特に高機動型のジム改での戦闘は群を抜いていました」
「そうですかね?結局、試作ジム改は壊してしまいましたけど」
「確かにそうです。しかし、機体のフレームが歪む程の機動が出来た事は素晴らしい事です。結果、今後のモビルスーツ開発に大きな貢献をしたのは間違い無いでしょう」
「大きな貢献?何故フレームが歪む事が貢献になるの?」
レイナ大尉が疑問に思った事を口にする。するとパープルトンさんは理由を教えてくれた。RGM-79Cジム改をベースに作られたRGM-79CRP試作高機動型ジム改の実戦データは貴重な物である。何故なら現行機でこれ以上の機動は出来無いと証明されたと言っても良い。無論量産される前に耐久テストはされてるだろう。しかし実戦に於ける耐久度の目安にはなるのだ。
「はあ。俺は唯、我武者羅に戦ってただけですけど」
「それでもです。寧ろその結果得られた物だと私はそう考えます」
そして格納庫に着く。其処には俺の乗機となるRGM-79N-Fbジム・カスタム高機動型が鎮座していた。
「此奴が俺の機体になるのか。因みに本来の機体はどんな機体なんですか?」
この機体がテスト機なら別の機体がある筈だ。資料を見た時には機体情報は無かった。唯、【ガンダム開発計画】の一環とだけ書かれていた。
「その機体はまだ組立て中なんです。一つはテスト機同様の高機動型。もう一つは…重装型ですね」
一瞬間が有った気がする。高機動型より重装型の方が難航してるのかも知れないな。
「まあ、高機動型なら問題無さそうだな」
「流石エースパイロット!その自信こそエースに相応しいわ」
「レイナの言う通りさ。君の実力なら問題無いさ」フサァ
「確かにそうですね。シュウ中尉の機動戦は他の人達より群を抜いてますから」
どうやら皆んなは俺の呟きを勘違いしたらしい。だが、別に訂正するつもりは無い。
「心強い言葉ですね。では、早速機動テストに入ります。この機体のデータは全て【ゼフィランサス】に反映されますから」
(ゼフィランサスね。確か花の名前だった気がするが)
記憶の中を検索しつつパイロットスーツに着替えに行くのだった。
……
「出撃準備急がせろ。もう出るぞ」
「武装はジム・ライフルだ。模擬弾用意忘れるなよ」
コクピットの中から整備スタッフ達が準備してる。しかし、一年戦争時とは違い切羽詰まる事は無い。
「はてさて、テスト機と言え手を抜くつもりは無いさ」
システムを起動させながら呟く。モビルスーツパイロットとして、新型の機体テストを行う事は一度はやってみたい事だろう。正にパイロット冥利に尽きる。
「しかし、機体のカラーリングは変更出来るのかな?」
恐らくテスト機だからだろう。白とオレンジのツートンカラーの機体だ。どうしても一年戦争の時に搭乗した試作ジム改と…奴を思い出す。
『コートニー中尉、出撃準備が出来次第カタパルトに向かって下さい』
「了解、なら出撃準備完了だ。これよりカタパルトに向かう」
頭の思考を切り替えてアナハイムのオペレーターの指示に従う。そしてカタパルトに機体を接続させる。操縦レバーを握る手に力が入る。
『進路クリア。発進どうぞ』
「シュウ・コートニー中尉、ジム・カスタムFb(フルバーニアン)出るぞ!」
カタパルトが加速する。そして重力が殆ど無い月の宇宙に出る。
『それでは先ずは巡航速度での機動を行なって機体に慣れて下さい。それから最高速度、急制動、ランダム機動のテストを行います』
「了解した。さあて、久々の高機動型だ。全開で行かせて貰うぞ!」
巡航速度を無視して一気にブースターを全開にする。ジム・カスタムFbのジェネレーターは通常のジム・カスタムと同じ高出力の1400kw。一年戦争時に使用したRX計画のジェネレーターとほぼ同じ出力だ。つまり、試作ジム改と殆ど同じなのだ。
加えて技術進歩により推力向上は勿論の事フレーム等の向上もされてる。
「良いぞ良いぞ!この感じ、懐かしい感じだ!」
月からある程度離れて急停止。そして月の重力を借りて一気に急降下。機体モニターから接触警報が出る。それをギリギリまで無視してAMBACを行う。
「Fbと言われる所以のバックパックの使い方は何も加速だけじゃ無いぞ」
バックパックの左右に取り付けてる追加ブースターを逆噴射させる。更に脚部のブースターも使い一気に急停止する。
「ふう、良い感じに慣れたかな。さて、テスト飛行やりましょう」
しかしオペレーターからの返事が無い。代わりに別の声が聞こえた。
『シュウ中尉!今のは慣らして無いじゃ無い!危ないでしょう!?』
「うわ!?レイナ大尉、びっくりした。大丈夫ですよ。本番は此処からです」
ウィンクしながらグッドサインする。
『後でお説教します。逃げたら減俸です。反論は聞きません』
「…はい」
どうやら余計に怒らせてしまったようだ。この後予定された機動プログラムを全て終わらせるのだった。
三大悪女に位置する女。通称【紫豚】ことニナ・パープルトンでした。でもあのキャラだからこそモビルスーツと言う狂気をより一層際立たせてるなと感じますね。また本人はそんなつもりが無いのがまた良い味出してる。
後、ジム・カスタム高機動型だと長いので暫定的にFbと略します。でも間違ってないよね?